電子決済が世界的に普及し、暗号通貨やステーブルコインの人気が高まるなか、一方の現金の未来は不透明になっています。こうした状況を受け、世界各国の中央銀行が独自のデジタル通貨の導入を検討し始めました。
この議論の中心にいるのがアフリカです。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)はひと言で言うと「国や地域の法定通貨をバーチャル化したもの」で、デジタル通貨を求める声は高まるばかりだという事実を各国政府が認めている証とも言えます。例えばナイジェリアでビットコイン使用が禁止されても個人間での取引が勢いを増していることからもわかるように、たとえデジタル通貨に対して不利な政策が施行されても需要の高まりは止まらないのです。
スイスのバーゼルに本部を置く国際決済銀行(BIS)は今月、南アフリカとオーストラリア、シンガポール、マレーシアの中央銀行がクロスボーダー決済におけるCBDC利用のトライアルを実施すると発表しました。この動きは、世界中の金融機関がCBDCを採用する後押しとなるかもしれません。
発表によると、このプロジェクトはBISが主導しているといいますが、これにより金融機関は中央銀行が発行するデジタル通貨を使って直接取引できるようになります。仲介業者が不要になるので、取引にかかる時間とコストが削減されます。アフリカがアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の実現に向けて動いているなか、これは大きな変革をもたらすことになるでしょう。
BISによるトライアルには複数の国が参加していますが、シンクタンクのAtlantic Councilが調査したところによると、ほかにもアフリカ9カ国がこのテクノロジーの実現可能性を検討しています。すでにガーナとナイジェリアは自国でCBDCを試験的に運用する計画を発表しました。
CBDCは、財政政策や金融政策の施行を容易にすると期待されています。例えばアフリカでは、CBDCによって銀行口座をもたない人びとも金融システムにアクセスできるようになり、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)が進むきっかけとなりえます。また、アフリカは送金コストが世界で最も高い地域としても知られていますが、取引コストを抑えられるCBDCには、この大陸の巨大な送金市場での大きな役割が期待できます。
とはいえ、通貨のデジタル化は容易ではありません。アクセシビリティやプライバシー、どのようなアーキテクチャを採用するかといった問題もあるからです。
そうしたなか、南アフリカが参加しているトライアルはこのテクノロジーを最大限活用する方法に関する理解を深め、不安定で絶えず変化を続けるこの分野を後押しすることでしょう。
QUARTZ AFRICA INNOVATORS 2021
アフリカの女性開拓者
アフリカで最も野心的で想像力に富んだ人たちを紹介するシリーズ「Quartz Africa Innovators 2021」も、今年で6年目。今年のQuartz Africa Innovators 2021は、女性アーティストや活動家、投資家、起業家に焦点を当てたリストとなっています。彼女たちのイノベーションは、コミュニティや国、そしてアフリカ大陸がこの困難な時期を乗り越える一助となっているのです。
18カ国のさまざまな分野を代表する20人以上の女性たちは、アフリカ大陸の何百万人もの人々の力強さや起業家精神、レジリエンスを象徴しています。そしてそのイノベーションは、大胆なアイデアと確固たる行動力をもつ女性たちが主導権を握ったとき、どのような可能性が開かれるかを示すものです。
🎙Quartz Africaの編集者であるCiku Kimeriaは世界経済フォーラム(WEF)のポッドキャスト「Radio Davos」のなかで、「Quartz Africa Innovators 2021」について、そしてアフリカ大陸の女性イノベーターたちがいかに持続可能な開発と気候変動対策に貢献しているかについて語っています。
Stories this week
今週のアフリカ
