アフリカ大陸全土の女性たちが、仕事の新しいありかたを模索しています。オンラインで専門性の高いサービスを提供するフリーランサーをはじめ、配車サービスのドライバーや「Airbnb」のホスト、オンデマンドプラットフォームを通した家事代行、SNSを使ったマイクロビジネス経営もそうした新しい仕事のかたちでしょう。Eコマースプラットフォーム「Jumia」で商品を販売する女性も増えています。
アフリカ大陸の労働参加率は男性で73%、女性で61%となっていますが、携帯電話がより低価格になりインターネットがより使いやすくなったことで生まれた新たな労働の機会は、女性たちの人生を変えるものになりうるのです。
しかし、8〜17時までのフルタイム労働に慣れきったアフリカ社会では、こうした新しい仕事が「真っ当な仕事」として見られないこともしばしばあります。
測量学の学士号を取得し、現在はナイジェリアでフリーランスの声優として働くレイチェルは、過去4年にわたりクラウドソーシングサイトの「Upwork」や「Voice123」などを通じて仕事を受けてきました。しかし、家族や友人からは働いていると思ってもらえないと言います。「いろいろな誤解があるんです。オンラインを通じて仕事を得ている人が真っ当な暮らしをしているはずがない、というように」と、レイチェルは話します。
こうした問題を抱えているのはレイチェルだけではありません。元ジャーナリストで、現在はラゴスでフリーランスのコンテンツライターとして活動するキャロルは、周囲から「暇つぶし」をしているように見られると話します。
また、ソーシャルメディアやECサイトで商品やサービスを販売している女性のなかには、周囲の人から心無い言葉をかけられたと話す人もいました。二児の母であり、子育てをしながら生計を立てるためにオンラインで健康食品を始めたというガーナ人のアマはこう振り返ります。「友人の何人かから『仕事も探さずにネットで何かを売っている』というようなことを言われました。オンラインでの商品販売は怠け者がすることだと思われているようです」
ケニアに住む22歳のアグネスは両親が所有する2つの物件をAirbnbとして貸し出し、経営学の学士号を取得するための学費に充てていますが、社会からは厳しい目を向けられるといいます。「『売春宿を経営している』と思われるんです」。しかし、同じようにAirbnbを運営する男性は違う見られ方をするとアグネスは訴えます。「男性が経営するのは普通だと思われるのです。何をしているのか聞くことすらしません。ビジネスをしているのだろう、子どもを養うためのお金を稼いでいるのだろう、と思ってもらえる。社会は女性に対して辛辣です」
しかし、こうした認識も、パンデミックをきっかけに変わりつつあります。新型コロナウイルスの発生によって多くの人がオンラインで仕事をするようになり、オンラインビジネスの可能性を理解するようになったからです。「少なくとも家族は、これがわたしの天職であり生業であることを理解し、尊重してくれるようになりました」と、起業家のエラは言います。
今回オンラインでの仕事の経験を語ってくれた女性の何人かは、男女での権力の偏りや社会規範に起因するさまざまな課題や制限について話すと同時に、新しい仕事のかたちによって得られる経済的なエンパワーメントや自立についても語ってくれました。また多くの人が、配偶者やきょうだい、親、友人からの金銭的・非金銭的なサポートがいかに重要だったかたも訴えています。
正規雇用の選択肢が限られているアフリカの若い女性たちにとって、オンラインプラットフォームはますます大切な収入源となっています。こうしたなか、政府や開発者、プラットフォームが仕事を求める女性たちを見つけ、サポートすることの重要性も増しているのです。
STORIES THIS WEEK
今週アフリカで起きた事
- モバイルマネーの覇権争い。ケニア最大の携帯電話会社であるSafaricomがエチオピアの首都アディスアベバにオフィスを開設。これによりSafaricomはアフリカで2番目に人口の多いエチオピアで事業を展開する最初の外資系通信会社となりました。エチオピアでは政府系通信事業者であるEthio Telecomがすでに5,620万人以上の加入者を抱えていますが、両社の競争の争点はモバイルマネーの覇権を握れるかになりそうです。
- 発明家に訴えられたVodacom。アフリカ第二位の携帯電話会社であるVodacomが、裁判所から発明家のンコサナ・マカテ(Nkosana Makate)に対する300万ドル(約3億4,546万円)の支払いを命じられました。マカテはアフリカで人気の「Please Call Me」機能(無料でテキストメッセージを送り、自分に電話するよう送信相手に頼める機能)を開発した人物であり、当初12億ドル(約1,381億8,516万円)の支払いを要求していました。
- 気候変動がもたらす不平等。2週間のあいだに2回のサイクロンに見舞われたマダガスカル。多くの死者と避難民を出し、同国の一大産業であるバニラ栽培にも多大な被害を出したこのサイクロンは、ほかの国に比べて気候変動の原因となっていない国が気候変動の影響を強く受けるジレンマの一例です。
- セネガルチームの凱旋。アフリカネイションズカップ(AFCON)で優勝を果たしたセネガルのサッカーチームが凱旋し、母国で盛大な歓迎を受けました。同国の大統領は選手たちに現金と土地の所有権を贈りました。
- AFCONと域内移動の問題。アフリカネイションズカップ(AFCON)の取材でカメルーンに渡ったナイジェリア人ジャーナリストは、アフリカ域内の移動でさまざまな困難に直面しました。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の運用開始とアフリカ単一航空市場の設立によりアフリカ大陸内の移動は多少改善されましたが、アフリカ人の大半がいまも域内移動にビザを必要としています。
