Forecast:「コロナと生きる」のこれから

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Image: Vinnie Neuberg

パンデミック中のわたしたちは、リスクを「計算」していました。多くの人が、ワクチンを接種する=重症化の可能性が低い=リスクが低い、と考えていたことでしょう。

しかし、オミクロン株のような新しい変異株をはじめとするさまざまな要因がこの計算を複雑にしています。入り口でワクチン接種証明書を確認するからとマスク着用が義務化されていない美術館は、行っても大丈夫なのでしょうか? 飛行機での移動は? パーティーや休日の集まりは?

パンデミックに限らず、リスク計算のしかたは人によって異なります。もっと言えば、まったくリスクを伴わない活動などありません。今日のニュースレターでは、現時点において専門家たちが考えるCOVID-19のリスクや「通常」に戻るために必要なものについての、いくつかのアドバイスをご紹介します。


SIZING UP THE SITUATION

状況を「判断」する

人は主に、「感情」と「分析」の2つの方法でリスクを評価します。とくに前者は瞬時に判断する傾向があり(それは、人間が捕食者から逃げる必要があるように進化したことを考えれば納得できます)、後者はより時間がかかります。判断を下す際には、両者を使うことが多いのですが、「複雑な状況下であっても、簡単だと感じられる(つまり「感情」による判断です)手段で対応できるとみれば、それを選んでしまう」と、リスクを研究している心理学者のポール・スロヴィックは『NatGeo』に語っています

今回のパンデミックは、感情と分析いずれの評価も混乱させるものでした。感情の側面からいえば、人はパンデミック下でバーンアウトしてしまい、マスクを着用することにも予防接種の有無を尋ねることにも、外で食事をすることにも疲れてしまっています。早くすべてが片付いて欲しいというフラストレーションは、論理的な判断を妨げるのに十分です。

一方で、COVID-19についてのファクトも変化し続けています。「どうすればコロナにかからないか」という基本的な考え方は変わらないものの、研究者がウイルスについて新たな事実を発見するたびに、細かなアップデートが限りなく出てきます。ゆえに、自分のリスク許容度に見合った行動をとっているかどうかを「判断」するのはとても困難です。

さらに「他人」という要素が加わると、コトはずっと厄介に。ブラウン大学の救急医学准教授であるエリザベス・ゴールドバーグは、「多くの人が、ワクチン接種に関するリスク許容度や価値観が異なる人たちとの関係性の中で、COVID-19に関するすべての決定を行うことに負担を感じている」と言います。「リスクに対する線引きは人それぞれだし、人は免疫不全やワクチン接種の対象になっていない大勢の他人と一緒に生活しているのだから」


RISK FACTORS

リスクを考える

COVID-19に対するアプローチを評価するのに、確実な方法はありません。ですが、判断の決め手となる要素はいくつかあるので、紹介しましょう。

🦠 生物学的特徴:今回のパンデミックについていえば、重篤化を引き起こす要因の多くが判明しています。わかりやすいところでいえば、高齢者にはより慎重な行動が求められます。ただし、研究が進めば、とくに変異株については、生物学的要因が変化していく可能性も否定できません

🤔 環境:免疫不全の人と同居している場合や、リスクの高い高齢の親の介護を任されている場合(特にその地域での感染率が高い場合)には、自分(とその親)がどの程度のリスクを許容できるかを真剣に考える必要があります。

💉ワクチンの接種状況:ワクチンは接種済みですか? 済んでいれば、より感染力の強いオミクロン株から保護されている可能性は高いと考えられます。ただし、ワクチン接種者/被接種者が混在する環境に近づくのは、たとえマスクをしていても、よく考えた方がよいでしょう。コロンビア大学(Mailman School of Public Health)の非常勤准教授(疫学)であるモリーン・ミラーは、「『集まる』という点においては、ワクチンを接種した人と接種していない人、あるいは接種しているかどうかわからない人の組み合わせが、最も危険です」と述べています。

🏞️ アクティビティの詳細:それは屋外ですか、屋内ですか?  屋内の場合、換気はどの程度実施されていますか? そこではマスクを外すのでしょうか? 参加者は3人なのか、それとも3,000人? それぞれの状況によって異なるリスクレベルの状況が発生する可能性があります。

🧠 あなたの精神状態:パンデミックの影響で、多くの人が孤独や憂鬱を感じていますが、もし気分が落ち込んでいるなら、アクティビティが助けになるかもしれません。「人間にとって、つながりをもつことはとても重要なことです」と前出のゴールドバーグは言います。「喜びをもたらすものだったり、学習や健康、仕事に欠かせないものであれば行うべきですが、検査やワクチン接種などの緩和策を賢く利用しましょう」。恐怖や不安も、特に、長く続いているCOVID-19についての実態がまだ十分に理解されていないなかで、現実的に考慮すべき要素でしょう。


OMICRON INTERLUDE

オミクロン株は脅威?

