Forecast:中国ユニコーン企業が消滅?

Forecast:中国ユニコーン企業が消滅?
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Image: Illustration by Giulia Zoavo

10億人以上のユーザーを抱えるデジタル決済アプリ『アリペイ』(支付宝)。先日13日に報じられたのは、中国当局がその事業分割を計画しているというニュースでした。アリペイを運営するアント・グループ(Ant Group)については、昨年11月、新規株式公開(IPO)が突如延期されることになったのも記憶に新しいところです。

アントをはじめ、ここ数年の中国には、評価額が10億ドルを超えるユニコーン企業が非常に多く存在しています。しかし、当局はこれら企業やあるいはテック領域全体に対して、新たな規制を設けようとしています。

これによって、畢竟企業はもとより世界市場が大きな影響を受けることになります。先日も、ウォール街の面々が中国の規制当局と最近の取り締まりについて意見交換に及んでいますが、中国の第一世代のユニコーンの発展に寄与したスタートアップのエコシステムは、大きく変わろうとしているのです。


BY THE DIGITS

数字でみる

227:2020年時点での中国のユニコーンの数。米国の233にわずかに及ばず

23%:世界における中国発ユニコーンの割合

16%: 2020年の報告書によると、北京を拠点とするユニコーンは世界各都市においても最多

370億ドル(約4兆円):中国当局が介入する前に、アントがIPOで調達することになっていた金額

~800億ドル(約8.75兆円):2010年以降に中国企業が米国でのIPOで調達した資金額(6月30日まで。リフィニティブ調べ)


LINE OF DEFENSE

当局の防衛線

10億ドル規模の企業は、なにも突然現れたわけではありません。中国のテック系ユニコーンの多くは、21世紀の最初の10年間、中国の「独特な時期」に誕生しました。国民の富裕化とデジタル化が進み、最先端の企業が数百万人のユーザーを獲得したことで、ベンチャーキャピタルからの投資が急増したのです。中国政府は、これらの企業が規制の抜け穴を利用して海外でビジネスを行うことも認めていました。

ただ、そんな寛容な時代は終わったようですデータの安全性や独占的な行動、一貫性のない価格設定、厳しい職場環境など、中国政府は国境内のあらゆる企業の経営を圧迫するいくつもの論理的根拠を持っているのです。

しかし、なぜ中国は取り締まりを行いたいのでしょうか? 専門家は次のように推測しています。

  • 消費者・政府のデータをより厳密に管理するため
  • 個人の借金がコントロールできなくなるのを防ぐため
  • 民間企業に対する権限を取り戻すため
  • 小規模なスタートアップの立ち上がりを支援するため
  • テック系億万長者の増加に伴い、彼らに「控えめ」な姿勢を求めるため
  • 財務上のリスクを抑制するため

政府による取り締まりは、起業家や投資家を萎縮させるのではないかと懸念する声もあります。国が自らテック株へ投資するようになるかもしれません。そうなれば、純粋な民間企業である中国のユニコーンは「絶滅危惧種」になってしまうかもしれません。


TAMING UNICORNS

ユニコーンの飼い方

ここでは、中国の大手テック企業がどのようにして上場したのか、また、規制当局がどのようにして彼らの「大規模な成長」を抑えようとしているのかを紹介します。

テンセント(Tencent、騰訊)

  • 上場取引所:香港
  • 上場年月:2004年6月
  • IPOでの調達額:1.8億ドル(約197億円)
  • 規制:テンセントは、過去のいくつかの取引に関して規制当局から罰金を科されたにもかかわらず、中国当局からの監視をあまり受けていません。これは、同社のCEOであるポニー・マー(Pony Ma)が身を潜め当局から気づかれないようになっているからだと言われています。しかし最近、規制当局は、Twitchに似たゲーム配信サイト2社の合併を阻止しました。これらのサイトはいずれもテンセントの支援を受けており、政府がこの分野での監視を強化する決意が見られます。

アリババ(Alibaba、阿里巴巴)

  • 上場取引所:米国、香港
  • 上場時期:2014年〜2019年11月まで
  • IPOでの調達額:218億ドル(約2兆3,940万円)
  • 規制:2021年4月、規制当局は同社の独占的行為に対して28億ドル(約3,045億円)の罰金を科しました。それ以前にも、同社は昨年の創業者であるジャック・マー(Jack Ma)の大胆なスピーチをきっかけに、中国の独占禁止法に関する「嵐の中心」となっていました。

アント・グループ(Ant Group)

  • 上場取引所:香港、上海
  • 上場予定日:2020年11月(延期)
  • IPOでの調達予定額:370億ドル(約4兆円)
  • 規制:アント・グループの上場の数日前、中国の規制当局は、同社の主要株主であるジャック・マーをはじめとする同社の幹部数名を召喚しました。当時は、2020年10月に、マーがフィンテック規制を激しく批判するスピーチを行ったことに対する警告の可能性があると考えられていました。習近平国家主席が決定したとされる、IPO予定日のわずか2日前に規制当局が突然IPOを中止するという事態を予想していた人は、おそらくほとんどいなかったでしょう。その後、同社は従来の銀行に適用されるルールにより近いかたちでの、事業の再構築を命じられました

バイトダンス(ByteDance、北京字節跳動科技)

