Culture:「DM」が音楽業界を変える

Culture:「DM」が音楽業界を変える

Deep Dive: New Cool

これからのクール

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最近「DMから仕事のオファーがきた」という話をよく耳にします。アフリカではこのDM、「ダイレクトメッセージ」が音楽業界の流れを変えているようです(英語版はこちら)。

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Image: IKENNA NWAGBOSO/BANK MUSIC

ジョーボーイ(Joeboy)は、ナイジェリアで最もホットな新人音楽スターの仲間入りを果たす前、人気曲のカバーを自分のInstagramアカウントに投稿するような「シンガー志望」の若者でした。

2017年、エド・シーランの「Shape of You」をカバーした動画を投稿したところ、彼は新進気鋭のミュージシャンを支援するレーベル、emPawa Africaを主宰しているミスター・イージー(Mr Eazi)の目に止まりました。彼はジョーボーイにダイレクトメッセージ(DM)を送り、スカウトしてきたのです。

「彼は電話番号を送ってきて、『君の音楽が好きだから、連絡してくれ』と言ってきました」と、ジョーボーイは振り返ります。ミスター・イージーは彼にemPawa Africaへの参加を呼びかけ、ジョーボーイは20歳にして「アフリカで最もエキサイティングな若手アーティストの一人」になる道を歩み始めたのです。以降、彼はすぐにミスター・イージーが運営するBanku Musicと契約。ユニバーサル ミュージック アフリカとライセンス契約を結び、今年初めにデビューアルバム『Somewhere Between Beauty & Magic』をリリースしました。

DMは、国や大陸を越えたコラボレーションを「シームレス」にしていると、ジョーボーイは話します。Instagram、TikTok、Triller、WhatsAppなどのソーシャルメディアが、アフリカのアーティストのキャリア形成に大きな変化をもたらしているのです。アーティストたちは、ラジオでの放送や正式なレコード契約といった従来の方法にとらわれずに、視聴者を増やしたり、特集を組んだり、有益なパートナーシップを結んだりすることができるようになっています。

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Image: マスターKG ©️AFRICORI

世代や国を超えてアフリカのアーティストがつながることで、楽曲の生まれ方にも影響が生まれています。

グラミー賞を4回受賞しているアンジェリーク・キジョー(Angelique Kidjo)は、ミスター・イージーへのInstagramのDMがきっかけで、アルバム『Mother Nature』に収録される「Africa, One of a Kind」という曲が生まれたと語っています。キジョーは、米公共ラジオNPRの企画「タイニー​・デスク・コンサート」でザンビア生まれでボツワナ育ちのラッパー、サンパ・ザ・グレイト(Sampa the Great)のパフォーマンスを見たあと、彼にDMを送り、両アーティストによるトラックが生まれたと『Quartz』に語っています。

ナイジェリアのシンガー、ニニオラ(Niniola)とティンバランド(Timbaland)とのコラボレーション『Fire』は、Instagramへのコメント、そしてDMがきっかけだったと、ニニオラは『OkayAfrica』に語っています。グラミー賞を受賞したティンバランドが彼女の音楽を称賛し、ニニオラは彼と一緒に仕事ができないか尋ねる機会を得たのです。

また、ビヨンセ(Beyoncé)の2019年のアルバム『The Gift』には、2017年にリリースされたニニオラの楽曲『Maradona』のサンプルを使用した『Find Your Way Back』が入り、ニニオラの国際的な知名度が高まりました。

How social media is changing music

SNSが「変えた」

ソーシャルメディアは、曲の生まれ方や聴く場所を変えるだけでなく、共有の仕方も変えています。例えば、南アフリカで生まれたエレクトロニックミュージックの新たなジャンル「アマピアーノ」に関しては、WhatsAppを利用して、熱狂的なファンのあいだで曲を試したあと、デジタルミックステープを作成していました。

ユニバーサル ミュージック アフリカのサブサハラアフリカ地区デジタルディレクター、ニック・バーガー(Nic Burger)は、「オンラインプラットフォームを使えば、すぐに手頃な価格でエンゲージメントやフィードバックを得られます。アーティストとそのチームは、高額なミックスダウンやマスタリングの費用をかけることなく、レコードを完成させる前にテストできるのです」と話します。

TikTokやTrillerなどのプラットフォームでシングルがヒットすると、アーティストのエンゲージメントやオーディエンスの数が大幅に増加し、チャートでの成功やレコード契約の獲得につながります。

