[qz-japan-author usernames=” amerelliqz”]
Tuesday: Asia Explosion
爆発するアジア
Quartz読者のみなさん、こんにちは。依然として注目される大麻産業において、神話にまで遡る親和性をもつインドがグローバルリーダーとなる可能性は果たしてあるのでしょうか。英語版(参考)はこちら。
インドを訪れれば、あらゆる場所で大麻(カンナビス)を目にすることでしょう。
インド亜大陸にはSativa(サティバ)、Indica(インディカ)、Ruderalis(ルデリス)の3種類のカンナビスから派生する何百もの品種が自生しています。高速道路や都市公園の脇に青々と茂るさまは、まさに“weed”(雑草、スラングでは大麻の意)。
古代ヒンドゥー教の文献では、カンナビスは「ヴィジャヤ(vijaya)」の語で知られており、インドの神話、歴史そして祝祭の一部として認識されています。
かくもインド社会の一側面であるカンナビスですが、さらにもうひとつ、この作物には、産業としての側面があるのです。
essentials to success
インド、成功の条件
世界中の国々で、カンナビスは急速にビジネスとして盛り上がっています。長い間、無益ともいえる禁止措置がとられてきましたが、各国政府がようやくその医療的、経済的な可能性に気付きつつあるということでしょう。
カナダや南アフリカでは、娯楽目的を含む多くの用途でカンナビスが合法化されています。ラテンアメリカのほとんどの国やオーストラリアの一部では、合法ではないものの、使用や限定的な所持そのものは問題視されていません。米国の複数の州では、その娯楽用途が合法化されています。
現在、この作物に無限のチャンスを見出したインドの起業家たちが改革を推進し、国内各州と協力して古い法律を刷新しようとしています。
国際社会からの(特に米国の長期にわたる)圧力を経て1985年に可決された法律のもと、インドでは「娯楽用カンナビス」は違法となっています。「麻薬および向精神物質(NDPS)法」によると、少量のマリファナの所持でも、1万ルピー(130ドル)以下の罰金または1年以下の懲役を科せられる可能性があります。
それから四半世紀あまりが経った2013年以降、数々のスタートアップが業界の開放と合法的な生産を目指し、政府の協力を得ようとしています。
その歩みは、確かに、ある程度の進展をみせてきています。が、インドでの合法的な栽培は、事実上まだ存在していません。国内における認知の高さにもかかわらず、今のところインドは世界のカンナビスビジネスからすると、ほとんど存在しないも同然なのです。
もっとも、この状況は逆説的なものだといえます。インドには「合法的に栽培されたカンナビスは存在しない」ものの、毎年何トンもが「政府のルートを通じて販売」されています。インドでカンナビスとカンナビノイドをベースにしたウェルネス製品を販売している企業のひとつであるBoheco(Bombay Hemp Company)の推計によると、実に240トンが、マディヤ・プラデーシュ州だけで集められているといいます。
One plant, two legal statuses
相反する法規制
インドにおいて、カンナビスそのものは違法な存在ではありません。カンナビスはインドの文化──特に、宗教や伝統的な医療と密接に結びついています。
例えば、カンナビスはヒンドゥー教の破壊神であるシヴァ神の好物です。伝説によると、シヴァ神は家族と大ゲンカをして一晩家を出たあとでカンナビスを口にし、力がみなぎるのに気づいたとされています。ヒンドゥー教において、宗教的な儀式の重要な要素として用いられるバングー(bhang; 大麻の葉や種子)を取り扱う特別な許可が与えられており、儀式の間に吸ったり、あるいは飲み物に加えられたりしています。春の祭典であるホリ(Holi)では、一般のインド人がバングーを加えた飲み物を飲む光景がよく見られます。
カンナビスの薬効は、インドにおいて数千年前から知られていました。例えばその鎮静作用がヴェーダ(Veda; 古代インドの一連の宗教文書)に詳細に記述されており、伝統医学であるアーユルヴェーダでも使用されています。インド伝統医学省(アーユッシュ庁とも。AYUSHはアーユルヴェーダ、ヨガ、ナチュロパシー、ウナニ、シッダ、ホメオパシーの頭文字)は、医師だけでなく、免許をもった施術者にもカンナビスエキスを処方することを許可しています(ただし、カンナビスは毒性のある物質に分類されており、他の成分を含む化合物として投与する必要があるとされている)。
