New Normal:希望溢れる「酒とコロナの日々」

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。米国では、今、いわゆる「宅飲み」が増えたことで、家庭でのアルコール消費量が増加しています。ライフスタイルの変化は、消費そのものを変え、新サービス、新市場を生んでいます。

REUTERS/JORGE SILVA
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コロナウイルスのパンデミックにより、米国ではレストランやバーなどの外出先でお酒を飲む機会が減りましたが、人々の飲酒量は、パンデミックのあいだも変わらなかったようです(むしろ、増えている人も多い)。

市場調査会社モーニングコンサルが4月に実施した調査によると、米国人の大多数、とくにミレニアル世代は、パンデミックのあいだにも平時と同じかそれ以上の飲酒をしていたといいます。調査に答えた2,200人のうち約16%が平時よりも多く飲酒。しかし、人々は自分の飲酒を過小申告する傾向があるため、この数字は実際にはもっと高い可能性があります。

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アルコール乱用とアルコール依存症に関する国立研究所(NIAAA)のディレクターであるジョージ・F・クーブ博士は、過去の研究から、人々は「不安と苦境のとき」により多くのアルコールを飲む傾向があると『USA TODAY』に語っています。「パンデミック中のアルコールが増えるのは、ネガティブな感情に対処するためで、非常に危険だ」

しかし、パンデミック前から、飲酒は増加傾向にありました。2013年の米国人のアルコール消費量は2002年よりも多く、すべての人口統計学的グループにまたがっていました。これは、JAMA Psychiatry誌に発表された2017年の研究に基づいています。

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飲酒の頻度と消費量には、強い相関もみられます。米国疾病予防管理センター (Centers for Disease Control and Prevention)が最近発表した報告書によると、2018年には、米国の成人の66%が過去1年間でアルコールを消費していると答えていますが、そのうち約5%の人が大量に飲酒(男性は週14杯以上、女性は週7杯以上)していることが分かりました。

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At-home alcohol

宅飲みにシフト

お酒を飲み続ける人々は、「宅飲み」にシフトしました。ニールセンのレポートによると、ロックダウンがはじまってから、アルコールのオンライン販売は全国的に上昇。ただし、この現象は、スーパーになかなか行けずに「買いだめ」に走った影響もあると考えられます。

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宅飲みが増えたことで、自宅にアルコール飲料を届けてくれるデリバリーサービスの「Drizly(ドリズリー)」、「Minibar(ミニバー)」、「Saucery(ソーシー)」、「ReserveBar(リザーブバー)」、「Bevvi(ベーヴィ)」なども絶好調。ニールセンによると、ロックダウンになってから、これらのプラットフォームアプリを介したアルコールの注文は、250%も増加したといいます。

ボストンを拠点とするDrizlyは、パンデミック真っ最中の5月、売り上げ高が約400%も増加。その後、需要は停滞し始めていましたが、CEOのコリー・レラスは、人々の購買習慣が良い方向に変化しつつあると予測しています

「これまで人々は、他のオンライングローサリーやECサイトを利用していました。今回のパンデミックによって、今まで利用してこなかったアルコールのデリバリーに対しても、利用者は次第に順応してきています」

ウイルスへ感染への懸念もあり、缶入りのカクテルも人気になりました。20種類以上の缶入りカクテルを製造する大手メーカー、Cutwater Spirits(カットウォーター・スピリッツ)の3月の売上高は、2019年の同月と比較して70%以上増加。また、缶入りワインのスプリッツァーのRamona(ラモナ)は、3月7日から4月7日にかけて、前月と比較して232%の急上昇をみせたと『New York Times』は報じています

PHOTO VIA RAMONA
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A BUBBLY MARKET

