Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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東京オリンピック開催の是非について、いまわかっていることをまとめました。米国オリンピック委員会の元顧問弁護士の見解も交えてお伝えします(英語版はこちら)。
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7月23日から8月8日まで、東京をはじめとする日本各地で開催される予定の夏季オリンピック大会。この大会は、新型コロナウイルスの影響ですでに1年延期されています。そしていま、日本だけでなく東南アジアや東アジア全域でCOVID-19感染者が増え続けるなか、再びの延期か、あるいは完全に中止される可能性も出てきました。
世論調査によると、日本国民や日本企業は大会延期・中止を支持する意見に傾いているようです。オリンピック関係者からでさえ、自信のなさそうな声が上がっています。
今月21日、国際オリンピック委員会調整委員会のジョン・コーツ委員長は、日本を安心させようと努めたようです。コーツが「この大会が参加者にとっても日本国民にとっても安全なものであることは、これまで以上に明らかになった」と述べる傍らで、東京2020組織委員会の橋本聖子会長は、外国人選手やスタッフ、メディアなどの来日人数が、18万人から7万8,000人へと半分以上減少したことを発表しました。
状況はまだ変わる可能性があります。事ここに至っては、財政的、政治的、制度的な要因も重要な要素となっています。ちなみに、過去にさかのぼってみてみると、大会が中止されたケースはいずれも戦時中であることが理由でした。
Who runs the Olympics?
誰が運営しているの?
オリンピックは、4つの主要なプレーヤーによって運営されています。
- 国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックムーブメント(オリンピックのあるべき姿を世界中の人に伝え拡げていく活動)を監督し、組織団体に資金を提供します。
- 国内オリンピック委員会(NOC)には、現在206の委員会があります。NOCは、オリンピックに参加する選手の選抜、開催都市の推薦、自国でのオリンピックの宣伝などを行います。
- オリンピック組織委員会(OCOG)は、開催国のNOCによって結成され、オリンピックの企画・運営を行います。OCOGはIOCへの報告義務があります。
- 開催国と開催都市は、入札費用を支払い、新しいインフラや、警備員や国境警備員の増員などの公共サービスに資金を提供します。
Who gets to cancel the Olympics?
誰が判断できるの?
開催都市契約(pdf、p.72)によると、オリンピックを中止できるのはIOCだけです。第66条では、オリンピックが中止される可能性のある5つの理由を挙げています。最も関連性の高いものは、IOCが「合理的な根拠」をもって、「大会参加者の安全が深刻に脅かされたり、危険にさらされたりする」と判断した場合に、契約を解除できるとしています。
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そして、まさにここが問題となります。法的にみて、現段階におけるパンデミックは、参加者の安全を著しく脅かすものなのでしょうか?
米国オリンピック委員会の元顧問弁護士であるジェフリー・ベンツ(Jeffrey Benz)は、COVID-19を理由に催し事を中止するかどうか判断を迫られているのはIOCだけではないと指摘しています。2020年には、誰もが自分の契約書を見て、パンデミックを規定する不可抗力の条項があるかどうかを検討し始めたと語るベンツ。「そして、多くの人が、そんなものはないことに気づいた」と、彼は言います。「一般的なルールとして、契約を履行しない理由となるような事態は相当具体的に特定しなければならない」とも。
Who has to pay
中止になったら?
