Guides:#64 シモン・バイルズの拒絶・上

Simone Biles warms up before competing at the U.S. Women’s Olympic Gymnastics trials in St Louis , Missouri, U.S. June 25, 2021.  REUTERS/Lindsey Wasson
Simone Biles warms up before competing at the U.S. Women’s Olympic Gymnastics trials in St Louis , Missouri, U.S. June 25, 2021. REUTERS/Lindsey Wasson
Image: Reuters/Lindsey Wasson

A Guide to Guides

週刊だえん問答

世界がいま何に注目しどう論じているのか、米国版Quartzが取り上げている「世界の論点」を1つピックアップし解題する週末ニュースレター。原稿執筆時に流れていたプレイリスト(Apple Music)もあわせてお楽しみください。Quartz Japanのニュースレター最長の力作につき、1通には収まりきらなかったため、上・下2通に分けて、1分違いでお届けします。

Simone Biles stares straight ahead with a serious expression and blue eye shadow.
Simone Biles warms up before competing at the U.S. Women’s Olympic Gymnastics trials in St Louis , Missouri, U.S. June 25, 2021. REUTERS/Lindsey Wasson
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先月26日に開催した『週刊だえん問答・第2集 はりぼて王国年代記』刊行記念イベントは、4時間超えで実施したものの皆さんからの質問に答えきれず、2回戦を開催! 8月3日(火)20:00からの「延長戦」の詳細およびお申込(無料)はこちらから


A different way of winning

シモン・バイルズの拒絶

──オリンピックも半分を終え、折り返しです。と同時に、本日土曜日は、新型コロナウイルス感染者が4,000人を超えました。

どんどん増えていますね。無理もないですよね。首相自身が「人流は減っている」と感染対策に問題はないと公言して、緊急事態宣言を自ら無効化しているわけですから、感染者が増えたからといって、政府以外の誰かを責めるのは難しいですよね。

──「家でオリンピック観てろ」といったこともおっしゃっているようですが。

世の多くの人は昼間にはたくさん用事がありますし、リモートワークをしている人だって、家で休んでいるわけではなく仕事をしていますから、首相のようにテレビにかじりついて、日本選手が取ったすべての金メダルについてツイートするほど暇ではない、ということがあまりわかってないんじゃないんですかね。もちろん、ご本人がツイートしているわけではないと思いますが、この困難な局面のなか、金メダルツイートを投稿する役目を負ったスタッフは、「自分はいったい何をしてるんだ」と思っているかもしれませんね。

──こんな仕事をするために公務員になったんじゃないぞ、と思いますよね。「中の人」が公務員であれば、の話ですが。

菅首相のツイートや直電の浅ましさは、結局、オリンピックというものを自分の人気取りにしか使っていないということで、それは「オリンピックの政治利用」と呼べるもののなかで一番低レベルな利用法ですよね。ありていにいえば、在任中に選挙運動をしているわけで、与党も、選挙戦を睨んだ「支持率」のことばかり言及しているのを見るにつけ、ほとんどの政治家がオリンピックを政局の中心的事案と見ているということですから、選手からすれば「なんのための金メダルか」という気持ちにもなりそうです。

──実際、選手の胸の内はどうなんでしょうね。

どうでしょう。先日、ラグビーの元日本代表の平尾剛さんが、『赤旗』に「悪政隠すスポーツウォッシング」という記事を寄稿されていました。ここでは、「スポーツウォッシング」は、「政府や権力者が自分たちに都合の悪いことをスポーツの喧騒で洗い流すこと」とされていますが、平尾さんは、今回のオリンピックが、その最たるものだと批判しています。加えてある競泳選手が今大会への出場選手に選ばれなかったことに「正直ほっとしている」と語ったと明かされています。つまり、平尾さんは、選手が「五輪」と「社会」の間で板挟みになっていると指摘されているわけです。

