FacebookやPinterest、Airbnb、Coinbaseなどへの投資で知られるシリコンバレーのVC、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が、アフリカのモバイルゲーム・パブリッシャーであるCarry1stをポートフォリオに加えました。
2018年に創業されたCarry1stは、ゲーム開発者がアフリカで作品の発売や配信、運営管理、複数のチャネルでの支払いを得られるようサポートを提供しています。2020年には「スポンジボブ」のゲームを制作するTilting Point(米国)やCrazyLabs(イスラエル)、コンテンツの累計ダウンロード数1億2,000万回以上を誇るRaketspel(スウェーデン)といったゲーム開発スタジオとの間で、ゲーム7タイトルのパブリッシング契約を締結しました。また、Carry1stは独自のモバイルゲームも製作しており、100万ダウンロードを達成しています。
Carry1stは2018年には南アフリカを拠点とするVCであるCRE Venturesからシードマネーを調達。2021年にはシリーズAラウンドでKonvoy Venturesを始めとするVCや投資家から600万ドル(約6億8,555万円)を調達しています。そしてこのたび、同社はさらなる成長のためにa16zやグーグル、ヒップホップ界のレジェンドNasなどから2,000万ドル(約22億8,519万円)を調達しました。a16zがアフリカに拠点を置く企業に出資したのはこれが初めてのことです。
Carry1stには、クリプト関連の魅力もあります。Carry1stの共同創業者兼CEOのルーシー・ホフマンは『Quartz』の取材に応え、同社が決済とゲームそのものの両方で「Web3」の選択肢を模索していることを明かしました。「われわれのデジタルマーケットプレイスでは、現在、さまざまな暗号通貨による支払いを受け付けています。今後、さらに多くのことを発表する予定です」
一方のa16zは、シリコンバレーでもクリプト推進派の最右翼といえます。その動きにはTwitter元CEOのジャック・ドーシーらから批判があがったこともありましたが、a16zは、コンピューティングにおける次のイノベーションの波は分散型技術に基づくと信じていると明言しています(PDF)。
これは、a16zによる今後のアフリカへの投資を予想する指針となるかもしれません。いま、Carry1stはWeb3のアイデアをモバイルゲームや決済で活用していますが、分散型技術はアフリカ大陸全体が抱える社会課題を解決するソリューションのひとつとして大きく期待されています。
ちなみに、Carry1stは、グローバルなゲームスタジオと共同でゲームを開発することも計画しているようですが、ホフマンは特定の企業名は伏せています。「今回の資金調達の一部はライセンスの供与や買収、共同開発を通じて当社のゲームポートフォリオを広げるために使われます」と、彼女は語っています。
👀 こちらもチェック:いまさら聞けないa16zの軌跡(2022/01/26配信)
STORIES THIS WEEK
今週アフリカで起きた事
- ケニアと中国、秘密の関係? 2021年、2人のケニア人活動家がケニア政府を相手に裁判所への申し立てを行ないました。新しい鉄道を建設するために結ばれた中国との融資契約を公開させるためです。しかし、政府は契約内の非開示条項があることを理由に公開を拒否しています。これは中国と途上国の取引の秘密主義を強調する例であり、これが債務の再交渉を複雑にしていると専門家は話しています。
- ワーナーがアフリカの配信会社を買収。世界3大レーベルのひとつであるワーナー・ミュージック・グループが、アフリカのデジタル音楽配信会社Africoriの過半数株式を取得しました。Africoriはアフリカの音楽配給、版権の管理、アーティスト育成を担う大手であり、今回の買収によりアフリカのアーティストが世界の音楽市場に参入する機会が広がるでしょう。
- アフリカのEV革命はバイクから始まる。世界的に販売が好調の電気自動車ですが、まだアフリカでは珍しい存在です。こうしたなか政府や投資家の中には、アフリカ製の電動バイクや電動三輪車に注目する人が増えてきています。
- マリ軍事政権が経済制裁に反発。2020年8月のクーデターで実権を握ったマリの軍事政権が2022年に選挙を実施するという約束を反故にしたとして、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は今月、マリに経済制裁を発動しました。制裁の内容は国境封鎖や禁輸、大使の引き揚げなどマリを孤立させるものとなっています。これを受けマリは航空会社各国に通達を出し、運航を継続するか今後同国に着陸できなくなるかの二択を迫りました。
- AFCONで前回王者のアルジェリアが敗退。現在カメルーンで開催中のサッカーのアフリカ大陸選手権、アフリカネイションズカップ(AFCON)。前回王者であるアルジェリアはFIFAランキング108位のシエラレオネと引き分け、114位の赤道ギニアに敗れた末に、グループステージで敗退しました。また、18日のジンバブエ対ギニア戦では、ルワンダ人のサリマ・ムカンサンガがAFCON史上初の女性審判を務めています。
