Deep Dive: Future of Work
「働く」の未来図
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜午後のニュースレターでは、「働くこと」のこれからについてのアイデアや出来事をお届けしています。今日のニュースレターでは、Quartzのニューヨークオフィス再開から得られた教訓を、いま同じような問題を考えているマネージャー・経営者と共有します。
「慎重を期して」とオフィスを閉鎖してから15カ月。6月1日、変化した世界にふさわしい新しいガイドラインのもと、わたしたちはニューヨークのオフィスを再開しました。「ハイブリッドオフィス」の運営を始めて1カ月が経ち、多くの学びがありました。
Quartzは現在、「完全な分散型企業」となっています。つまり、すべての従業員は、合法的な場所である限りどこでも働くことができます。オフィス近くに住んでいるスタッフはいつオフィスを利用するかを選択できるし、まったく出社しないという選択肢もあります。いまも求人中ですが、世界のどこからでも応募できます。そもそもパンデミック以前も分散型でしたがその傾向は高まり、パンデミック以前、ニューヨーク外に住むスタッフは全体の約3分の1でしたが、その数もいまでは半数に及んでいます。
ただし、ニューヨークのきれいなオフィスはそのままです。リース期間はあと1年残っていますし、そこで生まれる人と人との交流の意義深さも信じています(「ウォータークーラーでのセレンディピティ」というアイデアは誇張されすぎかもしれませんが)。ゆえに、ニューヨーク市中での感染が落ち着き始めたこの春、わたしたちは再びドアを開けて、「ハイブリッド・ワーク」とは何かを考えてみることにしたわけです。
もちろん、いきなりドアを開けるわけにはいきません。なにしろオフィスの扉は立派すぎて重いくらいですし、世界はいまだパンデミックの真っ只中。そこで、わたしたちは調査を行い、スタッフにアンケートを取り、独自のガイドラインを作成しました。
ニューヨーク地域のスタッフを対象とした調査では、明確で効果的な安全へのプロトコルがあれば、ほとんどのスタッフがオフィスを快適に利用できることがわかりました。しかしながら現在も、そして将来的にも、フルタイムでのオフィス利用を考えている人はゼロでした。元の生活に戻ったとき、どのくらいの頻度でオフィスを利用するかを尋ねたところ、ほとんどの人が「週に2〜3日」と答えました。
これらの結果をもとに作成したのが、このガイドラインです(PDF)。内容があなたの会社にとって有用であれば、ぜひご活用ください。
では、この1カ月のオフィス再開でわたしたちが学んだことを、お伝えしましょう。
#1
水・木は出社したい
この1カ月間で、ニューヨーク市およびその近郊に住む社員の68%が、少なくとも1回はオフィスを利用しました。その半数は2回以上出社をしていますが、定期的にオフィスを利用する習慣にある人はほんの一握りです。ほとんどの従業員は自宅で仕事をして、たまにオフィスに行くというような柔軟性を望んでいます(その選択肢がなければ、彼らはQuartzを辞めてしまうかもしれません)。
また、週の真ん中、特に水曜と木曜にオフィスを利用する社員が多いという傾向も明らかになっています。ちなみに、木曜には終業時、オフィスでカクテルをつくることがあり、その際には人が集まることもあります。また、この夏は金曜にはオフィスを閉じています。これはその需要が少ないとすぐに判断できたためです。
#2
ワクチン接種は当然
オフィスは毎日清掃し、毎週末には大規模な清掃もしています。空調設備も改善しました。適切な衛生管理を促す看板も設置しました。しかし、これらの手立てすべてを講じたところで、感染力が強くて空気感染するウイルスを前にすれば、オフィスは「パンデミックシアター」になってしまいます。もちろん、地域によって法令や慣習はさまざまでしょう。ただし、わたしは、全員が完全なワクチン接種を受けていない状態にもかかわらずいますぐオフィスを開設しようと考える人がいるなど、理解できません。
オフィスを利用する人にはワクチン接種を義務づけ、正当な医学的・宗教的理由がある場合にのみ免除を認めることにしました。スタッフが完全に予防接種を受けていることを証明するために使用しているのは「Bindle」(ソフトウエア)で、日々の健康チェックやオフィスへのサインイン、どのデスクを使うかなどを『Envoy』と連携して管理しています。
職場や学校におけるワクチン義務化は、「個人の自由」という極めて米国的な概念と保守的な政治・制度への懐疑心の狭間で、本来健全な医学的アドバイスのはずが無意味な論争と化すきらいがあります。『New York Times』はワクチン義務化について尋ねる電話をかけてきましたし、日本の公共放送局NHKもインタビューしようとオフィスにやって来ました(もちろん彼らにもワクチン接種の有無を証明してもらいました)。
わたしたちスタッフの間では、ワクチン義務化は何の議論にもなっていません。オフィス再開前のアンケートでは、スナックの無料配布よりもワクチンを求める声が多く、再開後も不満は出ていません。
