ニュースレター「Forecast」では、グローバルビジネスの大きな変化を1つずつ解説しています(これまでに配信してきたニュースレターはこちらからまとめてお読みいただけます)。
イーロン・マスクがツイッター(Twitter)を買収することが決まりました。今年の長者番付ではジェフ・ベゾスを抜いて初めて首位に立ったマスク。彼は4月14日に1株当たり54.2ドル(約6,930円)の買収案を提示しており、最終的な買収額は440億ドル(5兆6,500億円)に上る見通しです。マスクが4月20日付で米証券取引委員会(SEC)に提出した届け出には、資金調達の方法についての説明もありました。
ツイッターは当初は「ポイズンピル(poison pill、毒薬条項)」と呼ばれる防衛策で抵抗する姿勢を見せましたが、最終的には買収を受け入れました。マスクはツイッターを非公開化する方針で、他にも、コンテンツモデレーションを減らして「言論の自由」を確保する、サブスクリプションサービス「Twitter Blue」の価格を下げる、有料メンバーには広告を表示しないといった発言をしています。
SECへの届け出には、マスクがツイッター会長のブレット・テイラー(Bret Taylor)に向けて買収の意図を伝える文章も含まれていました。マスクはここで、ツイッターは「いまのままでは企業として成長することも、社会的責務を果たすこともできない」とした上で、上場廃止することで「驚くべき可能性」を引き出せると述べています。
ずいぶん厚かましい言い分ですが、マスクの指摘はある意味では的を射ています。ツイッターは創業以来、収益の追求と、ニュースを騒がせるようなオンラインの発言の場を提供するという役割の間で揺れ動いてきました。さまざまな欠点はあるにしても、Twitterはビジネスとしてよりも、プラットフォームとして優れているのです。この溝を埋めるには、どうすればいいのでしょうか。
それでは、「非公開化」、「サブスクリプション収入」、「クリエイターエコノミー」、「分散型プラットフォーム」という4つの観点から、ツイッターの経営を改善する方法を考えていきましょう。
#1 AS A PRIVATE COMPANY
非公開化の未来
ツイッターは2013年にニューヨーク証券取引所で新規株式公開(IPO)を行いました。上場以来の株価の最安値は14ドル(1,800円)、最高値はパンデミック中の2021年2月に記録した77ドル(9,900円)です。今年に入ってからは35ドル(4,500円)前後で推移していたのが、4月初めにマスクが同社株を取得していたことが明らかになると47ドル(6,043円)に急騰しました。
メディアアナリストのベン・トンプソン(Ben Thompson)は、マスクの好き放題になるとしてもツイッターは非公開化すべきだと主張します。トンプソンは自らのニュースレター「Stratechery」で、同社は投資家の期待を裏切り続けていると書いています。
ツイッターはこれまでに、19回の資金調達ラウンド(IPO前からIPOそのもの、そしてIPO後まで)によって44億ドル(5,653億円)を調達してきた。公開企業として(つまり上場前は除いて)の損失は、総額で8億6,100万ドル(1,106億円)に達している。業績発表の回数は33回に上るが、このうち黒字だったのは14回だけだ。
上場を廃止すれば四半期ごとに決算を開示する義務がなくなり、投資家からのプレッシャーを気にせずに戦略を立てることができます。圧力をかけてくる投資家はマスクだけではありません。例えば、物言う株主として知られるエリオット・マネジメント(Elliott Management)はずっと前から、ジャック・ドーシーを最高経営責任者(CEO)から解任するよう要求してきました。ドーシーはスクエア(Square、現社名はブロック)のCEOを兼任しており、そちらにも時間を割いているというのが理由です。ドーシーは昨年11月にツイッターのCEOを辞任しましたが、マスクはドーシーよりもはるかに多くの役職に就いています。
トンプソンのツイッター改革案は複雑ですが、基本的には非公開になって会社を分割するというものです。Twitterとソーシャルグラフという中心事業から、アプリと広告ビジネスを切り離すのです。トンプソンは、前者には価値があるが、後者は「ビジネスとしては失敗」していると説明します。
会社分割後は、プラットフォームを管理する企業がアプリと広告の企業にプラットフォームへのアクセスを許可する契約を結びます。サードパーティーにAPIを解放することも可能で、そうすれば理論上は、市場でその価値が判断されることになります。
非公開企業になれば業績の改善が見込めるだけでなく、ユーザーや広告主がどこまでコンテンツのモデレーションを求めているのかという問題にも答えが出ると、トンプソンは考えています。
#2 AS A SUBSCRIPTION SERVICE
サブスク強化の未来
Twitterについては「これが無料だなんて信じられない」という声をよく聞きます。このプラットフォームで頻繁に起きている大騒ぎを考えればうなずけますが、実は昨年11月からは有料サービス「Twitter Blue」が導入されています。月額2.99ドル(約380円)を払うと、30秒以内であればツイートを取り消せるほか(個人的にはこの機能が一番すごいと思っています)、インターフェイスをカスタマイズできるようになります。また、そのうちに投稿後にツイートの内容を「編集」する機能が追加されるかもしれません。
Twitter Blueはまだ始まったばかりで、しかも一部の国でしか利用できないため、評価するには時期尚早ですが、サブスクリプションからの収益は広告しか収入源のないツイッターにとって大きな可能性を秘めています。Twitterの使い勝手を向上させるためなら喜んでお金を払うヘビーユーザーが一定数はいるからです。