セルツァーブーム

パンデミック期間中は、アルコールのなかでもハードセルツァー(アルコール入り炭酸水)好調でした。ニールセンのレポートによると、3月2日から22週間のいわゆる「パンデミック期間」に、約20億ドル(約2,200億円)の売り上げを記録。ビールの売り上げは、昨年の同期比で約11%の微増でしたが、ハードセルツァーの売り上げはなんと224%も増加しました。

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ハードセルツァーは、そもそもミレニアル世代を中心に人気が高まっていました。アルコール量はビールと同程度ながら低カロリーなのが、健康志向の彼らにウケたからです。

ソーシャルディスタンシングが必須となってからは、いざ集まってお酒を楽しもうというとき、缶入りの「White Claw(ホワイトクロー)」の方が、たとえばアペロールスプリッツをピッチャーでみんなで分けるよりもシンプルで安全です(さらに、その方が飲み代も安く済みます)。

ニールセンのレポートによると、現在のところ、White Clawや「Truly(トゥルーリー)」といったハードセルツァーブランドが同市場の約75%を支配しています。ただし、メジャープレイヤーの参入も始まっています。2020年には「Bud Light Seltzer」と「Corona Hard Seltzer 」が揃って発売されたほか、7月にはコカ・コーラが「Topo Chico Hard Seltzer」を新たに立ち上げ、中南米の一部の市場に向けて発売すると発表しています。

ANOTHER THING

酒の輸入減少

一方で、パンデミック中にはアルコール類の輸入が減少するという事態にもなりました。2020年第2四半期、米国が海外から輸入したアルコール類の輸入額は約18億ドル(約1,900億円)。2019年同時期の25億ドル(約2,600億円)と比較すると、30%近く減少しました。この減少はウイスキーの輸入が最も顕著で、50%近く減少しており、コニャックやブランデーも同様の落ち込みを見せています。

この業界を長年みてきた“アルコール博士”ことアダム・レヴィによると、この変化は主に3つの要因によるものだといいます。

REUTERS/ARND WIEGMANN
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まず、全国のバー、レストランがコロナウイルスの影響で閉店、あるいは客足が減少し、需要に影響したこと。あらゆる種類の酒類の需要が減少していますが、カクテルに使用される高級酒類の需要低下は顕著に表れています。なお、店頭での酒類の販売売り上げは増加していますが、家庭外(バーやレストランなど)で消費される売り上げの減少を補ってはいません。

2つめは、2019年10月にトランプ政権が欧州産のアルコール類に25%の関税を課した結果、その輸入が割高になったことで需要を減少される原因になっていることです。

最後に、国産品の品質(とくにバーボン)が上がり、種類も豊富になったため、米国人が海外ブランドに目を向けることが少なくなったことが挙げられています。これらの3つの要因を合わせると、輸入品のアルコールは崖っぷちに立たされてしまうのです。

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コロラドに拠点を置く酒類販売業者Speakeasy Wine & Spiritsのパートナーであるアリシア・ヴァーゴは、小規模なリカーブランドが最も打撃を受けていると言います。

「『Johnnie Walker』は店頭で手に入るし、『Tito』もオンラインで注文できる。しかし、バーが開いていなければ、クラフトリカーを試してもらうのは難しい」と言うヴァーゴ氏。彼は、消費者にとって購入前の試飲がいかに重要であるかを説明していますが、試飲が不可能になった影響が、米国の消費者にとって珍しいと感じるであろう海外ブランドのアルコールにとくに大きくあらわれていることがわかります。

THE PERFECT COCKTAIL

家でお酒をつくる

「家でお酒をつくる」という、新しいチャレンジを試みる人も多くいるようです。

ロックダウン中は、醸造所もクローズし、自家製ビールが復活(一方でクラフトビールのメーカーは売り上げが減少)。米国での自家醸造やワイン製造機器の大手サプライヤーであるNorthern Brewer(ノーザン・ブリュワー)は、ロックダウン期間中に売り上げが40%から50%伸びたといいます。なお、Technavioの最新調査レポートによると、家庭用ビール醸造機市場は、2020年から2024年のあいだに1,453万ドル(約15.4億円)の成長が見込まれています

