Africa:ネットいらずの遠隔学習テック

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Africa Rising

躍動するアフリカ

Quartz 読者の皆さん、こんにちは。毎週水曜の夕方は、次なるイノベーションの舞台として世界が注目する「アフリカ」の今と、主要ニュースをお届けしています。 今回は、教育に対する意識を変えていく「エドテック(教育系テック)」との関わり方をレポートします。英語版(参考)はこちら

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Image: ULESSON

ナイジェリア政府が自国の教育に対してどんな優先順位をつけているかは、国家予算を見ればすぐに分かります。

昨年度、教育分野に割り当てられた予算は総予算290億ドル(約3.1兆円)のうちたったの10%で、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が開発途上国の教育費として推奨している26%を大きく下回っています

長年続く資金不足は教育のインフラを徐々に削ぎ落とし、特に公立学校では教育水準と質の低下が加速。国の教育システムの欠陥や、高等学校の生徒数に対する教師の絶対的不足を前に、ナイジェリアに住む親たちは学習不足を埋めるため、放課後に「レッスンティーチャー」と呼ばれる家庭教師を雇うのが主流となっています。

Edtech in Nigeria

Edtechの成長

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Image: ULESSON

しかしここ最近、ナイジェリアのテックシーン初期から中心で活躍してきたSim Shagaya(シム・シャガヤ)が、テクノロジーを利用した代替案を提供しようと動き出しています。

2016年、e-コマースサイト「Konga(コンガ)」でのテックベンチャー運営から退き、充電期間から復活したShagayaは、公の教育機関が機能しないために苦しんでいる何百万人もの学生たちに対し、オンラインとオフラインの教育材料の融合を目指すエドテック(Edtech、教育系テック)のスタートアップ「uLesson(ユーレッスン)」をローンチしました。

「現在の教育システムは量でも質においても、生徒へ提供される教育が以前と比べてかなり減少しています。つまり、そこに大きなマーケットがあるのです」と、Shagayaは話しています。

uLessonは約1年をかけてチームをつくり、録画した教育ビデオの準備やベータ版の試験を経て公開されました。

Online Education

オンライン教育

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Image: Photo by Santi Vedrí on Unsplash

ナイジェリアの教育分野において、長期的に続いてきた低迷が意味することは何でしょうか?

それは、エリートが通う私立学校や彼らが雇う高額の家庭教師から、手頃な選択肢ながら質としては公立学校より僅かに良質であるにとどまるものまで、オフラインでは教育は常に大きなビジネスであったということです。

しかし、ここ10年で、デジタルイノベーターや企業家たちはPrepClassPassNowNowなどのスタートアップをローンチしてきました。PrepClassは放課後の家庭教師と学生をつなげるマーケットを生み出し、PassNowNowは学生たちが無料で高校の授業内容や試験の過去問にアクセスできるプラットフォームを提供しています。

2019年10月、ラゴスを拠点に影響力をもつテックソーシャル・ハブのCCHubが、ラゴスから2時間ほどの街イジェブ・オデにあるタイ・ソラリン教育大学内にエドテックセンターを開設。「健全な社会の地盤となるのは教育です」と、開設にあたってCCHubの共同設立者Bosun Tijani(ボスン・ティジャニ)はツイートしました。

「アフリカのイノベーションシステムを形成し、教育改善のためのイノベーションやテクノロジーアプリケーションを加速させることが、教育全体の前進にとってとても重要なのです」

New Generation

教育の新時代へ

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Image: ULESSON

ULessonのサービスや機能はモバイルアプリで利用可能で、利用者は試験を受けたり、自身の学習過程を記録したりすることもできます。また、登録した学生たちはデータから学習科目を保存したSDカードを受領でき、オフラインでの学習も可能。SDカードに保存されたものは携帯電話でも確認できるため、ダウンロードやストリーミングに費用をかけずいつでも閲覧できるのが利点です。

