Quartz Japanでは、普段は有料のニュースレターでコンテンツをお届けしています。昨今の社会情勢を鑑み、感染の拡大による社会的・経済的なインパクトを伝える「Need to Know: Coronavirus」と題したニュースレターを日本語でも配信開始しました。
さらに今回は、緊急特集として、新型コロナウイルス拡大が世界に与えている影響を皆さんに広く伝える記事を無料公開します。Quartzの特集コンテンツであるObsessionのひとつ〈Being Human〉シリーズから、米国の「貧困」を伝える特別版です。英語版はこちら。
誰のための“支援”か
新型コロナウイルスのパンデミックは、生活のあらゆる面に影響を及ぼしています。そして、米国市民はこの国の社会機能にある醜い真実に直面しています。
ひとたび危機や緊急事態が発生すると、米国に社会的セーフティネットが存在しないことがはっきりと浮き彫りになります。ここ数十年間で最も感染を拡大しているこのウイルスは、同時に米国の社会的脆弱性をさらしているのです。
そのうちの一部に対して、米国議会とホワイトハウスが3月13日に合意した包括的支援策で対処されることになっています。
米国下院議長ナンシー・ペロシによれば、この包括支援策には健康保険に加入していない市民への無料のコロナウイルス検査と食料支援およびメディケイド(低所得者に対する公的医療保険制度)への資金供給に加えて、「2週間の有給の病気休暇と最大3カ月の有給の家族休暇および医療休暇」が含まれます。
しかしこの解決策は、米国民は日ごろから基本的保護を受けられないでいたという事実を強調しているにすぎません。New York Timesが指摘しているように、コロナウイルス法案の有給の病気休暇規定は従業員500人以上の企業には適用されないのです。これら大企業が、米国の労働者の半数以上を雇用しているにもかかわらず。
もっとも、こうした事実はなにも目新しい発見ではありません。関連ニュースを追っていれば、すでに明白な事実でしょう。Quartz newsroomは状況を説明する項目を挙げ、非常に主観的ではあるものの、次のようにリストアップしました。
住宅問題と食糧問題
- 欧米では学校が閉鎖されたため、米国最大の学区であるニューヨークでは、公立学校を閉鎖するにあたって数十万人の子どもが困難甚だしい現実と向き合わなければならなくなりました。
- New York Timesの報告によると、ニューヨーク市の学生のうち70万人以上が貧しい境遇におかれており、約11万4,000人がホームレスです。その多くは、食事や医療、さらには洗濯までも学校に依存しています。コロナウイルスが猛威を振るうニューヨーク北部の町ニューロシェルでは、ボランティアと州兵が助けを必要とする子どもたちに食事を手配すべく介入しなければなりませんでした。
- 学校閉鎖の問題は、ただ荷物をまとめて家に帰ればいいというわけではない多くの大学生にも、悲惨な結果をもたらす可能性があります。米国の大学生の半数以上は、住宅が不安定です。
- 米国民の多くは貯蓄がないため、差し迫った立ち退きまたは財産の差し押さえのリスクにさらされています。コロナウイルスの予防措置のために仕事ができない場合、状況はより一層深刻となります。一部の都市では、立ち退きの凍結を検討しており、ニューヨーク市の家主グループは今後3カ月間は立ち退き措置を停止することを約束しています。
有給休暇と特権
- 米国では、病気による有給休暇の権利は認められていません。パンデミックのない平常時であればそれは珍しくはありませんが、一部の企業は休暇ポリシーを変更しており、連邦議員はそれを支援策に含めました。
- 米国におけるデジタル格差は深刻です。学校が閉鎖されても、自宅で学習を継続できる生徒もいる一方で、インターネットにアクセスできないがために多くの生徒が学習を継続できないでいます。ペンシルバニア州では、全世帯の23%が高速インターネットにアクセスできません。
社会で最も脆弱な一面
- 特別養護老人ホームは、コロナウイルス感染に対して非常に脆弱です。そして、それは今後も変わらないものと予想されます。一方、米国には手頃な価格の高齢者ケアがありません。今のところ、裕福な高齢者またはその家族は、自宅で24時間のケア(またはそれに準じるもの)を行う余裕があります。しかし、そうでなければ、混雑した人手不足の施設に移動する必要があります。公式に記録されておらず“帳簿外”で働く在宅介護労働者が、病気による有給休暇を取れずにいるケースもしばしばみられます。
- 人口過密と劣悪な衛生状況にある刑務所・監獄は、ウイルス拡散の影響を非常に受けやすくなっています。一部の司法管轄区では、リスクを軽減するために抑留者を釈放していますが、他の司法管轄区では、ウイルスによって司法措置が遅れ、収容期間が長くなる可能性があります。この状況を、現金保釈制度を排除するべき理由として指摘している者もいます。この保釈制度は、米国でのみ採用されているものであり、過剰収監と不平等を生むものとされています。
- 一方、ニューヨークでは、囚人が手指消毒剤を生産する際に1時間あたりわずか16セントしか支払われず、刑務所労働の極めて低い賃金問題に直面しています。この感染拡大が最悪なシナリオに至ることになれば、ニューヨークの囚人が都市に暮らす人々のために墓を掘る必要が出てくることでしょう。
(Text by Hanna Kozlowska, Translation by Yusuke Konishi)
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