2年前の2020年1月、Quartzでグローバル経済の見通しについてレポートしたときには、債務問題や貿易戦争、中国の景気減速などを伝えるなかで、いくつかの予測困難な要因をリストアップしていました。その最初に挙げたのが新型コロナウイルスでしたが、2020年も、そして2021年も、世界はこのワイルドカードに左右されることになりました。
7日(金)に配信する予定のニュースレターでは、より「予測しやすい」リスクを取り上げる予定ですが(例えばCOVID-19の今後はもちろん、中国恒大集団の経営危機などなど……)、わたしたちの目の前には、ほかにも気がかりなシナリオが。今日のニュースレターではこの4つのワイルドカードをお伝えします。
いずれも必ず実現するとは限らないものの、2022年の経済に衝撃を与える可能性は大いにあります。
Table of Contents
- リモートワークの危機
- テックバブルの崩壊
- クリプト取締りが強化
- 戦争が、はじまる
#1 Hybrid work gets hacked
リモートワークの危機
by Nicolás Rivero
昨年半ば、世界ではサイバーセキュリティが一気に注目を集めました。5月にはランサムウェアギャング(ランサムウェアを用いるサイバー攻撃者)が米大手石油パイプラインのコロニアル・パイプラインをハッキング。7月には米KaseyaのIT管理ソフトウェア「VSA」に攻撃を仕掛け、同ソフトウェアを使用する1,000以上のグローバル企業のネットワークに侵入。いずれも大きく報道されました。
サイバー攻撃の被害と注目度は日増しに高まっています。にもかかわらず、企業のサイバーセキュリティ強化は遅々として進んでいません(時代後れのITインフラ頼りの大企業にとって、対応にコストと時間がかかるのはしかたがないことなのかも)。2022年になっても脆弱性は多く残っており、半年前と同じ被害が繰り返されるのは容易に想像できます。
2021年、世界はハッカーの巣窟(特にロシア)に対して、有効な手立てを打てませんでした。ランサムウェア集団には、「ホスト国の地政学的なライバル」(つまり米国)への攻撃を仕掛ける拠点がまだまだ残されています。米当局が昨年のうちに解散させたと主張するハッカー集団も、2022年には新たな名称で復活する可能性が高いです。
さて、いまやわたしたちは、自宅やコワーキングスペース、あるいは世界中のコーヒーショップからネットワークに接続できます。これはつまり、企業のサイバー防壁が破られるポイントがさらに増えることを意味します。
ハッカー集団の手口もまた、さらに巧妙になるでしょう。近年、サイバー犯罪者は多様な経済圏を構築しています。あるグループは標的の偵察に特化し、別のグループは企業ネットワークをターゲットとするウイルス開発に注力し、別のグループが被害者との交渉を行う……といった具合に。さらに、より専門性の高いグループが現れ、大手ソフトウェア提供会社に対するサプライチェーン・ハッキングを仕掛けたり、企業のデータを盗み「身代金」を要求することもあるでしょう。盗んだ企業データに含まれる情報からその企業を脅迫するなど、より手口も先鋭化するでしょう。
昨年のパイプライン攻撃のような大きな話題は、氷山の一角に過ぎません。2022年、被害者はますます高騰する身代金を(そしてサイバー保険料も)、報道されぬまま静かに支払い続ける年になることでしょう。
#2 The tech bubble bursts
テックバブルの崩壊
by Walter Frick
2022年のテック産業は相変わらず好調となるでしょう。おそらく。
昨年は、世界中でベンチャーキャピタル(VC)の投資額が記録を更新しました。予測筋は2022年にテック系スタートアップがさらに多くの資金を調達すると予想しています。その資金の多くは、いわゆる「オルタナティブ」VC(ヘッジファンド、プライベートエクイティ、テックベンチャーに投資する企業)からもたらされています。
このテックブームが終焉を迎えるとすれば、兆候として想定されるのは、これらオルタナティブVCがテック以外の分野を優先しスタートアップ投資を控えること。いざそうなれば、スタートアップは新たな資金調達ができなくなり、テック分野全体が見直しを余儀なくされるでしょう。
COVID-19感染が拡大した直後、一部のアナリストはオルタナティブVCは撤退するだろうと警鐘を鳴らしていました。しかし、実際には彼らは撤退せず、むしろVC投資額の最高値更新に貢献することになりました。しかし、2022年には、金利が上昇するとともに、パンデミックによって壊滅的な打撃を受けた分野にも復活が期待されます。これにより、投資家の関心が別に移るかもしれません。
ほかに、テック系企業に対する投資家の信頼を揺るがすようなことはほかにあるでしょうか? ひとつ考えられるのが、規制強化や大規模ハッキング、その他スキャンダルなどに端を発する暗号系テックのメルトダウンです。