  • 上場取引所:香港、上海
  • 上場予定日:未定
  • IPOでの調達予定額: 該当なし
  • 規制:同社に対する監視はまだそれほど厳しくなく、アント・グループやディディと同じ運命を辿らないよう、先を見て行動しているようです。同社は、中国のデータセキュリティ規則への準拠を確保するため、上場計画を慎重に進めていると言われています。また、創業者でCEOのチャン・イーミン(Zhang Yiming)は、年内に退任する予定。これは、彼が影響力を持ちすぎたことで、中国当局の反感を買うことを避けようとしているのではないかと考えられています。

ディディ・チューシン(Didi Chuxing、滴滴出行)

  • 上場取引所:米国
  • 上場時期:2021年6月30日
  • IPOでの調達予定額44億ドル(約4,815億円)
  • 規制:ディディが米国で新規株式公開を実施したわずか数日後、中国サイバースペース管理局(CAC)は、「国家のデータセキュリティに関するリスク」を理由に、同社に対するサイバーセキュリティ調査を開始し、大手テック会社に対する中国の戦いの新たな幕開けとなりました。まもなくして、中国国内のすべてのアプリストアに対し、ディディのアプリを削除するよう命じました。これは、同社が個人情報の収集と使用に関する規則に違反しているためだといいます。

WHERE TO LIST

上場する取引所

中国企業は、市場規模や流動性の点から、米国での株式公開に魅力を感じていました。1990年代初頭から、中国企業は、ケイマン諸島に持株会社を登録したり、変動持分事業体(Variable Interest Entity=VIE)の企業構造を利用したりして、海外企業と中国企業との間に「複雑な関係」を構築するなどの抜け道を利用してきました。

米中間の緊張関係が高まっていることから、中国のテック企業の米国に代わる新たな上場先として注目され始めているのが、香港です。中国当局のテック企業に対する取り締まりはますます強化されており、中国企業は香港や本土の取引所での上場を検討すべきだという示唆もあります。

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IT ALL COMES DOWN TO 0S AND 1S

すべてはデータのため

当局は、なぜテック企業の取り締まりを強化しているのか。それは、最も価値のある資産のひとつ、消費者データを管理しようとしているのではないかと推測されています。

中国では長年にわたり、アリペイやディディなどが保有する膨大なデータを活用する方法を模索してきました。最近では、ディディに対するサイバーセキュリティ調査や、データのプライバシーとセキュリティを管理する新しい規制など、個人データに対する中国当局のビジョンがより明確に示されています

📉 中国企業の米国でのIPOが減少

中国は、ディディのような企業が上場しないようにしている。ディディのケースは、他の企業に対する警告ともいえる。──戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長ジェームズ・ルイス(James Lewis)の『MarketWatch』での発言

ディディがおかれている現状は、中国当局がテック企業の米国でのIPOに殺到していることを厄介に思っている事実、さらに欧米でのIPOの受け入れを遅らせようとしている事実を補強するものだ。中国企業には価値があるように見えるが、しばらくは苦しむことになるだろう。──Horizons ETFs Management Canada Inc.のポートフォリオマネジャー、ハンス・アルブレヒト(Hans Albrecht)の『Bloomberg』での発言

🌎 海外からの中国企業への投資は減少する

中国政府はIPOを阻止できる。アントに対してそうしたように。その代わりに、世界の投資家を苦しませ、結果的に多くの海外投資家との信頼関係を壊してしまった。われわれ自身はこれら上場企業に参加してはいなかったが、複数のファンドが撤退を検討しているだろう。──セーフハウス・グローバル・コンシューマー・ファンドのポートフォリオマネジャー、シャリフ・ファルハ(Sharif Farha,)の『Bloomberg』での発言

💰 国内の企業が、急成長しているスタートアップに資金を提供し続ける

大手テック企業は、以前はわたしたちの投資先企業への投資を後回しにしていたが、いまでは早い段階で投資をしてくれるようになった。また、中国ではM&Aが比較的少ないため、マイノリティ投資によって新進気鋭のベンチャー企業にアプローチできる。──ベンチャーキャピタルLightspeed Chinaのチャールズ・チャン(Charles Zhang)の『FT』での発言

👫 ユニコーンは増えるが、消費者向けの業界になる

次の10年は、中国ブランド台頭の黄金期となるだろう。GenZが台頭し、業界を再構築する。──Warburg Pincus China共同経営者のフランク・ウェイ(Frank Wei)の『Bloomberg』での発言

🐴 ユニコーンは確実に抑制される

テック企業はかくも監視され、これまでの「自由な成長」が抑制される。だが、ユーザーに対してサービスを提供する通常の業務を継続することは可能だ。──北京のブティック型投資銀行Chanson & Coのディレクター、シェン・メン(Shen Meng)の『Quartz』での発言


ONE 🔨 THING

最後に…

カジノコンゴ民主共和国でビジネスを展開する企業超富裕層私立教育業界子どものゲーム習慣など、中国がこの1カ月で取り締まっているのは、テック企業だけではありませんでした。


今日のニュースレターは、リポーターのJane LiとメンバーシップエディターのAlex Ossolaがお届けしました。日本版の翻訳は福津くるみ、編集は年吉聡太が担当しています。みなさま、良い週末をお過ごしください!


📺 『Off Topic』とのコラボレーション企画、4回連続ウェビナーシリーズの第2回は9月28日(火)に開催予定。詳細はこちらにて。先日開催した第1回のセッション全編動画も公開しています。

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