
米国では、証券取引委員会(SEC)がDeFi(decentralized finance:分散型金融)プラットフォームを調査していると報道されています。8日には、SECが米国最大の暗号資産取引所コインベースに法的措置を取る可能性を通知したことも話題になりました。
かたやエル・サルバドルでは、国際通貨基金(IMF)が、同国の「ビットコインの法定通貨化」実験が経済の安定性を損なうとの懸念を示しています。一方で、国際決済銀行(BIS)のトップは談話を発表し、各国の中央銀行はデジタル通貨に関する取り組みを急がなければならないと述べています。世界では、暗号化されたオルタナティブ通貨が爆増しているのです。
暗号通貨はいまや、「2兆ドルのゴリラ」となりました──規制当局にとって、それは無視できないほどに大きく、飼いならすには難しい存在です。例えば、コインベースの提供前の新サービス「Lend」は、顧客が暗号トークンを「認証済みの借り手」に貸し出すことで年4%の利回りを提供するものですが、法律の専門家の間では、そもそもSECがLendに異議を唱えることの是非をめぐって意見が割れています(これは「証券」なのか、それとも「銀行口座」なのか)。
もっとも、次の2つの点では一致しています。
- 規制当局は、自分たちの管轄外で別の金融システムが立ち上がるのを認めはしないだろう
- 暗号通貨をめぐる動向 は早いが、ルールづくりは遅い。監視する側は常にキャッチアップしなければならない
規制当局に求められるのは、金融経済の安定性を確保し投資家を守ることだけはありません。9.11以降、世界で起きたことを考えれば、銀行/貨幣システムが犯罪者やテロリストに利用されないようにしなければなりません。
アーカンソー大学の法学部教授で、暗号の専門家でもあるキャロル・ゴーフォース(Carol Goforth)は、「新しいアイデアを阻害したり、ルールに従わない企業にペナルティを課したりすることなく、一般市民を保護する法律をつくるのは難しい」としたうえで、「犯罪者がこうしたアセットを利用して、一般市民や既存の金融インフラに深刻な損害を与える」危険性もあると指摘しています。
The backstory
変化のウラ側で
- 暗号スタートアップは規制を「望んでいる」。この10年近く、暗号通貨推進派の多くは、規制が不確実であるがゆえにエコシステムが阻害されていると主張してきました。
- 暗号通貨保安官、ゲーリー・ゲンスラー。今年4月にSEC委員長として承認されたゲンスラーは、ゴールドマン・サックスのOBで「ウォールストリートの監視役」。マサチューセッツ工科大学(MIT)でブロックチェーンに関する講座を受けもっているほか、ダンスもとても上手です。
- 中央銀行もデジタル化を進めている。オンライン決済や暗号資産が普及するなか、ワシントンから北京まで、各国行政府ではデジタル化された現金を開発しようとしています。
What to watch for next
これから注目すべきこと
- 債券投資家は心を動かされなかった。エル・サルバドル大統領のナイーブ・ブケレのような政治家は、市民(あるいはIMF)の声に耳を傾けないとしても、最終的には「債券自警団」の声に耳を傾けなることになります──同国の借入コストは、ビットコイン法定通貨化が発表されてから急上昇しました。
- ビットコインETF、米国で承認へ。『Bloomberg』のアナリスト(そしてETFの第一人者)であるエリック・バルチュナスは、SECは10月にもビットコインETFを承認すると予想しています。暗号資産の売買が株式取引と同じくらい容易になるのも近い……。
- DeFiへの逆風強く。DeFi、いわゆる分散型金融は規制の目を逃れることはできなさそうです。8月には、SECのコミッショナーのひとり、ヘスター・パース(Hester Peirce)がDecentralized in Name Only(DINO)と呼ばれるプロジェクトを名指しで挙げています。
- イーサリアムはよりグリーンに。今後6カ月ほどで、世界第2位の取引量を誇る暗号資産イーサリウムは、エネルギー消費を抑えた「プルーフ・オブ・ステーク」(PoS)へ移行します。
- 映画館チェーンAMCもビットコイン取り扱い。AMCは、年内にも劇場チケットや飲食の購入の際のビットコイン支払いを開始するとの方針を示していますが(AMCといえば、暗号通貨と同様に投機性の高い「ミーム株」として脚光を浴びています)、決済におけるビットコインの普及には疑問符も。決済大手のStripeが暗号通貨のサポートを終了して、数年が経っています。
DeFi-ing gravity
抗えない重力

One 🔮 thing
ついでにこちらも
新しいテクノロジーがどう発展していくのか。その予測はとても困難ですが、アマチュア予測家たちが最善を尽くして取り組んでいます。オンラインの「予測プラットフォーム」では、さまざまな「未来予測」が集合知として導き出されていますが、今日はそのなかでも暗号通貨に関する予測をいくつか紹介します。
- 25%:アマゾンが2022年10月までにあらゆる暗号通貨を受け入れる可能性
- 40%:アマゾンが2024年までにビットコインを受け入れる可能性
- 24%:他の国が今年中にビットコインを法定通貨として取り扱う可能性
- 20%:2035年までにビットコインが「プルーフ・オブ・ワーク」から切り替わる可能性
📺 『Off Topic』とのコラボレーション企画、4回連続ウェビナーシリーズの第2回は9月28日(火)に開催予定。詳細はこちらにて。先日開催した第1回のセッション全編動画も公開しています。