Deep Dive: Impact Economy
気候テックの衝撃
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激動する世界の気候変動ビジネス。毎週火曜は、その現状を伝えるインサイトを紹介しています。今日は、大データ時代のいま「データセンター」が温室効果ガスの排出量に与えるインパクトについて(英語版はこちら)。
インターネットが「どこ」にあるのか──。答えは「データセンター」です。そこは膨大な数のコンピュータが保管された倉庫で、マシンを動かし過熱を防ぐために多くのエネルギーが使われています。とすると、ググったりネトフリを観るのに、いったいどれだけのCO2が排出されていることになるのでしょうか?
emailing and searching…
1マイル分のエネルギー
グーグルは2018年、個人が1カ月間にメールを送受信し検索を行うことで、自動車を1マイル(約1.6キロ)運転するのと同じくらいの温室効果ガスが排出されると推定しています。
しかし、世界的にデータの需要が急増しているいま、その量は膨大なものになる可能性があります。2017年に発表されたある試算によると、データセンターが排出する温室効果ガスの量は、2020年までに航空業界や海運業界を上回り、2030年には世界の総エネルギー使用量の5分の1以上にまで拡大すると予測されています。
これらの予測に対して、『Science』誌に掲載された最新の論文は「高く見積り過ぎている」と指摘していますが、同論文の導き出した結果も少し複雑です。論文によると、データセンターにおける効率化がデータ需要の増加に追いついており、データセンターで消費されたエネルギー総量は、過去10年にわたって世界のエネルギー使用量の約1%をキープしているようです(ちなみにこれは、米国の1,800万世帯分に相当します)。
しかしながら、AIの台頭を考えると(AIはデータを大量に消費する)、効率化が限界に近づいていることは明らかです。
データセンターの数や稼働率などの情報は、一般的に公開されていません。そのため、正確に把握するのは困難です。また、データセンターに集められたコンピュータの効率(言い換えると「単位エネルギーあたりに実行できる計算量」)は向上し続けているため、エネルギー需要も常に変動しています。
データセンターのエネルギー需要については、前述した2017年の研究だけではありません。2019年秋に発表された研究結果は、Netflixで30分間ストリーミング再生をすることによるエネルギー消費は、ガソリン車を4マイル走らせるのに匹敵するとしています。
『Science』に掲載された上記論文の筆頭著者であるノースウェスタン大学の機械エンジニア、エリック・マサネ(Eric Masanet)は、これらの見積もりが「古い仮定」に基づいているとしています。
the efficiency of computers
AIは高カロリー
マサネたちは、次のようなアプローチをとりました。サーバーの販売台数などの市場データを利用し、現在のデータセンターのコンピューティング能力を推定。各サーバーが必要とするエネルギー量を更新したのです。彼らは、2010年から2018年の間に世界のサーバー数が26倍に増加し、データセンターへのトラフィックが6.5倍になったと導き出しました。そして、同期間の総エネルギー使用量は、約6%しか増加していないことも突き止めました。これは、年間で約20%の効率化が図られていることを意味します。マサネは、この値は、航空業界をはじめ他の産業分野に比べ、数倍の効率化に相当すると述べています。
コンピューティング能力の向上といえば、まず「ムーアの法則」が思いつきます。それに加えて改善に大きく寄与したのが、業界全体で起きたデータセンターの移行でした。
小規模で広範囲に分散したデータセンターから、グーグルやアマゾンなどの大手クラウドコンピューティングプロバイダーが運営する「ハイパースケールデータセンター」への移行──。こうした巨大データセンターは、小規模センターよりもはるかに効率的なことが多く、例えばフィンランドにあるグーグルのセンターでは海水をパイプで送り込むという革新的な冷却方法を採用しています。
さて、ここまではいいでしょう。しかし、こうした効率化にも限界があります。同時に、需要は急速に増加しています。
ローレンス・バークレー国立研究所のデータセンターエンジニア、デール・サーター(Dale Sartor)によると、ハイパースケールデータセンターのほとんどではすでに可能な限りの効率化が図られていると言います。
「3〜5年後には、データサービス需要は倍の規模になるでしょう」とマサネは言います。「効率化によって、半世紀はもつでしょう。しかし、10年後には、需要の高まりが現在のテクノロジーの能力を上回り、相殺することになるでしょう」
もちろん、今後のエネルギー需要がどの程度増加するかについては、議論の余地があります。マサネらの調査をレビューした中国テック大手ファーウェイの情報システムサステナビリティアナリスト、アンダース・アンドレア(Anders Andrae)は、マサネらのレポートがデータ需要とエネルギー使用に対するAIの影響を過小評価していると述べています。動画ストリーミングやウェブ検索と比較し、自動走行車を操作したり顔認識をしたりするといった処理はケタ違いに多くの計算を必要とするため、データセンターのサーバーは多くの時間と労力(ひいてはより多くのエネルギー)を割くことになるというのです。
アンドレアの意見には、ジョージ・ワシントン大学のデータインテンシブ・コンピューティングの専門家、ホーウィー・フアン(Howie Huang)も、「(マサネたちは」AIという厄介なトレンドを考慮に入れていない」と同調しています。
マサネらの調査では、暗号通貨のマイニング専門のデータセンターも除外されています。ケンブリッジ大学の分析によると、世界で暗号通貨マイニングのために必要とされるエネルギーは、その他すべてのデータセンターについて計算された量の半分弱にまで及びます。
The next step is…
テック企業の取り組み
データセンターにいま以上の効率化の見込みがなくなったら、どうすればいいのでしょうか? 次のステップは、再生可能エネルギーへの依存を高めることです。
2020年、グーグルは米ネバダ州の新しいデータセンターのための10億ドル規模の太陽光発電所を建設する計画を発表しています。マイクロソフトも、同年中にデータセンターの電力の60%を再生可能エネルギーで賄うことを計画していました。
それでもマサネは、次のように語っています。「クルマでレンタルビデオ屋に行く代わりにストリーミングで観るのは、正しい方向へ踏み出す第一歩。データセンターの二酸化炭素排出量は増加していくが、デジタルサービスはほとんどの場合、それが置き換える物理的なサービスに比べて効率的なのだから」。
Cloumn: What to watch for
リモートワークの恩恵
パンデミックによって普及した在宅勤務(WFH)が、インド最大のITサービス企業に思わぬ「利益」をもたらしました。ムンバイに本社をおくタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)では2020年4月以降、ほぼすべての従業員がリモートワークに移行。これによって同社は、昨年1年間で二酸化炭素排出量の絶対量を49%削減したといいます。TCSは2025年までに温室効果ガスの絶対量を70%削減(2016年基準)することを目指しています。さらに2030年までに、排出量を正味ゼロにする計画も立てています。
TCSのゼロエミッションへの努力は、一朝一夕のものではありません。これまでにも、設備のアップグレードなどに取り組んでいます。インド南部タミル・ナードゥ州にあるTCSの社屋は約28ヘクタールの敷地に建設されたアジア最大のIT施設で、LEED認定「ゴールドランク」のグリーンビル。水辺や庭園、多くの緑、発電用のソーラーパネルが設置されています。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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