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サプライチェーンの混乱やロシアのウクライナ侵攻の影響で、世界各国でインフレが加速しています。消費者の財布のひもも固くなりがちですが、そんななかで欧州を中心に順調に売上高を伸ばしているのが、ドイツ生まれの格安スーパーマーケット「リドル(Lidl)」です。
米国やアジアなどではそれほど知られていませんが、欧州ではリドルと言えば格安スーパーの代名詞と言っても過言ではありません。リドルを展開するシュワルツ・グルッペ(Schwarz Gruppe)は、売上高でウォルマート(Walmart)、アマゾン、コストコ(Costco)に次ぐ世界4位の小売企業であり、ディスカウントスーパーとしては世界最大手なのです。
リドルの成功の背景には、徹底したコスト削減によって驚くべき水準の低価格を実現していることがあります。展開する国によって多少の違いはありますが、商品は生鮮食品を除けば9割近くはプライベートブランド(PB)のもので、メーカーの商品は割引価格で大量に仕入れた場合にしか販売しません。また、商品は段ボール箱など配送資材から出さずにそのまま棚に置くなど、少人数でも店舗運営を可能にすることで人件費を抑えています。
他にも、取り扱う商品の点数を少なくする、店内の照明や装飾などは最小限にする、マーケティング費用を減らす、基本的には店内BGMは流さないといった、一般のスーパーとはかなり異なるやり方を採用しているのです。
BY THE DIGITS
数字でみる
- 963億ユーロ(13兆1,756億円):リドルの2020年通期の売上高。前期比9.9%の増収
- 32カ国:事業展開する国の数。欧州30カ国、米国、香港に店舗がある
- 1万1,200店舗:総店舗数
- 31万人以上:世界全体の総従業員数
- 9.21ポンド(約1,520円):英国でリドルと高級スーパー「ウェイトローズ(Waitrose)」で同じ商品28点を購入した場合の合計金額の差額。ウェイトローズの36.04ポンド(約5,960円)に対し、リドルは26.83ポンド(約4,430円)だった
BRIEF HISTORY
リドルの歴史
19世紀半ば:ドイツ南西部ハイルブロン(Heilbronn)でトロピカルフルーツの卸売企業リドルが設立される
1932年:ヨーゼフ・シュワルツ(Josef Schwarz)がリドルの共同経営者になる
1973年:ヨーゼフの息子のディーター・シュワルツ(Dieter Schwarz)が、中西部ルートヴィヒスハーフェン(Ludwigshafen)に食料品のディスカウントストアをオープン。当初の従業員数は3人だった
1989年:初の国外事業としてフランスに店舗を開設
2017年:米国に進出。バージニア州に米国1号店をオープン
2018年:グループ全体の年間売上高が1,000億ユーロ(13兆6,700億円)を突破。リサイクル事業プリゼロ(PreZero)を立ち上げる
2020年:新型コロナウイルスによるロックダウンで、食料品販売に占めるオンラインの割合が拡大。リドルは宅配サービスやネット販売を行っていないため、市場シェアが一時的に落ち込む
WORLD’S BIGGEST DISCOUNT STORE
おなじみの名前の中に
シュワルツ・グループはリドルとハイパーマーケットチェーン「カウフラント(Kaufland)」を運営するほか、廃棄物のリサイクル事業も手がけています。売上高で世界4位の小売企業であるだけでなく、ディスカウントスーパーとしては世界最大手です。
LIDL VS. ALDI
ディスカウント戦争
シュワルツは世界4位の小売大手ですが、同じランキングの8位にやはりドイツ企業が並んでいることに気づきましたか? アルディ・アインカウフ(Aldi Einkauf)は、リドルの永遠のライバルとも言えるディスカウントスーパー「アルディ(Aldi)」を展開しています。
リドルとアウディはいずれも価格の安さが売りで、ビジネスモデルや店舗の様子なども似通っているため運営元が同じだと勘違いされることもありますが、両社の間には関係はまったくありません。
アルディの歴史は、1946年にカール(Karl Albrecht)とテオ(Theo Albrecht)のアルブレヒト兄弟が、母親が経営していた食料品店を引き継いでディスカウントストア事業を始めたところから始まります。戦後の食糧難の時代に食品をできるだけ安くする販売することを目指した商売は成功し、10年後には店舗数は100店を超えました。そして、店名をアルブレヒト・ディスカウントの略であるアルディに変更しています。
しかし兄弟はタバコを販売するかで意見が分かれ、アルディは1961年に北部のアルディ・ノード(Aldi Nord)と南部のアルディ・ズート(Aldi Süd)に分裂しました。ちなみにカールはタバコの販売に反対でしたが、これはタバコを店に置くと万引きが増えると心配していたからだと言われています。
なお、米国のスーパーマーケットチェーン「トレーダー・ジョーズ(Trader Joe’s)」は、実はアルディが運営しています。テオが率いるアルディ・ノードは1979年、当時はカリフォルニアの小さなチェーンスーパーに過ぎなかったトレーダー・ジョーズを買収し、全米で500店舗以上を展開する一大ビジネスに育て上げたのです。
リドルとアルディが共存することからもわかるように、ドイツは格安スーパーがしのぎを削っています。ドイツの消費者は欧州でも特に節約志向が強いと言われており、市場シェアのトップ10のうち半分はディスカウントスーパーとなっています。
ONE 👨🍳 THING
ちなみに……
ドイツのB級グルメであるカリーブルスト(Currywurst)をご存知でしょうか。ソーセージにトマトケチャップとカレー粉をかけただけのシンプルな料理ですが、ドイツ人にとってはソウルフードとも言える人気メニューで、居酒屋などで楽しめるほか、街中では屋台もよく見かけます。
リドルではレンジで温めるだけで食べられるカリーブルストが販売されており、オリジナルからシェフ監修の高級版までいくつか種類があります。さらに、カリーブルスト専用の「デラックスソース」まで存在するので、ドイツに行くことがあればぜひ試してみてください。
今日の「The Company」ニュースレターは、岡千尋、年吉聡太が担当しています。
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