──板挟みというか、政権が選手たちを盾にして、その背後に隠れている感じですね。

それについては、興味深い一幕が体操競技においてありました。体操女子個人総合で5位となった村上茉愛選手が、試合後のインタビューで「五輪を反対している人を見返したい。そういう人たちに思い知ったかと思ってもらいたい」と語ったとされる騒動です。これは、当該記事がミスリーディングなものだったようで、彼女は「五輪を反対している人」を見返したい、思い知らせたいと語ったのではなく、あくまでもSNSで誹謗中傷を投げかけてきた人たちを見返したいと語ったとのことなのですが、いずれにせよ問題は、主催者・運営者が、オリンピックを開催自体に大きな疑問符をつけざるを得ないグダグダなイベントにしてしまったことで、出場する選手を、開催に反対する世論と敵対する存在にしてしまい、しかも、そのグダグダの尻拭いを選手がせざるをえない構図に──わざとなのかそうでないのかは知りませんが──持ち込んだところにあります。

──ふむ。

その尻馬に乗って、矢面に立たされた被害者である選手に誹謗中傷を投げつける輩は、言うまでもなく愚かですが、とはいえ、そうした愚か者の存在はソーシャルメディアがデフォルトとなった現代の社会においてはデフォルトの存在ですから、予測の範疇であってしかるべきですし、本来であれば、そうした構図自体をつくりあげたことに対する運営側の責任をこそ問題にすべきところ、相手にすべきではないバカどもを「見返す」ことや「思い知らせること」で、村上選手は、自らその構図自体を引き受けてしまうことになってしまいました。ありていにいえば、選手たちは、もはや自分たちが心理的安全のなかで競技することが困難であることを、運営責任の問題として運営責任者に問うべきなんです。

──理屈としてはそうなるんでしょうけれど、それはそれで酷な話でもありますよね。

はい。そうなんです。そんなことをすれば、自分の競技生活そのものをリスクに晒すことにもなるでしょうから、そんなことを進んでやりたい選手はいないと思いますが、ただ、そうやって然るべきところに向けて声をあげないことで、自分のモチベーションの矛先をとんちんかんな方角に向けて発動し、それによって自爆していては、選手が結局のところ「スポーツウォッシング」のための捨て駒でしかない、という状況は変わらないわけですね。

──ふむ。

それは困難なことですが、その困難に敢然と立ち向かった選手がいまして、それが同じ女子体操のシモン・バイルズ選手だったんですね。

──ほお。

日本のメディアでは「シモーネ・バイルズ」と表記されていたりしますが、発音的には「シモゥン」が一番近そうで、ここでは「ニーナ・シモン=Nina Simone」の日本語表記にならって、シモン・バイルズと表記することにしますね。

──いいですね。シモン・バイルズといえば、史上最高の体操選手として「GOAT」(Greatest Of All Time)と呼ばれるアメリカ女子体操のエースですよね。今大会は女子団体総合を欠場したことで、視聴者をがっかりさせたとも言われていますが。

はい。6つのオリンピックメダルと25の世界選手権メダルを保持している彼女は、言うまでもなくアメリカを代表するトップアスリートでして、今回のオリンピックをアメリカで放映するNBCの五輪キャンペーンの顔も彼女です。であればこそ、彼女の出場辞退には、大きな失望もあったとされていますが、彼女の出場辞退の背後には、非常に複雑なコンテキストが流れていまして、それを踏まえて「辞退」の意義を考えると彼女のやったことは非常にインパクトの大きなもので、欧米のメディアからは、「彼女はたくさんのことを達成してきたが、今回の出場辞退こそが、最も偉大な達成だ」とする声もあがっているほどなんです。

──へえ。そうなんですか。

はい。自分も色々と記事などを読んで考えるにつけ、彼女の「辞退」が世界に向けて表明されたことだけをもってしても、「今回の五輪はやった意味があった」と言ってもいいのではないかと思うにいたっています。

──おお。それほどまでのことなんですね。

なかなか一筋縄ではいかない話ですので、どこからお話していいか迷うところなのですが、まず、バイルズ選手が「何のために」東京五輪に出場をしたかを始めましょうか。『The Cut』というメディアが7月28日に配信した「彼女は意気地なしではない」(No, Simone Biles isn’t a quitter)は、こう書き出されています。

シモン・バイルズは東京オリンピックに出場する必要はなかった。彼女は6つのオリンピックメダルと25の世界選手権メダルを手にしており、ほかの体操選手が実現できない、彼女の名がついた技ももっている。