バラナシ、リシケシュ、プシュカルなどの聖地においては、販売ライセンスをもつ小売業者が、飲み物に加えたり、あるいは医療目的として販売することもできます。ただし、果実や花冠は違法のままで、政府の請負業者は、自生している葉や種子を採取できるものの、植物そのものを栽培することは禁止されたままなのです。
The business of bhang
スタートアップの挑戦
ジャハン・プレストン・ジャマスが、ビジネススクールの同級生6人とともにBohecoを立ち上げたのは、2013年1月のことでした。それ以前のインドには、この国のカンナビス市場のもつ巨大な可能性を利用しようとする企業はありませんでした。
インドの各都市は、カンナビスの自生地であるとともに、伝統的な背景からその特性がよく理解されているうえに、消費率についても世界で最も高い部類に入ります。
保守的に見積もっても、市場は“巨大”です。インドの社会正義・エンパワーメント省(Ministry of Social Justice and Empowerment)が発表した2019年の報告書(PDF)によると、インド人3,100万人が「1年以内に大麻を使用したことがある」と答えており、そのうち2,200万人がバングーを、約900万人がガンジャを消費しています。
この数字は、インドの人口13億人からすると“大海の一滴”といえるでしょう。しかし、全人口のうち6億人が若い中産階級で、彼らの多くがカンナビスに親しんでいることを考えると、その可能性は大きなものだと考えられます。娯楽用にとどまらず、ヘルスケアや医療用製品としての未来があるのです。
現在の試算では、数千エーカー規模でカンナビスを生産するには、5〜10年の歳月が必要だとされています。同時に、Bohecoの試算によると、今後5年間で、産業用大麻と医療用大麻(アーユルヴェーダと医薬品の双方)の経済効果は5億〜7億5,000万ドルになるといわれています。
インドでは人口の60%が農業に従事しており、雇用という点において最大の産業です。ただし、この産業がGDPにどれだけ寄与しているかというと、全体の15%に過ぎません。
この数字に、Bohecoは大きな可能性を見出しました。カンナビスは痩せた土地でも育ち、水の使用量も少なくてすむため、小規模農家にも大きな利益をもたらす可能性があります。「これは、インド人のエコシステムにとって計り知れない戦略的価値をもっています」と、ジャマス氏は言います。
「より多くの人を引き付けるためには、農業を十分に“セクシー”にするアイデアが必要でした」と、Bohecoの創業者のひとり、ヤシュ・コタクはQuartzに語ります。「それを実現するのに、大麻よりも優れた作物があるでしょうか?」
From old tradition to new business
伝統から産業へ
「わたしたちはただ新しい会社を立ち上げただけではありませんでした」と、コタク氏はBohecoを起業したときのことを振り返ります。「わたしたちが始めようとしていたのは、全く新しい産業だったのです」
何事も、ゼロから業界を構築するには「法的な枠組み」「研究」「商業化」の3つの分野における進展が必要です。そして、それはBohecoも同じでした。
同社ならびに他の類似企業は現在、繊維製品やウェルネス製品など、カンナビスを原料とした様々な製品を販売しています。企業のなかには、2020年初めに、CBDベースの治療に焦点を当てたアーユルヴェーダ・クリニックを開設したものもあるようです。しかし、その原料は栽培されたものではなく、自生している植物から採取しています。
政府は、産業用・医療用のカンナビスに関して、各州が独自の規制を設定することを認めています。北部のウッタラクハンド州は、2018年、初めて大麻の商業栽培を許可した州です。インドで最も人口の多いウッタル・プラデーシュ州が、それに続いています。ほかにもカンナビスの栽培を許可している州はいくつかあり、インドの28州のうち約半数が栽培の合法化を検討している段階にあります。
カンナビス産業のフレームワークをつくるのに、参照されるのは米国での事例です。現在米各州はTHC(大麻に含まれる主な精神活性化合物)の含有量0.3%を上限に、カンナビス製造を許可しています。しかし、インドで“野生的に栽培”されているものの多くはそれ以上のTHCを含んでおり、これまでのところ、政府との提携によるいくつかの研究が、栽培環境に関係なく、THC含有量がより低レベルのハイブリッド種開発に焦点を当てています。
農家を守るためには、その実現が不可欠だと、Bohecoのジャマス氏は説明します。栽培中にTHCが許容値を超えてしまうと、農家はその作物を焼却しなければなりません。農家は投資した分を失ううえに、別の作物に切り替えるのにも時間が必要です。