研究者たちは、オミクロン株について、どの程度の感染力があるのか、どのくらいの重症度があるのか、どの程度の再感染の可能性があるのかなど、まだまだ研究を進めていますが、今回取材した専門家たちは、オミクロン株によってリスクの計算が大きく変わることはなく、むしろ少し慎重になっていると話しています。

カリフォルニア大学バークレー校(School of Public Health)の名誉教授であるジョン・スワルツバーグは、「より多くの情報が得られるまで、わたしたちがすべき賢明なことは、『デルタ株に対するリスクは計算していても、オミクロン株に対するリスクの計算はどのようにして客観的に考慮すべきか分からない。しかし、オミクロン株では感染力が高まり、ワクチン接種の防御力が低下する可能性があるので、より慎重になるべき』ということです」と述べています。


WHAT ARE WE WAITING FOR?

何を待っているのか?

デルタ株が出現した(11月中旬時点で世界の感染者の99%を占める)2021年8月に、筆者はパンデミックを終息させるためには何が必要かを書きました。それは以下のようなものでした。

  1. 全員へのワクチン接種
  2. 集団免疫の実現
  3. 変異株を「先取り」する
  4. COVID-19との付き合い方を学ぶ

これを読んでいるあなた自身がワクチン/ブースターを接種してるのなら、あなたはやるべきことはすべてやっているといっていいでしょう。では、それなのに、なぜまだ通常の生活に戻ることができないのでしょうか?

公衆衛生の観点から言えば、死亡を防ぎ、病院で治療できるようになれば、パンデミックは終わりです」とスワルツバーグは言います。ミラーは、10万人あたりの感染者数が10人以下という数字を挙げています。「非常に低いレベルの感染です」と彼女は指摘します。

わたしたちの多くは、いま、ステップ4の「COVID-19との付き合い方を学ぶ」という、長くてゆっくりとしたプロセスのなかにいます。例えば、25歳の人は70歳の人よりも早く「普通」の状態に戻れるかもしれません。また、ワクチンによる免疫がどのくらい持続するか、あるいは新しい変異種が免疫を回避できるかなど、タイムラインが変わる可能性もあります。長引くコロナのように、ウイルスによるリスクがある限り、パンデミックは実際に終わったと言えるのかと、スワルツバーグは疑問を投げかけます。

専門家は、COVID-19を完全になくすことはできないだろうと予想しています。しかし、多くの人がワクチンを接種するようになれば、ウイルスの危険性は低くなり、私たちはウイルスと共存することを学ぶでしょう。


TOOLS OF THE TRADE

コロナの「商売」道具

パンデミックはまだ終わっていません。しかし、パンデミックに対処するための「ツールキット」は増え続けています。

💡迅速抗体検査:家庭用の迅速抗体検査は、病院で行われるPCR検査とは仕組みが異なりますが、外出先でもすぐに使えるという利点があります。リスクの高い人と一緒に過ごしたり、大人数で集まったりするときには特に便利です(米国のサンクスギビングでは、欧州諸国に比べて入手しにくいにもかかわらず、特に人気がありました)。

😷マスク:もし、オミクロン株が以前のウイルスよりも感染力が強い(必ずしも重症ではない)としたら、幸いなことに、マスクが有効であることがわかっています。室内では、N95のような優れたマスクを使用することがさらに重要です。布製のマスクよりも、サージカルマスクなど少なくとも2層構造のものが良いでしょう。

💊経口治療:COVID-19の最も深刻な症状を抑えることができる薬剤が登場します。11月末、メルク(Merck)が開発したCOVID-19の経口治療薬が、米国食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を僅少ながら取得しました。また、ノバルティスファイザーなどの他の製薬会社も同様の薬を開発中です。

💉さらに優れたワクチン:より多くの、そしてより効果的なワクチンが開発されています


ONE 🤖 THING

最後に…

COVID-19のリスクについての判断は、最良の推測に基づく必要はありません。特定の状況のリスクを見極めるのに役立つオンラインツールが数多くあります。なお、これらの計算の一部または全部には、新しい変異株に基づくデータが組み込まれていません。


今日のニュースレターは、メンバーシップエディターの Alex Ossola(いまだにジムに行くことに抵抗がある)がお届けしました。日本版の翻訳は福津くるみ、編集は年吉聡太が担当しています。みなさま、よい週末をお過ごしください!


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