Africa:GAFA課税のアフリカンルール

Wednesday: Africa Rising

躍動するアフリカ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。巨大IT企業の行き過ぎた節税を防ぐ「デジタル課税」。その国際ルールづくりは、今もって世界で難航していますが、アフリカの大国2国はいかに対応しているのでしょうか。英文記事はこちら(参考)。

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Image: REUTERS/ADRIANE OHANESIAN

アフリカでのインターネット利用は、2005年の2.1%から2018年には24%に急増し、世界的に見てももっとも高い成長率となりました。

この成長が意味するのは、FacebookやGoogle、UberやNetflixに至るまで、グローバルなテック企業がアフリカ大陸全体でデジタルサービスを展開し、拡大しているということ。

彼らテック企業は、いまだ小さなアフリカ市場を取り込もうとしているだけではありません。成長が期待されるアフリカの若年層、そしてさらに増えると予想される人口を考慮した、戦略的なポジションを取ろうとしているのです。

そんななか、アフリカの各国政府は、これらのデジタルサービスが自国内で利用された場合に税収を得ることができる枠組みを開発しようと躍起になっています(アフリカ以外の他の地域と同様に)。「デジタル税」を徴収することで、アフリカ諸国は、あまりに大規模で捕捉しきれないインフォーマルセクター(公式に記録されない経済部門)の存在ゆえに目減りしている地方税基盤を拡大できるようになると考えているのです。

Full speed ahead

全速、前進

収入源の多様化は、間違いなくメリットとなります。特に、財政を生鮮品の輸出に依存している一部のアフリカ経済にとって、大きな恩恵をもたらすでしょう。COVID-19によってサブサハラ・アフリカ地域が25年ぶりの不況に陥っている今、その重要性は増しています。

もっとも、ここにはひとつ、大きな問題が横たわっています。既存の法律や国際租税条約に規定がないため、多国籍テック企業への課税を設定し、実施するためのグローバルスタンダードが存在しないのです。

KPMGナイジェリアの税務・規制・人材サービス部門の責任者であるウォレ・オバヨミは「法律は今、追いつこうとしているところです」と言います。経済協力開発機構(OECD)は、各国が採用できる新たなグローバルな税制度の枠組みづくりに取り組んでいますが、先月、米国が協議から手を引いたことを受けて、この遅くとも前進してきたプロセスが成功する見通しは失われてしまいました。

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Image: REUTERS/AKINTUNDE AKINLEYE

もう少し、詳しくみていきましょう。世界的な(あるいは「大陸的な」)基準が確立されていないアフリカ諸国では、これまで、モバイル金融取引にかかる様々な税金や、通話やモバイルデータなどの通信サービスにかかる付加価値税などを通じて、間接的にデジタル事業に課税されてきました。

アフリカの中流階級の間でインターネットの利用が拡大するにつれ、UberやBoltのようなライドシェアの巨人から、WhatsAppやFacebookのようなソーシャルメディアプラットフォーム、AmazonやAlibabaのようなEC事業者、NetflixやSpotifyのようなストリーミングプラットフォームに至るまで、テック系の多国籍企業がアフリカのユーザーにサービスを提供するようになってきています。

これら企業の世界的な収益に占めるアフリカの割合は、まだごくわずかです。しかし、現地市場におけるこれらの企業の存在感と影響力は非常に高まっています。アフリカの政府が彼らを課税対象として注目するのも当然です。

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Change the game

形勢、逆転

アフリカ最大のインターネット市場で、テクノロジーのエコシステムが最も発達している国といえば、ナイジェリアケニアの2国が挙がります。両国は、実際、多国籍テクノロジー企業への課税計画を強化しています。

まず、ケニアにおいては2019年に財務法の範囲が拡大され、「デジタルマーケットプレイスを通じて得た所得」に対する税金が徴収されるようになりました。

今年7月初めに大統領が署名した新法では、ケニアにおいて所得を得るデジタルマーケットプレイスやプラットフォームに、取引総額の1.5%の「デジタルサービス税」が課されることになりました。後者は2021年1月から施行されます。“利益”ではなく“総取引額”に対するケニアの税金は重要で、「利益が出ないことで有名なUberのようなテック系の巨人をターゲットにしている可能性が高い」という声も上がっています。

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Image: REUTERS/SIPHIWE SIBEKO

アフリカ最大の経済大国であるナイジェリアでは、新たに可決された閣僚令(SEP令)によって、デジタル取引に関与している企業や、実店舗や子会社がなくても同国内でサービスを提供している企業への課税が可能になりました。

デジタルサービスによって2,500万ナイラ(約700万円)以上の総収入を得ている企業、ナイジェリアのウェブドメインを使用している企業、ナイジェリアでウェブアドレスを登録している企業、ナイジェリアのユーザーをターゲットにした広告やマーケティングを行っている企業、ナイジェリアの通貨でオンライン決済を行っている企業などが、「ナイジェリア国内に『重要な経済主体(significant economic presence)』がある」と判断され、課税対象となっています。

当然ながら、これらの規定がアフリカ大陸内の複数の国をまたいで事業を展開しているスタートアップにどのような影響を与えるのか、という疑問も生じます。

アフリカ12カ国に店舗を構えるパンアフリカ的なECの巨人、Jumiaを例に考えてみましょう。Jumiaはドイツで法人化されていますが、アフリカ各国市場での事業はすべて「現地法人として完全に登録されて」おり、「すでにすべての税金を支払っている」と、Jumiaの広報担当者は説明しています。同じことが、事業を展開する国で登録され、既存の税法の適用を受けているスタートアップにいえます(そして、Netflixのような大手テック企業は例外です)。

