👸🏼 ガールボスの次に来るもの

女性専用の高級コワーキングスペースの閉鎖は、もてはやされた「女性リーダー」の時代の終わりを象徴する? これからの、仕事に対する野心の持ち方について。
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Photo: Quartz

いわゆる「Girlboss」(ガールボス)は、時として、すべての人に公平な職場に優先して女性個人の成功を追い求めがちだともいわれてきました。そしてその実態は、2020年時点ですでに死期を迎えていました。そのミレニアルピンクの棺に最後の釘を打ちつけることになったのが、先日明らかになった、一時名を馳せた女性向けの社交クラブ兼コワーキングスペース、ザ・ウィング(THE Wing)の閉鎖です。

2016年にオードリー・ゲルマンとローレン・カッサンが共同設立したザ・ウィングは、カールボスの抱える“矛盾”を体現する存在でした。

政治的なメッセージ性のあるイベントを共催し、その会員リストには成功した作家やCEO、活動家、インフルエンサーが名を連ねていたザ・ウィング。彼らはさまざまなかたちで、女性の野心と連帯がいかに重要であるかを発信してきました(ちなみに#MeToo運動が盛り上がりをみせたのは2017年。ザ・ウィングが創業したその前年2016年にはヒラリーが米大統領選に敗れています)。

一方で、同社は「特権的な白人フェミニズムブランドを体現している」という批判にも直面しました。年会費3,000ドルのガールズクラブが、果たしてどこまで公平にコミットできるのか?というわけです。

2020年にはそうした批判がピークを迎えます。このころには、人種差別の色合いが濃く有害な職場であるとの声が従業員からも上がるようになりました。結果、ゲルマンはCEOの座を退くことになります。

これからの女性の野心を語るには、「ガールボス」よりもっと適切なことばがあるはずです。今夜のニュースレターで迫っていきましょう。


Brief History

ガールボスの歴史

  • 2013:フェイスブック(現メタ)COOのシェリル・サンドバーグ(当時)による“企業フェミニスト宣言”、『リーン・イン』が出版
  • 2014:ファッション小売Nasty Galの創業者ソフィア・アモルーソ(Sophia Amoruso)が、同名の回顧録の中で「girlboss」という造語を発表
  • 2015:Nasty Galが、妊娠中の従業員に対する差別があったとして訴えられる
  • 2015:『Wall Street Journal』によるスクープ記事で、エリザベス・ホームズ(Elizabeth Holmes)率いるスタートアップTheranosのテクノロジーが疑問視される
  • 2016:Nasty Galが破産申請
  • 2016:ザ・ウィングがニューヨークに1号店をオープン
  • 2017:生理用下着のスタートアップThinxの従業員が、創業者で自称「She-EO」のミキ・アグラワル(Miki Agrawal)のセクハラを告発。アグラワルは退任へ
  • 2017:Nasty Galのアモルーソの回顧録をベースにしたNetflixシリーズ「Girlboss」が配信開始。第1シーズンで打ち切られる
  • 2020:ザ・ウィングのほか、Man Repeller、Refinery29などのメディア企業の女性リーダーが、有害で差別的な職場環境を蔓延させてきたという非難を受け辞任へ
  • 2021:風刺的なミーム「gaslight gatekeep girlboss」(英語圏の格言、live, laugh, loveをもじったもの)がネットを席巻
  • 2022:ザ・ウィング閉鎖

Misogyny and the girlboss

それってミソジニー?

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Photo: GEORGE MARKS/RETROFILE

上記でふれたように、女性リーダーが男性リーダーより倫理的で高潔であるとは限りません。だからといって、ガールボスの墓の上で踊るのはミソジニー的だといわれても仕方がないでしょう。

コラムニストのモイラ・ドネガン(Moira Donegan)は最近のニュースレターで、ガールボスに向けられる冷笑は、1980年代に「キャリアウーマン」に課せられたスティグマ──冷たくて、計算高くて、とにかく不幸──と似ていると書いています。また、BBCの最近の記事でも、映画『I Care A Lot』(邦題:パーフェクト・ケア)やドラマシリーズ「Industry」、「Succession」(邦題:メディア王〜華麗なる一族)ではパワフルな女性が倫理的に空虚で惨めな存在として描かれているとも論じられています。

ガールボスにまつわる言説は、従業員にハードワークを強いる女性に対する正当な批判から一転、権力の座にある女性を貶める論調になりがちです。確かに、女性のファウンダーやCEOの存在が、組織的に行われる性差別・人種差別の解決策になるわけではありません。しかし、ドネガンも書いていますが、ガールボスに対する冷笑は、女性は「物質的な進歩を犠牲にしてでも道徳的な純粋さを追求すべき」というメッセージになりかねません(一方で、男性にはその基準に従うことは求められないというのに)。

「不公平なシステムの中で、女性にもっと力をもたせるべきだというのはなぜか?」とドネガンは問いかけます。「なぜなら、ここには不公平なシステムしかないから」


By the numbers

数字でみる

  • 3,000ドル:ザ・ウィングの年会費
  • 1万2,000人:2020年、人気絶頂にあったころのザ・ウィング会員数
  • 9,000人:2020å¹´3月時点のザ・ウィングのウェイトリストの人数
  • 50万部:ソフィア・アモルーソ著『#Girlboss』の累計販売部数
  • 400万部:シェリル・サンドバーグ著『リーン・イン』の累計販売部数
  • 44人:Fortune US 500に選ばれた企業を率いる女性経営者の数
  • 24人:Fortune Global 500に選ばれた企業を率いる女性経営者の数
  • 2%:2021年、スタートアップに投じられた米国のVC資金のうち、女性主導のスタートアップが受けた割合

What comes after

次に来るのは?