- 中国、自国の企業の処罰に動き出す。コンゴ民主共和国が違法行為を理由に複数の中国企業に創業停止を命じたことを受け、北京はそれら企業が罪を犯していた場合には制裁を科すことを発表しました。中国が自国企業の海外での活動を非難することはほとんどありません。
- アフリカの巨大製薬会社の未来。アフリカのゲノムは人類史上最も古く、最も多様性に富んでいます。しかし、そのデータがゲノム研究や医薬品研究に利用されることはほとんどありません。米国とナイジェリアを拠点とするスタートアップで、最近2,500万ドル(約27.5億円)の資金調達に成功した54geneは、多様なゲノムを解析することで製薬業界に新たな知見をもたらそうとしています。
- スキップされる2回目接種。ケニアでは9万人以上が新型コロナウイルスの2回目接種を受けていません。より効果的だと感じられるワクチンを接種したいがために、人びとが意図的に2回目の接種を避けているのではないかとケニア政府は懸念しています。現在政府は、ワクチン接種プラットフォームやボランティア、地域警備活動などを通じてワクチン接種を進めようとしているところです。
- ナイジェリアのパーム油産業を立て直す。塗料や石鹸、バイオ燃料、潤滑油などの原料となる植物油。ナイジェリアでは、小規模農家からパーム油を調達することが難しくなっているといいます。こうしたなか、最近400万ドル(約4.4億円)の資金調達に成功したReleafは、特許申請中の独自の脱殻技術を採用した「スマート」な工場でこの問題を解決しようとしています。
- イギリスがAfCFTA支援へ。イギリスのアフリカ担当大臣はAfCFTA事務局と覚書を交わし、アフリカの画期的な貿易協定であるAfCFTAの成功にイギリスが尽力することを正式に表明しました。
CHARTING NIGERIA’S KIDNAPPING PROBLEM
チャートでみる
ブハリ大統領の出身地でもあるカツィナ州では昨年、学校で教師や生徒が誘拐される事件が国内で最も多く発生しました。ナイジェリア北部の2州では、深刻化するこれらの犯罪行為に対処すべく治安当局が奔走中です。取り締まりの一環として、この2つの州では通信サービスが停止されました。
通信サービスの停止により、「通信事業者は収益面で大きな打撃を受ける」と、SBM Intelの主席セキュリティアナリストであるコンフィデンス・マクハリー(Confidence MacHarry)は語ります。同氏はまた、中小企業も機能不全に陥っているともしました。しかし住民のなかには、平穏な暮らしが戻るのであればこのトレードオフを歓迎する人もいるといいます。
Dealmaker
今週のディールメーカー
- イギリスの開発金融機関であるCDCグループが、アフリカのファンド2社に6,000万ドル(約66億円)を投資。南アフリカを拠点とするVantage Capitalが運営するファンドに3,000万ドル、チュニジアの資産運用会社BluePeakに3,000万ドルという内訳です。今回の出資は、CDCグループがアフリカの市場に商業投資家を誘致することを目的に掲げる「アフリカ・プライベート・クレジット・ファンド戦略」に基づいています。
- エジプトのEコマース企業であるCapiterが、シリーズAラウンドで3,300万ドル(約36億円)を調達。Quona CapitalとMSA Capitalがリード投資家となり、Savola、Shorooq Partners、Foundation Ventures、Accion Venture Lab、Derayah Venturesが参加しました。Capiterによると、同社のプラットフォームには5万以上のマーチャントが登録しており、2022年に年間売上10億ドルを達成することを目標としています。
- Eコマースといえば、ナイジェリアを拠点とするOurPassも100万ドル(約1.1億円)の調達に成功しています。OurPassは顧客が商品をカートに入れてからログアウトするのではなく、購入を完了するようなチェックアウト体験をデザインすることを直近の目標としています。プレシードの資金調達にはTekedia Capitalとフォーチュン500に名を連ねる企業のエンジェル投資家たちが参加しました。
QUOTABLE
今週の一言
当行はそのような計画を考えたこともなければ、今後計画することもないことを重ねて申し上げます。いま流布している憶測は、外国為替市場にパニックを引き起こすことを目的とした完全に誤った情報です。
