Africa:22年版アフリカ・フィンテック事情

Africa:22年版アフリカ・フィンテック事情
Fintech is Africa's unicorn farm

アフリカでは、従来の金融機関では十分なサービスを受けられない人が何百万人もいます。だからこそ、彼らにサービスを届けようとするアフリカのフィンテックスタートアップは、世界でも群を抜いてエキサイティングな存在といえるでしょう。

2021年、世界のベンチャーキャピタル(VC)はアフリカ大陸のスタートアップに累計52億ドルを投資していますが、そのうち63%がフィンテック分野に流れています。

21年9月にはモバイルマネー・プラットフォームのWave(セネガル)がシリーズAで2億ドルを調達し、フランス語圏アフリカとして初のユニコーンになりました。これにより、Waveはナイジェリアの決済スタートアップFlutterwave(アフリカ最高の評価額を誇るユニコーン)と肩を並べることになりました。Flutterwaveは21年3月に1億7,000万ドルを、今月にはさらに2億5,000万ドルを調達しています。少し遡ると、ストライプ(Stripe)は20年に、FlutterwaveのライバルといえるナイジェリアのPaystack2億ドルで買収しています(これはStripeにとってアフリカで初めての買収となりました)。南アフリカでは21年に、中小企業を中心に携帯型決済端末を提供するYocoが、シリーズCで8,300万ドルを調達しています。

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これらの企業に共通しているのは、彼らのサービスが、主として中小規模事業者向けであること。それら事業者は、アフリカ経済にとって屋台骨ともいえる存在です。そして、そこにはまだまだ、スタートアップ躍進の機会がたくさん存在しているのです。


CHEAT SHEET

フィンテック虎の巻

💢 どんな可能性が?:アフリカの多くの国では、既存の決済・送金手段を利用できない人の方が、利用できる人よりもまだまだ多いのが現実です。「フィンテック」とひと言で言っても、そこには貯蓄や支払い、投資、融資、送金など、多様な機会を提供する可能性があります。スタートアップは、レガシーな金融機関が取り組もうとしない課題を解決しています。

🤔 課題は?:フィンテック企業は規制当局から一定の認可を受ける必要がありますが、一方の規制当局がイノベーションに対して警戒を強めるケースが多くみられます。例えば、ナイジェリアのスタートアップは、中央銀行と長期にわたって争っており、中央銀行からの命令ひとつで企業の存続が左右されかねない状況にあります。

🌍 ロードマップは?:新興企業の資金調達は、米国や欧州のベンチャーキャピタルから資金が流入し、主に欧米で行われています。さらにその資金の多くは、ナイジェリア、南アフリカ、ケニアの企業に流れています。

💰 ステークホルダーは?:セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)やタイガー・グローバル(Tiger Global)などのグローバルVCをはじめ、決済大手Stripeも参入しています。最近ではソフトバンクがOPayに出資しアフリカに足を踏み入れました。アフリカでは、Microtraction、Ingressive Capital、Ventures Platforms、EchoVCなどの企業が、有望な企業に対して第一ラウンドの「賭け」をすることがよくあります。


BY THE DIGITS

数字でみる

  • 3億5,000万人:アフリカで銀行口座をもっていない人口
  • 32億ドル:2021年にアフリカのフィンテックスタートアップが調達した総額
  • 30億ドル:アフリカで最も価値のあるユニコーン、Flutterwaveの評価額
  • 87.9%:アフリカのフィンテック関連資金のうち、ナイジェリア、南アフリカ、ケニアのスタートアップに流れたものの割合

THE CASE STUDY

ケーススタディ

企業名:Yoco

創業年:2015年

本社所在地:南アフリカ

創業者:Katlego Maphai、Lungisa Matshoba、Bradley Wattrus、Carl Wazen

時価総額:非開示

南アフリカのYocoは、オフライン決済にあった「大きなギャップ」を埋めるべく、2015年に設立されました。南アフリカでは、クレジットカード普及率が高いのにもかかわらず、取引の多くが「現金のみ」だったのです。大手銀行からカード決済端末を導入しようにも、あまりに高額でかつ手間が大きかったため、カード決済は大手に限られていたのです。