potential of being a global leader
インドの可能性
関係者の誰も、成り行きがスムーズに進捗しているとは考えていません。たとえば「Hempvati」の名前で活動するアクティヴィストのプリヤ・ミシュラは「地元企業は規制当局や研究者に市場を開放するよう働きかける必要がある」と、語ります。
彼女が危惧するのは、外国人投資家や研究者がインドで栽培されるカンナビスの多様性を利用して独自の医療イノベーションを成し遂げ、地元の生産者が利益を上げる機会を奪うことです。
「それは、世界ではiPhone 11があたりまえなのに、インド人だけがiPhone 3を導入するようなものだ」と、彼女はQuartzに言います。
この点においては、Bohecoのジャマス氏は、インドのカンナビス産業の未来を楽観視しています。彼は、主要政党からカンナビス合法化に対する支持を得ていると言います。1985年以前は完全に合法であったカンナビスは、この国の大半で文化として親しまれ、多くの人が治療薬としてカンナビスを使用した記憶をもっていると、ジャマス氏は言います。
「立法府の人間たちも、12月の寒い日に暖をとろうと母親や父親と座ってバングーの種をつぶし、チャツネをつくり、一緒に食べていた伝統について語っていますよ」
現在、カンナビス生産の世界的なリーダーになる可能性があるのはカナダでしょう。しかし、その日は今すぐに訪れるわけではありません。
Bohecoのコタク氏は「カナダは約10~15年前、この作物で世界をリードしていました。インドは今、まさにその分岐点にいるといえるでしょう」と言います。「2019年、カナダのカンナビス産業が70億ドルの売上を達成するまでに、同国は何年もの研究と事業開発を必要としました。わたしたちは、それをうまくやってのけるでしょう。あるいはもっと早くやれさえする」。そう、ジャマス氏は言うのです。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 感染か、卒業か。インドの大学教育助成委員会(UGC)は、コロナ禍にもかかわらず、国内のすべての大学が9月までに最終試験を実施することを義務付けています。UGCのガイドラインに則れば選択肢は2つ。オンライン試験を受けることができず、卒業を無期限に延期することもできない学生のために試験自体を延期するか、コロナの感染リスクを冒して登校するか…。学校の近くに住んでいる、もしくは高速インターネットにアクセスできる学生はまだよいですが、地元に避難した最終学年の学生にとって、これは危機的な状況です。具体的な対策が示されないまま、945の大学のうち194の大学がすでに期末試験を実施しています。
- 完全封鎖都市に列車が到着。7月24日から封鎖されていた北朝鮮の開城市に白米などの特別支援物資を積んだ列車が、8月7日の午後に到着したと報じられました。北朝鮮では新型コロナウイルス感染の疑いで4,380人が隔離されていると、世界保健機関(WHO)の関係者が証言した一方、北朝鮮の与党機関紙は、感染対策によりこれまでに国内で感染した人はいないと主張しています。
- コロナ対策のため、ドローンは空を飛ぶ。シンガポールで新型コロナウイルスの感染を抑えるために監視ドローンが導入されます。このドローンの重さは10キロで、人間の目が行き届かない路地や奥まったエリアでの異常を追跡するようプログラムされています。同国の感染者数は8月10日の時点で5万5,292人で「外国人ドミトリー」で集団生活を送る者が大半を占めます。ドローンを開発したイスラエルのAirobotics(エアロボティクス)によると、自動化された商用ドローンが大都市での飛行を許可されたのは初めてのこと。
- 最新5Gスマホ、破格のお値段。中国メーカーから5G対応の廉価スマホが続々と登場しています。なかでも安価なのが、OPPOが展開するRealme(リアルミー)の「Realme V5」で、価格は1,399元(約2万1,000円)。XiaomiとHuaweiは約1,500元(2万3,000円)の5Gモデルを発表しています。Realmeは約4,000万人のユーザーを擁する世界7位のスマホブランド。調査会社Counterpointによると、世界トップ10のスマホブランドのうち、第2四半期に売り上げを伸ばしたのはAppleとRealmeだけでした。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)
このニュースレターはSNSでシェアできるほか、お友だちへの転送も可能です(転送された方の登録はこちらから)。