アフリカのいまを知ることは、世界のビジネスの未来の可能性を知ること──注目のスタートアップのみならず、最新ニュースをピックアップしてお届けします。
STORIES THIS WEEK
アフリカで起きている事
- 税金で購入した端末がブラックマーケットに。小学1年生にタブレット端末を持たせるプロジェクトを計画していたケニア。計画は失敗に終わった一方、そこで使われる予定だった端末がウガンダのブラックマーケットで売られていることが明らかになりました。タブレットの購入に膨大な税金が使われたにもかかわらず、子どもがその恩恵を受けられていないことを知ったケニア人たちはTwitterに怒りの投稿をしています。
- AIがアフリカの55言語を翻訳する。マーク・ザッカーバーグがCEOを務めるMetaが、アフリカの言語を翻訳する人工知能(AI)の研究を進めています。「インクルーシブなインターネット」の実現を目標に掲げる同社は、この研究を通じて技術面でのインクルージョンを進め、インターネット経済における言語の障壁をなくそうとしています。
- インフレに苦しむガーナ。ガーナでは2022年6月にインフレーションが19年ぶりの高水準に達し、低迷する経済を活気づける方法が模索されてきました。こうしたなか、自力救済が不可能と判断したガーナ政府は、再び国際通貨基金(IMF)に助けを求めています。
- インフレで後払い決済が好況。食料品や燃料の価格が上昇し続けるなか、アフリカの人びとは無利子の後払い決済(BNPL)に魅力を感じているようです。これを追い風に、大手通信会社のサファリコムからPayUやLipa Laterといったスタートアップまで、さまざまな企業が事業の拡大を図っています。
- 南スーダンの躍進。アフリカの「シンデレラストーリー」は、バスケットボール予選の第1ラウンドを無敗で終えた南スーダンにあるようです。前回大会では大陸のトップ20にも入らなかった南スーダンですが、南スーダン・バスケットボール連盟(SSBF)のルオル・デン会長のもと、コーチやスタッフを含めた人への投資がなされ、この3年間で飛躍的な成長を遂げました。
the world in crypto adoption
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その価値が2022年頭の半分以下まで下落したビットコイン。2021年11月に叩き出した6万8,000ドル(約939万円)の高値が遠い昔のことのように感じられます。ところが調査会社Morning Consultが7月7日に発表した報告書によると、いまも世界の上位6カ国では成人人口の3分の1以上が少なくとも月に1回は暗号通貨を売買し続けているといいます(PDF)。
最も活発な取引が行われているのは人口2億1,000万人のナイジェリアで、いまも成人人口の半数以上が積極的に暗号通貨を取引しているといいます。
DEALMAKER
今週の注目ディール
- アフリカの送金サービスを比較するプラットフォームを運営している英国のZazuuは、Launch Africa Ventures、Founders Factory Africa、その他のアフリカの投資家から200万ドル(約2億7,631万円)を調達しました。英国のラッパーTinie Tempahをはじめ、“アフリカのNetflix”ことiROKOtvの創設者Jason Njokuも投資に参加しています。Zazuuは送金業者ではなくアグリゲーターですが、今回調達した資金でさらにサービスを拡大するということです。
- ケニアの従量制太陽光発電システムメーカーであるSolar Pandaが、OikocreditとEDFI Electrification Financing Initiative (ElectriFI) から800万ドル(約11億527万円)を調達しました。これまで住宅向けソーラーシステムを20万台生産し、ケニア国内に37の小売店を擁する同社は、今回調達した資金を使ってケニアのより多くの家庭に製品を届けるということです。
THE CASE STUDY
今週のスタートアップ
企業名:Wasoko
分野:Eコマース
本社所在地:ナイロビ(ケニア)
評価額:6億2,500万ドル(約865億5,310万円)
2022年3月、B2B EコマーススタートアップのWasoko(旧SokoWatch)は、シリーズBラウンドで1億2,500万ドル(約165億7,000万円)を調達しました。評価額は6億2,500万ドル(約863億212万円)です。この資金調達はアフリカの非フィンテック企業ではAndelaに次ぐ規模であり、B2B Eコマースの分野では最大でした。
Wasokoはインフォーマル(非公式)セクターで商売をする小売業者の仕入れを手軽なもの変えようとしています。Wasokoを使えば、さまざまなサプライヤーや流通業者とやりとりする煩わしさがなくなるのです。小売業者がSMSやモバイルアプリで注文すると、商品が当日中に無料で配送されます。
Wasokoは小売業者に対してカスタマイズされた信用供与も行なっています。Wasokoが運転資本を提供することで、小売業者が支払い前に在庫の補填や商品の販売をできるようにしているのです。またWasokoのプラットフォームでは小売業者向けに売り上げの分析結果なども提供されます。
Wasokoは2014年に創業されて以来、驚異的な成長を遂げています。その平均成長率(CAGR)は346%を記録し、2022年初めには『Financial Time』によってアフリカで最も急成長している企業に選ばれました。同社の売上は2017年の30万ドル(約4,141万円)から2020年には2,740万ドル(約37億8,296万円)にまで急増し、従業員数も同じ期間で57人から372人まで増えています。
