2019総括:「新語」で振り返る香港デモ

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2019年12月31日、2019年がいよいよ終わります。今日は特別版として、今年、世界のニュースを騒がせた「香港デモ」を新たに生み出された現地の「ワード」で振り返ります。英語版(参考)はこちら

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社会運動は、時として独自の言語をつくりだす。

参加者たちは具体的なボキャブラリーを創り上げ、仲間同士で円滑にコミュニケーションしながら一種の連帯感を生み出すのである。香港で起こっているデモ活動も同様のようだ。

この6カ月間、香港の共通語である広東語(中国本土で使われる標準中国語とは異なる)はデモ隊にとって統一とアイデンティティのための重要な役割を担ってきた。抗議の参加者たちは言葉を巧みに操り、鋭い風刺を絡めた幾重ものダジャレや語呂合わせと、記憶に残るチャント(短い詠唱)やスローガンをつくり出した。

今年、何百、何千という香港人たちの日常の言葉に仲間入りしたデモ関連ワードをご紹介したい。

 

黑警(haak ging)
“black police”

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「黒い」「腐敗した」警察という意味で、過度な暴力と権力乱用を繰り返す地元警察に対する香港市民の深い不信感と敵意を捉えている。この言葉は6月21日以降、より大きな意味を持つようになった

この日、武器を持った暴漢が地下鉄で一般市民を襲う事件が起きたが、警察は到着が遅れ暴行を阻止することができなかっただけでなく、暴漢を誰一人逮捕しなかったのだ。後にこの暴漢は香港の犯罪組織「黑社會」の一味であったことが分かる。そこで、警察と犯罪組織の癒着を疑うデモ抗議者たちは、「黒」と「警察」を合わせた造語をつくったのだ。

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和理非(wo lei fei)
“peaceful, rational, non-violent”

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「平和的、合理的、非暴力」である抗議者たちは「和理非」と呼ばれる。対立を最小限に抑えるため、彼らのデモは主に行進やショッピングモールでの合唱折り紙で鶴を折り、街中で人の鎖をつくるといったもので平和的だ。レンガを拾い集めて道路にバリケードを作ったりもする。

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勇武(jung mou)
“brave fighters”

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彼らはまさに前線で戦う者たちのことで、機動隊や警官と衝突したりバリケードの影から火炎瓶を投げたりとラジカルな活動をする。

初期から、「和理非」とより過激な彼らを団結させるべきだという動きがあった。デモ活動が進展し、デモ隊と警察双方の暴力がエスカレートしていく中で、二者の境界線は曖昧になっていった。

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手足(sau zuk)
“comrades”

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中国共産党でいう「同志」が香港のデモ隊にもいたなら、こう呼ばれることだろう。デモ活動の参加者たちは誰であれ活動の「手足」となる。全員が参加者で活動の一部であり、仲間を大切にするという意識も深まる。香港理工大学の包囲攻撃によって逮捕された地元の著名作家は「まさに手と足そのもの。身体の一部だから、無くしたら見つけなくては行けない」と話した

デモ行進などの最中によく耳にする言葉で、群衆に対して語りかけたり、戦力をまとめたりするときに使われる。

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甲由(gaat zaat)
“cockroach”

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香港警察はデモ隊、救急隊員、記者たちを総じて「ゴキブリ」のようだと呼ぶ。これは8月、香港警察隊員佐級協会の会長がデモ隊について「ゴキブリとなんら変わらない」と記述したことが発端とされる。

人間を非人間化する行為、特にそれが権力による場合は非常に危険なサインだ。ナチスはユダヤ教徒のことをネズミと呼び、ルワンダの虐殺ではフツ族が少数派のツチ族をゴキブリと呼んだ記録がある。

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狗(gau)
“dog”

非人間化は警察に限った手法ではない。デモ抗議者たちも警察のことを「イヌ」と呼び、パトカーを「イヌ車」、警察署は「イヌ小屋」と呼んでいる。警察署の入り口にドッグフードを撒いたり、警察官にドッグフードを投げつけたりする姿も見られた。

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獅鳥(si niu)
“lion bird”

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この言葉は「私了(公の手を借りず私で問題を解決するという意)」という中国語と同音異義語で、この場合は法廷外の処罰という意味になる。この行いは暴力に発展する可能性が非常に高く、問題視されている。しかし、このような自警団的正義は、特に警察への信頼を完全に失い、自ら立ち向かうしか術がない大衆にとっては重要な手法となる。

ある芸術家はこの「法定外の処罰」を獅子と鳥という架空の生き物でビジュアル化して発表した。

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暴徒(bou tou)
“rioter”

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香港と中国の政府は次第にデモ抗議者たちを乱暴な「暴徒」と表現し始めている。そう表現することで、今回起こっているデモは実は多くのサイレントマジョリティーの言葉を封じ込めるべくして一部のラディカルな大群が勝手に起こしているものだ、という印象を植え付けようとしたのだ。しかし最近の投票で民主派が圧倒的に勝利したことにより、政府の思惑は瓦解しつつある

自由閪(zi jau hai)
“freedom cunt”

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閪(hai)とは不敬に女性器を表す言葉だ。この言葉は6月に警察がデモ隊への侮辱目的で使ったことが発端となっているが、それ以降この言葉を逆手に取り、誇りの象徴としてヘルメット月餅からカリグラフィーにまで応用されている。

港豬(gong zyu)
“Hong Kong pig”

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侮辱的な呼称として、政治に興味を持たず仕事、食事、就寝、買い物、旅行などにしか時間を費やしない人をこう呼ぶ。しかし11月の投票での投票率は、デモ隊の持続的な活動と努力が、多くの「港豬」の目を覚ますことに成功したことの証明と言えるのではないだろうか。


【今週の特集】

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今週のQuartz(英語版)の特集は「Taming time(時間を飼い馴らす)」です。ビジネスが可処分時間の取り合いとなり、誰もが「時間が足りない」と感じる現代における、新たな時間との付き合い方を、Quartzがレポートしていきます。

最後になりますが、11月に日本版が誕生してからまだ間もないQuartz Japanを読んでくださり、有難うございました。皆様、良いお年をお迎えください!

(翻訳・編集:福津くるみ、写真:Twitter, ロイター)