Yocoが提供するのは、小規模店舗向けの低価格の決済端末です。

現在、南アフリカでは約17万店舗がYocoの端末を利用しており、多くの店舗がクレジットカード決済を導入できるようになりました。一方で、南アフリカにはまだ現金決済のみの店舗が500万店舗残されていると言われています。

A merchant uses a credit-card reader provided by South African payments company Yoco.

Yocoにとって、COVID-19のパンデミックは大きなチャンスとなりました。南アフリカでは非常に厳しいロックダウン措置がとられ、加盟店舗は従来の顧客との接点を失ったのです。Eコマースが軌道に乗り、現金への依存も低下するなか、Yocoはオンラインでの支払いを可能にするベータ版製品をリリースしました。これにより、Yocoは20億ドル以上の取引を処理したといわれています。

最新の資金調達で、Yoco は約350人いた従業員をさらに200人増やし、アフリカおよび中東の他の国への事業拡大に注力しています。


IN CONVERSATION WITH

キーパーソンの発言集

A portrait of Carl Wazen, the chief business officer at Yoco.

YocoのCEOであるカール・ウェイゼン(Carl Wazen)は、元々経営コンサルティングの仕事に従事していましたが、友人3人とともに同社を立ち上げました。彼へのインタビューから、興味深い発言を紹介します。

  • 💳 すべてのきっかけは:「南アフリカは、アフリカ諸国の中では珍しく、銀行およびクレジットカードの普及率が高かったのです。しかし、受け入れ側である中小企業にとってはコストが高く、導入できていませんでした。わたしたちにとって重要なのは、国民の多くが慣れ親しんでいる支払い方法を受け入れること。これは、より多くの企業がビジネスに参加するチャンスにつながります」
  • 📱 オンライン決済の導入について:「ビジネスの成り行きとして、決済事業者があらゆるチャネルでの決済を提供できるようになることが期待されるのはわかっていました。わたしたちは、どのチャネルもどの加盟店も排除しないようにしたかったのです」
  • 🤝 規制について:「明確なのは、規制当局は堅実で、関与したくないし、頻繁に物事を変えたくもない、ということですね」

Fintech deals to watch

最重要ディール

  • Flutterwaveは今年2月、B Capital Groupが主導するシリーズDラウンドでTiger GlobalやAvenirなどから2億5,000万ドルを調達。ナイジェリア・米国を拠点とするこのスタートアップは、クロスボーダー決済を推し進めています。評価額は30億ドルで、現在、アフリカでも最大の時価総額を誇るユニコーンです。
  • OPayは昨年、4億ドルを調達。評価額20億ドルで「アフリカを拠点とするスタートアップとして最速のユニコーン」に。中国の起業家が設立した同社は、個人を「銀行化」するPOS端末およびその基盤となるソフトウェアを提供しています。
  • セネガルのモバイルマネーのスタートアップWaveは昨年、シリーズAラウンドで2億ドルを調達フランス語圏のアフリカで初のユニコーンとなった。

🎵 今週の「Weekly Africa」は、ジュリアーニ(ケニア)の「Hela / Money」を聴きながら、ヨハネスブルグ/ロンドン拠点のコントリビューターAanu Adeoyeがお届けしました。日本版の翻訳・編集は年吉聡太が担当しています。


One 📱 Thing

ちなみに……

アフリカでのフィンテックセクターに、どれくらいのチャンスがあるのでしょうか? アフリカ大陸にはすでに、世界のモバイルマネーユーザーの半分、世界のモバイルマネー取引の70%が存在しています。しかも、それは今日現在の話。インターネットへのアクセスが整うなかで(とくに農村部)、さらに大きな可能性が立ち上がるでしょう。


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