確かに、アメリカで最も進歩的な地域に住む報道機関の社員ですから、事実や科学に対してある種の偏見ももっていますが、実際のところ、議論の余地はないのです。コロナウイルスのデルタ型がニューヨークを含む世界中で急速に広まっているいま、全員へのワクチン接種を義務づけること以外に、責任ある手段はありません。
#3
ホットデスクの温度感
オフィスの再開前、わたしたちはすべてのデスクを整理整頓し、徹底的に掃除をしてオフィスを「リセット」しました。それは衛生面での安全を確保するためでもありますが、休眠中に会社が大きく変わったことも関係しています。わたしたちは、パンデミック発生時に多くの社員を解雇し、そしてその後、多くのスタッフを迎えました。
デスクの数は十分にありますが、再開にあたっては、社員それぞれにデスクを割り当てるのではなく、予約制の「ホットデスク」に変更しました。同僚の近くに座りたければ座ればいいし、窓際の日当たりのいい静かな場所がよければそこに座ればいいというわけです。ホットデスクは、おそらくハイブリッドオフィスを運営するための唯一の現実的な方法といえるでしょう。
実用的な方法だとは思いますが、一方で、自分のデスクがないと寂しいと思う自分もいます。オフィスの中で小さくも自分だけのスペースを割り当てられることは、かつてスタッフにとって驚きと喜びの一部でした。デスクの上には、仕事の合間に安全に停泊できる場所があり、そこにはさまざまな便利なもの、ユニークなものが置かれていました。
パンデミックの間、わたしたちは自宅で仕事をしていました。多くの人がその「係留地」をキッチンや予備の寝室などに移しました。さて、ハイブリッドなワーク環境で、社員は2つの異なる場所にそれぞれパーソナルスペースをもつ必要があるのでしょうか? オフィスはデスクを借りる場所というだけでいいのか? Holiday Inn Expressのビジネスセンターのような場所になることなくホットデスクを実現できるのか? わたしたちにも、まだわかってはいません。
#4
グループ出社は楽しい
ある木曜日。その日、セールスチームのほとんどが、顔を合わせて一日の終わりをともにお酒を飲んで過ごすためにオフィスに集まりましたが、それはオフィス再開以来の最も活気に満ちた日でした。
たとえ一日の大半をヘッドフォンをつけてコンピュータと向き合って過ごすとしても、お互いに顔を合わせてオフィスを盛り上げる口実として、社内の多くのチームや友人グループが、共通の日を選んで出社するようになるのは喜ばしいことです。そのために、スタッフにはその日誰が出社登録しているかを知らせるようにしています。秋には、ニューヨークの他の少人数のチームにも、共通の日を選んで対面で仕事をすることを奨励するつもりです。
#5
「ハイブリッド」とは
パンデミックの影響で、さまざまな「ハイブリッドプラン」「ハイブリッドプロトコル」が生まれています。最近では「ハイブリッド」ということばが、わたしたちのような新しいオフィス環境を表す言葉として定着しているようです。
もっとも、これは正しい表現だとはいえません。社員全員が同じ地域に住んでいるのであればまだしも、「ハイブリッド」を採用している多くの企業は(Quartzもそのひとつですが)、実際には、単に「リモートワーク」と言うべきでしょう。
オフィスを再開することによる最大の危険は、パンデミック以前の習慣に戻ってしまうことだと感じていました。例えば、会議室での対話をリモートで参加している同僚が途切れがちな回線で必死に聞いていたり、全スタッフを対象としたタウンホールミーティングで主にその場にいる人たちを対象としたりするのは、その他の人たちにとって苦行以外の何物でもありません。
今回のパンデミックで学んだことは、会議に参加する全員が「同じレベル」であるべきだということでした。つまり、それぞれのノートパソコンにマイクとヘッドホンをつなぎ、別々に接続すべきだということです(たまたま参加者の何人かが同じ場所にいたとしても、です)。先日も、編集長のキャサリン・ベルとわたしは、オフィスの隣同士の会議室にそれぞれ座り、ニューヨークやその他の都市の自宅で仕事をしている同僚たちとミーティングをしていたほどです。
つまるところ、複数の場所で社員を雇用している企業であれば(ましてや5大陸にスタッフがいるQuartzのような会社では)、「ハイブリッド」などありえないのです。オフィスがあったとしても、仕事自体は全員がリモートであることを前提に行うのが最善です。また、「リモート」という語はオフィスが中心にあることを意味するので、「分散型」(distributed)ということばの方が適切でしょう。
#6
短パンでいいじゃない
パンデミック後のオフィスファッションは、自宅で仕事をするときのようなカジュアル要素が多く残ったものになるようです(『StitchFix』が言うところの「ビジネスコンフォート」)。それはつまり、「夏用のショートパンツを普通に履く」ことも含まれることでしょう。
雇用主がショートパンツを受け入れないというのであれば、2017年、フランスのバス運転手が暑い日にショートパンツを履きたいと訴えた要望が却下されたとき、スカートを履いてきたことを思い出しましょう(スカートはそのバス会社のドレスコードを満たしていました)。
