Deep Dive: New Cool
これからのクール
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パンデミックで急増した、店舗をもたない新しいレストラン形態「ゴーストキッチン」。フードトラックに次ぐブームを引き起こし、成功するのでしょうか(英語版はこちら)。
パンデミック下のスーパーでは、試食ブースも置けません。オーガニック冷凍食品ブランド「ストロング・ルーツ」(Strong Roots)は、商品をプロモーションするための別の方法を見つける必要がありました。2020年4月、Strong RootsのCEO、サミュエル・デニガン(Samuel Dennigan)が目を付けたのは、ゴーストキッチン(店舗をもたない業務用厨房)の運営者でした。
デニガンは自社製品──バッファロー風味のカリフラワー、ハッシュブラウン、朝食用サンドイッチなどといった温かい商品──を、シェフを雇うこともキッチンを探すこともなくうまく売る方法を、オーナーとスカイプで話し合いました。かくして先日、ニューヨークのウェストビレッジのバー&レストラン「Hudson Hound」でのStrong Rootsの新たな展開がスタートしたのです。
デニガンは、人と直接つながるには、小売店での販売が一番だと考えていました。しかしパンデミックが襲来し、自分の製品を「メニューに載せる」ことができると気づいたのです。
E-RESTAURANT
拡大する市場規模
いわゆる宅配ピザをはじめとするゴーストキッチンの業態が、いま、かつてより大きなビジネスになりつつあります。パンデミック前、660億ドル(約7.25兆円)規模の米国レストラン業界のうち、ゴーストキッチンは10~15%を占めると予想されていました。不動産会社CBREが5月に発表したレポートによると、この数字は2025年には21%にまで上昇すると予想されています。
レストランだけでなく、スタートアップ企業もゴーストキッチンを利用して食事をつくったり、複数ブランドの業務用キッチンを運営したりしています。例えば昨年、チキンウィングのデリバリー「ジャスト・アス・ウィングス」(Just Us Wings)は、チリーズ・グリル・アンド・バー(Chili’s)とマジアーノズ・リトルイタリー(Maggiano’s Little Italy)の1,050店舗の厨房を利用。アイホップ(IHOP)やアップルビーズ(Applebee’s)の親会社であるダイン・ブランド(Dine Brands)のCEOは、ゴーストキッチンを新たな収益源として模索しています。2011年に設立されたインドのゴーストキッチン運営会社レベル・フーズ(Rebel Foods)は、18都市に200以上のキッチンをもち、2019年には4,000万ドル(約4.4億円)の収益を上げています。同社は昨年、ウェンディーズ(Wendy’s)と提携し、インドでの米ファストフードチェーンの注目度を高めました。また、リゾート・ワールド・ラスベガスのホテルでも、ゴーストキッチンが運営されています。
密集した都市部にあることが多いゴーストキッチンの存在感は、世界的に増えています。調査会社のEuromonitorによると、現在までにゴーストキッチンが設置されているのは、米国で1,500カ所、中国では少なくとも7,500カ所、インドで少なくとも3,500カ所、英国で750カ所となっています。
このビジネスモデルがどの程度の収益性なのかはまだ明らかではありませんが、調査会社PitchBookによると、セコイアやYコンビネーターなどの投資家たちが関心をもち、ゴーストキッチンに550億円(約6兆円)を投資しています。
パンデミック中は、レストランにとってデリバリーが命綱でした。それがいまでは逆に、デリバリーがレストランに新しい経済をもたらしているのです。
Why is this happening
ハードルの低い挑戦
多くのレストランがフル稼働できないなか、レストランのビジネスモデルは再考されることになりました。
まず、この業界にかかるコストの大半を占める家賃・人件費を削減できます(例えば、スターバックスのラテ1杯分の価格のうち、その60%を家賃と人件費が占めています)。ひとつの業務用キッチンのスペースを複数の企業で利用できるため、レストラン経営者は、従来とはまったく異なる経済規模で事業を回せるのです。