SPOTLIGHT ON AN INNOVATOR
アフリカのイノベイター
キャサリン・ナカレンベ(Catherine Nakalembe)は、米航空宇宙局(NASA)のアフリカ向け食糧安全保障・農業プログラム「NASA Harvest Africa」のプログラムディレクターです。彼女は人工衛星によるリモートセンシングと機械学習を使って農業における意思決定を助けたりアフリカの零細農家の生活を向上させたりしているほか、ケニアやタンザニア、ウガンダにおけるNASA Harvest Africaの活動の支援と調整役も担っています。
ナカレンベの専門は、食糧不足の影響から農民を守るための政策やプログラムです。彼女の活動は、衛星データを活用した食糧安全保障や作物モニタリングの報告書の作成につながりました。さらに彼女が考案したウガンダの災害リスクファイナンスプログラムは、これまで30万世帯以上を支援しています。
ナカレンベはまた、NASAの「SERVIR」プロジェクトの応用科学チームにも所属しています。SERVIRは、開発途上国が地球観測衛星を利用してよりよい計画とアクションを実行できるようにするための支援を行なっているプロジェクトです。
Quartz Africaの「Innovators 2021」リストでは、サマンターをはじめとするアフリカの女性イノベーターたちの先駆的な取り組みを紹介しています。
DEALMAKER
今週のディールメーカー
- 企業向けに信用貸しと収支管理ソフトウェアを提供するガーナのスタートアップ、Floatが株式と負債で1,700万ドル(約19億4,152万円)を調達しました。Tinderの共同創業者であるジャスティン・マティーンの投資会社JAM FundとTiger Globalがリードインベスターを務めています。2020年に設立されたFloatはナイジェリアでもサービスを展開しており、いずれはケニアと南アフリカへの進出も見据えているということです。
- ケニアのEコマース企業であるCopia Globalが5,000万ドル(約57億1,037万円)を調達しました。リードインベスターは、PagaやMaxなどのアフリカ企業をポートフォリオにもつオランダの企業Goodwell Investmentsです。Copia Globalは、30,000人のエージェント(その77%が女性)を通じて商品を小売店に届けています。これまでに1,000万件の取引を完了し、アフリカのほかの市場にも進出する計画です。
- セネガルの物流スタートアップであるPAPSが450万ドル(約5億1,393万円)を調達しました。この資金調達ラウンドには4DX Venturesと通信事業者のOrange、Uma Ventures、Saviu Ventures、ヤマハ発動機、Proparcoなどが参加しています。PAPSは中小企業や大企業の商品の保管や配送を支援しており、その顧客は通信から銀行、製薬まで多岐にわたります。最高経営責任者(CEO)のバンバ・ローによると、現在セネガル国内の薬局の70%の流通を担っているとのことです。
OTHER THINGS WE LIKED
その他の気になること
- あるアーティストとアフリカの複雑な関係。『CNN』のアール・ナース(Earl Nurse)が、ナイジェリアのラッパーで歌手のBurna Boyが祖国や大陸に寄せる愛憎について書いています。
- アフリカのワインを世界に。『Guardian』紙のニャーシャ・チンゴノ(Nyasha Chingono)がジンバブエでワイン産業を興そうとしている若者の取り組みについて書いています。経済危機を機に南アフリカでウェイターとして働き始めたティナシェ・ニャムドカは、いまでは南部アフリカのトップソムリエのひとりに名を連ね、自身のワインブランドを通じてアフリカ産のワインを世界に広めようとしています。
- エチオピア出身の女性映画監督たちに注目。『Africa Is a Country』のスティーブン・W・トーマス(Steven W. Thomas)は、アフリカの外で活躍するアフリカンアーティストやジャーナリストを取り上げました。彼女たちはいま、母国エチオピアを題材にしたドキュメンタリー映画やドラマの制作で中心的役割を担っています。
- 地球の果てを訪れる観光客を魅了するものとは?『New York Times』が、フォトグラファーのジェナ・マーティン(Genna Martin)によるナミビア旅行記を掲載しました。その写真からは、海岸線の不気味さと静けさの調和が伺えます。
🎵 今週の「Weekly Africa」は、セネガルのCarlou Dの「Thiant」を聴きながらお届け。翻訳・川鍋明日香、編集・年吉聡太でお送りしました。
💎 毎週木曜夜は、この1週間アフリカで起きたことを総まとめ。あらたな市場、あらたな産業が生まれる瞬間を定点観測するニュースレターです。
🎧 音声コンテンツもぜひ! 幾何学模様のGo Kurosawaさんとお届けするQuartz JapanオリジナルPodcast(Apple|Spotify)のほか、平日毎朝の「Daily Brief」の英語読み上げや、日本語ニュースのPodcastも配信しています。
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