Africa:世界が注目する4人の「新世代デザイナー」

Africa Rising

躍動するアフリカ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。先週からお届けしている、アフリカの新世代のカルチャーと消費動向をテーマにした特集「African Youth」。第2回は、「知るべき、新世代のファッションデザイナー」と題し、世界からも注目されるアフリカのファッション業界にフォーカスします。

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ここ数年、急速に変化するグローバルなファッション業界において、アフリカは今、注目を集めるビジネスエリアのひとつになりつつあります。

新進気鋭のデザイナーたちは、枠にとらわれず自由にアプローチし、これまでとは異なる視点を見せています。伝統的なファッション業界を相手にダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)を伴う変化を提案する彼らに、世界は文化の違いから生まれるクリエイションの奥深さを見出しているのです。

すでに確立されたファッション業界にとって、新たな挑戦と多様性の実現は、今まさに重要な課題です。そのためにも、次世代のデザイナーたちを助け、新たなクリエイティブ世代の道を切り開く必要があるのです。

Fashion Industry in Africa

「文化」が広がる土壌

今、アフリカ大陸にとっての新たなアイデンティティ、新たなカルチャーが生まれるための土壌づくりが進んでいます。

2016年時点で、アフリカのラグジュアリー市場は59億ドル規模(約6,360億円)と評価されています。市場としてのアフリカは、その規模こそまだ巨大とはいえません。

しかし、ルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドを傘下に置くLVMHは、アフリカの市場は今後、5年間で30%の成長を遂げる予測しています。実際に、消費者が服やシューズに使う支出額も2011年から2016年のあいだに2倍へ。アフリカでの小売全体としての市場も拡大しています。

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ナイジェリアでは、効率的なサプライチェーンが整い、アルジェリア、アンゴラ、ナイジェリア、エジプトでは原油価格が回復。ラグジュアリーのマーケットシェアが拡大する可能性もあります。

また、南アフリカ、エジプト、ナイジェリア、ケニア、タンザニア、エチオピア、モロッコなどには超富裕層(純資産額が3,000万ドルを超える)が大陸全体に居住しているので、貧富の差はいまだに大きい国も多いですが、人々のなかには「ファッション」に目を向けられる層も多くなり始めているのです。

繊維産業もアフリカのファッション業界を盛り上げるひとつの理由です。輸出量はまだ少ないですが、繊維産業で知られるモーリシャス、エチオピア、ガーナが先導し、モザンビーク、アンゴラ、エチオピアでもアフリカの繊維工場が増加。エチオピアは、2017年の会計年度(1月〜6月)では12億ドル(約1,290億円)の外国直接投資を呼び込みましたが、その半分は繊維および衣料品部門でした。

さらに、テクノロジーの発達のおかげで、アフリカのファッションブランドを世界中の高級百貨店やオンラインショップで目にすることも多くなってきています。

ラグジュアリーオンラインショップNet-a-Porterや仏の百貨店Le Bon Marchéではエチオピアコットンを使ったアイテムを展開する“エシカル”なブランドLemlem、オンラインショップのMatchesFashion.comやShopbopでは、クラフツマンシップを融合させたケニア・ナイロビ発のBrother Velliesを扱うなど、アフリカの文化をアピールポイントに入れるブランドが展開されています。

Net-a-Porter
Net-a-Porter

Eコマースのプラットフォームでは、アフリカの伝統的な素材やディテールもより雄弁に語ることができます。容易にシェアできるため、消費者とのコミュニケーションもオンラインの方が向いているのかもしれません

New Identity

次世代を担う4人

アフリカは、これまで西洋のファッションに文化的な影響を与えてきました。イヴ・サンローランジャン・ポール・ゴルチエをはじめとする多くのブランドが、アフリカの歴史、人々、文化にインスピレーションを受けています

そして今、アフリカのクリエイティブな才能の活躍が目立つようになりました。アフリカから“インスピレーションを受けた”欧米の大手ブランドによる解釈を経たものではなく、アフリカ出身のデザイナー自身が世界のシーンに進出しているのです。

自身の文化を引き継ぎながら、新たな視点を提示するデザイナー4人のクリエイションは、確立されたファッション業界にとって、まさに多様性への蒙を啓く新鮮な存在として映ります。

① Kenneth Ize(ケネス・イゼ/ナイジェリア)

Right: Kenneth Ize
Right: Kenneth Ize

1人目は、ナイジェリア出身、1990年生まれのケネス・イゼ

パリで行われた2020-21秋年冬のケネス・イゼのショーでは、スーパーモデルのイマン・ハマムがオープニングを、伝説的なモデルであるナオミ・キャンベルがクロージングを飾ったことでも話題になりました。

