Deep Dive: Future of Work
「働く」の未来図
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜午後のニュースレターでは、「働くこと」のこれからについてアイデアや出来事を、世界のニュースから選りすぐってお届けしています。今日はアイスランドで2015年から行われてきた「時短勤務」についての報告書から。
「自分のための時間を増やしたい」「運動する時間が増えた」「用事がしやすくなった」…。アイスランドで実施された「週4日制」の実験に関する新しいレポートは、実に心強い結果を伝えてくれるものでした。
実験からわかったのは、対象となったあらゆる職場の人びとにとって、労働時間の短縮は圧倒的にプラスであり、生産性はほぼ変わらないか、ときには向上することもあったということです。
例えば、子どもをもつ親たちからは、朝の慌ただしさが減ったという声があがったようです。また、異性と交際している男性からは、時間ができたことで家事をする機会が増えたという声も多く聞かれました。
では、雇用主にとってはどんな結果となったのでしょう? アイスランドの非営利団体Alda(Association for Sustainable Democracy)と共同で試験データを分析した英国のシンクタンクAutonomyの共同ディレクター、ウィル・ストロンジ(Will Stronge)は、「雇用主は、社員の病欠が減り、仕事の場に活気が出てきたことを実感した」と伝えています。
ストロンジはCBCニュースでこうも語っています。「こうした実験は数多く行われてきましたが、時間に余裕が生まれることで、人はよりやりがいを感じ、仕事に愛着を抱くようになることがわかってきました」
Iceland’s four-day workweek trial
実験の内容
この実験は、アイスランド連邦政府、レイキャビク市議会、そして各種労働組合の協力もと2015年にスタートしました。実験に参加した累計2,500人のワーカーは、給料は「据え置き」のまま(ここが大事なポイントです)、週40時間だった勤務時間を35〜36時間に短縮しました。
研究者は参加者にインタビューも行いましたが、彼らは職場でのミーティングを減らし、あるいは完全になくしてスケジュールを切り詰め、時間をつくっていったようです。つまり、ミーティングの内容がメールで済むならメールで済ませたわけです。コーヒーブレイクも犠牲にするなど、少なくともその「労働時間」はゆったりとしたものではなくなりました。
また、被験者全員が毎週のように3日の休みをとったわけではありません。余った休みを分散させて、子どもを学校に迎えに行くなど、生活に必要な時間に充てる人もいたようです。実験は当初、シフト制の仕事をしている社員を対象にしていましたが、最終的には保育園や福祉関係の仕事をしている人を含め、9〜17時のフルタイム労働をしている会社員も参加しました。
補足をすると、現在、アイスランドの労働人口の86%にあたる17万4,000人が労働時間の短縮に移行しているか、あるいは労働時間を短縮する権利をもっているとされています。
報告書は、OECD諸国の中で比較をすると、アイスランドは他の富裕国よりも労働時間が長い一方で生産性が低いことが指摘されています。今回のテストの結果は、労働時間を短縮して人がより充実した生活を過ごす時間を確保することで生まれる価値を認めるのに十分だといえるでしょう。
more time for…
家族との時間が増えた
レポートでは、実験の参加者たちが趣味や運動、家族との団らんなどの時間を増やし、より快適な生活を送っている様子も描かれています。
例えば、こんな感じ。「上の子どもたちはわたしたちが短時間勤務をしていることを知っているので、よく『お父さん、今日は火曜日だね。今日は早く終わるの?』『もちろん』というやり取りがあることも。そうすると、(仕事の後に)出かけたりして、充実した時間を過ごすことができる」
男性の多くが、家事、特に料理や掃除など、女性の役割とみられてきたような仕事を引き受けるようにもなったようです。ある男性は、「掃除機をかけるなど、必要なことは何でも率先してやるようになりました」と語っています(ただし、こうした男性の変化に女性からの言及はなかったとも、レポートには記されています)。
The downsides
週4日制の弊害
レポートでは、週4日制を導入する上でのいくつかの課題も浮き彫りになっています。企業をはじめ、スペインのように国として独自の取り組みを計画しているならば、参考になるポイントでしょう。
例えば、マネジャークラスの人間が不安に思ったのは、ただでさえ仕事量が多いワーカーがより速いペースで仕事を処理するよう求められることが、彼らにとって大きなストレスを感じる要因になるではないかという点。
他にも、指示を出す立場にいる者は、勤務時間が短縮されることで効果的なコミュニケーションが困難になったと伝えています。また、一部のマネジャーは仕事に費やす時間を減らすことができず、トレーニングセッションや歓送迎会などのイベントを開催しづらくなったとか。
しかし、そうしたストレスは、実験開始当初こそ感じられていたものの、月日が経つにつれて解消されたとも報告されています。なかには実験期間中、実験前より多くのストレスを感じた人もいたようですが、それさえも「他の改善点に勝る」と説明されています。
The pandemic has prompted
世界が求める週4日制
ある調査によると、パンデミックの影響で「燃え尽き症候群」の症状を訴える従業員が増えているとされています。このことも、週4日制を導入する企業が今後増えると予想される理由のひとつです。確かにまだ始まったばかりのトレンドではありますが、先月にはKickstarterが2022年から「時短」制度を試験的に導入することを発表しました。
最後に伝えておきたいのは、この実験を通して、アイスランドの人たちが尊厳を取り戻すことになったという点です。実験に参加したひとりは、こう記しています。
「労働時間の短縮は、個人に対する敬意の高まりを示しています。わたしたちは、一日中働くだけの機械ではありません。働いたら寝て、そして、また仕事に戻るのです」
COLUMN: What to watch for
中国の過労も改善?
中国テック企業の驚異的な成長を支えた要因のひとつが、その過酷な労働環境です。週6日、午前9時から午後9時まで働かせることから「996」と呼ばれるその企業文化にいま、変化が起きています。
中国のニュースサイト「iFeng.com」は、動画アプリ「TikTok」およびその中国語版「Douyin」を運営するバイトダンス(ByteDance、字節跳動)が、「big week/small week」(大きな週と小さな週)と呼ばれる方針の中止の可能性を検討しており、早ければ今月中にも中止を発表する可能性があると報じています。この方針は、ワーカーに対して週5日勤務と週6日勤務を交互に行うことを義務づけるもので、1日多く働いた日には通常の2倍の残業代が支払われるという仕組みです。
中国における過労問題はかねてより槍玉にあがってきました。例えば、2019年にはエンジニアが「GitHub」で「996.ICU」というプロジェクトを立ち上げ、この慣行に対する不満を表明するというオンライン抗議活動が行われたこともあります。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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