7日にオースティンで開催された年次株主総会において、テスラCEOのイーロン・マスクは、本社をカリフォルニア州からテキサス州に移転することを発表しました。
昨年、テスラのフリーモント工場は、COVID-19に伴う自宅待機命令によって工場閉鎖の憂き目に。工場のあるカリフォルニア州アラメダ郡と争うなかで5月中旬、自称「テスラのテクノキング」(Technoking of Tesla)はTwitterに「テキサス州・ネバダ州に直ちに移転する」と投稿。同時に、命令に違反してフリーモントでの生産を再開しました。
Tesla is driving out of California…
黄金州からの脱出
テスラは、10年以上にわたってカリフォルニア州パロアルトに本社を構えてきました。社内で「マザーシップ」(mothership)と呼ばれているフリーモント工場は、本社とは湾を隔てた場所にあり、370エーカーの土地に530万平方フィートのオフィスと製造スペースを有し、1万人以上のテスラ社員が働いています。
マスクによれば、いまこの施設は「ぎゅうぎゅう詰め」の状態。「子どもが親のクツを履いた」ように広々としていたものが、現在は「缶詰のスパム」のようだというのです。
とはいえ、テスラにはカリフォルニア州との関係をばっさり断つつもりはないようで、カリフォルニア州とネバダ州両工場の生産を50%増産させる計画です。マスクはテキサス州を拠点とする理由として、カリフォルニア州には従業員用として手頃な住宅がないことを挙げています。カリフォルニア州では、不利な規制や資金不足により住宅危機が深刻化しているのです。
…and into Texas
そして、テキサス州へ
テスラは、オースティンのコロラド川沿いの2,000エーカーの敷地に新工場を建設しています(ただし、完成のメドはまだ立っていません)。
マスク自身は、彼が手がけるもうひとつのスタートアップ、SpaceXの発射台があるテキサス州ボカチカに住居を移しました。カリフォルニアにあった不動産をすべて処分し、現在はSpaceX敷地内にある400平方フィートのユニットに住んでいます。マスクは、この地域の開発を促進するために数百万ドルの寄付を実施。地元の家々には、テスラ製ソーラーパネルの設置が進んでいます。
ここ数年、カリフォルニア州では、ソフトウェア大手のオラクルやテック大手のHP、自動車メーカーのトヨタなどがすでに撤退。人口流出も続いています。一方でカリフォルニア州は、税金が安く、住宅費が安く、法律が厳しくないことをアピールしてきました。
ただし、「テキサス・バブル」も崩壊に近づいています。カリフォルニア州から人びとが引っ越してくれば住宅問題が持ち上がるのも当然の流れで、オースティンなどでは、すでに不動産価格が上昇しています。
「『テスラ効果』は確かに感じられます。カリフォルニアや他の市場からテック系の買い手の流入が加速しているようです」と、住宅市場調査会社Zondaの地域ディレクター・Vaike O’Gradyは地元メディア『Austin American-Statesman』の取材に対して答えています。「彼らが元々住んでいた地域から現金をもちこむことで、物価も上昇しています」
もっとも、マスクのテキサスへの引っ越しは、必ずしもスムーズだとはいえません。
まず、彼の提言する都市計画に対する地元住民の反応は必ずしも芳しくはありません。マスクは「スターベース」(Starbase)と呼ばれる新たな都市をボカチカに築こうとしていますが、それが実現すれば野生動物の住環境は傷つけられ、地元住民が愛した「小さな天国」が台無しにされてしまうのではないかと危惧する声が上がっているのです。
労働者保護団体がテスラの労働者への対応に懸念を示しているほか、自動車会社が顧客に直接販売することを禁止するという奇妙な(しかし珍しくはない)州法が存在するテキサス州ではこれまでと異なる販路を開拓する必要もあります。
さらに、保守色の強いテキサス州では人工妊娠中絶が州法でほぼ禁じられていますが、これに対して50社以上の企業(12万9,000人以上の従業員が含まれる)が自分たちの価値観とは相容れないと反発、「ビジネスに悪い影響を及ぼす」と態度を示しています。これについてマスクは明言を避け、「政治には関わらない」ことを選んでいます。
一方でマスクが明言したのは、オースティンのインフラに感銘を受けた、ということ。彼は「ベイエリアでは、規模の拡大には限界がある。オースティンならば、工場は空港から5分、ダウンタウンから15分に構えられる」と語っています。
more about tesla…
インドにおけるテスラ
では、国外におけるテスラの製造は? 8日、インド運輸相のニティン・ガドカリ(Nitin Gadkari)は、テスラに対して「中国製の電気自動車を同国内で販売しないよう」に要請したと述べています。代わりに、「インドでクルマをつくり、インドで販売し、インドから輸出すること」を求めたといいます。
マスクはTwitter上で、インド特有の現地調達基準や高い輸入関税に繰り返し言及してきました。この5年間、インドでテスラを販売することはおろか、製造することもできていません。そしてそれは、政府が譲歩をしなかったからにほかなりません。
とはいえ、マスクはインドに勝機もみています。テスラは1月にインド法人を設立。国内の少なくとも3社の自動車部品メーカーとパートナーシップを結んでいるほか、いくつかのメーカーと部品の現地生産について協議中であると、『CNBC-TV18』が報じています。
米国でのテキサス州人気については、昨年12月に「ミレニアルズはオースティンを目指す」と題してお伝えしています。また、企業のシリコンバレー離れについては、今週金曜に配信予定のニュースレター「The Forecast」でも詳しくお伝えする予定です。
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