Deep Dive: New Cool
これからのクール
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自宅で採取できるレイプキットの会社を立ち上げた女性は、被害者の助けになるどころか「営利目的」と蔑まれ、困難な日々を過ごしてきました。この賛否両論のビジネスモデルは、果たしてうまく機能することができるのでしょうか？ 英語版はこちら（参考）。
マディソン・キャンベル（Madison Campbell）は性的暴行を受けた後、どうしようもなく「誰にも触れられたくない」と思ったことを覚えています。
何が起きたのか友人に話したくなければ、警察にも相談したくないし、二度と寮の部屋から出たいとも思いませんでした。事件が起きたのは、彼女がエディンバラ大学の留学プログラムに参加していた2016年のこと。事件の数時間後、彼女は近くの薬局に歩いて行ってブロンドの髪を黒く染める染料を買った以外は外へ出ず、数日〜数週の間テレビドラマ『ウエストワールド』を繰り返し見て過ごしました。
数年後、彼女を悩ませたのは暴行の事実だけではなく、そのとき起きたことを示す証拠が何もなかったということでした。キャンベルは『Quartz』にこう語ります。
「メールも写真も保存していなかったし、服も残していない。何もない。だから、わたしの言葉と加害者の言葉が対立することになる」「起きたことを証明するものが何もないと正義を貫ける気がしなくて、本当に嫌だった」
現在25歳でラスヴェガス在住のキャンベルは、そんな状況を変えるために起業家になりました。襲われた直後に「あったらよかった」と思ったものをつくるための会社を設立たのです。そのとき「あったらよかった」もの──それは、自宅で採取できる「レイプキット」です。
MeeToo Kit
歓迎されないアイデア
キャンベルが共同創業者リーゼル・ヴァルディヤ（Liesel Valdya）とともに、「MeToo Kit」を立ち上げたのは2019年。その名は、自身の経験がいかに悲劇的なものだったかと思い起こさせてくれた「#MeToo運動」にちなんでつけられました。
キットには、衣類を入れるバッグ、唾液を入れる容器、口腔粘膜検体採取用と女性器用のスワブ（検査用の綿棒）が含まれていました。試作品のパッケージには、“Swarb. Spit. Seal ”と書かれていました。
しかし、キャンベルの革新的なこのキットは、歓迎されるどころか、法律や医学の専門家、そして多くの被害者団体からの大きな反感に晒されることになりました。
キャンベルは、レイプを利用して利益を得ている、被害者に誤った希望を売っていると非難され、営業停止命令や法的な脅しを受けています。しかし、彼女は、従来の法医学的検査に代わる、よりプライベートな検査の必要性を確信しています。
How rape evidence is collected
レイプの証拠とは？
レイプは日常的に起きています。米国では50万人近くがレイプや性的暴行の被害に遭っており、女性の5人に1人が一生のうちにレイプされるか、レイプ未遂に遭っているとすら言われています。
しかし、それが報告されることは稀で、警察に報告されたレイプや性的暴行の割合は23％と推定されています。説明責任が果たされることはさらに稀で、有罪判決を受けて投獄されるレイプ犯は全体の1％にも満たないといいます。
レイプ発生率が高いにもかかわらず、わたしたちの社会では被害者がどのようにレイプを報告すべきか、また、その後のプロセスがどのように機能するのか、あまり理解されていません。
性的暴行を受けた際には法医学的な検査が必要となります。この検査は通常、病院や診療所で訓練を受けたフォレンジック看護師（司法看護師）が行い、被害者の体から暴行の証拠を集めます。検査には数時間かかることもあり、これには被害者の休憩時間も含まれます。
レイプに関する事件で実際に裁判になるのは全体の10％未満ですが、刑事事件化する上で法医学的な証拠を集めるのは重要なプロセスです。しかし、多くの女性が3日以内にレイプ被害を報告することはなく、3日を過ぎると証拠が無効になってしまいます。
しかし、もしも女性が自分自身で、看護師による遠隔での指導のもと検査を行い、証拠を集めることができたら？
A DIY, at-home rape kit
DIYのレイプキット
2019年8月、MeToo Kitは、アーリーステージのスタートアップ支援で知られるアクセラレーター、アルケミスト・アクセラレーター（Alchemist Accelerator）と提携しました。キャンベルは、大学など教育機関がレイプキットを購入し学生に配布することで、被害の報告を増やせるのではないかと考えました。キャンパス内のすべての女性がDIYのレイプキットがあることを認知することで、潜在的なレイプ犯を阻止できるとも期待しました。
