Deep Dive: Impact Economy
気候テックの衝撃
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欧米で大人気のオートミルクに巨額のマネーが集まっています。環境意識の高まりを背景に注目が高まっている「植物性ミルク」の世界のいまを、さくっと見てみましょう(英語版はこちら)。
27年の歴史をもつオートリー(Oatly)は、オートミール・ベースのミルクやアイスクリーム、ヨーグルトを販売してきました。
米国での上場初日となった20日、同社の新規株式公開は14億ドル(約1,540億円)の規模となりました。
初値は22.12ドルで、IPO価格の17ドルを上回る有望なスタート。このIPOは、このスウェーデン企業にとって希望に満ちたものであるのと同時に、乳製品・肉製品の代替として伸び盛りのヴィーガン製品業界にとって、よい兆しといえるでしょう。
a risk to its business
競合たくさん
いま、「代替食品」には、多国籍企業やよく知られた乳製品ブランドの参入が相次いでいます。
オートリーもIPO申請時に、こうした企業が「われわれよりも実質的に大きなリソースをもっている」と認めていますが、その事実はオートリーにとってビジネスリスクとなる可能性もあります。
ダノンは「Silk」シリーズで代替ミルクのブランドを確立。ネスレはエンドウ豆ベースのミルク「Wunda」で市場に参入し、ユニリーバは今後5~7年の間に乳成分を含まない製品・ヴィーガン製品の売上を12億ドルまで成長させるという計画を立てています。米国における“乳製品の巨人”フッド(HP Hood)も、2019年に「Planet Oat」ミルクを発売しました。
しかし、オートリーのCEOであるトニー・ピーターソン(Toni Petersson)に競争激化を不安視する様子はありませんでした。
IPO同日に行った電話インタビューによる限り、彼は、消費者には「単に食の最新トレンドに乗っかっている企業」と「(オートリーのように)純粋に環境にやさしい製品をつくろうとしている企業」とを見分ける能力があると期待しているようです。
「わたしたちは世界をよりよくするために存在しています。健全に成長しているカテゴリーだから、ビジネスチャンスだからと言いながら製品を棚に並べようとしているわけではありません」と言うピーターソン。彼は「これらは会社を運営する上では誤った考え方であり、消費者はそれらを見て感じることができるでしょう」と続けます。
Oatly’s sustainable branding
だいじなブランド
確かに、オートリーのブランディングには環境への配慮が欠かせません。オートミールの大きなセールスポイントは、牛由来のミルクに比べて二酸化炭素の排出量が少ないこと、使用する水や土地が少ないこと。欧州で展開されているオートリー製品には二酸化炭素排出量が表示されており、昨年、スウェーデンでは配送用トラックをディーゼル車から電気自動車に切り替えました。
いま、エシカル消費は、若い世代を中心に買い物の習慣そのものを再構築しようとしています。一方で、大手ブランドが環境問題や社会問題に対して姿勢を示したところで、実際の行動は矛盾していると世間から嫌われているのも事実です(いわゆる「woke-washing」については、Quartz Japanの過去配信ニュースレターでも紹介しています)。
もっとも、すべての消費者が手元にある「Wunda」がネスレの製品だと認識できるとは必ずしも言えません。
また、オートリーは、昨年7月の投資ラウンドで株式非公開企業のブラックストーン・グループ率いる投資家グループに2億ドルの株式を売却して以来、倫理観を問う反発にさらされています。一部の消費者は、ブラックストーンはアマゾンの森林破壊に加担しておりオートリーの掲げるサステナビリティについての価値観と矛盾していると声を上げているのです。
What’s the definition of “milk”?
それって「ミルク」?
IPO同日には、ピーターソンCEOが「ミルク」の新しい定義を提示したことも注目されました。地元スウェーデンで、オートリーは自社製品を「ミルク」と呼称することを許されていません。にもかかわらず乳製品を連想させるパッケージを使用していることから、同社は乳製品業界との訴訟に巻き込まれています。
ピーターソンは、牛乳を牛乳たらしめているのは「動物由来であること」ではないと言います。オートリーにとってのミルクの定義は「ヒトの栄養ニーズを満たす液体食品」だというのです。だからといって、スーパーの冷蔵室に並んでいる飲み物すべてがミルクと呼べるのか? 問われたピーターソンの返しは「ただの飲料もある」という答えに留まりました。
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COLUMN: What to watch for
オートリー躍進のワケ
「オートリーは“ヒップ”から“ベーシック”になった」とは、『Bloomberg』のフードレポーターのことば。オプラ・ウィンフリーやジェイZ、ナタリー・ポートマンなどが出資者として名を連ねるオートリーの歴史は、1994年、スウェーデン・ルンド大学での乳糖不耐症(腸が牛乳や母乳に含まれる入党を分解・吸収できない病気)の研究から生まれた乳製品の代替品にまでさかのぼります。2012年、CEOにトニ・ピーターソンが就任して以来、デザインを刷新し、巧みな広告戦略で成長を遂げました。
オートリーの絶大な人気は、たびたび伝えられる在庫不足からもうかがえます。最近では、2020年2月最終週にハンドサニタイザーよりも売れたとされ(ハンドサニタイザーの売上が前年比313%増だったのに比べ、オートリーのミルクは323%増)、3月にも小売店での入手が困難になりました。牛乳に比べて保存期間が長いことからパンデミック下の隔離生活で重宝され、パンデミックによる工場完成の遅れからくる供給量不足でさらに希少価値が高まっているようです。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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