先日、「テック系投資家」のキャッシー・ウッド(アーク・インベストメント)は、いまのバブルはテックブームによるものではなく、インデックスファンドに起因すると主張していますが、彼女は、2000年には「時期尚早」とされたテクノロジーが、20年後のいまになって成長する趨勢にあるとも述べています。
あるいは、彼女の主張の通りなのかもしれません(2001年、オンライン食品雑貨ショッピングを展開したWebvan〈ウェブバン〉が投資家から資金を集め、倒産へと至ったことを思い出してみれば……)。2022年、投資家がWeb3をWebvanと同じように「時代を先取りしすぎたアイデア」だと考えるようになったなら、テック投資から手を引き、より安全な投資先を探そうと考える人も出てくるかもしれません。
#3 Regulators on crypto
クリプト取締りが強化
by Jasmine Teng
2022年、暗号(クリプト)市場は「試練」に直面する可能性があります。
折しもビットコインが6万5,000ドル超の大台から転落し、規制当局はステーブルコインから取引所、高利回り暗号貯蓄口座まで、あらゆるものを取り締まろうとしています。
暗号米証券取引委員会(SEC)の委員長、ゲイリー・ゲンスラー(Gary Gensler)は、昨年、一貫してクリプト業界に懐疑的な姿勢を崩すことはありませんでした。ゲンスラーはクリプト業界を「Wild West(開拓時代の西部)」と呼び、規制強化を呼びかけましたが、今年、その約束を実行する可能性は高いといえます。
現時点においては、クリプト業界のあらゆるセクターが、どの金融規制当局の管轄下にも正式に置かれていません。ゲンスラーは、暗号トークンは「証券」であってSECの規制対象であるとの見解を示しています。
また、取引所や融資プラットフォーム、分散型金融プロトコル(DeFi)に対するSECの監督強化も提唱しています。実際に、CoinbaseやBlockFi、Celsius、Uniswapといったよく知られたクリプト企業は、昨年時点ですでに規制当局の監視下に置かれており、Coinbase にいたってはSECの警告を受けるかたちで融資製品を停止しています。
一方のクリプト擁護派は、SECの方針は明確さに欠けるとして批判しています。が、今年、より明確な政策が示されることで、クリプトビジネスがより息苦しくなる可能性は否定できません。
2021年、中国ではクリプトに関連する活動が「違法」となりました(9月に中央銀行などが暗号資産の取引とマイニングを全面禁止すると発表)。しかし、クリプトの世界的な勢いが減速することはありませんでした。もし米国が──中国同様に、強い影響力を誇る金融セクターと世界最大のVC市場をもつ経済大国ですが──、同様の厳しい措置を取るとすれば、クリプトはメインストリームから消え去る可能性もありえます。
#4 War breaks out
戦争が、はじまる
by Tripti Lahiri
2022年の幕が開け、欧米が固唾をのんで見守っていること。それは、12月以降のウクライナとロシアの国境で何が起きているのか、ということです。
昨年4月、ロシアはウクライナ国境付近に兵力10万人以上を集結させましたが、アナリストによれば、この動きは、西側諸国の対ウクライナ政策に対する反発だとされています。モスクワは、ウクライナがNATOに加盟しないという保証を求めていますが、これは西欧にとっては受け入れがたい要求です。
世界経済にとっても、ロシア侵攻はすでに脅威を及ぼしています。ドイツでは、ロシアからウクライナを経由して自国に天然ガスを供給するパイプライン「ノルドストリーム2」の開通が間近に迫っています。米国は、ロシアに対する経済制裁としてパイプライン稼働の阻止を検討しているとされていますが、これがガス価格が高騰する欧州と米国との亀裂を深めることにもなりかねません。
また、戦火の火種はロシア/ウクライナ以外にも。まず、エチオピアは1年以上続く内戦の真っ只中にあります。エチオピアが経済的に破綻すれば近隣6カ国が難民危機に陥り、その影響はアフリカ大陸全体に及びます。インドと中国の国境では、2020年に起きた紛争で双方の兵士が死亡し、緊張関係が続いている。中国本土ではここ数カ月、台湾との「統一」に関するレトリックが目立つようになってもいます(ただし、多くのアナリストは、このことが北京が実際に侵略を望んでいることを意味するのかどうかは疑問視していますが)。
さらに、戦争によるリスクは、戦争が終わった時点で終わり、というわけではありません。アフガニスタンでは、米軍が撤退しタリバンの支配が始まったことで、恐怖と飢餓に苛まれることになりました。タリバンがアフガニスタンに再び過激派を送り込むことになれば、この1年どころか今後数年間、不安定な情勢となるでしょう。
もっとも、グローバル経済に多大な影響を与えうる戦争は、すでに数年前から繰り広げられています──多くの人が「新冷戦」と呼んでいる、米中間の経済的・戦略的優位をめぐる駆け引きです。
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