India Explosion
爆発するインディア
Quartz読者のみなさん、こんにちは。会社員の方は今日からリモートワークというところも多いでしょう。ただ企業に属さないフリーランスやギグワーカーは、そうとも言ってられません。日本でも発生し得る問題がインドで起きていました。英語版(参考)はこちら。
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新型コロナウイルス感染が世界中に広まるなか、ギグワーカーに休む暇はありません。
インドでは、3月中旬から多くの企業が在宅勤務を進め、政府はショッピングモール、ジム、その他の公共施設を一時的に閉鎖し、街にいつもの活気はありません。
しかし、それでも街に出て「出勤」している人たちがいました。タクシードライバー、食品配達員、そして修理やサロンの出張サービスを提供する何百万人もの労働者…そう、ギグワーカーです。
ネットを介して“単発”の仕事を得るギグワーカーにとって、仕事を休むという選択肢はありません。たとえば、食品配達アプリのZomato(ゾマト)とSwiggy(スウィギー)は、配達員と利用者が接触しないよう配慮したデリバリーを始めました。
しかし、配車サービス(Uber、Ola)のドライバーはそうは言っていられません。入れ替わり立ち替わりで素性の知れない乗客を運び、訪問式サロンサービスを展開するUrban Companyの美容師・理容師はクライアントの自宅まで直接出向かなければなりません。
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「重要なのは、クライアントが安全であることを無理なく伝えることです」と、テキサスに拠点を置くコンサルタント会社Everest Groupのヴァイスプレジデントであるユガル・ジョシ(Yugal Joshi)は話します。「ソーシャルディスタンス(社会的距離)をとれば、クライアントは警戒し、こういったサービスは使われなくなります。これは、企業にとっても個人(ギグワーカー)にとっても良いことではありません」
ギグワーカーに支えられる企業は、コロナウィルス拡散を防ぐためにガイドラインを発行しています。しかし、これが本当に現実味のある内容かといえば、そうではありません。
HEALTH OR MONEY?
身の安全かカネか
Urban Companyのヴァイスプレジデントによると、同社はギグワーカーに複数回の手洗いを義務付け、消毒ジェルとマスクを使用し、パートナーの安全を確保してサービスの提供を続けています。「私たちは、ランダムに選んだ案件のチェックを行い、マスク使用等のガイドラインが遵守されているかどうか監視しています」
ただ一方で、同社のサービスを依頼した少なくとも2人の利用者から、派遣されてきたパートナーがマスクなしで現れたという報告も上がっていました。
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UberとOlaは、車載のドライブレコーダーで撮影されたドライバーの様子から、AIでコロナ感染の可能性を判別するなど、すでにある装備を活かした対策をしていたようですが、実際のところは自己申告に頼っているのがほとんどです。
Olaには、トラブルが発生した際に24時間365日対応するチームがありますが、ここもやはり自己申告。「新型コロナ感染が疑われるときには積極的に報告するよう推奨します」と、同社のスポークスマンはコメントしています。
これでは、対策として「不完全」です。
TOEING THE LINE
規則の抜け道
配車サービスのユーザーの減り方は凄まじいものでした。配車タクシーサービスのドライバー団体によると、その数は通常時の半分にまで落ち込んだと言います。
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こういったドライバーはただでさえ、初期費用にかかった巨額のローン返済、保険料、燃料費を負担し、その上で生計を立てようとしています。今、彼らの生活にさらなる危険が迫っているのです。
市場調査会社TechSciのSukriti Seth(スクリティ・セス)によると、ドライバーのうち、感染を恐れて地元に帰る人は5%程度で、このほかは新型コロナウイルスに感染し失業する恐怖に怯えながら仕事を続けています。
「本当に危険なのは、このサービスに従事するギグワーカーの生活が日々の実働で得られる稼ぎに依存している構造です。たとえ疑わしい症状が出ても、無理やり症状を抑えたり、上への報告を避ける動機になります」