「わたしたちはもはや2年前と同じ会社ではありません。当時はサプライヤーを説得しなければなりませんでしたが、いまではサプライヤーのほうからわたしたちを訪ねてきてくれるのです」と、Wasokoのオペレーショナルエクセレンス担当グローバルヘッド(Global Head of Operational Excellence)であるファトマ・ナスジョ(Fatma Nasujo)は言います。
特に信用供与はWasokoの成長を支える重要な要素です。例えばケニアでは、客が食料品などの必需品をツケで買える店が多いという事情があります。
ケニアの金融セクターに関する報告書「Financial Sector Deepening(FSD) Kenya」によると、2020年5月から2021年7月にかけて商品をツケで購入したという世帯は全体の33%だといいます。新型コロナウイルスの感染が最も拡大した2020年3〜5月にかけては、この割合が全世帯の43%にもなり、インフォーマルセクターの小売業者がいかに重要であるかを示しています。
しかし、こうしたツケ払いの結果として、小売業者はキャッシュフローの問題を抱え、それが在庫の確保や事業拡大を難しくしています。そうとはいえ、客の側も収入が少なかったり、収入の頻度が少なかったりするので、ツケ払いを利用せざるを得ません。
こうしたなか、仕入れが容易で物流コストがかからず、一定期間は与信供与によって支払いをせずに先に商品を販売できる方法を提供するWasokoがあれば、物事がより円滑に進むのです。またWasokoが提供する売り上げデータがあれば資金調達の幅も広がり、ビジネスの拡大もしやすくなります。
Wasokoは現在、ケニアやタンザニア、ウガンダ、ルワンダ、コートジボワール、セネガルで事業を展開しています。今回の資金調達によってさらに多くの都市や町で事業を拡大し、市場での存在感を高めたいとのことです。
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ファウンダーに訊く
ファトマ・ナスジョ(Fatma Nasujo)は、Wasokoのオペレーショナルエクセレンス担当グローバルヘッド(Global Head of Operational Excellence)です。
💰 インフォーマルセクターの小売業者への運転資金提供について:
「後払い決済(BNPL)によって小売業者は安定して在庫を確保できるようなり、卸売業者に関する心配も減ります。実際に小売業者からの需要は増えており、BNPLを利用している小売業者は成長もはやくなっているのです。またBNPLの利用者は平均的な注文量もそうでない企業の2倍です」
🏍️ 輸送手段を三輪自動車からトラックに移行することについて:
「道が狭い地域もあるので最初は配送にトゥクトゥク(三輪自動車)を使っていましたが、スペアパーツ不足が課題になりました。そこで現在は、3〜6トントラックを主に使っています。積載量の多さやコストの安さが理由です」
🤝サードパーティーのドライバーと協力して配送を行うことについて:
「サードパーティーのドライバーと連携したことにより規模拡大が可能になりました。Wasokoは現在6カ国でパートナーと仕事をしています。ケニアだけでも400台の車両で1日6,000件の配送を行っているんです」
今日のニュースレターは、Quartz Africaチームがお送りしています。翻訳はAsuka Kawanabe、編集はSota Toshiyoshiが担当しました。
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メディアが語るアフリカ
- Mr Eaziの2つの顔。アフロビートのスターでテック投資家でもあるナイジェリアのアーティスト、Mr Eaziは、音楽とテクノロジーの両面から世の中の問題を解決したいと考えています。この驚くほど実用的なコラボレーションについて『Rest of World』のアブバカル・イドリス(Abubakar Idris)がレポートしています。
- 人身売買されていた陸上スター。英国の長距離マラソン選手モー・ファラーがいかにして幼少期にソマリアから英国にたどりついたのか、その細かい経緯を明らかにしたドキュメンタリーについて、『Guardian』のスチュアート・ジェフリーズ(Stuart Jeffries)が報じています。その経緯は、現在の保守党が打ち出しているルワンダ移送計画の残酷さも浮き彫りにするものです。
- 黒人サイクリストにツアーはなし?『African Arguments』のジョージア・コール(Georgia Cole)とテメスゲン・フツムブラン・ガブラヒウェット(Temesgen Futsumbrhan Gebrehiwet)が、ツール・ド・フランスに黒人サイクリストが少ない理由について報じています。ふたりは5月にジロ・デ・イタリアでアフリカ初の勝者となったエリトリア人のビニヤム・ギルマイ(Biniam Girmay)など、黒人サイクリストには秀でた才能をもつ選手がまだまだ隠れていると綴りました。
- 総裁不在の6カ月。『Daily Monitor』の Daniel Kalinaki(ダニエル・カリナキ)が報じるように、中央銀行の総裁が24週も不在となればどの国でも懸念の声があがるでしょう。しかし、ウガンダでは1月に前総裁がなくなって以来、空席が続いています。
- 反対意見の封じ込め。『Africa is a Country』のフローレ・ノビメ(Flore Nobime)とオリヴィエ・ヴァン・ベーメン(Olivier van Beemen)がベナン警察による厳しい施策について報じています。一見、安定した民主国家に見えるベナンですが、パトリス・タロン大統領による統治のもと、反対派の人物やジャーナリストを標的にしたハラスメントが行なわれていることが明らかにされています。
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