Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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天安門事件32周年を迎えた6月4日(とその前後)に世界のインターネットで起きた異変を、知っていますか? 毎週水曜は、世界の経済を動かす最新ニュースをお伝えしています(英語版はこちら)。
中国国外のほとんどのインターネットサービスを遮断する、中国の「グレート・ファイアウォール」。その存在は何十年もの間、海外の人びとにとって闇のヴェールに包まれてきました。しかし、その検閲の影響は、以前にも増して海外にまで及ぶようになってきています。
北京が天安門広場で民主化を求める学生デモ隊を弾圧した1989年6月4日。それから20余年が経った2021年6月に起きた一連の出来事は、オンラインコンテンツをめぐる中国当局の圧力がいや増していること、そしてそれが世界中のユーザーのインターネット体験にどんな影響を与えるかを教えてくれます。
北京からの圧力に対して企業が下す決断。それは、中国以外のインターネットにも大きな影響を与えます。ほんの2、3年前であれば馬鹿げていると思われたような話ですが、近年、それは新たな意味をもつようになってきました。
#1: Wix
Wixの場合
6月3日(木)、香港の民主活動家で元議員のネイサン・ロー(Nathan Law、羅冠聡)は、イスラエルのウェブホスティングサービス「Wix」が、亡命した香港人活動家のウェブサイトを削除したとツイート。このサイト「2021 Hong Kong Charter」(香港憲章2021)は、香港における民主主義と自由に対して国際社会からの支援を求めるとともに、国内での弾圧への抵抗を訴える内容で、ローをはじめとする主要執筆者は、米国や英国など海外在住者で構成されています。
ローは、先立つこと5月24日、香港警察がWixに宛てて送付した書簡を公開。それは、2021 Hong Kong Charterのコンテンツが「国家の安全を危険にさらす犯罪に該当する可能性がある」ため削除するよう通知する内容でした。
Wixは5月31日にウェブサイトを削除。しかし、翌3日にローがこの件を公表した後、すぐにウェブサイトを復活させました。同社はウェブサイトを削除したことを謝罪するとともに、「今回のようなミス」が二度と起こらないよう審査プロセスを見直すことを誓ったといいます(QuartzはWixにコメントを求めましたが、返答は得られませんでした)。
ローは今回の事件を受けて声明を発表。「このウェブサイトは、中国の管轄外にある外国企業がホストしている。新たな安全保障法による中国の絶大な影響力を示す、明確な例となっている」「中国国外にあるにもかかわらず、民主主義を擁護するウェブサイトが、中国が破壊的だと考えただけでブロックされる可能性があることは言語道断だ」と記しています。
今回の一件は、昨年香港で施行された「国家安全保障法」に含まれる“治外法権”の、あたかもテストケースのようにもみえます。
北京はこの法律を「香港の安定と繁栄を取り戻すための手段」としていますが、批判的な立場からすれば、「当局が反対意見を取り締まるのに役立つもので、党を批判すれば法律違反とみなされるほど曖昧」なもの。一言で言えば、この法律は「地球上のすべての人に対して治外法権を主張しているもの」(ジョージ・ワシントン大学のドナルド・クラーク教授が昨年発表したポストより)なのです。
かねてより、欧米の大学で中国について教えている学者たちは、自身のみならず、学生たちがより大きな法的リスクにさらされることを懸念してきました。特に一般の参加者が参加できるような、しかもオンラインで開催されるセッションで中国の政治について議論しようものなら、その懸念はなおさらです。
これはWixのみならず他の海外テック企業にとっても、北京にとって不快なコンテンツをホストしていようものなら、次に要請を受ける可能性があるという警告だともいえます。
香港警察は具体的な個別の事象についてはコメントしていないものの、「香港の住民によるインターネットの合法的な利用は継続でき、影響はない」と声明を出しています。そして、国家安全保障法に則ることで、国家安全保障法上の犯罪となりうる、あるいはそのような犯罪を引き起こす可能性のある電子コンテンツについて、プラットフォーム・プロバイダーに対して措置を求めることができるとしています。
#2: Bing, YouTube
MS、YouTubeも
このニュースの直後、マイクロソフトの検索エンジン「Bing」も、中国の検閲問題に巻き込まれています。
先週金曜、米国や英国、シンガポールなどでは「tank man」とBing上で検索しても、戦車の前に立つ男性の姿をとらえた天安門事件の際の有名な写真が一時的に表示されなくなっていたのです。マイクロソフトは週末、これが「偶発的なヒューマンエラー」によるものだと発表しました。Bingは、中国で現在も利用できる数少ない海外サービスのひとつで、中国の規制に従い検索は検閲されています。
また同時期、当時天安門事件を率いていた周鳳碩(Zhou Fengsuo)は、YouTubeやFacebookで公開されている天安門事件に関連するコンテンツについて問題提起をしています。
周は6月5日、彼自身を含む米国在住の中国人活動家グループ「Humanitarian China」が主催した天安門事件を記念するライブストリームビデオのアーカイブ動画がYouTubeで視聴できなくなっているとツイート。YouTubeからの回答は「技術的な理由によるものではないか」とのものだったといいます。
当初、周はこの説明を受け入れたものの、その翌日には「なぜまだ動画が見られないのか」再びツイート。2日が経ってもその動画は視聴できない状態が続いています(周のYouTubeチャンネルではそれ以外の動画は普通に閲覧できます)。
#3: Facebook, Zoom
誤って削除?
周はそのほかにも、6月4日に人権団体が開催した記念行事のFacebook上でのライブ配信が停止されたことを伝えています。彼は、その動画が「スパムに関する当社のコミュニティ基準に反する」旨を通知するスクリーンショットを公開しました。
フェイスブックの広報担当者によると、このライブフィードは、スパムの可能性を識別するテクノロジーによって「誤って削除された」ものであり、その後、復旧したとしています。そして、「重要な歴史的出来事を記念することの重要性を認識しており、今回の技術的なミスを謝罪します」と述べています。
周のテック企業への疑念は、時期的にも、彼自身の過去の経験からも当然のものといえるでしょう。
昨年、Humanitarian Chinaは、Zoom上で中国本土および海外の参加者が参加するミーティングを開催したものの、中断されています。グループがプラットフォーム上で6月4日の記念行事を行った数日後には、有料アカウントそのものがZoom側から閉鎖されました。最終的には復旧したものの、このアカウント停止が北京からの直接の要請であったことを認めています。
COLUMN: What to watch for
テスラの未来は暗い
中国におけるテスラの5月の販売台数が発表されましたが、その実績は前月と比較すると実に約2倍。販売実績は順調に回復しているようですが、この数字が、テスラが相次ぐ悪評をうまく切り抜けたことを示すものだとはまだいえません。
4月に上海で開催された中国最大級のモーターショーでは、「ブレーキが効かない」と書かれたTシャツを着た女性が展示車両に上って抗議活動を展開。それを受けて消費者が反発を示し(同社の「傲慢な」対応への非難も持ち上がった)、テスラは相当な打撃を受けることが予想されていました。事件はまだ収束しておらず、現地時間9日の早朝にも、テスラ車オーナーを自称する女性が「Weibo」で同社を訴えると投稿しています。
テック関連のニュースメディア『the Information』は先日の報道で、5月のテスラの中国における月間純注文数は4月に比べて半分近く減少しており、今回の販売台数は(モーターショー以前の)3月の注文を反映している可能性が高いとしています。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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