ジョーボーイは、ミスター・イージーと同じくナイジェリア出身のDJネプチューン(DJ Neptune)とともに制作した『Nobody』で、このことを身をもって体験しました。彼らは、Trillerでショートビデオを公開し、「#nobodychallenge」と題して、ユーザーにこの曲に合わせた独自のダンスビデオを作るよう呼びかけ、約600万件のビデオが寄せられました。「Trillerのようなアプリは本当に楽しいし、音楽を広めるうえで、デジタルマーケティングの非常に重要な要素になっています」とジョーボーイは話します。「比較的知られていない曲でも、世界的にヒットする可能性があります。この挑戦のおかげもあって、このシングルは米国やその他の国のチャートでも急上昇しました」

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Image: ジョーボーイ、DJネプチューン、ミスター・イージー

さらに大きな成功を収めたのが南アフリカ出身のマスターKG(Master KG)で、アンゴラのダンスグループFenómenos do Sembaがアンゴラの首都ルアンダで踊っている動画を公開した1年後に、『Jerusalema(feat. Nomcebo)』が爆発的にヒットしました。その後、YouTubeでは4億回以上、TikTokでは70億回以上の再生回数を記録しましたが、この数字は今でもヨエル・ケナン(Yoel Kenan)に衝撃を与えています。彼はアフリカのデジタル音楽配信会社アフリコリア(Africoria)のCEOであり、マスターKGをはじめとするさまざまなアフリカのアーティストを輩出、プロデュースしています。

ケナンでさえ、『Jerusalema』がどれほど大ヒットするものになるか予想できていませんでした。同曲はヨーロッパの複数の音楽チャートで1位を獲得し、2020年9月には「世界で最もShazamされた曲」となりました。

これにより、マスターKGは大きな影響力をもつことになりました。ワーナー・ミュージック・グループのエレクトラ・フランス(Electra France)が、『Jerusalema』のアルバムの独占権を購入。ケナンとマスターKGは、フランス・パリ出身のDJであるデヴィッド・ゲッタ(David Guetta)とセネガル出身で米国を拠点とするシンガーのエイコン(Akon)による「シャイン・ユア・ライト」のスーパーヒットに続いて、『Shine Your Light』を発表しました。

African TikTok stars

TikTokスター誕生

TikTokで大ブレイクしたアーティストは、このアプリがきっかけで、プラットフォームの「外」でも大きな成功を収めています。例えば、南アフリカ出身の19歳のタイラ(Tyla)は、パンデミックの前に録音した『Getting Late』という曲の成功をきっかけに、エピック・レコード(Epic Records)と契約しました。

2020年3月にロックダウンが始まると、彼女はTikTokのフォロワー数を増やすことに専念し、ゼロから同年12月末には45万人のフォロワーを獲得。2021年1月に公開した同曲のミュージックビデオは、現在のフォロワーの期待感を高めるだけでなく、新たなフォロワーの興味も引き、注目を集めました。同曲はYouTubeでは250万回以上再生され、TikTokでは80万人以上のフォロワーを獲得しています。

南アフリカのアーティスト、マックス・ハーレル(Max Hurrell)は昨年、シングル『When People Zol』がTikTokでトレンド入りし、その後、Apple MusicとSpotifyのストリーミングチャートでトップに。国内のラジオチャートでは7週連続で1位を獲得し、この曲はユニバーサル ミュージック アフリカと契約し、地元のレストランチェーンとの大規模な広告契約を獲得しました。

TikTokのアフリカ担当コンテンツ・オペレーション・マネージャーであるボニスワ・シドワバ(Boniswa Sidwaba)は、「TikTokでは、多くのコラボレーションや曲の発表が成功しています。南アフリカ出身のアーティストのジャサミール(Jasahmir)は、『AmaiPhone』という曲を作りましたが、これもTikTokで話題になりました。この曲は最終的に、携帯電話会社Vodacomの広告の一部として使用されました」と話しています。

ルールは変わっても、ゲームは変わりません。アーティストとオーディエンスをつなげることに変わりはないのです」と、先出のケナンは『Quartz』に語ります。「変わったことといえば、今日、オーディエンスと繋がる方法が非常に多くなったことです」

しかし、ケナンが指摘するように、それぞれのプラットフォームでは「異なる会話」が起こっています。Instagramで起こることとTikTokで起こることは異なりますし、違った種類の潜在的なオーディエンスを惹きつけます。「9歳から14歳までの若い世代は、『Fortnite』や『Roblox』に夢中になる傾向があります。どうすれば彼らと繋がることができるのか。もし彼らが1日3時間もそのプラットフォームで過ごしているなら、アーティストがそこで注目を浴びるようにしたほうがいいです」とケナンは話します。