それでもバイルズはCOVID-19によって1年延期されたオリンピックで競技するために東京へと旅立った。チームがメダルを獲得するためだけではない。彼女はサバイバーたちのために来たのだ。今年の春、バイルズはオリンピックでのパフォーマンスを性的暴行のサバイバーたちのために捧げることを、『Today』アンカーのHoda Kotbに明かした。「サバイバーが現役でいなくなってしまえば、その存在は脇へと追いやられてしまうと思って」。さらに彼女は『The New York Times』の電話インタビューに対して「それは、世界中の黒かったり茶色かったりする女の子たちについても同様です」と語った。「つまりわたしは、アメリカの体操界を代表(represent)してはいないということです」

──ほお。これは、どういうことですか?

ここで彼女が「サバイバー」と言っているのは、2018年に発覚した全米体操連盟を舞台にした選手に対する性犯罪の被害者のことを指しています。全米体操連盟のスポーツドクターであったラリー・ナサールが治療と称して選手たちに性的暴行を加えていたことが、2018年にバイルズ選手の仲間であったマギー・ニコルズ選手が声をあげたことで表沙汰となり、実に140人以上の選手たちが同様の被害を受けていたことを認め、ナサールは175年の実刑判決を受けたのですが、バイルズ選手も、その被害者のひとりだったんです。

──ひどい話です。

はい。もちろん、この医師の存在自体がまずもって何よりもひどいのですが、同様にひどいのは、そんな犯罪者がなぜ長きにわたってそのポジションにいることができたのか、ということでして、事件が明るみに出たあとも捜査が放置されたり、全米体操連盟や全米オリンピック・パラリンピック委員会が繰り返し虐待を否認し、それどころか隠蔽をおこなっていたことです。

──おぞましい話ですね。

バイルズ選手は、2019年8月の全米選手権を控えた練習時に、囲み取材で記者に向けて、事件についてこう語ったと『The Washington Post』はレポートしています

「泣くつもりはなかったのですが」。22歳のバイルズは、朝の練習を終えて彼女を取り込んだ記者団に語った。会場のスプリント・センターでは今週、全米体操選手権が開催される。「大会に参加することはとても気が重いです。なぜなら主催者たちはわたしたちを何度も失望させてきたからです」

バイルズが何を語っているかは明らかだ。チームドクターのラリー・ナサールが治療と称して彼女やその他の大勢の体操選手に対して行ってきた性的虐待と、アメリカの体操界の役人たちがそのことを知りながら何の手立ても講じてこなかったことについてだ。

「わたしたちはオリンピックで金メダルを取ることだけを求められてきました」とバイルズは語る。「わたしたちは彼らが求めることのためにすべてを捧げてきました。たとえやりたくなかったとしてもです。ところが彼らは、求められているたったひとつの仕事すらやっていません。彼らの仕事はたったひとつしかありません。たったひとつ、選手を守ることです。なのに選手は守られなかったんです!」

──かなり激しい語調ですね。

はい。「Damn」ということばが使われていますので、相当激しい非難なんですね。また、全米体操連盟/オリパラ委員会と彼女の間の緊張関係は、決して過去のものではなく、現在進行形のものであったことは、今回の出場辞退を見る上ではとても重要です。

──実際オリンピック100日前に、「わたしはアメリカの体操界を代表してはいない」と語っていたわけですから、相当の緊張関係ですよね。

はい。シモン・バイルズ選手は、ナサールによる性的虐待だけを問題にしているわけではなく、先のコメントにもあったように、「金メダル獲得」という金科玉条のもと、性的虐待を受けたとしても黙った服従するしかない、体操界、もしくはスポーツ界全体を覆う、極めてトキシック(有毒)な空間そのものを問題にしているわけです。

──はい。

『ESPN』の2020年7月に「シモン・バイルズはいかに自分自身の声を見つけ、体操界の文化を変えたか」(How Simone Biles found her voice and changed gymnastics culture)という記事を公開していますが、そのなかで、上述のナサールの事件を引き起こした温床として、女子体操の全米代表コーチとして君臨した、ベラ・カーロイとマルタ・カーロイの夫妻による独裁があったことを記しています。記事はこう解説しています。

