Forecast:いまはもう「共感型リーダー」の時代

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Image: Janik Söllner

「血液1滴であらゆる病気を発見できる」と謳ったスタートアップ、セラノス。その創業者エリザベス・ホームズが断罪されたように、「ガールボス」の時代決定的に終わりを告げました(「フェミニストのエンパワーメント」を装っただけの「個人的な野心」の時代も)。

これからは、共感できるボスの時代がやってきます。

パンデミックがもたらしたもの。それは、社員を思いやることや理解することの重要性でした。この1年半のあいだ、ワーカーは幼稚園児をオンラインスクールに参加させたり、COVID-19で亡くなった大切な人を追悼したり、警察による黒人射殺事件のトラウマを解決しようとしたり、数カ月間孤立したことが原因で不安や抑うつに悩んだりしました。そして、組織のリーダーの多くが、働き手に対して「朝9時から夕方5時までの勤務時間ぶっ通しで仕事以外の生活を捨てろ」と求めるのは無理な話だと気づくようになったのです。

いま、マネジャー/管理職に求められるのは、社員をまず人間として扱うこと。とはいえ、ハッスルカルチャーを植え付けられたリーダーにとって、それは慣れないことでしょう。『Out of Office』の共著者のひとり、Anne Helen Petersenは、最近放送された『Marketplace』の番組で次のように述べています。

「難しいのは、企業がこのような姿勢を模範にしたいと思っていても、生産性がわずかに低下した場合に対処する準備や意思が必ずしもできていないことです」

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THE RISE OF CORPORATE EMPATHY

パンデミックで加速

パンデミック以前、すでに「エンパシー」(共感)はビジネス界において広く受け入れられつつありました。マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラは、イノベーションの鍵は「共感」であると頻繁に強調していますし、フェイスブックのCOO、シェリル・サンドバーグは、社員が個人的な生活をオープンに共有できるような文化をつくろうとしていました。フォードでは、エンジニアが運転中の妊婦の体験をよりよく理解するための方法として、「エンパシーベリー」(妊婦の腹部の重さを男性が体験できるように開発された水入りビニール袋)を導入したことが記憶に新しいところです。また、「共感」は、多くの起業家が新製品やビジネスモデルを考案する際に採用するデザイン思考のプロセスにおける基礎となっています。

今日、エンパシーのトレーニングやワークショップとして、医師が患者の状態を再現するためにバーチャルリアリティヘッドセットを装着することをはじめ、リーダーのためのエグゼクティブコーチングまで、さまざまな業界で増加しています。研究によるとエンパシーのトレーニングは、他人の視点をよりよく理解するために確かに効果的であるとされていますが、トレーニングの内容によって結果は異なると言ってもよいでしょう。

「エンパシー」は非常に注目度が高く、企業の空虚なバズワードになってしまう危険性があります。しかし、マネジャーにとって非常に重要なスキルでもあることは間違いありません。調査によると、人が権力を握ると共感することが苦手になり他人の幸せへの関心が薄れ、他人の視点に立つことができなくなるそうです。

つまり、エンパシーを最優先にしている企業で働いている場合を除いて、出世すればするほど、他人を理解する能力(あるいはその欲求)は低下する可能性が高いのです。

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WHAT KIND OF EMPATHY

経営者に必要なのは

心理学の研究者は、「エンパシー」を次の3つの類型に分類しています

  • 情動的共感、つまり相手の気持ちを感じること
  • 認知的共感、つまり他者の視点を理解する能力
  • 共感的配慮、つまり他者を助けようとする思いやりのある反応

職場では、認知的共感(新入社員が小さなミスをして深く恥ずかしいと思う気持ちを上司が理解できるように)と、共感的配慮(上司がそのミスを親切かつ繊細な方法で正せるように)が重要です。

しかし、情動的共感はあまり役に立たないかもしれません。心理学者のダニエル・ゴールマンによると、この種の共感が過剰になると、燃え尽き症候群になる可能性があるといいます。「感情を代謝するのではなく、相手の感情に圧倒されているだけなのです」と彼は教えてくれました。

さらに、心理学者のポール・ブルームは、著書『Against Empathy』のなかで、情動的共感は「乏しい道徳的ガイド」であると主張しています。彼によれば、情動的共感は、他人への不公平な扱いを永続させる可能性があるといいます。「身近な人、似たような人、より魅力的で傷つきやすく怖くないと思われる人に共感する方がはるかに簡単なのです」