開催都市契約は、オリンピックが中止になった場合、「誰が支払いの義務を負うのか」という質問に非常に明確に答えています。ベンツは次のように説明します。
「IOCが契約の解除を選択した場合、あとになって発生する損失や、これまでに大会を開催したことで発生したサンクコストについては、開催国の人びとが負担することになる」。これには東京都、日本のNOC、OCOGが含まれます。
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しかし、事はそれほど単純な話ではありません。例えば、パートナーシップについてのコストです。IOCが運営するグローバル・スポンサーシップ・プログラム「The Olympic Partners(TOP)」は、5億ドルの資金提供と引き換えに、スポンサーに独占的なグローバル・マーケティング権とパートナーシップの機会を与えるものですが、2021年大会のTOP企業には、アリババ、トヨタ、ダウなどが名を連ねています(PDF, p.16)。
その支払いサイトがどのように設定されているのか、正確にはわかりません。しかしベンツは、「もし、ゲームのスポンサーシップに基づく投資収益があるという考えのもとに多額の資金が前払いされたうえで、それがまったく発生しないとなれば、IOCは法的にそれを解決する必要があると想像する」と指摘しています。
ちなみにロイター通信によると、東京オリンピックが中止になった場合、保険会社は20〜30億ドルという「気の遠くなるような」多額の請求を受ける可能性があるともいわれています。
オリンピックの放映権とスポンサーシップは、オリンピックの重要な金脈です。2013〜2016年までのIOCの収入(PDF、p.6)のうち、73%が放送権、18%がTOPパートナーへのマーケティング権で成り立っています。
スポンサーは、夏季、冬季そしてパラリンピックからなる4年間のオリンピアードに渡ってお金を稼ぎます。そのため、限られたかたちであれ、大会が開催されるかどうかが鍵になるのです。「視聴者が競技を見て、適当な休憩時間にコマーシャルを見ている限り、スポンサーは相応のものを得ていることになるのだ」(ベンツ)
Is there a deadline?
いつまでに決断するか?
東京オリンピックで実施される最初の競技は、2カ月後の7月21日に行われる予定です。IOCが中止を決定する可能性はどのくらいあるのでしょうか?
2020年に延期が決定された際、発表は3月下旬でした。公式に“締め切り”が決められているわけではありませんが、スケジュールは差し迫っています。テストイベントや予選が行われており、すでに現地入りした海外選手もいます。選手たちは、一部の例外を除き、到着後3日間の“検疫”(PDF, p.21)を受けなければならず、日本に渡航するまでの14日間は、他の人との接触を「最小限」に抑えるよう求められています。「日が過ぎるごとに、苦痛は増す一方だ」と、ベンツも言います(Quartzに対してIOCがメールで伝えてきた声明によると「今年のオリンピック東京2020を成功裏に実現するために、完全に集中して取り組んでおり、7月23日の開会式に向けて全速力で取り組んでいる」とのこと)。
IOCや日本の政府関係者にとっては難しい決断ですが、最も苦しむことになるのは、その渦中にいるアスリートたちです。日本最高のスポーツスターのひとり、テニスの大坂なおみ選手は、BBCの取材に対して大会が開催されるべきかどうか「本当に自信がない」と語っています。なぜなら、「人びとが健康でなく、安全だと感じられないのであれば、それは間違いなく大きな懸念材料」だから、というのです。同じくテニスプレーヤーのロジャー・フェデラーは、スイスのテレビ局「Leman Bleu」に対し、「選手たちが必要としているのは、開催するのか、しないのか、という決断だ」と語りました。
多くのことが未解決のままではありますが、ひとつだけ確かなことがあるとベンツは言います。「これは、国際的なオリンピックファミリー(IOCを頂点とする、オリンピック運動を推進しオリンピックにかかわる組織・団体のこと)が現代において遭遇したことのない状況です」
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COLUMN: What to watch for
孫氏曰く
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さまざまなスタートアップ企業に1,000億ドル以上の投資を行っているVision Fundsの孫正義は、今月、日本におけるCOVID-19の感染拡大について頻繁にツイートしています。土曜日のツイートでは、国民の80%以上が大会の延期または中止を望んでいることに触れ、IOCが開催を主張する「権利」があるかどうかに疑問の声を投げかけています。
日本がCOVID-19の感染者数増加に悩まされているなか、日本国民とビジネスエリートの双方が、大会中止を求める声を上げています。今月初めには、弁護士の宇都宮健児が大会中止を求めるオンライン署名活動を開始し、5月14日時点で35万人以上の署名が集まっています。ロイター通信の調査によると、日本企業の約7割がゲームの中止または延期を望んでいることがわかりました。日本のトップEC企業である楽天の三木谷浩史CEOは、CNNとのインタビューで、日本が予定通り大会を開催することは「自殺行為」に等しいと述べています。孫正義にとって、パンデミックの拡大による世界経済へのショックは、彼のファンドが最近も達成している素晴らしいパフォーマンスにダメージを与える可能性があります。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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