ナサールに対する告発は、その虐待を許していた、長年コーチを務めたベラとマルタ・カーロイがつくりあげた組織文化にも光をあてた。夫妻がつくりあげた独裁的システムのなかで選手たちは沈黙と服従を強いられた。マルタ・カーロイは15年にわたって全米代表を率い、2016年のリオ五輪をもって辞任するまでチームをかつてない高みにまで引き上げた。金メダルを得るたびにカーロイは無制限の権力を手にし、それをもってチームをつくり、選手たちのみならずコーチや、彼女を雇っていたはずの組織までをもコントロールするようになった。2012年のオリンピック金メダリスト、ジョーディン・ウェイバーは語る。「わたしの運命を握っていたのは彼女だ」

──恐ろしいですね。

ところがバイルズ選手は、その専制国家に徐々に風穴を開けていくんですね。記事は、バイルズ選手自身やお母さん、彼女を育ててきたコーチ、仲間の選手など、さまざまな関係者の声を編成した、スポークンワードによるクロニクルになっているのですが、とても面白いものなので、抜き出していきたいと思います。2011年にバイルズ選手が13歳で初めて、悪名高き「カーロイ牧場」の「開発キャンプ」に足を踏み入れたところから始まります。

「シモンの演技はほかの代表コーチからは褒められましたが、そこにマルタが襲いかかってきました。努力が足りない、話にならないとクソミソに言うのです。シモンは打ちのめされてしまいました。マルタのことばは選手たちに絶大な影響を与えるのです」(エイミー・ブアマン/シモンの初代コーチ)

「多くのコーチは選手の声に耳を傾けていては最高のジムナストを開発することはできないと考えています。選手たちから声を剥奪し、従順であるよう再プログラムすることで国際競技の重圧に打ち勝つことができると考えます。どこかが痛かろうが、病気であろうが、怪我をしてようがお構いなしです。それを乗り越えてこそ無敵になれる。そうやってわたしたちは最高の選手の軍隊をつくってきたのです」(ヴァル・コンドス=フィールド/旧・UCLA体操コーチ)

「次のキャンプは3週間後でしたからシモンとご両親と相談しました。わたしはこれまで本人と両親を抜きにして何かを決めることはありませんでした。前回と同じような仕打ちをマルタから受けたらシモンは壊れてしまっていたでしょう。体操への愛は失われなかったとしても、二度と『牧場』に行たがらなくなっていたでしょう。ですから、参加を断りました。その結果、続く1年間、招聘されませんでした」(エイミー・ブアマン)

「これまでとは違ったやり方でも大会に勝てることを、わたしはシモンとコーチのエイミー・ブアマンによって教わりました。シモンに尋ねたことがあります。『もしほかのコーチについていたら、選手として続けられていた?』。彼女の答えはこうです。『続いていたどころか、とっくに辞めていました。両親があんな扱いを許すわけないですし』。『史上最高』を育て上げるケーススタディにおいて、シモン本人だけでなく、彼女の周りにいるサポートグループの働きをむしろ十分に検討すべきだと思います」(ヴァル・コンドス=フィールド)

「この子をオリンピアンに育てよう、などと考えたことはありません。大事なのは、楽しく体操人生を終えた選手が大人になって社会にポジティブなインパクトを与えることができるようになることです。こうした考えは体操界では特異です。いいコーチは、いい人間を育てることに注力します。そのためにはコーチはエゴを捨てなくてはなりません。『この子はどれだけ成功するだろう』『わたしをどれだけ成功させてくれるだろう』と考えるようなコーチは、動機が間違っています」(エイミー・ボアマン)

「結果わたしたちは、あの『牧場』に戻ることがあっても、自分たちのやり方を貫くことにしました。わたしたちにとって良いことはすべてやる。ためにならないことは全部無視することにしたのです」(エイミー・ボアマン)

「シモンが初めてアメリカンカップに出場したとき、ホテルでシモンは朝食をたくさん食べていました。練習の直前でした。おかげでわたしはマルタからしこたまお小言を言われました」(エイミー・ボアマン)

「シモンは自分の食事をインスタグラムに投稿した最初の体操選手でした。それをさも大ごとのように言うのは馬鹿げた話ですが、でも、それが事実です。シモンはありのままの自分をソーシャル空間に晒した最初の選手で、ボーイフレンドの存在を公表した初めての選手でもあります。彼女は、普通の人であるために、ルールを壊さなくてはなりませんでした。それまでの体操界では、そんなことをしたら蹴り出されるか、携帯電話を取り上げられていたでしょう」(ミッシー・マーロウ/1988年五輪代表)