ナイジェリアのヨルバ族の伝統布「アショオケ」を使用した、2020-21年秋冬コレクション。
ナイジェリアのヨルバ族の伝統布「アショオケ」を使用した、2020-21年秋冬コレクション。

2019年9月、LVMHが主宰するファッションコンテスト・LVMH Prizeの最終選考まで残った彼が初めてファッション業界の注目を集めたのは、数シーズン前に行われたLagos Fashion Weekにおいてでした。

イゼは2013年、自身の名を冠したユニークでカラフルなブランドをローンチし、5年前には彼の特徴である手編みチェック柄と、非の打ちどころのないパターンを融合させた緻密な編み生地を中心としたブランドを再ローンチさせます。

ナイジェリアはもともと、豊かな伝統の織物文化をもっており、近代化が進むなかでも受け継がれてきました。イゼはデザインをナイジェリアの職人技という遺産に捧げ、国中の織り手たちをネットワークでつないだのです。

彼の代表作では、Aso Oke(ヨルバ語で「最高の布」の意)と呼ばれる、ナイジェリアでは特別な日に着られる伝統的な布をカラフルなパターンとボイラースーツでエレガントに仕立て上げ、世界中の消費者に向けて最前線で発信しています。

アフリカで起こる民族間の分裂不安定な社会的問題などを考察し、イゼのスタイルはラグジュアリー界に一石を投じ、デザインでジェンダー・フルイディティ(性の流動性)を表現。そして、ファッション業界における多様性の欠落に目を向けさせます。

サステナビリティについて考えていく必要があること、ラグジュアリーを定義するのは誰なのか、といった疑問も投げかけています。

② Thebe Magugu(テベ・マググ/南アフリカ)

Thebe Magugu
Thebe Magugu

2人目は、南アフリカのヨハネスブルグを拠点に活動する、1993年生まれのテべ・マググ

LVMH Prizeの歴史上、アフリカ人として初めて優勝したマググは、ファッション界きっての“ストーリーテラー”。南アフリカで増加しているフェミサイド(女性を標的とした殺人)の社会論評家であることも含め、注目に値する人物でしょう。

2015年に設立された自身のブランド、マググは、コンテンポラリーなレディスアイテムを展開するレーベルであり、女性のファッションの新たな側面をつくり出すことを目的としています。

アフリカの言葉で「人を美しくするために」を意味する“Ipopeng Ext”がテーマの2020-21年秋冬コレクション。
アフリカの言葉で「人を美しくするために」を意味する“Ipopeng Ext”がテーマの2020-21年秋冬コレクション。

ブランドのエートスは、賢く、社会的複雑さという価値をもち合わせた多面性のある服を提供すること。フェミニンでシャープな縫製と、プリーツ、ユニフォームを用いて、マググは服のシルエットの向こうに彼自身のルーツとなる南アフリカの伝統を映し出しています。

服に加え、マググはコレクションにおいて最新のテクノロジーを使い、彼自身の歴史とストーリーを物語ります。それぞれのアイテムにはタグが埋め込まれ、専用のアプリを使うことでその背景にあるストーリーや情報を知ることができるのです。

彼がつくり出すファッションは、クリエイティブな才能とビジネス(テクノロジー)を融合させ、彼の祖国の風景を鮮やかに可視化させているのです。

③ Loza Maléombho(ロザ・マレオンボ/コートジボワール)

Loza Maléombho Photo: Daniel-Sery
Loza Maléombho Photo: Daniel-Sery

3人目は、コートジボワールに拠点を置く1985年生まれのロザ・マレオンボ

ブラジルで生まれたマレオンボは、2009年にニューヨークで初のコレクションを制作、2012年に祖国であるコートジボワールに拠点を移しました。

彼女のブランドは、コートジボワール人の伝統的な美学とニューヨークのライフスタイル、つまり古いものと新しいもののパラドックスを融合させたものです。それぞれのコレクションは、彼女自身がトレーニングした若い女性たちによって縫製されており、地元のアーティストとの社会的・経済的な連携もしています。

コートジボワール北部に住むザウリ族からインスピレーションを得た、2016年春夏コレクション。
コートジボワール北部に住むザウリ族からインスピレーションを得た、2016年春夏コレクション。

複数の文化を背景にした彼女のデザインは、伝統的な技法を現代に向けて落とし込み、ほかに類を見ない信頼性や本質性を生み出します。

また、彼女のクリエイティブな視点は、世界中のセレブをも虜にしていてます。アーティストのソランジュ、ケリー・ローランドが着用しているほか、ビヨンセの PV「Formation」内で、ダンサーたちはマレオンボがデザインした衣装を着用しています。

④ Abrima Erwiah(アブリマ・エルウィア/ガーナ)