キャンベルは、学生用としてキットを購入してくれる大学があるかどうかを確認するために、いくつかの大学に自分の製品とアイデアを紹介するメールを送りました。そのうちの1通がミシガン大学に届き、大学からミシガン州の司法長官ダナ・ネッセル（Dana Nessel）の手に渡ったのです。
MeToo Kitはニューヨークのブルックリンに本社を置いていましたが、ネッセルは、DIYキットがすべてのレイプの証拠を集めるのに十分であるかのように偽り被害者を誤解させたと非難し、販売停止の通知を出しました。
ニューヨーク州の検事総長は、家庭用レイプキットメーカー「PRESERVEkits」も含めて通知（同社はその後、閉鎖）。他の州の司法長官もこの製品に疑問を呈しました。法医学者や医療専門家、さらには多くの被害者団体や女性の権利団体も同様に非難。米国議会議員のグループは、この製品に対する懸念を表明する書簡に署名しました。
告発の内容は多岐にわたっていますが、ネッセルの停止命令書は「この会社はMe Too運動をうまく利用しようと、DIYのレイプキットが法廷でも通用すると被害者に思い込ませている」としています。医療関係者からは、被害者に検査の自己実施を促すことで、心理的なサポートを含めた医療機関への受診を控えるようになるのではないかという懸念が示されました。
イリノイ州にあるレイプ被害者支援団体Resilienceでアドボカシー活動を担当するマリア・バラタ（Mariá Balata）は、「法医学的な検査を行うにはそれなりのスキルが必要で、キットを渡されて使い方を指示された一般の医療従事者が収集した証拠と、看護師が収集した証拠との対比を示すデータを見れば、それがよくわかる」と語ります。さらにバラタによると、証拠の収集と並行して、被害者が受けるカウンセリングや指導、援助が重要だともされています。
MeToo Kitが営利を目的としたスタートアップだったのも問題でした。ベンチャーキャピタルの支援を受け、洗練されたブランディングがなされていたため、このキットで金儲けをしようとしていると思われたのです。「性的暴行を利用して利益を得ようとする企業などありえない。被害者のための正義が失われる危険性もある。しかし、それこそがMeToo Kitが行っていることだ」と、性的暴行防止団体のDay Oneは2019年に声明を発表しました。
バラタは、「誰かの性的暴行によって利益が得られることは問題だ。この資金をもっと有効に使ったり、防止活動に投資したりする方法はいくらでもあるはず」と言います。
From MeToo Kit to Leda Health
COVID-19の影響
キャンベルは、それでもめげませんでした。DIYのレイプキットが、レイプ報告のシステムを改善するひとつの方法だと信じ続けていました。
彼女は、若い女性や、移民局への登録を恐れて通報できない被害者にとってとくに有効だといいます。「全国の77％の被害者、大学キャンパスの90％の人々が報告していないことを考えると、何か別の方法を必要としている人が多いように思います」
彼女は多くの批判を受け入れ、スタートアップの創業者として、またこのような難しい分野で働いている者として、自分の甘さがミスを招いたことに気づきました。2020年初頭には、社名をギリシャ神話のゼウスに「誘惑」されたレダにちなんだ「レダ・ヘルス」（Leda Health）に変更し、新しいデザインのキットを開発。その際、寄せられた意見やフォレンジック看護師から得た新たな知見をキットに反映させました。
資金調達についていえば、当初より、政府の助成金や非営利団体からよりも、ベンチャーキャピタルやプライベートファンドからの方が簡単でした。同社はこれまでに、さまざまな個人投資家や機関投資家から220万ドル（約2.4億円）以上の資金を調達しています。「性的暴行被害者のための非営利団体を見ると、重要なサービス以外に使えるお金は1ドルもありません」とキャンベルは言います。
資金調達までの道のりは簡単ではありませんでしたが、Leda Healthの場合は、COVID-19が大きな影響を与えました。
パンデミックの前には、創設者の有罪判決にもかかわらず、専門家のあいだでは、DIYレイプキットが多くの課題を克服する方法はないと考えられていました。とくに法医学的な価値については、証拠の管理の連鎖が損なわれる可能性があるという理由で批判されていました。
しかし、2020年4月、医療従事者が不足し、病院が不要不急のサービスを中止するなか、カリフォルニア州のモントレー郡では、時々、DIYのレイプキットの受付を開始。法医学看護師の遠隔指導のもとで証拠が集められ、特定の保管条件によって証拠の有効性が確保されたのです。
一時的なことではありましたが、これがひとつのきっかけとなり、DIYのレイプキットが警察に受け入れられる可能性が出てきたのです。
helpful, or dangerous?
