Borders: 香港アイドルの「抗議の歌」

City notes.

Deep Dive: Crossing the borders

グローバル経済の地政学

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世界の経済を動かす最新ニュースをお伝えしている水曜日。今日は、自由が制約される香港で脚光を浴びている、ある男性アイドルグループの存在感について(英語版はこちら)。

A participant holds sheet music of Hong Kong's protest anthem during a protest in 2019.
City notes.
Image: Reuters/Athit Perawongmetha

12人のフレッシュなシンガー/ダンサーで構成された香港のボーイズバンド、Mirrorが“偉業”を成し遂げました。

終わらぬパンデミック権威による弾圧に揺れる香港で、ポップグループが大活躍をみせている──。なんとも奇妙に思われるかもしれませんが、実際に彼らの音楽は、法廷で、刑務所で、テレビで、そしてライブコンサートで鳴り響いています。

the city’s political consciousness

香港市民の心情

今月、Mirrorが数千人のファンを集めたコンサートのチケットには、実に23万1,800香港ドル(約328万円)もの高値がつきました。

香港のアイドルグループ、Mirrorの活動期間は2年半ほど。キャッチーなビートや重層的な歌詞、そして何より華やかさを兼ね備えたボーイズバンドはエンタメ(とひとときの逃避)を求める人たちに応えると同時に、香港特有の政治思想を反映してもいます。

彼らの音楽のなかでも特に共感の輪が拡がったのは、今年3月に発売された「Warrior」のヒットがきっかけでした。英語混じりの広東語のこの曲で歌われるのは、新しい時代を迎えるために行動すること激動の中でチャンスをつかむこと、そして「人間でも飛べる」ように心の力を信じようというメッセージです。

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Image: VIA YOUTUBE

曲の最後に登場する英語の歌詞は、ある種、戦いの叫びとも受け取れます。

never give up never give up
never give up I got it I’ve got a warrior heart
never give up never give up
never give up I got it I’ve got a warrior heart

歌詞に歌われる「どんな困難にも立ち向かっていく」という精神は、北京からの弾圧によって自由が急速に失われていく香港人の心を捉えたようです。アクティヴィストで元ジャーナリストのグウィネス・ホー(何桂藍)も、国家安全保障関連の罪で無期懲役の刑に処せられている3月、獄中でこの歌を聴いて、拘留後初めて涙を流したと伝えられています。なかでも特に心に響いたのは「わたしは死なない/わたしは退かない」という一節だったようです。

shaping political imaginations

自分たちの役割

Mirrorは2018年、リアリティ番組のオーディションで生まれました。ゆえに、多くの香港人は親近感をもってその道のりを見守ってきました。グループ側も、自分たちが香港人の政治的姿勢を形成する役割があることを自覚しています(事態の深刻さからメンバーが自分の政治的立場を明確にしていないとしても)。

過去に応えたインタビューにおいて、Mirrorのメンバーは自分たちの歌がグウィネス・ホーをはじめとする人びとに対して、戦い続ける勇気を与えることができると語っています。また、直近のコンサートの終盤では、メンバーのひとりが「Hong Kong add oil!」(ことばそのものに明確な政治的メッセージはないものの、抗議運動において頻用されたスローガン)と声を上げてもいました。

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Image: Reuters / Tyrone Siu

「いまの香港では、言ってはいけないことがたくさんあります。国家安全法によって、口にしたことばすべてが標的にされるのです」と言うのは、社会学の博士号を取得しようとしている香港人で、先日のMirrorのコンサートに参加したJohn Mok。「(Mirrorの活動を見ることで)人びとは希望を得ます……アイデンティティとしての香港が維持されていることを目にすることができるからです。政治的な領域が非常に制限されていても、文化的な面ではまだ息をつける瞬間があるのです」

Mirrorの高揚感のある音楽は、香港に溢れかえっている悪いニュースに対抗する解毒剤だといえるのかもしれません。有罪判決を受けたジャーナリストや逮捕・収監されたアクティヴィスト、香港人に対する出国禁止措置の可能性、さらに、いつもであれば6月4日に行われる天安門事件の追悼式に対して出された禁止令……。香港では、毎日のように国家による抑圧が繰り返されています。

Mirrorの音楽を聴くことは、その自由が制限されたなかで軽やかに表現をしてみせる、ある種の抵抗だともいえます。特に、香港のプロテスト・アンセムである「Glory to Hong Kong」(香港に栄光あれ)が事実上禁止されているいまであれば、なおさらのことです。

香港在住の作家Evelyn Charは、Mirrorのコンサート参加後、エッセイの中で次のように記しています。

「Mirror……その現象は、状況がどんなに悪くとも、ここが悲しみの都市としての役割を演じるのを拒否していることを証明している。わたしたちにはまだ、笑う力、ふざける力、つながる力がある。暗い夜の中でも、わたしたちは希望をもっている。この“鏡”が映し出すのは、香港の回復力の強さなのだ」


COLUMN: What to watch for

三人っ子政策への不満

Two women and their babies pose in front of a portrait of Chairman Mao
Not that easy to control.
Image: Reuters/Kim Kyung-Hoon

5月31日、中国ではこの国独自の人口抑制政策を緩和し、最大3人の子どもを持てるようにすることが発表されました。1組の夫婦が子どもを1人しか産めない、いわゆる「一人っ子政策」は2015年末に廃止されていました。

ソーシャルメディア「Weibo」では、このニュースに関するハッシュタグが、発表後数時間のうちに17億回以上閲覧されたようですが、中国のインターネットユーザーは、この変更に対して概ね「拒否反応」を示しています。

国営通信社である新華社は発信した記事について、「Bah!」とだけ記したトップコメントには、8万近くの「いいね!」が。Weiboユーザーも口々に批判を述べています。「正直なところ、人びとが必要としているのは、表面的な奨励ではなく、(子どもを持つことに対する)補助金のような実質的な利益。人びとが子どもを産みたくないのは、三人兄弟政策がないからではなく、その余裕がないからだ」とのコメントや、「女性が出産のために職場で受ける不公平な扱いを解決する」よう政府に求める声も上がっています。

(翻訳・編集:年吉聡太)


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