Africa:スタートアップは「ピボットか死か」

Africa Rising

躍動するアフリカ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。世界中でスタートアップが生き残りを賭け、戦っています。今アフリカで起きていることは、ここ日本でも起きうるのです。英文記事はこちら(参考)

REUTERS/TEMILADE ADELAJA
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Image: REUTERS/TEMILADE ADELAJA

「資金調査」についてのレポートだけではわからないことが、アフリカにはあります。

調査会社WeeTrackerのデータによると、2020年第1四半期、アフリカのスタートアップの資金調達は前年同期比で30%増とされていました。実際、南アフリカのフィンテック企業Jumoは5,500万ドルを、エジプトのヘルステック・プラットフォームVezeetaは4,000万ドルをそれぞれ調達していたのです。

しかし、COVID-19による経済的影響が顕在化しはじめた今、資金調達の減速が予想されています。

ケープタウンに拠点を置くスタートアップ・アクセラレーターAfricArenaは、2020年、アフリカのスタートアップの資金調達総額は40%も減少する可能性があると予測しています。レポートに記された最悪のシナリオによると、景気後退の影響は2021年まで続き、完全な回復は2022年までかかるとも予想されています。

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「現在はまだ多くの資金調達が行われていますが、影響は非常に大きい」と、パンアフリカのベンチャーファンドPartech AfricaのジェネラルパートナーTidjane Demeは言います。

Novastar VenturesのアソシエイトディレクターDotun Olowoporokuは「多くの投資家が今、非常に慎重になっている。そして、然るべき理由がある」と述べています。「コロナ後の世界がどのようなものになるのか、短期的にも長期的にも、まだわからないのだ」

shedding of fat

“脂肪”の削ぎ落とし

資金調達が減速することが予想されますが、投資の流れが完全になくなるわけではありません。

アフリカに焦点を当てたベンチャーファンドが保有する数百万ドルの資本は、まだ展開されていません。ケニア・ナイロビを拠点とするNovastar Venturesは、今月初めに東西アフリカのスタートアップを支援するために1億800万ドル(約116億円)のファンドをクローズし、Partech Africaも1億4,300万ドル(約143億円)のファンドを投資する初期段階にあるともされています。

しかし、投資家はそもそも保守的になっています。企業を評価し、支援する基準はさらに高くなるでしょう。

「スタートアップの資金調達案件には時間がかかりそうだ」と、Consonance Investment Managersの創業パートナーであるMobolaji Adeoyeは言います。「今後数カ月の間には“余分な脂肪”が切り捨てられ、資金調達のハードルも上がるだろう」

An evolving outlook

とはいえ、伸びる分野

資金調達レベルが低下し、パンデミックの影響でマクロ経済の見通しが変わると、アフリカ大陸でのスタートアップ投資が“どこに集まるのか”、おそらく変化するでしょう。

アフリカの8都市で事業を展開する国際的なスタートアップ・アクセラレーターThe Founder Instituteの共同創設者であるJonathan Greechanは、「全体的な投資額は減少するだろうが、特定のカテゴリーでは増加するだろう」と述べています。

すでにいくつかの分野では、必要性と安全性を理由にオンラインショッピングを利用するユーザーが増えて、大陸全体のEコマース企業が増加していると報告されています。

同様に、ロックダウンにより学校が閉鎖されるなか、オンライン学習ソリューションを提供するエドテック企業の注目度が急上昇しています。ナイジェリア、ガーナ、シエラレオネ、ガンビア、リベリアで事業を展開するエドテック企業uLessonのアプリダウンロード数は、立ち上げから3カ月で約25万件を記録しました。

世界的な健康被害・経済危機のなかで、投資家の関心はヘルスケアやフードサプライといった生活必需品レベルの問題に取り組むビジネスに移る可能性があります。ゲノミクス企業54geneの1,500万ドル(シリーズA)、ガーナの薬局在庫管理スタートアップmPharmaの1,700万ドルの調達、ナイジェリアの農産物加工企業Tomato Josの420万ドル(シリーズA)など、最近の投資は、トレンドが変化する前兆ともいえるでしょう。

その結果、年末にはセクター間の資金配分がより均等になり、過去3年間に見られたフィンテックの資金調達の優位性の拡大に歯止めがかかるかもしれません。

もっとも、今回のロックダウンによって、フィンテックがスタートアップだけでなく、銀行や小売業者などの伝統的な企業にとってどれほど重要であるかが浮き彫りになったことを考えると、主要なサブセクターがその主導権を維持する可能性が高いとモ考えられます。また、フィンテックは、特に十分なサービスを受けていない人々の間での金融包摂に影響を与えるという点でも、依然として重要であると考えられます。