本当に役に立つ？
しかし、DIYキットが存在し得るか、また存在すべきか、そしてそれが被害者にとって役に立つのか、それとも健康に害を及ぼすのか、という論争はまだ続いています。
ミシガン州のネッセル検事総長の報道官リンジー・ムコメル（Lynsey Mukomel）は、『Quartz』に宛てたメールの中で、「DIYレイプキットを宣伝・販売する企業は、このような凶悪な犯罪を適切に捜査・訴追するために法執行機関が踏むべき必要な手順を妨げている」と述べています。「生存者へのメッセージは明確で、『あなたはひとりではない』ということ。家庭用キットでは得られないサポートがある」
国際フォレンジック看護学会（IAFN）は、家庭用レイプキットに強く反対しています。IAFNのウェブサイトには、「フォレンジック看護師としてのわたしたちの最大の関心事は患者の健康であり、これらの家庭用キットは医療上の利益をもたらさない」と、家庭用キットの使用に対する警告ページが掲載されています。2020年3月、IAFNは、パンデミックによって性的暴行を受けた後に医療機関を受診する可能性が低下したことを認めつつも、家庭用レイプキットが解決策になるという考えを否定しました。
COVID-19のパンデミック後も、米国最大のレイプ防止団体であるRAINN（Rape, Abuse & Incest National Network）は、レイプキットに反対し続けています。RAINNのスポークスマンであるエリン・ロビンソン（Erinn Robinson）は、『Quartz』に次のように語っています。「（家庭用レイプキットによって集められた証拠は）一般的に法廷で認められないため、RAINNは支持していない」
しかしながら、米国内のもうひとつの主要なフォレンジック看護団体であるAcademy of Forensic Nursing（AFN）は、DIYキットのアイデアを歓迎すべき革新的なものと考えています。AFNの前会長であるダイアナ・フォーニョ（Diana Faugno）は、「これを見たとき、素晴らしいアイデアだと思った。遠隔医療を取り入れることで患者と直接話すことができるようになり、患者が望めば収集を手伝ったり治療を提供したりすることができるだろう」と述べています。
フォーニョが、DIYキットを証拠として通用させるために取り組む価値があると考える理由はいくつかあります。ひとつは、見過ごされているキャパシティの問題を解決することができるということです。「性的暴行を受けた女性や男性が病院に来て、性的暴行を受けたことを報告し、彼らが証拠採取キットがあることを当たり前に期待していたとしたら、わたしたちも手一杯になってしまう」と彼女は話します。
しかし、フォーニョは、確実な証拠収集の問題も背景に置いています。「フォレンジック看護師として、わたしはビニール袋に入れた多くの証拠を患者から手渡される。それが衣類であろうと、ホテルで採取した綿棒であろうと、いつでも受け入れている」と彼女は言います。「それもキットには含まれている。そのため、警察が（DIY）キットを受け入れないということはないだろう」
彼女は、証拠が法廷で通用しないという議論もあまり重要ではないと考えています。「どのような証拠が認められ、どのような証拠が認められないかは場合によって変わる」と彼女は話します。法廷で争われるケースでは、プロが収集した証拠であっても認められなかったり、無意味なものになったりすることがあるとフォーニョは指摘しています。
根本的に、DIYキットに関する疑問は、女性に対する信頼性という大きな問題の一部です。多くのレイプ事件が「彼女が言った、彼が言った」で決着することを考えると、自分で採取した証拠を無効にすることは、被害者の意図や真実性を疑うことに他ならないように思えます。
A controversial business model
賛否両論なモデル
家庭用レイプキットに対する反発は続いていますが（1月にはユタ州の議員が禁止する法案を提出）、Leda Healthは前進しています。現在、実際に使用されているキットはありませんが、新しい試作品をレビューに出して、被害者の養護者、医療専門家、法律専門家からの意見を聞き、その意見を取り入れてアップデートしています。