他国でも見られる教育分野での予算不足を前に、Shagayaはアフリカ全土にuLessonを広げる熱意を見せています。

西アフリカの英語圏であるナイジェリア、ガーナ、シエラレオネ、ガンビアとリビアの中等学校は似通ったカリキュラムを使っており、卒業試験も西アフリカ試験協会規定のものを使用していることから、uLessonのサービスはすぐにでも利用可能だといいます。

スマートフォンやモバイルネット通信の価格が下がる一方で、ネットワーク通信で生じる質の差や、オンラインストリーミングでうっかり費用がかかってしまう、などの状況への対応としては「アフリカでは、録画されたものを提供するモデルが合っているようです」とShagayaは述べています。

ULessonは高品質なサービスの提供と年間80ドル(約8,640円)というサブスクリプション費用で、家庭教師市場を大きく引き離す見込み。このビジネスモデルの魅力は、投資家にも認められています。

ULessonは、2019年11月のシードラウンドで、TLcom Capitalを中心に310万ドル(約3.3億円)の資金を調達。なお、Shagaya自身が設立したKangaは、2010年代半ばのローカルスタートアップに対する懐疑的な評判が多い中で7,000万ドル(約7.5億円)を集めています。

Shagayaは、2018年の売却によって結果的に投資家たちに大きな損害をもたらしてしまったKangaよりも、uLessonを成功させると希望を抱いています。長きにわたって代替教育を求めてきたナイジェリアの人々は、uLessonにとってよいマーケットとなりそうなのです。

2018年だけでも、ナイジェリアの学生たちはアメリカで教育を受けるために5億1,400万ドル(約554億円)もの出費をしています。また、よりよい教育を受けるということが、ナイジェリアの中流階級層の多くがカナダやヨーロッパに移住する目的の一つとなっています。こうしたなかで、オンラインで教育を受けられることが、教育熱心なアフリカの人々にとって今後、重要なツールになっていくでしょう。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. モロッコでも新型コロナウイルス。3月2日、モロッコの保健省は、同国で最初のコロナウイルスの症例を確認したことを発表しました。ロイターによると、患者はイタリアに住んでいたモロッコ人男性現在、カサブランカの病院で治療を受けているようです。アフリカはほかに、セネガル、チュニジア、ナイジェリア、アルジェリア、エジプトで感染者が確認されています。
  2. Jumiaはもう立ち直れない? アフリカ11カ国で事業を継続し、顧客の獲得を追求し続けているe-コマースのJumiaが、100万ドル(約1億円)の損失をさらに報告しました。第4四半期の営業損失は前年比15%増の6,650万ドル(約71億円)でしたが、通年の営業損失は34%増の2億4,800万ドル(約270億円)でした。また、新型コロナウィルスの影響でも損失が拡大しつつあると報じられています。
  3. 超ポジティブなアフリカの若者。自国が多くの問題を抱えているのにもかかわらず、若いアフリカ人は未来について楽観的であることが分かりました。2020年度のアフリカ青年調査によると、アフリカの若者は「アフロ楽観主義」の傾向があると述べています。たとえば、回答者の82%が今後2年間で生活水準が向上すると考えており、81%がテクノロジーが国を変える主な要因になると予測しています。
  4. アフリカ初のNetflix作品『Queen Sono』が公開。南アフリカの主演女優、Pearl Suchiが主演するスリラー映画は、ケニア、ザンジバル、ナイジェリア、南アフリカを含む37カ所以上で撮影。南アフリカ・ツワナ出身のクリエイター兼エグゼクティブプロデューサーであるKagiso Ledigaが担当し、2月28日より公開がスタートしました。

【今週の特集】

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今週のQuartz(英語版)の特集は「Beyond student debt(学生ローンの先)」です。生涯学習の必要性が注目される中、教育の内容とともに、そのための学資金の集め方にも変化が求められています。借金に苦しむことなく、必要なスキルを習得できる未来をQuartzがレポートします。

(翻訳・編集:福津くるみ)

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