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Photo: JASON REDMOND / AFP

多くの人が、パンデミックのなかで自分自身とキャリアとの関係を考え直したのでは? パンデミックは、ガールボスを過去のものとするのにも大きな役割を果たしました。

学校や保育園が閉鎖されたことで、子どもをもつ女性のスケジュールは大きく狂わされることになりました。2020年の調査では、女性の4人に1人が勤務時間の短縮や離職を検討していると答えていますが、多くの人がそれを実行に移したようです。全米女性法律センター(National Women’s Law Center)によると、2022年1月時点の米国の労働力人口は、2020年2月時点と比較して110万人減少しています。

さらにこの夏、米国では中絶の権利を認める「ロー対ウェイド判決」を最高裁が覆したことが大きな話題となりましたが、前述のモネガンは、この判決によって「さらに多くの女性にとって、その野心が抑制されることになった」と指摘しています。

こうした状況下では、働く女性のロールモデルとしてメディアが取り上げてきた女性CEOの輝かしい経歴が現実からかけ離れていることが、さらに浮き彫りになります。また、米国では労働組合を支持すると答えた人の割合が57年ぶりの高水準にあります。スターバックスのバリスタが組織化しようと努力する内容のTikTok投稿が数百万ビューを集める時代において、“ボスであること”はもはやそれほど憧れの対象ではないかもしれません。いま世間の賞賛を集めているのは、(リーダーではなく)労働者なのです。


Pop Quiz

ここで問題です

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Photo: EMMA MCINTYRE

2021年、S&P500企業の女性CEO18人の給与の中央値はいくらだったでしょうか?

  1. 500万ドル
  2. 1,000万ドル
  3. 1,600万ドル
  4. 2,000万ドル

解答はニュースレターの最後で!


Rethinking ambition

野心の見直し

パンデミックは、性別に関係なく、仕事との関係、そして野心との関係を見直すきっかけにもなっています。最近もTikTok上で「静かな退職(Quiet Quitting)」なるワードがバズっていましたが(「黙って辞める」という意味から転じて、模範的な労働者になろうと頑張るのではなく求められる最低限の仕事をすることを選ぶこと)、いかに多くの人が出世コースに乗ることや仕事を自分のアイデンティティの基礎におくことにもはや関心がないかを示しているといえるでしょう。

こうした現象の要因としてよく挙げられるのが、「燃え尽き症候群」の蔓延です。2020年、Black Lives Matter運動が盛んだったころにも職場における差別が徹底的に追及されましたが、同じことが女性にもいえます。つまり、「仕事が実力主義でないというなら、努力をすることに何の意味があるのだろう?」というわけです。

ライターのアミル・ニアジは『The Cut』への寄稿で、野心よりも平凡さを選ぶことに決めたと宣言していますが、その理由を、有色人種の女性としての職業経験から、努力や才能が確実に報われるわけではないことを学んだからだとしています。

同じくライターのアン・フリードマンも『Elle』で、多くの女性がかつて個人のキャリア目標に注いだエネルギーを他の目的に向けることを学んでいると書いています。他の目的とは? 「より公正な世界、より健康な自分、より強いコミュニティ」だとアンは指摘しています。

有害な職場環境を自らつくり出したとして非難された元ガールボスに限っていえば、彼女たちがその失敗から学んだかどうかは、時間が解決してくれるでしょう。少なくともザ・ウィングのゲルマンは最近、ハッスルカルチャーに見切りをつけ、より小規模のベンチャーに乗り出すと語っています。

彼女は最近、NYブルックリンにSix Bellsという高級カントリー家庭用品店を開店し、ブドウの房を象った手彫りの石鹸(35ドル)などを売っています。「いままで生きてきた人生とは明らかに異なっているが、これは実際のところ、わたしが以前から空想していた人生でもある」と、ゲルマンは『Vanity Fair』のインタビューに答えています。「これは、慰めなどではない」


Listen to this!

聴いてみて!

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Photo: MASON POOLE

勤勉で頑張り屋として有名なビヨンセも、最近は燃え尽きたような気分になっているようです。最近のシングル「Break My Soul」では仕事を辞めることについて歌っており、「神経をすり減らす/だからわたしは夜も眠れない」などの歌詞が耳に残ります。

同じように仕事に不満を感じている人もいれば、かつてのビヨンセのように「世界を動かす(run the world)」準備ができている人もいるでしょう。それぞれの気分に合った曲を集めて──ドリー・パートンのクラシックな「9 to 5」からFifth Harmonyの高飛車な「BO$$$」まで──、野心について歌う女性を集めたプレイリストをつくりました。ぜひ聴いてみてください。


クイズの正解は、③の1,600万ドルです。ちなみに男性CEOの給与の中央値は1,440万ドルでした。