Deep Dive: Future of Work
「働く」の未来図
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜午後のニュースレターでは、「働くこと」のこれからについてアイデアや出来事を、世界のニュースから選りすぐってお届けしています。
大坂なおみ選手の全仏オープン棄権はテニス界のみならず、メンタルヘルスに関する重要な議論を巻き起こしています。
彼女がうつ病を発症したこと、そして、記者会見に「疑念」を抱かざるをえない状況に置かれていることを勇気をもって率直に話すスター選手に対して合理的な配慮をすべきだった/できたはずだと言う人たちがいます。その一方で、メディアとの対話はプロスポーツに求められる重要な要素であると言う人たちもいます。
しかし、双方の意見が正しいとしたらどうでしょう?
大坂選手は5月26日、ソーシャルメディアで今年のローラン・ギャロスでの記者会見を実施しないことを宣言しましたが、それによる罰金を科せられることになりました。そして31日には「みんながパリで行われているテニスに集中できるように」という理由で、大会から完全に身を引くことを発表しました。
彼女には、関係者全員が納得するような対応はできなかったのでしょうか。大坂選手は、自分の抱いた懸念を解決できる人たちに直接伝えることをせず、公に発表することを選びました。そして、それが彼女自身のためにならなかったことは確かです。
一方で、フランステニス連盟は必ずしも寛容な組織ではないので、直訴したところで効果はなかったかもしれません。しかし、連盟も、選手たちがメディアの前に立つことを放棄したくないからこそ、大坂選手に対してなにかしらの譲歩をした可能性もあります。例えば、記者会見をよりハードルの低いものにするための新たな方法を提案できたかもしれません。
今回の一件は、企業の雇用主にとって注目すべきケーススタディにもなるでしょう。パンデミック以前から企業は従業員一人ひとりのメンタルヘルスのニーズに少しずつ目を向けつつありましたが、いま、世界的にメンタルヘルスが脚光を浴びるなか、企業はそれを「管理」しなければならないという事態に直面しています。
しかし、従業員がメンタルヘルスのために必要としていることと、雇用者のニーズが対立し、妥協点が見つからない場合はどうなるのでしょうか。
そこに簡単な答えはありません。大坂選手の場合は、スポーツの表舞台から一時的ながら姿を消すという結果になりましたが、企業においては、それほど明確な線引きができないことも多いでしょう。
わたしたちはコロナ下の1年で、組織図の上からも下まで、やるべきことや譲れないこと、柔軟に対応できる部分や見直しができる部分について、多くのことを学びました。そのなかで幸いなことをひとつ挙げるなら、最初はひとりの人間やひとつのグループに便宜を図ったことで、それがより広い範囲に利益をもたらすことも、よくあるのです。──Heather Landy (Quartz)
FIVE THINGS WE LEARNED THIS WEEK
今週の5つの「学び」
- 📈 中国、トルコ、韓国、ロシア、米国の1人当たりのGDPが、COVID-19から完全に回復。OECDによると、さらに15カ国が、年末までにパンデミック前のレベルに戻ると予想されています。
- 🤯 IDEOに巻き起こるレイシズムとセクシズム。世界的な知名度を誇るデザインコンサルタンティング企業の元社員たちが、同社の「白人優位」の企業文化を物語る体験談を明らかに。元社員たちは、IDEOの「いかにもパフォーマンス的で公平性を無視した」対応を非難しています。
- 😓 過労は最高の避妊法。中国政府は、少子化を食い止めるべく、結婚した夫婦が3人の子どもをもてるようになったと言明。しかし、中国の過労死した労働者たちの姿は、彼らがそんなことを考える余裕もないほど疲弊していることを物語ります。
- 🦠 新型コロナウイルスの変異株は、ギリシャ文字のアルファベットで命名されることに。世界保健機関(WHO)は、原産国の汚名を最小限にするために、この命名法を採用しました。4つの株のうち最も新しいものは「Delta」で、インドで初めて検出されたものです。
- 💡 Figmaがバーチャルなブレインストーム・ソリューションを開発。この新しいウェブベースの“ホワイトボード”には、絵文字スタイルのプロンプトやフローチャートツール、ボイスチャット機能が備割っています。会議に遊び心をもたらすように設計されています。
30-SECOND CASE STUDY
3倍に増えた「CDIO」
ちょうど1年前、2020年5月25日のジョージ・フロイド殺害事件を受け、米国では、Fortune 1000企業が「この国を平等にする」ために660億ドル以上を拠出。各社はこの資金を雇用の創出やコミュニティの組織化、歴史的黒人大学の発展、企業の反人種主義活動の促進などに投じています。
同様の行動が内向きにも表れていて、記録的な数の最高ダイバーシティ&インクルージョン責任者(chief diversity and inclusion officers、以下CDIO)が採用されています。Zoominfoの調査によると、Fortune500企業のうち、ダイバーシティおよびインクルージョンをリードする役割を担うポジションの採用数は、500人前後だった2020年前半に比べ、同年末には1,500人以上に増加しています。
もっとも、歴史的に見ると、企業内のダイバーシティ&インクルージョン担当者は、失敗もやむをえない立場に置かれてきました。
Russell Reynoldsの調査によると、多くの専門家がCDIOの職を引き受けるも企業内のリーダー全員からの支持を取り付けられず、あるいは明確なビジョンをもっていなかったため、十分な成果を上げられていません。
30年以上にわたりダイバーシティ人材の開発に携わってきたINROADSのCEO、フォレスト・T・ハーパー(Forest T. Harper)によると、CDIOを採用している組織のなかでもその活躍が目立つ企業のひとつが、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)。同社のキャンペーン「Take on Race」は、複数の企業が協力して取り組むことの重要性を教えてくれると同時に、企業のダイバーシティ担当者が1人、2人いたところで、それだけでは公平性を高めることができないことにも気づかせてくれると言います。
フォレストは、企業のダイバーシティ担当者が活躍できる環境を整えるために、いくつかティップスを紹介してくれました。
- CDIOに既存の慣行を撤廃できる権限を与えるべし
- CDIOは反レイシズムにも焦点を当てるべし
- CDIOに人事業務フローを変える権限を与えるべし
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