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Africa Rising
躍動するアフリカ
Quartz 読者の皆さん、こんにちは。毎週水曜の夕方は、次なるイノベーションの舞台として世界が注目する「アフリカ」の今と、主要ニュースを伝えていきます。今日は、日本ではほとんど報じられていない「ルアンダ・リークス」についてお届けします。欧州の銀行やコンサルティング会社、ファッションブランドを巻き込んだ金の流れと、それを明らかにした「AI(人工知能)ジャーナリズム」の真価とは。英語版(参考)はこちら。
1979年から2017年まで国を統治したアンゴラの元大統領ジョゼ・エドゥアルド・ドス・サントス(José Eduardo dos Santos)の娘で、アフリカで最も裕福な女性であると知られる実業家のイサベル・ドス・サントス(Isabel dos Santos)。彼女の資産は推定21億ドル(約2,300億円)と言われている。
2020年1月、dos Santosがインサイダー取引、優先的貸付、馴れ合い協定を繰り返し、貧困国の一つであるアンゴラの公的資金から億単位の金を強奪したと、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)により明らかになった。
リーク文書はファイル数70万以上、データサイズにして実に356ギガバイト分にのぼる。彼女にまつわる一連のリーク騒動は「ルアンダ・リークス(Luanda Leaks)」と呼ばれ、波紋を呼んでいる。
なお、このリークに関して、dos Santosはすべての申し立てを否認しており、アンゴラ政府による嫌がらせだとしている。訴訟は、新しい司法年度が始まる今年3月から始まる予定。
4 points for this leak
4つのポイント
ICIJはこのリーク文書を20カ国以上、120人以上の記者と共有。8カ月をかけて調査とインタビューなどを行った。解読の結果、以下のことが分かった。
- dos Santosの不正を正当化するため、欧州諸国の会計士やコンサルタントが一役買っている。これは欧州諸国の規制が野放し状態だったので、正当化できた。
- 大手銀行が数社、dos Santosの不正を暴こうと動いたが、彼女はポルトガルの銀行株を大量に購入することで問題を回避した。一度EU圏に入ってしまえば、後は盗んだとされる金を自由に世界中のどこへでも移動することができてしまうのだ。
- 米大手コンサルティング会社アクセンチュアが、dos Santosに関連した会社のために5,000万ドル(約54億円)規模の仕事を請け負っており、同社の役員級の社員が汚職について彼女に申し立てをする内容のメールが確認された。
- dos Santosは「Dolce & Gabbana」を含む著名なファッションブランドの輸入代理店としての仕事をしており、ヨーロッパのエリート社会でも地位を築いていた。
リークが出回るなか、2019年12月にアンゴラの裁判所は、dos Santosとコンゴ生まれの夫Sindika Dokolo、Banco de Fomento AngolaのMario da Silva会長のアンゴラにある個人銀行口座、およびアンゴラにおける9つのアンゴラ企業からの出資を凍結した。
多数の会社がdos Santosに関わりがあるほか、彼女はUnitelやBFAといった大手企業から、スーパーマーケットチェーンであるCandadoや映画館、モールを運営する企業から10億ドル(約1,080億円)以上の寄付を受けている。
via Portugal
ポルトガルが鍵に
大手銀行からは口座開設を断られ続けたSantosだが、多数の株を所有していたポルトガルの銀行を通じてタックス・ヘイヴンであるマン島で口座を開き、モナコの不動産を購入した。
■dos Santosは、ユーロ圏危機の際にポルトガルの銀行株を購入している
不動産はマネーロンダリングにおいて利用されることが多く、通常であれば銀行は汚れた金がシステムに入ってしまうのを未然に阻止できる第一関門と機能する。
銀行がサントスの資金洗浄に手を貸した背景にはポルトガルの財政難と法制度の緩さがあり、銀行システムそのものがSantosのターゲットになり、利用されたのだ。
生き残るために必死であった銀行にとって、大口顧客の依頼を断るのは難しかっただろう。
銀行が不正を行っても、歴史的に見てもポルトガル政府がこれまで厳しい措置を取ったことがなかったことから、銀行がサントスから今回の依頼を受けたとき、将来的に国から罰金を科されたとしても、今回の案件はその罰金もカバーできるほどの利益を得られる、と考えたのではないだろうか。
The relationship with fashion industry
利用されたブランド
2015年から2016年の間に、dos Santosはファッションブランド「Dolce & Gabbana」の服合計78万ドル(約8,500万円)分と、その他のラグジュアリーブランドから250万ドル(約2億7,000万円)分以上の服を購入した。
ファッションブランドがその支払いを受けたことはもちろん違法ではないのだが、彼らは結果的にdos Santosとその一家による強奪によって利益を得る立場となってしまい、知ってか知らずか、その汚職に加担していた。そして、ヨーロッパのエリートたちの中で彼らが地位を築く手助けをしてしまったのだ。