特に、ケニアのM-Pesaのような非接触取引を可能にするモバイル決済会社は、現金が病気の媒介となりえるとの懸念が残るため、より多く採用される可能性があります。ナイジェリアのモバイルマネー企業Pagaは、感染が拡大して以来、モバイルウォレット登録数が300%増加したと報告しています。

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変化しているのは、スタートアップの分野だけでありません。資金調達ステージにも適用されます。

予測される資金調達の減速は、アーリーステージやシードステージの資金調達を求める企業にとって最もダメージを与える可能性があります。不確実性が高まるなか、投資家はリスクを回避しようと、実績があって確固たるビジネスモデルをもつ企業に傾く可能性が高いからです。

こうした現実は、大陸全体で見られるシードステージとグロースステージとの資金調達格差をさらに拡大させることになるでしょう。

シード期の案件数と調達額は増加しているものの、平均的なラウンドサイズは2015年以降、ほとんど変化していません。アフリカ企業に新たな資金調達先を“最も早い段階で”提供することを目的としたFuture Africa Collectiveのような新たな投資先が、シードステージの創業者にとっての選択肢を増やしているものの、関係者の間では、単に資金調達先が十分ではないという意識すら共有されています。

The more likely scenario

ありうべきシナリオ

ケープタウンを拠点とする投資家で、テクノロジー企業MethysではCEOを務めるChristophe Viarnaudが「より可能性が高いシナリオ」として挙げるのは、投資家が資金調達のライフラインを提供することで既存の投資先企業を「守ることに集中する」ことだといいます。

投資家にとっては、新たに投資の話を始めるよりも、既知の企業に社内ラウンドでフォローアップ資金を提供する方がはるかに簡単です。しかし、投資家がリスクを取ることに消極的なため、今後数カ月間で「アーリーステージの全スタートアップ」が失われることになると、Viarnaudは述べています。

市場の不確実性のなかで評価基準が歪められている可能性もあり、創業者にとっては投資を求めるには不利な時期となっています。

新興市場のフィンテック新興企業のためのアクセラレーターであるCatalyst Fundのグロース責任者であるAaron Fuは、「今年は新興企業のバリュエーションが低下し、ラウンドの規模も縮小するだろう」と予測しています。

実際、すでに他の地域でもこのようなことは起きていて、英国のデジタル銀行「Monzo」は、新たな資金調達ラウンドにおいて評価額が40%下落したとFinancial Timesは報じています

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Staying alive

死なないこと

サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)が25年ぶりの不況に突入するなか、アフリカ全土のテック企業は厳しい経済の逆風に直面することになるでしょう。Andela、Jumia、iROKOtv、Yocoなど、アフリカ大陸で最も資金力のある新興企業のいくつかは、すでにレイオフ減給無給休暇の取得などの人事計画を実施しています。

「創業者は“冬眠”の概念について真剣に考える必要がある」と言うのは、uLesson創業者Sim Shagayaです。「リソースを節約するために、基本的にはビジネスをスローダウンさせる必要がある」と、彼はQuartzに語っています。

スタートアップにとっては、収益の不足を緩和するために製品の提供を拡大するという戦術もありえます。ケニアでは、農場からの新鮮な農産物を小売業者に提供する企業間マーケットプレイス「Twiga Foods」が、オンラインマーケットプレイス大手のJumiaと提携し、消費者に直接配送することで、その領域を広げています。

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Image: REUTERS/LUC GNAGO

UberやBooking.comなどの大口顧客がロックダウン制限の影響を受けるなか、アフリカの8カ国で事業を展開する決済処理会社Flutterwaveは、中小企業や商人が立ち上げたオンラインショップの決済を支援する電子商取引ポータルを立ち上げました。

ケニアとナイジェリアで運営されている融資・投資アプリ「Carbon」は、毎月の貯蓄額と取引額のしきい値を満たしたユーザーに医療保険を提供しています。「今は、ピボットするか、それとも死ぬか、といったところです」と前出のJonathan Greechan(The Founder Institute共同創設者)は、成長の機会を最大限に生かす必要性について述べています。

急速な成長に象徴される10年間を経て、アフリカのスタートアップは最初の大きな危機に直面しています。

アフリカのいくつかの国では、社会保障に大きな格差が存在しています。ゆえに、スタートアップについても政府からの大規模な支援は望めそうにありません。フランスでは、危機の影響を受けたスタートアップが、政府からの40億ドル規模の支援計画に助けを求められるというのに。

「アフリカではそうした援助が不足しています」とDemeは言います。「アフリカのスタートアップは、どうやら自分たちで危機を乗り切らなければならないようです」

(翻訳・編集:年吉聡太)


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