世界中で、オフィスへの扉が再び開かれています。パンデミック下において実質「オフィス」として機能したZoomでさえ例外ではなく、同社は自社テクノロジーだけでなくその他デジタルツールを活用し、ハイブリッド化を進めていこうとしています。
すべてをリモートで、という選択肢ももちろんありえます。しかし、いま米国で主流となっているのは「ハイブリッド型」、つまり「どこにいても仕事ができる(オフィスを含む)」というモデル。テック系のみならず、金融やメディア各社が、社員がフレキシブルなスケジュールでオフィスに出勤できるようにすると言明しています。
実際に出社している人たちは、オフィスで仕事の疲れを癒し、噂話をし、テレワークでは難しいブレストの時間を過ごしているようです。それと同時に、長時間の通勤を避けて自宅での仕事も可能なのがハイブリッドワーク。子どもが学校から帰ってくるのを家で出迎えるのは、これまで仕事に追われていた者からすると、夢のような話でしょう。
今日のニュースレターでは、Quartzが企業各社や専門家の意見をもとにつくった「ハイブリッドワークのための処方箋」全12項をお届けします。
👟 #1 Move fast to keep people
① 人材を確保したいならすぐ動こう
アクセンチュアは9,000人以上を対象に調査を実施。それによると、85%が「どこでも仕事ができる環境であれば、会社に留まる可能性が高い」と回答しています。人びとは柔軟性を好むもの。柔軟性を得られないのであれば仕事を辞める覚悟も辞さないワーカーは、決して少なくないのです。
「だからこそ、組織には『迅速さ』が求められます。現在、いくつもの業界について、労働市場における競争が激化しています。そんななかでは、組織が実際に計画を立て、要件を提供しているという事実だけでも人を惹きつけるのに十分です」(アクセンチュアのグローバルタレントプラクティスのシニアマネジングディレクター、クリスティ・スミス)
🎨 #2 Let employees and teams co-plan their new hybrid work schedules—to a degree
② 従業員がチームとなって、共同でスケジュールを決めよう
ハイブリッドワークに欠かせないのが、社員の出社スケジュール。実際のスケジュールの管理には、企業によってさまざまなアプローチがあるはずです。
ハーバード・ビジネス・スクールの准教授のラジ・ショウダリーは、理想的なのは「社員およびチームが、自分たちで、どこでどのように仕事をするかを決めていくこと」だと言います。かつてアップルが犯した過ちのように、計画を特定の誰か、とくにCEOに任せないよう警告しています。
インターネットカルチャーに詳しいライターのアン・ヘレン・ピーターソンは、昨年の春に教育現場で起きた混乱を引き合いに、複雑なスケジュールが引き起こす問題が再現する可能性を指摘しています。また、従業員の一部だけが自由にオフィスに出入りできるような状況では、介護などを理由に自宅での仕事を余儀なくされている従業員が二の次になってしまう可能性があること、そしてそれは大きな間違いであるとも付け加えています。
スタンフォード大学の経済学者であるニコラス・ブルームは『Harvard Business Review』への寄稿で、とくに共同作業が多い部署では、週2日以上、直接会って仕事をすることを推奨。加えて「唯一の例外は新入社員で、最初の1年間は他の新入社員との絆を深めるために、毎週1日余分に出社するべきです」とも記しています。
🛰️ #3 Use employee clusters for cross-team collaboration
③ みんなの「クラスタ」を活用しよう
ZoomのCPO(チーフピープルオフィサー)、リン・オルダムはこんな提案をしています。同じ街、近所で暮らす社員がサテライトスペースに集まる機会をつくり、同僚同士が出会い、絆を深め、コラボレーションする機会をつくろうというのです。「地域ごと実施すれば、10人が10人とも同じタイプ・同じ部署の人間になるとは限りません。人事担当者がいるかもしれないし、営業担当者がいるかもしれない。組織を横断するよい方法のひとつになります」
🤯 #4 Embrace the complexity
④ 複雑さを受け入れよう
「管理職は、業務を再設計することで生じる複雑さを受け入れなければならない」。医療機器大手ベクトン・ディッキンソン(BD)で最高人事責任者を務めるベティ・ラーソンは、そう言います。
企業は、社内のステークホルダーに対応するのはもちろん、予防接種の有無や、自治体それぞれの規制によって変わる収容人数の制限など、刻々と変化する法律にも対応しなければなりません。いっそのことかつてのオフィス使用ポリシーに戻り、柔軟性に欠けるルールを設けたりしたくなるかもしれませんが、それは件名ではないと彼女は言います。
「わたしたちは公平・公正であるべきです。個々人の役割に応じて、柔軟に対応できる方法を見つけなければなりません」。それゆえ、同社は強い規定をつくるのではなく、原則に基づいたアプローチを採用しています。
🎭 #5 See through the eyes of the employee
⑤ 従業員の目で見てみよう
前出したZoomのオルダムが紹介してくれた素晴らしいヒントのひとつが、「さまざまな従業員のペルソナの目を通して、仕事がどのように見えるかを想像してみる」というもの。誰が自宅でリモートワークをしているのか? 月曜・水曜と決めて出社しているのは? 毎日オフィスで仕事をしているのは?