「ナイジェリア銀行(CBN)が個人のドル建て口座を強制的にナイル建て口座に転換する」という噂が流布していることを受け、同行が発表した声明。ナイラは多くの問題を抱えていることで知られていますが、これまでCBNはナイルを強硬に守ろうとしていたことから、多くの人がこの噂を簡単に信じたと考えられています。
ONE BIG NUMBER
今週の数字
820,000
新型コロナウイルスの感染拡大中にトーゴ政府が始めたモバイルマネーによる現金給付プロジェクトの恩恵を受けた人の数。同国の人口の約12%にあたります。新型コロナウイルスをきっかけに、多くの開発途上国でデジタルキャッシュ革命が始まりました。
Other things we liked
その他の気になること
- アフリカに残る9.11の遺産。20年前に起きたアメリカ同時多発テロ事件のあと、アフリカ諸国の政府はテロ対策を求める声が世界的に高まったことを利用し、市民社会に制限を課し反対意見を押しつぶす法律を制定したと、クガラレロ・ゲーベー(Kgalalelo Gaebee)とデビッド・コード(David Kode)が『AfricanArguments』で伝えています。例えば、セネガルの「反テロリスト」法は、「公共の秩序を著しく乱す行為」を禁止するものです。
- アフロビートの女王。過去10年でアフロビートは世界に広がりました。しかし、このジャンルに多様とエネルギーを与えた女性アーティストたちの存在は見逃されがちです。R&BシンガーのBrandyとのコラボレーションがヒットし、2019年にはユニバーサル ミュージックと契約を結んだナイジェリア出身のシンガー、ティワ・サヴェージ(Tiwa Savage)はキャリアの早い時期にエンタテインメント業界に新たな基準を打ち立てました。そんなTiwaの作品はいま、新たな方向へと歩み始めていると、ジョーイ・アカン(Joey Akan)が自身のニュースレター『Afrobeats Intelligence』のなかで語っています。
- 冷戦時代のコンゴで決行された秘密作戦。ジャズミュージシャンのルイ・アームストロングが、独立直後のコンゴ共和国におけるアメリカの冷戦戦略に知らず知らずのうちに協力していた──。そんな知られざる事実を、ライターのジェイソン・バークが作家スーザン・ウィリアムズ(Susan Williams)の新刊に関する『The Guardian』紙の記事で詳報しています。
- 石油トレーダー、共犯者に反旗を翻す。グレンコア(Glencore)の西アフリカ石油取引デスクの責任者で、12年にわたってアフリカの政府関係者や仲介者に数百万ドルの賄賂を支払っていたアンソニー・スティムラー(Anthony Stimler)。その彼は現在、米国司法省によるグレンコアと社員の調査に協力していると、クリスチャン・バーテルセン(Christian Berthelsen)、ハビエル・ブラス(Javier Blas)、ボブ・ファン・ヴォリス(Bob Van Voris)による『Bloomberg』の記事が伝えています。
ICYMI
TODOリスト
- アフリカのエンタメの未来を考える。9月27日に開催予定のInvest Africaによるウェビナーでは、専門家たちがアフリカのエンタテインメント業界のいまや業界のテクノロジー利用、未来の方向性や潜在的な課題について議論します。
- AfDBと手を組む。10月12日、13日にはアフリカ開発銀行(AfDF)の「Virtual Business Opportunities Seminar」が開催されます。このセミナーでは、個人やコンサルティング会社、土木工事業者、製造業者、サプライヤー、商務官などが同行とコラボレーションのもとで製品やサービスを展開する方法を学べます。
🎵 今週の「Weekly Africa」は、ナミビアのMusketeers Feat. Azariaによる「Shake Your Head」を聴きながらお届けしました。日本版の翻訳は川鍋明日香、編集は年吉聡太が担当しました。
📺 『Off Topic』とのコラボレーション企画、4回連続ウェビナーシリーズの第2回は9月28日(火)に開催。詳細はこちらにて。先日開催した第1回のセッション全編動画も公開しています。