そのため、TikTokはアフリカでの存在感とリソースを積極的に高め、アーティストが視聴者にリーチするためのプラットフォームとなるよう努めています。5月には、南アフリカで100人の黒人クリエイターを育成するためのインキュベータープログラムを開始しました。また、南アフリカ音楽著作権機構のSAMROと契約を結び、ミュージシャンの楽曲がプラットフォーム上で使用されるたびにロイヤルティが支払われるようにしました。これは、Facebook、TikTok、Snap Inc.などの大手ソーシャルメディアとライセンス契約を結んだ大手音楽会社の動きに続くものです。

例えば、アフリカの複数の地域をカバーする中国系のストリーミングおよびダウンロードサービスであるBoomplayと、ワーナー、ソニー、ユニバーサル ミュージックなどの大手レーベルとのあいだのライセンス契約など、大手レーベルとストリーミングサービスとのあいだのパートナーシップがさらに強化されています

Getting to a record deal

レコード会社との契約

先出のユニバーサル ミュージック アフリカのバーガーは、2020年のロックダウン開始時に、ハーレルの『Zol』をDMで契約しました。「彼が15秒のクリップを投稿したので、私はその曲を契約したいとメッセージしました。その後、すぐにSpotifyからApple、YouTubeまで、すべてのプラットフォームで公式にリリースされました」と説明しています。

ソーシャルメディアで大成功を収めるには、才能よりもアルゴリズムの成功が重要な場合があり、マーケティングや収益の面での成功は一瞬のことです。多くの人にとっての最終的な目標は、レコードやコマーシャルの契約であり、ミュージシャンを確立したレコーディングアーティストへと導くものです。

「これらのプラットフォームにおいて、バイラルヒットは非常に短いものです。私たちは、アーティストが収益化のオプションを最適化し、独自のアーティストブランドを構築できるよう、常に支援しています」とバーガーは言います。Universal Music Africaは、ハーレルの『Zol』の収益化を支援し、テレビコマーシャルを獲得することができました。

多くのアフリカのアーティストが、デジタルでの成功をきっかけにレコード会社との契約を結んでいます。先月、ワーナー・ミュージック(Warner Music)は、東アフリカのナンバーワン・アーティストと言われるタンザニアのアーティスト、ダイアモンド・プラトゥナムズ(Diamond Platnumz)と、彼の独立系レコードレーベルWCB-Wasafiとの新たなパートナーシップを発表しました。このパートナーシップのもと、ワーナー・ミュージックは、プラトゥナムズと彼のレコードレーベル、そしてエンターテインメント配給会社であるZiiki Mediaとコラボレーションして、さまざまな新作、ブランドパートナーシップ、カタログ、そしてライブや同期の契約を行っていきます。

レコード会社との契約は、アーティストがメジャーレーベルの「膨大なカタログ」のなかで迷子にならない場合のみです。というのも、今日ではリリース数が多すぎて、メジャーのなかでもプロジェクトやアーティスト間の競争が激しくなっています。そのため、アーティストには「いかにして目立つか」が必要になってきているからです。

そういったなかで、DMは迅速に人脈をつくるための強力な手段であることが証明されており、アフリカのテック業界でもすでにそれが実現しています。今年1月、エンジェル投資家のサヒール・ラヴィニア(Sahil Lavingia)は、ナイジェリアのスタートアップ企業であるCowrywiseに投資をしたいと考えた際、TwitterでDMを送り、同社が資金調達の目標を達成するのに貢献しました。米国のラッパー、ヨー・ガッティ(Yo Gotti)の言葉を借りれば、「DM内で盛り上がっている」ということになり、今後もしばらくはそうなるでしょう。

最後に。読者のみなさん、この記事で紹介した曲をSpotifyのプレイリストを聴いて、アフリカの「いま」をぜひ、体感してみてください。


COLUMN: What to watch for

コロナで転職した人々

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Image: PHOTO VIA NYPOST

『New York Post』では、パンデミックをきっかけにこれまでのキャリアから脱却し、新たな情熱的な仕事を見つけたニューヨークに住む4人を紹介しています。ここでは、ファッションデザイナーからガレージオーナー、オーガナイザーからカフェオーナー、肉屋からレストラン経営者、本とピクルスの販売者に向けたマーケティングへ転身した人々が登場しています。

ちなみに、ニューヨーク州では、2020年の間に約100万人の雇用が失われました。これは州の労働力の10%という驚異的な数字となっています。ただ、同州では15日、州内の18歳以上の70%がワクチンを少なくとも1回接種したとして、ほぼすべての制限を解除すると発表したばかり。通常モードな生活へと徐々に戻ってきているようです。

(翻訳・編集:福津くるみ)


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