「Maison Margiela」や「Marni」、「Moschino」などの高級ブランドからも大量に商品を購入したdos Santosは、商品をアンゴラの首都ルアンダに送り、彼女が経営するショッピングセンターで販売。彼女とブランドとの関係を尋ねると、「Dolce & Gabbana」の広報担当者は、彼らはクライアントの監査は行っていないと返答があり、その他のブランドからは返答を得られなかった。
購入手続きを行ったdos Santosの会社「Fidequity」とその企業のバックグラウンドについて「Dolce & Gabbana」が少しでも調査していたら、サントスの汚職に関する『Forbes』の調査の対象となっている会社だと分かっただろう。
しかし、ファッション業界では大金で商品を購入するクライアントは少なくなく、ブランドにとって重要なのは顧客のクレジットであり、金を支払えるかどうかの一点なのだ。商品がどこに並び、人の注目を集めるかが重要なのであり、購入資金の出所はあまり意味を成さないのだろう。
True or false
リーク解明のために
このようなリーク情報の内容を分析するのは、ICIJが得意とするところだ。だが、今回問題になったのは、その気の遠くなるようなファイルの数だった。
ICIJ、QuartzのAIスタジオ、協力団体の記者たちは協働して解決策を探求。我々は人工知能にすべての資料を読ませ、ある程度の想定内容に基づいてリークを見つけ出すシステムを作った。これは、ドキュメントのフォーマットやスペル、誤字脱字、言い回し、そして資料に使用されている言語に左右されずに文書を解読する仕組みだ。
コンピューターには意味を理解することはできない。だが、Universal Sentence Encoderと呼ばれるソフトは理解する“ふり”ができる。このソフトはあらゆる文章を、ベクターと呼ばれる512個の数字のリストに変換。ベクターの数字自体それぞれに意味はないのだが、複数のベクターを比べたときに同じ意味の文章があると、ベクター同士を近くにグルーピングすることができるのだ。
さらに、似たような意味をもつ内容の文章同士は、たとえ言語が異なっていてもベクター同士も似通っている。これは、英語とポルトガル語(アンゴラの公用語)の資料が含まれる今回の文書の解析では、非常に重要なポイントとなった。
このように、今回の「ルアンダ・リークス」は、現代のテクノロジーを駆使し、多くのデータを解析した結果を公に見せた。その調査は正しいのか……。dos Santosが一連の動きに対して今後、どのような対応をするのかが注目される。
This week’s top stories
今週のアフリカニュース4選
- アフリカ初の新型コロナウィルスの疑い。アフリカ西部のコートジボワールの保険当局が、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスへの感染が疑われる理由で、中国から到着した34歳の女子学生1人に対して検査を行っていることを発表しました。これは、アフリカにおいて初の事例となります。
- 美しい首都が消滅する? セネガル北西部にある世界遺産のサン=ルイ島の街、サン=ルイが消えてしまうかもしれません。調査によると、サン=ルイ地域の80%は2080年までに洪水の危険にさらされ、15万人が転居する必要があるそうです。また、1億500万人が住んでいる西アフリカの沿岸都市のほとんども、同様の脅威に直面しています。
- クリエイティブな仕事はアフリカで。2020年は、特にガーナとコートジボワールでの選挙によって、雇用の大きな約束が促されます。大陸全体での雇用創出が必要とされるアフリカでは、2030年までに労働年齢人口が10億人に達すると予想されています。そのなかでも、映画、音楽、ファッション、アートといったクリエイティブな分野は、アフリカの魅力を伝える上でも注目される業界になりそうです。
- オックスフォード辞書に追加された、ナイジェリアの英語。多くの英語圏のように、ナイジェリア人も独特な単語、フレーズ、意味を生み出しており、時間の経過とともに「ナイジェリアンイングリッシュ」として広く採用されています。例えば、ナイジェリアンイングリッシュでは「Next tomorrow」は「The day after tomorrow(明後日)」を意味します。
【Quartz Japan読者イベント開催】
読者の皆さんとのミートアップイベント「Voice Up」を開催します。
日時:2020年2月14日19:00〜
場所:都内某所
参加をご希望の方はこちらのフォームよりご応募下さい。応募多数の場合は、抽選とさせていただきますこと、ご了承下さい。
【今週の特集】
今週のQuartz(英語版)の特集は「The global economy in 2020(2020年のグローバル経済)」です。リーマンショックから10年以上が経つ中で、我々は今の経済を理解しているのか、そして次の景気後退の可能性とは、Quartzが独自にディープレポートしていきます。
(翻訳・編集:福津くるみ、写真:Quartz, ロイター)
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