一方で、現時点では有料サービスの特典はそれほど多くなく、今後の課題はユーザーにお金を払うだけの価値があると認めてもらうことです。例えばマスクの言い出した「編集」ボタンや何か他の特別な機能を付けるか、もしくは無料版の機能を減らすなどして、サブスクの魅力を高める必要があります。ただ、無料版の機能を削ればユーザーの怒りを買うことは必至でしょう(個人的には、「TweetDeck」機能が有料版限定になれば絶対にサブスクを申し込みます)。
市場調査会社インサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)でソーシャルメディア分野の主任アナリストを務めるジャスミン・エンバーグ(Jasmine Enberg)は、コアユーザーから収益を引き出す必要があると指摘します。エンバーグは「問題は、大抵のユーザーはサブスクリプションにお金を払うよりは、広告が表示されてもいいから無料で使いたいと考えているという点です」と述べます。「また無料サービスを停止してすべてを有料化すれば、サービスのフレームワークそのものが変わってしまいます」
有料特典として可能性を秘めているツールのひとつが、キーワードや単語のブロックだけでなく特定の話題や投稿のトーンなどでフィードをカスタマイズできる高性能のフィルタリング機能です。
#3 AS A CREATOR-FOCUSED PLATFORM
クリエイター重視の未来
「クリエイター」や「インフルエンサー」という単語を聞いてまず思い浮かべるのは、YouTube、Instagram、TikTokといったプラットフォームでしょう。一方で、ジャーナリストやコメディアン、政治家、企業経営者、暗号通貨の信奉者といった“クリエイター”たちが集うTwitterも、慎重にではあるもののクリエイター重視の方向に進んでいます。
昨年にはニュースレタープラットフォームの「Revue」を買収したほか、投げ銭機能「Tips」やClubhouseに似た音声チャット「Spaces」を導入しています。また、スーパーフォロワーと呼ばれる有料メンバーだけに向かってツイートできる機能も加わりました。
しかし、ベンチャーキャピタルのアトリエ・ベンチャーズ(Atelier Ventures)とバリアント(Variant)でゼネラルパートナーを務めるリー・ジン(Li Jin)は、これをもっと推し進めていくべきだと考えています。ジンは、アップルのApp Storeのように「あまりに多くの価値を得ているためにエコシステムを抑制している」プラットフォームがある一方で、Twitterのように「まったく価値を得られていない」ものもあると指摘します。
ジンによれば、Twitterから価値を引き出す鍵となるのはクリエイターです。クリエイターフレンドリーになって、ユーザーがクリエイターを支援したいと思ったときにそれはが可能な仕組みを整えるべきだというのです。投げ銭機能やニュースレター、スーパーフォローのようなクリエイター支援ツールは、現時点では「Twitterのコア体験のおまけ」のようにしか感じられないと、ジンは言います。クリエイター最優先のプラットフォームになりたいのであれば、これらの機能が当たり前に思えるようにしていく必要があります。
#4 AS A DECENTRALIZED PLATFORM
分散型SNSとしての未来
ここまで非公開化とTwitterを変える2つの具体的なアイデアについて説明してきましたが、最後の論点はかなり過激で、具体性にも欠けています。それは、Twitterがただのソーシャルメディアではなく、さまざまなソーシャルアプリを使うためのプロトコルになるというものです。そして、ここに暗号技術も絡んでくるとしたらどうなるでしょう。
ドーシーは2019年12月、“非中央集権”のソーシャルメディアのプロトコル開発に資金を提供すると明らかにしました。「BlueSky」という名称で知られるこのプロジェクトはその後、ツイッターからスピンオフして独立企業になっています。
BlueSkyは電子メールのようなものだと考えればいいでしょう。GmailでもYahoo!メールでも、他のどのサービスを使っていても、互いにメールをやりとりすることは可能です。つまり互換性があるのです。インターネットの世界では分散化というとブロックチェーン(分散型台帳)技術の話が出てくることが多いのですが、BlueSkyでブロックチェーンが採用されるかは現段階では明らかになっていません。
いずれにしても興味深いアイデアではありますが、これが企業としてのツイッターの問題を解決するかといえば、それはまた別問題です。TwitterはRSSフィードをすべての人が簡単に使えるようにしたことで現在の地位を築いたと言われています。新しいオープンプロトコルを開発すれば、Twitterの価値を高めるのではなく、むしろ破壊してしまう可能性が高いでしょう。仮にうまくいったとしても、Twitterがソーシャルメディアの未来に付いていけなくなることを防ぐための対策にしかならないはずです。
今日のニュースレターは、テックレポーターのScott Noverがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。
ONE ₿ THING
ちなみに……
Twitterはクリプト分野でも自らの影響力の収益化に失敗しています。ジンは以下のようにツイートしています。「TwitterはNFT(非代替性トークン)のエコシステムにとてつもない価値をもたらしたのに、そこからまったく利益を得られていないということを思うと、本当に驚かされる」
NFTの市場規模は2021年に410億ドル(5兆2,673億円)に達しましたが、Twitterはこの世界で重要な役割を果たしているにも関わらず、そこから収益を上げるための努力は何もしていません。もちろん、やりすぎることのリスクはあります。ユーザーはあまりにもあざとい収益化をするプラットフォームからは離れていくからです。
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