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また、バカルディが所有するジンブランド「Bombay Sapphire(ボンベイ・サファイア)」のブランドディレクター、トム・スペイヴンによると、人々は自家製カクテルを好むようになっているようです。彼は、「ネグローニからクラシックなマティーニまで、シンプルな2~3種類の材料でカクテルをつくる人が増え、プレミアムミキサーの売り上げも大幅に増加した」と、CNBCに述べています

アルコール飲料を自宅で楽しむ人が増えたことで、関連するコンテンツも注目されています。

Spirits Network(スピリッツ・ネットワーク)の最高経営責任者であるニック・バズエルは、「クリエイティブなコンテンツ市場の成長を刺激している」と言います。同社では、テキーラやバーボンのドキュメンタリーなど、スピリッツに関する番組を登録会員向けに公開。紹介されている商品を、米国の50都市でオーダーから2時間以内に購入者に配達しています。バズエル氏によると、ロックダウンが始まって以来、アイリッシュウイスキーやテキーラの注文が急増し、会員数は500%増加しました。

一方、英国の酒造メーカーDiageo(ディアジオ)は、友人や家族とのバーチャルな集まりを計画している人のために、完璧なオンラインホストになるためのヒントを提供する「バーチャル・グッド・ホスト・ガイド」を実施しています。同社が抱えるスコッチウィスキーブランドJohnnie Walkerでも「Kitchen Sink Drinks」と題したソーシャルメディアキャンペーンを展開。自宅にあるカクテルの材料を投稿すると、バーテンダーがホームメードカクテルを提案してくれます。

「人々は新しい趣味や活動を模索している。お気に入りのカクテルレシピを自宅で再現したり、友人と一緒にバーチャルカクテルアワーを開催したりするなどの時間を過ごすようになった」と、Diageoの広報担当者はCNBCに対して述べています。

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また、バーテンダーのコミュニティを盛り上げるため、オンラインマガジン「Punch」は、読者と全国のお気に入りのバーテンダーをInstagramを通じて直接つなぐ企画「Tip Your Bartender」を開始。ユーザーはVenmoを通して各バーに“チップ”を送金できるのですが、そのチップと同額の寄付がレストランワーカーズ・コミュニティ財団に対して実施される取り組みでもあります。

パンデミックによって、人々は「お酒」に対してもクリエイティブな思考を使い、新しい楽しみ方を学んでいるのです。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 夏のジェットセッターのおかげで、ウイルスのホットスポットになった島。イタリア・サルデーニャ島における1日あたりの新規感染者数は、8月以前は数人程度を数えるのみでした。しかし、以降、約100人にまで増加。ローマを含むラツィオ州の保健当局によると、夏に同地に滞在して戻ってきた感染者は、同州における感染者総数の約半分、約1,250人だったと報告しています。ちなみに、元イタリアの首相シルヴィオ・ベルルスコーニもバカンスをその島で過ごしていたようです。
  2. 医療サービスも“ラグジュアリー”に。ニューヨークのマンハッタンにあるマディソンハウスでは、新築マンションの購入者に会員制のプライマリーケアと救急医療施設であるSollis Healthの1年間の加入を提供しています。もちろん、COVID-19の検査も自宅で行えます。
  3. マクドナルドの新しい試み。来年、英国のマクドナルドでコーヒーやホットチョコレートのようなドリンクを購入する際には、新しいオプションに気づくかもしれません。これまでの使い捨てカップの代わりに、再利用のために返却できるプラスチック製のカップとフタが展開される予定です。
  4. 職場内での公平性の向上。Instagramはプロダクトエクイティチームを立ち上げ、ダイバーシティ&インクルージョンのディレクターを採用しています。同チームでは、アルゴリズムの公平性を確保するだけでなく、公正で公平なプロダクトをつくるといったことが職責のひとつとして課されています。

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