これまでのMeToo Kitと同様、今回のキットも、病院で発行される一般的なレイプキットに比べて目立つ洗練されたデザインに。箱には「Created For Survivors, By Survivors™」と書かれています。
現在、Leda Healthは事業プランを拡大し、レイプや性的暴行の被害者のためのテレヘルス（遠隔医療）会社としてベータテストを実施していますが、これは同社の提供するサービスの一部に過ぎません。
キャンベルは、Leda Healthが提供する機能として、緊急避妊薬、性感染症の予防と治療、個人的なサポートグループなどを挙げ、「わたしたちは、ホリスティックなヘルスケアソリューションをつくりたい」と語ります。
同社は大学との提携にも力を入れており、大学側は被害者へのサービスを有料で提供するようにするといいます。キャンベルによれば、他の大学も同様のサービスを提供することで、レイプ被害者に多い移民や有色人種などの恵まれないコミュニティがLeda Healthを利用できるようになるのが理想的とのこと。「このようなサービスを最も必要としている人々が、そのサービスを受ける余裕がないのです」
とはいえ、Leda Healthは、提供するサービスの範囲を拡大することで、被害者から直接ではなくても、レイプや性的暴行から利益を得ようとしているという批判にさらされる可能性があります。
しかし、それと同じように、特定の医療ニーズを対象とする企業はすべて、病気から利益を得ているのではないでしょうか。それは、市場がイノベーションを追求する金銭的なインセンティブを提供するという、民間医療システムの使命ではないでしょうか。
フォーニョは、他の法医学製品メーカーには問題がないのに、DIYレイプキットの会社がレイプで利益を得ていると非難するのは不公平だと考えています。「すべてのキットは企業のもの。病院のものであれ、（別のキットメーカーの）ErowidのものであれForensicsのものであれ、これらのキットでお金を稼いでいるのです」と彼女は話します。
キャンベルは、営利企業であるがゆえに、必要と思われる製品を迅速に開発し、Leda healthの提供範囲を広げることができたと言います。彼女は、非営利団体と同じ資金源ではないため、自分の会社をレイプ被害者のために活動する他の団体の競争相手ではなく、いずれは彼らをサポートすることができる味方であると話しています。
「未来とは、『自分たちは営利団体としてさまざまなところから資金を得ながら、そのおかげでイノベーションを起こせる』と、生き生きと言えるようになることだと思う。“世界最大”の問題を解決するために、可能な限り資本を集めたい」
COLUMN: What to watch for
夏だ、労働だ！
企業は、レストラン、ゴルフクラブ、リゾート地など、パンデミックの影響で閉鎖されていた夏ならではの娯楽施設で働く10代を求めています。多くの雇用主は、大人の労働者がなかなか見つからないので、そのギャップを埋めるために10代の若者に頼り、忙しい夏のビジネスを維持するために働きかけているといいます。例えば、あるレストランのオーナーは、4カ月以上働いてくれた人に200ドルのボーナスを出し、テキサス州のカフェのオーナーは、10代の労働者を増やすために、時給を9〜10ドルから12ドルに引き上げたとしています。
この呼びかけにティーンエイジャーは応えているようです。労働統計局が発表した調査によると、5月に16歳から19歳までの若者が働いている割合は33.2％に上昇し、2008年以来最高の割合となりました。パンデミックの影響で2020年4月、10代の雇用率は20％と過去最低を記録していたので、この数字は急激に回復しています。なお、5月の16歳から19歳の失業率は、4月の12.3％から9.6％に低下し、1953年以来の低水準となっています。
（翻訳・編集：福津くるみ）
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