また、参入障壁が低くなり、業界内での実験や創造性が高まると専門家は言います。ゴーストキッチンは「ネクスト・フードトラック」ブームになる可能性を秘めているというわけです。新しいコンセプトを低コストで試すことができ、それが実店舗、さらに最終的にはチェーン店へと発展する……これがゴーストキッチンなのです。
しかし、レストランがなくなるわけではありません。人びとは食事という「経験」が好きだからです。しかし、別の問題として、雇用が以前のように多くなるかどうかということがあります。
What has led to this
ビジネスの未来
レストランの未来を語るには、いったい何が変化をもたらしているのかを見定める必要があります。ここ数年だと、人びとは家で食事を取ることが多くなってきていて、さらに在宅勤務者の増加や高齢化のが進むことで、その数は増えていくことが予想されます。
この動きはフードデリバリーアプリで注文する消費者が劇的に増加していることと一致しており、スマートフォンがその実現に貢献しているとポータラティンは言います。パンデミックの影響でデリバリーの需要は加速しており、その数はさらに増えることが予想されます。
NPDのデータによると、2021年5月のレストランの全注文のうち17%がデジタルで行われており、昨年の同時期の4%から増加しています。「わたしたちの行動はパンデミック前に後戻りしません。オンライン注文は、確実に定着するでしょう」
Is ghost kitchens sustainable?
持続可能なモデル?
ゴーストキッチンには、まだいくつか課題はあります。一般的なレストランに比べて規模が小さいため、チキンウィングやハンバーガーといった扱いやすい料理には適していますが、調理が複雑な料理には向いていないでしょう。
P.F.チャングス(PF Chang’s)のCEOであるダモラ・アダモレクン(Damola Adamolekun)は、「料理の質を落とす前に、コストを大幅に下げることができます」と言います。彼は、もし自分がチキンウイングショップやハンバーガーショップを始めるとしたら、資本金が少なくて済むゴーストキッチンを利用するだろうと話します。
また、不動産の確保もなかなか難しいでしょう。CBREのアナリストで、ロサンゼルスで小売業を担当しているジム・クロチェンツィ(Jim Crocenzi)は、「オーダーするお客さまから距離が離れるほど、コストはかかってしまいます」とコメント。また、これらのキッチンは、従来のレストランや従来の産業用途のスペースと競り合っているとも言います。
しかし、冒頭に紹介したStrong Rootsのデニガンは、ゴーストキッチンを、小売業がEコマースに移行したことと類似していると考えています。「アマゾンの台頭で流通が一つのプラットフォームに集約されたように、食品生産の観点からも同じことが起こっています。とくに、従来の小売業とは異なり、家庭で提供される温かい食品の場合はそうです」と彼は言います。
多くの実店舗がオンラインで販売できるようになったEコマースが小売業にもたらしたものを見ると、ゴーストキッチンにはまだ成長の余地があるのは明らかでしょう。
COLUMN: What to watch for
自由の日を迎えて
7月19日、イングランドとスコットランドでは、継続していたCOVID-19規制のほとんどが解除されました。この日は、「フリーダム・デー」(自由の日)とも呼ばれ、多くの人がその喜びを分かち合いました。約1年半ぶりに再開したナイトクラブには、午前0時とともに若者たちが集結。パンデミック後、長いあいだ見られていなかった「喫煙所でのコミュニケーション」も復活し、喫煙者ならではのやり取りを待ち望んでいた人も多くいるでしょう。
一方で、9月からは、クラブや大勢の人が集まる会場では、ワクチン接種を完了していることが入場の条件となると報じられています。ナイトクラブ「Warehouse Project」を運営するサシャ・ロード(Sacha Lord)は、「政府は、全世代に向けたライブやギグを一掃してしまったようだ」と『BBC』に対して述べています。
(翻訳・編集:福津くるみ)
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