「マルタが徐々にわたしへの態度を軟化させたのは、ひとつにはわたしの判断がシモンのためになっていることがわかったからでしょう。もとより、マルタはシモンを代表チームから失いたくなかったということもあったでしょう。ギブ・アンド・テイクだと考えていたのかもしれません」(エイミー・ボアマン)

「(ナサールの性的虐待について)自分の体験を公にしようと決断したのは、わたしのためでも世界のみんなにそのことを知ってもらいたかったからではありません。公にすることで、ほかの人たちが声をあげる助けになると思ったからです。わたしは送信ボタンを押して、ジムに行き、電話を置いて、いつも通り練習をはじめました」(シモン・バイルズ)

「シモンが『二度と牧場には行かない』といったことをツイートしたのは見ました。そしたらその3日後に牧場は閉鎖されたのです。それでようやく気づきました。オリンピアンも声をもつことができるのだと。わたしたちには力があるのだということを。次世代のアスリートのためにより良いことをなすために自分の声を使うことができるなら、それこそが自分の使命だとすら感じました」(ジョーディン・ウィーバー/2012年五輪金メダリスト)

「シモンのツイートの直後に牧場が閉鎖されたことでシモンに大きな重圧がかかることになりました。それ以後、スポーツの世界で何か問題が起きるたびに『ツイートして、なんとかしなよ』と他人から言われるようになりました。彼女はインフルエンサーですが、意思決定権者ではありません。オリンピックを控え、そろそろ引退を考えてもいる23歳に、負わせるにはこくな重圧です。彼女自身がトラウマを抱えている上で、世界を変えて欲しいという人びとの期待を背負い、同時に日々のトレーニングをし、その上で誰もが抱えるような日常的なストレスも抱えなくてはならないのです」(エイミー・ボアマン)

「(ナサールのニュースが報道されたとき)何人かのアスリートに問い合わせたのですが、最初、シモンもそうだったように、虐待を受けてことをみんな否定しました。シモンが告白をしたあと、彼女はわたしに『他のアスリートにも聞いてみた?』と聞かれたので『何人かは』と答えました。シモンが『もう一回聞いてみて』と言うので、聞いてみたら、実際何があったのかをみんな答えてくれたのです」(セシル・ランディ/バイルズの現コーチ)

「シモンは、これまでのシステムとは異なるシステムで、この3年間トレーニングを行っていますが、勝ち続けています。つまり、他のやり方があるということです。シモン・バイルズのおかげで、スポーツは、新たな生を得る可能性が生まれたのです」(ギーザ・ポツァー/女子体操振付師)

──なかなか迫力ありますね。

これでもほんの一部なんです。できたら全文あたっていただきたいです。大変な力作ですので。また、「カーロイ牧場」については、「体操工場:カーロイ牧場の盛衰」(The Gymnastics Factory: The Rise and Fall of the Karolyi Ranch)という記事が同じ『ESPN』にありまして、これまた力作ですので、こちらもぜひご覧になってください。

──それにしても体操の世界の恐怖政治は凄まじさですが、それを打倒したバイルズ選手のチームのパワーも凄まじいですね。彼女がなぜ「GOAT」と呼ばれる、リスペクトされているのか、だいぶわかってきた気がします。

体操の世界どころかアメリカのスポーツ界全体に向けて彼女が放ったメッセージは、非常に強烈なものでしたし、スポーツや「オリンピックで勝つこと」をめぐってオルタナティブな道筋を指し示したことは、それだけすでに偉大な功績なのですが、ここまでの話は、実際は前段なんですね。


このニュースレターの続きは、1分違いでお送りしている「Guides:#64 シモン・バイルズの拒絶・下」でお読みいただけます。


若林恵(わかばやし・けい) 1971年生まれ。『WIRED』日本版編集長(2012〜17年)を務めたのち、2018年、黒鳥社設立。本連載の書籍化第2弾『はりぼて王国年代記』のお求めは全国書店のほか、Amazonでも


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