Africa:孤立する医師からのことば

Africa Rising

躍動するアフリカ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。基礎的な医療のみにフォーカスしてきたアフリカで、メンタルヘルスケアへの理解が進むようになったのには、パンデミックが大きく影響しています。英文記事はこちら(参考)。

A monitor shows the vital signs of a mock coronavirus patient during an exercise simulating the treatment of a large number of patients due to the spread of the coronavirus disease (COVID-19) at the Aga Khan University Hospital in Nairobi.
In the midst of the pandemic, a shift is taking place in the approach to mental health treatment.
Image: Reuters/Baz Ratner

開業医ライデ・アキンセモインは、4月からナイジェリアのラゴスでコロナウイルス患者の隔離病棟でボランティア医師として働いています。

彼女は毎日、シフトの前に「着衣室」に入り、ゆっくりと慎重に、COVID-19感染を防ぐ保護服を身につけます。「通常の医師としてのルーチンでやってきたことは、この緊急事態では通用しません」と、アキンセモインは言います。

Akinsemoyin says…

医師の孤立と不安

例えば、苦痛を訴える患者に駆けつける前に、アキンセモインは患者がPPEを着用しているかどうかを確認しなければなりません。感染リスクを回避するためには、できる処置を諦めなければならない場合もあります。

「できることと、最善の処置を施すこと。私たちは常に手段を考え続けなければならないのです」。その「できること」には、患者をケアする彼女自身の能力を維持することも含まれます。隔離病棟で働き始めて以来、近くのホテルに身を寄せているアキンセモインは、病棟の医療従事者のために開催されるグループ・カウンセリング・セッションを頼りにするようになったと言います。

「誰もが元気そうに見えますが、セラピーを受けると誰もが何かを抱えていることがわかります。患者の死や環境のこと、家族から孤立していること…世界から切り離されていることに、気づくのです」

COVID-19という病の新しさや闘病に伴って着せられる汚名、医療システムの不備、そしてこの状況がいつまで続くのかという不安は、彼女たち医療従事者の不安を、さらに悪化させています。

COVID-19はその未知なる部分の多さゆえに、身体のみならず心を害する病だといえるでしょう。そしてその不安は、一般の人々の間だけでなく、医療従事者にも大きな影響を与えています。最近の研究では、中国でCOVID-19患者を治療している若い医師がパンデミックのなかで精神的な健康状態の悪化を経験し、「暴力への恐怖や気分の低下」などの症状を報告していることもわかっています。

Momentum for mindful medicine

コロナ・モメンタム

アフリカ大陸の多くの国で、メンタルヘルスケアの専門家は不足しています。メンタル・ウェルビーイングに対処するためのインフラも限られています

その不足ゆえに、植民地時代の慣行が“遺産”として残り、伝統医学の専門家に治療を委ねざるをえないケースも多くありました。結果、非人道的な治療アプローチが行われてきました。

「精神的疾患を抱える人々は、人権侵害を頻繁に経験している」と、ザンビア、南アフリカ、ウガンダ、ガーナの精神保健医療制度を観察した2011年の論文は報告しています。

しかし、変化は起きています。精神衛生と貧困の相互作用に言及する研究をはじめとするエビデンスが増え、一部の政府や市民社会は行動を起こすことを余儀なくされています。

2019年12月、ケニアでは、自殺者の続出が多くのメディアで報じられたのをきっかけに、政府が精神疾患を助長するストレス要因や治療法を調査するタスクフォースを招集しました。

ナイジェリアでは一部の精神疾患患者がいまだに鎖でつながれ、虐待を受けていますが、何の対策もしない政府に不満をもつ人々の取り組みが始まっています。草の根の組織が精神衛生問題に対する一般の意識を高めナイジェリアの医師に「燃え尽き症候群」が与える影響についての研究も進んでいます。今年10月には、南アフリカの研究者が、公共医療におけるメンタルヘルス支援に関する初の包括的な調査結果を発表しました。

care of frontline workers

現場で働く人のケア

開業医に対するメンタルヘルスケアの必要性にも、光は当てられています。南アフリカの大学の医学部では、若手医師を対象にしたヨガなどのウェルビーイングを促進する取り組みが実験的に開始しています。

「パンデミックは、こうした活動を進めるのに絶好のタイミングだったといえます」と、南アのクワズールー・ナタール大学精神科部長のボンガ・チリザは語っています。

「今や多くの人々が、現場で働く労働者のメンタルヘルスケアが重要だということを認識しています。医師もまた人間であり、その人間性が損なわれてはならないのです」

原文記事は、7月12日に配信したニュースレター「メンタルヘルスの転回点」(Guidesのガイド)でもふれています。ぜひあわせて、読んでみてください。


This week’s top stories

今週の注目ニュース

  1. ポートエリザベスの「ホラー病院」。BBCは南アフリカ・ポートエリザベス市でCOVID-19に向き合う病院を1週間にわたって独占取材。起きているストライキによって看護師や医師自らが院内の清掃を行うなど、大きな負担を強いられている悲惨な状況は、動画でも収められています。南アフリカの感染者数は25万人を超え、死者数は4,000人以上に上ります。
  2. アルコール禁止は「医療への負担を減らす」ため。その南アフリカでは、12日、いったん解除されたアルコール飲料の販売禁止を再開しています。政府は夜間の外出禁止やマスク着用義務などの対策と含めて発表をしましたが、同国内で物議を醸してもいます。同国保健相は、6月のアルコール解禁の際には、救急および外傷病棟への入院が60パーセント増加したとしていました。
  3. 偽薬がいまだに繁栄するナイジェリア。ナイジェリアでは、今も偽造医薬品産業が盛んです。特に取り沙汰されるのは子ども向けの「My Pikin」シロップで(「Pikin」は「赤ん坊」の意))、2009年にはこのシロップによって84人の子どもが亡くなっており、製造にかかわったとして2人が有罪判決を受けています。パンデミックは、こうした偽薬の流通に拍車をかけています
  4. アフリカに投資する日本。Quartzでは、アフリカ大陸に対する海外からの投資の多様化をフィーチャー。日本からの動きとして、トヨタが設立したベンチャーキャピタルユニットMobility 54や、ヤマハが参加したオートバイ輸送スタートアップMAX.ngの資金調達ラウンドなどを紹介しています

(翻訳・編集:年吉聡太)


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