現地のスタートアップは二重課税のリスクにも直面しています。特にケニアでは、デジタルサービス税の枠組みが、シリコンバレーやヨーロッパに拠点を置く企業だけでなく、国内のすべてのデジタルマーケットプレイスを対象としています。そのため、すでに関連する税金が課されている地元で登録された国内のEC企業は、追加のデジタルサービス税を課される可能性があるのです。

「ケニア政府はデジタル経済に積極的に取り組むべきですが、それは、デジタル経済を“窒息させる”ということではありません」と言うのは、ナイロビを拠点とする金融・投資アナリストのアリカン・サチュ。「今、このタイミングで政府が小銭稼ぎに走るのは、将来の成長を犠牲にすることになるでしょう」。サチュ氏はQuartzに対して、そのように続けました。

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Image: REUTERS

こうした税金の導入は現地の競争力のあるプレイヤーから支持を得るのが常で、アフリカ全土でNetflixのサービスが開始された際、アフリカ最大の有料TVプレイヤーのMultiChoiceは、Netflixに対する規制の必要性を声高に訴えました。税金を払わず、現地でのプレゼンスを確立せず、インフラを敷設することもなく君臨する巨人を野放しにするのを、現地企業は嘆いたものです。

アフリカ大陸の通信会社も同様に、Facebook傘下にある人気の高い「WhatsApp」をはじめとするメッセージングプラットフォームに対する規制を求めています。Uberもまた、世界の他の地域と同様、自分たちの生存を脅かすモデルだとして、地元のタクシーグループからの長きにわたる反発に直面してきました。

Walking the talk

言動、一致

こうした法規制については、多国籍企業に対する課税の基準が広く合意されていなかったことで“紛争”の種となった例が、近年世界中で問題視されています。

2019年、フランスで米企業を含むテック大手に課税しようとしたことで、米国との貿易戦争の瀬戸際に立たされました。インドでは「均等割賦」というかたちでのデジタル課税計画が提出されましたが、これもまた、米テック大手から反発を受けています。

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万が一、多国籍企業が課税を受け入れたとしましょう。しかし、それは複雑な方程式のいち変数を解決したに過ぎません。アフリカ税務・ガバナンスセンターの創設者ムスタファ・ンダジウォは今年6月発表したワーキングペーパーで、「問題は、課税主体としての“ネクサス(連鎖、結びつきの意。クロスボーダーのデジタル商取引に対して課税を行うときの根拠事実などを指す)”ではなく、“利益配分”である」と指摘しています。

グローバルな枠組みが整備されないままデジタルサービスに課税しようとする国は、まず、そのサービスプロバイダーが自国内でどれだけの利益を得ているかを確認する必要があります。えてして、グローバルなテック企業は、その子会社を使うことで課税対象となるコストをほとんど(あるいは何も残さないかたちで)事業に配分しうるのです。

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Image: REUTERS/AKINTUNDE AKINLEYE

「ナイジェリア国内で稼いだ利益、あるいはナイジェリアでの課税対象となる利益に関する“不確実性”は、(先述した)SEP令も扱えていない重要な問題です」と、グローバル税務コンサルティング会社Andersen Taxのナイジェリア部門のシニアマネージャー、アマカ・サミュエル- オンエアニは記しています

OECDは、世界的なデジタル課税の枠組みを構築しようとしています。しかし、そうこうしている間にも各国の管轄区域内での収益を明確にはできず、アフリカ諸国は今後の展開を模索しています。今のところは「グローバルテック企業の誠実さに頼るほかない」。KPMGナイジェリアのオバヨミ氏は、そう語っています。


headlines from Quartz Africa

今週のヘッドライン

  1. アフリカの観光業界、最悪のシナリオ。数多くの伝染病に苦しめられてきたアフリカ諸国のCOVID-19感染拡大に対する対応は、非常に素早いものでした。国境が閉じられるなか、しかしながら大陸全体の観光業界は大きな打撃を受けています。世界旅行観光評議会(WTTC)の予測によると、大陸全体のGDPは530億〜1,200億ドルの打撃を受けるといいます。観光産業がアフリカのGDPの7%を占めているという経済地理学者の調査も紹介しています。──Aug 5
  2. #MeTooの機会は失われた。テック企業におけるセクシャルハラスメント、AfrobeatsのミュージシャンDbanjによるレイプ被害、セックストイ・ショップ店員への国会議員による暴行疑惑…。ナイジェリアにおけるハラスメント被害の申し立ては、最近メディアを騒がせたものだけでもいくつも挙げられます。しかし、いずれも証拠不十分として被害者の口をつぐませる結果に終わっています。──Aug 4
  3. 巨大ダムをめぐって。2011年に施工が始まった「大エチオピア再生ダム(Grand Ethiopian Renaissance Dam)」が完成し、先月15日、エチオピア政府は貯水開始を発表しました。アフリカ最大の水力発電所となるこのダムを巡っては、ダムが架かるナイル川中下流に位置するスーダンとエジプトが水不足の懸念を表明しています。現在もアフリカ連合(AU)を仲介にして続いていますが、記事では3カ国での協議のゆくえを考察しています。──Aug 1
  4. アフリカスタートアップ投資の未来。ナイロビを拠点に決済サービスを提供するDPOグループが、決済大手のNetwork Internationalに買収されました。買収金額は2億8,800万ドル(約304億円)。ドバイを拠点とするNetwork Internationalは、これによってアフリカでの事業を強化することになります。この買収には、アフリカにおけるスタートアップ投資の今後の将来性をみる試金石となるという声も上がっています。──Jul 31

(翻訳・編集:年吉聡太)


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