- ジンバブエに君臨する米ドル。ジンバブエの経済が低迷するなか、同国では米ドルの需要が高騰し続けています。人びとが米ドルを手に入れるために銀行の外で寝泊まりし、両替所に何時間も並ぶ光景まで見られました。
CHARTING VC INVESTMENT IN AFRICA
チャートでみる
ベンチャーキャピタル(VC)からの投資が急増しているアフリカ。VCであるPartechの報告書によると、主な事業をアフリカで展開しユーザーの過半数がアフリカ在住であるテック企業600社あまりが2021年に調達した額は、累計52億ドル(約5,995億円)になるということです。
これは前年の累計調達額の3倍であり、FlutterwaveやYoco、Wave、Andelaといった成長途中のスタートアップへの投資が加速したことが一因となっています。2021年はどの地域でもVCからの投資が増えましたが、特にアフリカとラテンアメリカは成長が顕著です。
DEALMAKER
今週のディールメーカー
- ナイジェリアの医療保険会社Reliance Healthが、米国のGeneral Atlanticが主導するシリーズBラウンドで4,000万ドル(約46億1,201万円)を調達しました。General Atlanticがアフリカで初の投資を行うのはこれが初めてのことです。このラウンドにはほかにPartechやPicus Capital、Tencent Exploration、Asia Africa Investment and Consulting、P1 Ventures、Laerdal Million Lives Fund、M3などが参加しています。
- エジプトを拠点に株取引アプリを開発しているThndrが、Tiger GlobalやBECO Capital、Prosus Venturesが共同で主導するシリーズAラウンドで2,000万ドル(約23億600万円)を調達しました。Tiger GlobalがRobinhoodに類似した企業への投資を行なうのは、ナイジェリアのBambooへの投資に続き今年2回目です。Thndrは中東と北アフリカ地域へのサービス拡張を目指しています。
- ナイジェリアでオンデマンド車両修理・メンテナンスサービスを提供するMecho Autotechが、事業拡大のために215万ドル(約2億4,789万円)のシード資金を調達しました。同社は自社で整備士を抱える一方でほかの修理会社とも提携しており、ユーザーにクリックひとつでクルマを修理を提供することを目指しています。このラウンドにはほかにFuture AfricaやHoaQ Capital、Cathexis Ventures、V8 Capital、Silver Squid、Tekedia Capitalなどが参加しました。
One Big Number
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230億ドル(約2兆6,522億円)
米国のシンクタンクであるCenter for Global Developmentが2月9日に発表した分析によると、中国の二大海外開発銀行は、2007〜20年の間にアフリカのインフラプロジェクトに230億ドル(約2兆6,522億円)もの投資を行なったといいます。これは世界銀行とアフリカ開発銀行、米国と欧州の開発銀行を含む上位8行の出資額の累計よりも80億ドル(約9,225億)も多い額です。
OTHER THINGS WE LIKED
その他の気になること
- 歴史の海に潜る。大西洋で難破した1,000隻の奴隷船の記録をまとめるプロジェクトが進んでいます。その参加者の一人であるアフリカ系アメリカ人のダイバーでストーリーテラー、探検家のタラ・ロバーツが、『National Geographic』でこのプロジェクトについて詳しく語っています。
- 新天地へ。ジャーナリストのマイケル・セガロフ(Michael Segalov)が『Observer』紙のなかで、1965年に祖国トーゴを離れグリーンランドで新たな生活を始めようと試みたテテ=ミッシェル・ケポマシー(Teté-Michel Kpomassie)について書いています。80歳になる彼は現在フランスに暮らしていますが、グリーンランドで余生を過ごそうと模索しているといいます。
- セネガルの政党は短命? スウェーデンのウプサラ大学で民主化や政治などについて研究しているアマット・ジェン(Amat Jeng)が『Al-Jazeera』にオピニオン記事を寄稿しています。この中で彼は、セネガルの人々はまもなく「民主主義の後退、市民の自由の縮小、組織的腐敗」に再び目を向けるようになるだろうと書いています。
- スーダンの民主化勢力が求めるもの。『New York Times』のアブディ・ラティフ・ダヒール(Abdi Latif Dahir)は、民主化の希望を胸に結集している草の根組織について書いています。
🎵 今週の「Weekly Africa」は、ナイジェリアのAyra Starr feat. CKayによる「Beggie Beggie」を聴きながらお届け。翻訳・川鍋明日香、編集・年吉聡太でお送りしました。
💎 毎週木曜夜は、この1週間アフリカで起きたことを総まとめ。あらたな市場、あらたな産業が生まれる瞬間を定点観測するニュースレターです。
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