こうすることで、企業はさまざまなポリシーを理解し、一見取るに足らないようなディテールを検討できると彼女は言います。例えば、あなたの会社が週に数日、オフィスでランチを提供しているとしましょう。そのときハイブリッド社員がどこで何をしているのかを考えてみると、組織としての振る舞いが少し変わってくるのではないでしょうか。
🔦 #6 Test it out
⑥ テストしてみよう
取材当時の6月時点で、Zoomは自社を「ハイブリッド・ワークプレイス」としてオープンする日程については決めてはいませんでした。同社のオルダムも「わたしたちは見て、聞いて、学ぶモードに入っています」と答えてくれましたが、彼女は同時に、他の企業も同じことをしてはとアドバイスしています。
「製品についてはA/Bテストをするのがあたりまえなのだから、この“製品”についてもA/Bテストをしない理由はない」というわけです。
🔭 #7 Train managers to recognize proximity bias
⑦ 近接者バイアスを認識できるようになろう
ハイブリッド型社会で優れたマネジャーになるためには、自分自身の「近接性バイアス」を認識することが重要です。近接性バイアスとは、「人は、身近な人やよく目にする人を好む」という人間心理のこと。取材に応じた多くの専門家の多くが、従業員に平等に出世の機会を与えるべく、リーダーに対して近接バイアスを意識するように再教育していると語っています。
「マネジャーは、目的と結果に基づいて人を評価すべき。たまたまよくオフィスにいるから評価するものではない」(前出・BDのベティ・ラーソン)
☑️ #8 Every job should be evaluated according to objective output metrics
⑧ すべての仕事は、客観的なアウトプット指標に基づいて評価しよう
Quartzの取材に応じてくれた学者や経営者たちは、近接性バイアスをはじめとするバイアスへの対処方法として、それを会社の方針に組み込む必要があると述べています。
「生産性とは、労働時間などの明確なインプット指標や、マネジャーがオフィスでの対面時間を重視するような暗黙のインプット指標に基づいて測定されるべきではありません。可能な限り、すべての仕事、すべてのタスクに客観的な評価基準を設けるべきです」(前出・ハーバード・ビジネス・スクール准教授のラジ・ショウダリー)
✍️ #9 Get used to writing things down
⑨ 「書き留めること」に慣れよう
「オフィスでの会議では、計画を決たところで1週間後には『何を話していたっけ? 決定事項は何だったっけ?』となるのが常だ」と語るのは、オープンソース・ソフトウェア企業HashiCorpのケビン・フィシュナー。同社はほぼリモートで運営されています。
混乱と無駄な時間を最小限に抑えるには、すべての会議の記録を書面で作成することです。 企業がパンデミックモードからニューノーマルに移行するにつれ、書面によるコミュニケーションがさらに重要になってきているのが現状です。
実のところ、この習慣はソフトウェア開発者にとってあたりまえなのですが、いまでは営業チームにもそれが求められています。YelpのCTO(最高技術責任者)のサム・イートンは、すべてを文書化することでグローバルビジネスにおいて効果的な非同期コミュニケーションも可能になると語っています。ガイドラインとして「より多くのことを書き留める」ことは、「ハイブリッドワークに役立つのはもちろん、チーム同士のコラボレーションを改善し、全体的な生産性を高めることにつながる」。
🚦 #10 Lower your expectations for productivity
⑩ リモートワークの生産性への期待値を下げよう
自宅作業の生産性が高かったとしても、それを維持するのは容易なことではありません。
パンデミックが発生した当初、「オフィスでの仕事と同じレベルの仕事ができないのではないかとの懸念を払拭する」ためにワーカーは「過剰に仕事をしてしまった」と、ハーバード・ビジネス・スクール教授のセダル・ニーリーは指摘しています。彼らが自分の力を証明したいま、企業はそれがサステイナブルではないと認め、規模を縮小するように支援しなければなりません。
また、ハイブリッドへの移行そのものが社員にとって新たな試練になってはいけません。燃え尽き症候群に近い状態で働くと、仕事への満足感が損なわれ、モチベーションが低下すると、ニーリーは付け加えています。
🙅 #11 Ban productivity tracking software
⑪ 生産性管理ソフトは禁止にしよう
ニーリーは、オフィスにいないときの従業員を監視するための生産性追跡ソフトウェアにも否定的です。ウェブカメラを常時設置して一定時間ごとに従業員を監視し、そのキー操作を記録しする企業の話を聞くたびに、彼女はその企業の経営者が、現代あるべき「強力なリーダー」にシフトできていないことを示していると感じると語ります。
生産性の追跡は、ワーカーにとって「屈辱的」でもあります。ニーリーは何十年にもわたってリモートワークの実践例を調査してきましたが、そのなかで「屈辱的」とすることばが何度も出てきたと言います。「経済的に可能になった時点で、彼らは去っていく」と、彼女は指摘しています。
🛣️ #12 You don’t have to jump on the hybrid work bandwagon at all
⑫ 流行に乗る必要はない
「どこにいても仕事ができること」を戦略的に進めていくのは、世界中に開発者を擁する企業や、チームコミュニケーションソフトウェアの開発企業や、製品を完全にオンラインで販売している企業にとっては自然なこと。ですが、だからといって、すべての企業がやる必要はありません。
前出・HashiCorpのフィシュナーは、次のように語っています。「実際に会って話をすることに意味があるようなオフィス文化、あるいはそうした製品を扱っていることを気にする必要はありません。それには、たくさんの素晴らしいメリットがあるのですから」
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