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WHY EMPATHY MATTERS

共感はもう欠かせない

共感力がこれからの仕事に欠かせないと提唱されているのには、3つの大きな理由があります。

  1. 働き方が常に変化しているから。数十年前までは「ひとつのスキルを身につけると、それを永遠に繰り返していた」と語るのは、助成金やフェローシップを通じて社会起業家を支援しているグローバルな非営利団体Ashokaの創設者兼CEOのビル・ドレイトン。いま企業はパンデミックやグローバル化、自動化などさまざまなディスラプション(破壊的状況)への対応を迫られており、マネジャーは常に社員の適応を支援する必要があります。「認知的共感に基づく生活ができなければ、変化を起こすことはできません」とドレイトンは言います。他の人が直面している問題を理解し、予測することができないリーダーは「人を傷つけることになります。環境を理解していないのですから、そうならないわけがありません」
  2. 力関係が雇用者側に傾いているから厳しい人材市場の中で、企業は、雇用者に働き続けてもらうためにどのような変化を起こせるか、共感をもって考える必要があります。離職を考える要因としてよく挙げられるバーンアウト」(燃え尽き症候群)は、マネジャーが社員の抱えるストレスに共感できなければ解決しません。同様に、リーダーは、介護が大変だったり、通勤に耐えられなかったりする社員の視点に立つことができれば、仕事の柔軟性の重要性をより理解しやすくなります。
  3. インクルージョンには共感が不可欠だから。多くの労働者、とくに若者は、自分自身を丸ごと仕事に生かしたいと考えています。それは、トランスジェンダーであることを職場でカミングアウトしたり、メンタルヘルスに関する情報を共有したり、自分のアイデンティティを最もよく表現できる服装をしたり髪型にしたりすることを意味しています。昨年の「Black Lives Matter」デモの際には、黒人従業員の人種的不公平による精神的ダメージを無視することはできない(そして非倫理的でもある)ということで、全人格的な職場の必要性を痛感した経営者もいました。

マネジャーが時代に対応し、よりインクルーシブな職場を生み出すには、従業員の視点を正しく見つめる必要があります。『The Burnout Epidemic』の著者であるジェニファー・モスは、『Harvard Business Review』に次のように記しています。

「もしあなたが本当に共感を示したいのであれば、『自分にしてくれたであろうことを他人にもしなければならない』「そのためには、自分自身の要求からちょっと離れ、偏見や特権を判断して取り除き、部下の声に積極的に耳を傾け、そして行動を起こすことが必要です」

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🔮 PREDICTION

数字にもあらわれている

企業にとっても、共感性が高いマネジャーをもつことには明白なメリットがあります。世界的な非営利団体Catalystが米国の約900人の従業員を対象に行った最近の調査によると、共感的なリーダーシップをもつ組織は、以下のようになっています。

  • よりクリエイティブな社員。「共感性の高いシニアリーダーの下で仕事をしている従業員のうち61%が『職場でイノベイティブでいられる』と報告しているのに対し、共感性の低いシニアリーダーをもつ従業員の場合は13%」とのこと。
  • 社員のエンゲージメントの向上。共感性の高いリーダーの下で働いている社員の4分の3近くが、仕事に没頭していると感じていると答えたのに対し、共感性の低いリーダーの下で働いている社員の32%が、仕事に没頭していると感じていると回答。
  • 離職率の低下。白人女性と有色人種女性は、会社が個々の生活環境を尊重してくれていると感じた場合、仕事を辞めようと考える可能性が非常に低くなった。
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ONE 🤔 THING

最後に…

日常生活でもっと共感を得たいですか? まずは質問をすることから始めましょう。カリフォルニア大学バークレー校の精神科医で生命倫理学の教授であるジョディ・ハルパーンは、『The New York Times』に次のように語っています。「私にとって、共感の核心は好奇心です。つまり、他人の人生が実際にどのような特殊性を持っているかということを知ることです」

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今日のニュースレターは、Quartz at Work シニア・レポーターのSarah Todd(非常に共感性の高い犬の飼い主)がお届けしました。日本版の翻訳は福津くるみ、編集は年吉聡太が担当しています。みなさま、よい週末をお過ごしください!

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