「プラットフォーム各社は規定の抜け道を防ぎながら、労働者に最低限のレベルでも収入を維持させる方法を理解するべきです」
ギグワーカーが保険と雇用の給付を受けることはほぼありませんが、企業は車両の均等月額割賦(EMI)の返済期日の延期、将来所得の先払いなどの措置をとることで、ギグワーカーを支援できます。
地場IT企業のNinestars Technologiesの企業開発責任者、ヴィダヤ・シャンカー(Vidhya shankar)は、企業からギグワーカーに対し3〜6カ月間のマイクロインシュアランスを提供できる可能性を提示しています。
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たとえばUberは、新型コロナウイルスの感染が疑われるか、もしくは感染が確認され隔離の対象になったドライバーと配達員に、最長14日間の補償を提供することを発表していました。
ただ、その後25日から、今やインドは全域がロックダウン(都市閉鎖)の真っ只中。3週間続く予定です。対応はあくまで、それ以前に感染が多く確認された一部区域に限った話で、インド国内のギグワーカー救済策についての情報はまだありません。
インドの都市部のサービス労働者は推定3,500万人で、この20%にあたる690万人がギグワーカーとされています。ドライバー1人あたり月におよそ2万ルピー(約2万9,000円)の収入があるそうですが、これをカバーするとなると単純に1月分で1,380億ルピー(約2,020億円)かかります。
米上院で可決された2兆ドル(約220兆円)規模の経済対策では、UberやLyftで働くギグワーカーも失業保険の対象となります。ギグワーカーへの支払いがどの程度になるかは明らかではありませんが、レイオフされたフルタイムの従業員と同レベルの補償を得る資格があるとされています。
ギグワーカーの救済は、日本にとっても無視できない問題です。アメリカを例にルールが整えられれば、「コロナ後」の世界の働き方は様変わりするかもしれません。
This week’s top stories
インド注目ニュース4選
- 2.5兆円で貧困層を救済。インド政府は26日、新型コロナウィルス感染拡大に伴う経済対策として、1兆7,000億ルピー(約2兆4,800億円)を投入することを発表しました。農家には4月末までに1人あたり2,000ルピー(約3,000円)を支給し、その他の日雇労働者も救済する予定です。3月26日時点での感染者数は657人、死者は12人。5月中旬までにインド国内の感染者数は最大130万人に達する可能性もあります。
- 成長率を下方修正。バークレイズはインドの21年度の成長予測を1.7ポイント下げて3.5%に修正しました。25日から始まった3週間のロックダウンにかかる費用は、9億ルピー(約11億7,000万円)とも。国内の証券関係筋は「これまでのところ政府は、封鎖による経済的影響についてはほぼ沈黙を守っています。影響を緩和する対策を放棄している…」と話しています。
- iPhone工場どうなる…。インドでは、iPhoneの生産を手掛けるFoxconnとWistronの全ての現地工場が停止。両社ともに国内市場向けの製品の製造を手がけていますが、影響を受ける製品について正確なコメントは得られていません。Foxconnの担当者は4月14日まで操業を停止するとしています。
- 腐敗が放置されている銀行セクター。巨額の不透明な融資で焦げ付いた債権のせいで多くの小口顧客が見殺しにされたり、新興大手のイエス銀行、アクシス銀行で放漫経営が見過ごされたり…。2018年には、インド国営銀行パンジャブ・ナショナル銀行(PNB)での巨額の不正取引が発覚するなど、銀行セクターはガバナンスの立て直しが急務とされています。
【今週の特集】
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今週のQuartz(英語版)の特集は「Why startups fail(なぜ、スタートアップは失敗するのか)」です。スタートアップのムーブメントが世界を覆いはじめても、やはり成功するのは難しい。そんな中で、スタートアップの成否を左右する一つの要素について、Quartzがレポートします。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:REUTERS、AP PHOTO)
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