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最後は、アフリカのファッションを広げるための社会的企業およびブランド、Studio 189(Studio One Eighty Nine)を主宰するガーナ出身のアブリマ・エルウィア。

エルウィアは、2013年、女優で活動家のロザリオ・ドーソンと共にガーナを拠点とするStudio 189を立ち上げます。地元の職人たちと協働し、インディゴ染め、バティック染め、ケンテ編みなどの伝統的な技法を積極的に取り入れた作品を発表。また、「女性への暴力について、意識変革を投げかけること」をブランドに込め、コレクションを展開しています。 2018年には、CFDAの「サステイナブル・ファッション・イニシアティブ」賞を受賞しています。

“Heritage”と題し、伝統的なパターン、シンボル、技術にインスパイアされたデザインが特徴の2020年スプリングコレクション。
“Heritage”と題し、伝統的なパターン、シンボル、技術にインスパイアされたデザインが特徴の2020年スプリングコレクション。

Studio 189は、国連とパートナーシップを組み、都会や貧困地域に住む職人へのエンパワーメント、雇用機会や教育、技術トレーニングの提供を含むサポートにも注力。運営する工場では、現在、アフリカのほかのブランドやインターナショナルなブランドのためにも生産するほどの規模になっています。

「ファッションは変化を起こす力となりうる」とするエルウィアのミッションは、いずれは持続的なインパクトにつながるように社会に貢献することなのです。

4週連載「African Youth」第3回は6/3配信。なかなか知ることのできないアフリカのヴィジュアルアートの世界を特集します。

※「African Youth」特集は、ナイジェリア系アメリカ人のAmarachi Nwosuが主宰する、アフリカに特化したクリエイティヴプラットフォーム&エージェンシー「Melanin Unscripted」のサポートのもと、連載しています。


This week’s top stories

今週の注目ニュース5選

  1. 不法取引されるタバコ。南アフリカでは、新型コロナウイルスの拡散を遅らせるために課せられた厳しい措置の一環として3月末にタバコの販売が禁止された後、タバコの不法取引が本格化しています。南アフリカのロックダウン規制は世界で最も厳しい規制であり、アルコールの販売禁止も含まれています。アルコールに関しては6月1日から緩和され、人々は自宅で飲むためにアルコールを購入することが許され、「指定された日と限られた時間に限り、厳格な条件の下でのみ」とのこと。しかし、タバコの販売禁止は、「喫煙に伴う健康リスクのため」継続するとされています。
  2. mPharmaが1,700万ドル調達。薬局とそのサプライヤーの処方箋薬在庫を管理するガーナのスタートアップmPharmaは、1,700万ドル(約18.3億円)の資金を調達。また、米国最大の薬局小売チェーンであるCVSを社長として率いたHelena Foulkesを取締役会に任命したことを発表しました。MPharmaは、アフリカ諸国における医薬品サプライチェーンの効率を大幅に改善することを目的に設立。独自の「Vendor Management Inventory (VMI)」システムは、ガーナ、ナイジェリア、ケニア、ザンビア、ジンバブエの250以上の薬局ですでに使用されています。
  3. トマトの悲しい末路。アフリカで最も人口の多い国であるナイジェリアでは、アフリカ第2位の生産国であるにもかかわらず収穫したトマトの約45%が廃棄されていて、現地で消費されるトマトの約半分を輸入に頼っています。この現実は、非効率的な国内輸送システムや貯蔵施設の不足など、根本的なインフラのギャップに起因しており、現地の農家は作物を貯蔵したり、流通させることが難しくなっています。
  4. Def Jam Africaが設立。レコードレーベルのDef Jamが、アフリカを拠点にレーベルを立ち上げました。所属アーティストとして、ヒップホップ界で活躍するCassper Nyovest、Nasty C、Nadia Nakai、Boity、アフロビーツ界で著名なLarry Gaagaなどを発表。「Def Jamはヒップホップの質の高さを示してきたので、自然にアフリカの市場にフィットしていました」と、親会社であるUMG(Universal Music Group)サブサハラアフリカ・南アフリカのチーフであるSipho Dlaminiは話しています。アフリカの多様な音楽シーンについては、5月20日に配信したPMメール「台頭する「音楽起業家」たち」もご覧ください。
  5. アグリテックの成長。南アフリカを拠点とするアグリテック企業のAerobicは、事業拡大のためにNaspers Foundryから550万ドル(約5.9億円)の資金を調達しました。2014年に設立したAerobicは、サブスクリプションベースの人工知能(AI)企業で、農作物を管理するためのツールを農業業界に提供しています。このアプリのおかげで、害虫や病気による農作物への被害を軽減することができることで知られています

(翻訳・編集:福津くるみ)


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