#7
オフィスの必需品は
パンデミック前、Quartzのオフィスには、競争激しい業界のいかにも現代的な職場に必要なものがすべて揃っていました──壁一面の無料スナック、居心地のよい部屋、ゲーム、お酒など──。それは、当時、多くの企業が社員の快適さのために、あるいは社員皆がより長く働けるようにと(皮肉なことではありますが)オフィスに育んできた「自宅のような環境」でした。
再開にあたり、わたしたちはオフィスのアメニティにはあまりお金をかけませんでした。用意したのは、マスクやウェットティッシュなどのパンデミック対策グッズです。オフィスが皆にとってフルタイムで過ごすワークスペースではない以上、人が何をどれくらい必要とするのかを予測するのは困難でした。
果たしてアンケートや苦情を受けてすぐにわかったのは、オフィスに必要なアメニティは豊富な水、コーヒー、スナックだということでした。もうすぐオフィスには「Bevi」のドリンクディスペンサーが戻ってきて、フレーバー付きのセルツァーが飲めるようになります(みんな大喜びです)。新しいコーヒーメーカーは、かつてあったような豪華なものではありませんが、十分な機能を備えています。壁一面とはいかないまでも、スナックも数種揃えました。いまにして思えば、これらの「アップグレード」は、わたしたちが自宅で仕事をするときに必要とする設備とまったく同じでした。
#8
プライバシーが気になる
自宅での仕事はそれなりのチャレンジでしたが、従業員からの苦情に応えたり密かに会社を買収したりと、秘匿性の高い仕事がやりやすかったのも確かです。ことさらにプライバシーを守ろうと意識する必要はありませんでした。
いま、Quartzにはプライベートなワークスペースと共同オフィスとを交互に利用しているメンバーもいますが、彼らは何かしら機密事項を取り扱うことになったとき、多少混乱してしまうかもしれません。もちろん、かつてのように会議室や電話ボックスに飛び込めばいいのですが、いざというときに実践するのは意外と難しいものです(わたしはすでに何度か失敗しています)。
#9
ボスがどこにいようが
ハイブリッドワークに移行するにあたり、上司が直接会うことの少ない社員をないがしろにするというリスクが多く語られています。QuoraのCEOのAdam D’Angeloは、ハイブリッドワークプレイスへの移行を発表した際、そうした事態を助長しないよう月に一度しかオフィスに来ないようにすると述べています。
これは会社によって違いがあるでしょう。Quartzについて言えば、わたしの居場所で仕事を選ぶ人はいないと断言できます。これを書いている今日、わたしはオフィスにいますが、直属の部下はみな家にいます。
ハイブリッドワークに関する懸念はさまざまですが、この問題に限っていえば、それはまた別の文化的な問題なのでしょう。「顔を合わせる時間」が重要だという言説は、ハイブリッドワークプレイスだけの問題ではありません。
#10
世代の溝はない
1年以上自宅で仕事をしている間は、こう考えていました──いざオフィスが再開すれば、例えばZ世代の社員は社交のためにオフィスに戻ってくるだろう、親世代の社員は子どもから逃れようとオフィスに戻ってくるだろう、と。
しかし、これまでのところ、オフィスに出社する人と自宅で仕事をする人の間に、世代ごとに決まった特定のパターンは見られません。むしろ性格や家庭環境、通勤にかかる時間など、さまざまな要素が影響しているようです。
#11
9月には…
最後に。ハイブリッドワークについて結論を出すには、まだ時期尚早でしょう。わたしたちはいまだパンデミック下にあり、ニューヨークは夏を迎え、人びとは通常の仕事はもちろん、通常の生活においてさえ、自分自身の好みを把握し始めたばかりです。
9月になれば新学期が始まり、ここ米国北東部では、幸いにもほとんどの人のワクチン接種が完了していることでしょう。来るポストパンデミックにおける「新しい時代の仕事」とはどのようなものか。それは、オフィスだけでなくスタッフがいるあらゆる場所でわかっていくことになるでしょう。
COLUMN: What to watch for
目標は立派でも
スーパーマーケット最大手のウォルマートは、自社の最優先事項のひとつとして、従業員のあいだに「インクルージョンの文化」を育むことを挙げています。先日発表された自社が掲げた目標の進ちょくを伝える報告書でも、「従業員が力を発揮し、キャリアアップの機会を得られるような多様性のある職場をつくる」とされています。
もっとも『Bloomberg』が最近行った調査によると、この目標は一部の黒人管理職の意見とは対照的です。56人の黒人の上級管理職、取締役へのヒアリングによると、多くの人がキャリアアップの機会に恵まれないと感じており、友人や家族にウォルマートで働くことを勧めない人も多いようです。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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