Asia:香港の自由は4カ月で奪われた

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Tuesday: Asia Explosion

爆発するアジア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。香港は、あまりに大きな変化を迎えることになりました。個人の自由にまつわる出来事をできる限り挙げてみましたが、これらはすべて、ほんの4カ月間で起きたことです。英語版(参考)はこちら

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Image: REUTERS/TYRONE SIU

香港が中国の支配下に戻ったのは、1997年のことでした。香港は「一国二制度」の枠組みのもと、2047年までの50年間、高度な自治権をもつことになっていました。

しかし一方、北京が“中国で最も自由な都市”という香港独自の地位を解体し、返還時の条件を無視しようとしている──そうした兆しに対して、香港の人々は常に警戒もしてきたのです。

frustration and fear

それは、水面下で

香港市民は、自分たち自身でリーダーを選ぶことはできません。産業界などの代表や議員からなる選挙委員(定数1,200人)が香港特別行政区行政長官(香港行政長官)を選ぶのです。

意に沿わない指導者がいても、投票で意思を示すことができない香港市民は、代わりに“街頭に出て行く”ことを選びます。2014年には、市民たちは待ちに待った「普通選挙」が否決されたことに抗議し街頭を占拠しましたが、結果としてあまりにも多くの“縛り”を残すことになりました(いわゆる「Umbrella Movement(雨傘運動)」)。

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Image: EPA/ALEX HOFFORD

以来数年間、香港では書店が消え、民主活動家たちが投獄され、若い議員が失脚してきました。街は不満と恐怖に包まれていました。

しかし、そうした数年間でさえ、「噴火にまでは至らなかった」と言うべきなのでしょう。この街で起きることすべてが注目を集めるような、ある世界規模の取り組みが、静かに形になり始めていたのです。

2019年、香港行政長官は多くの反対を押し切り、香港市民を裁判にかけるために本土に送還できるようにする「引き渡し条例」を可決しようとしました。そのとき、市民は「最後の抵抗」として集結したのです。コロナウイルスが世界的に流行し始めた1月に縮小したものの、街全体を巻き込む抗議活動は年が変わっても激しさを増してきました。

そしてコロナウイルス流行への対策が一段落した6月30日、北京は、この抗議活動に手をこまねいていた香港政府を見限ることになりました。「香港国家安全維持法」が施行され、比較的自由であったこの街は、一夜にして、スローガンを叫ぶだけで逮捕される街へと変わってしまったのです。

what’s happening in Hong Kong

統制のタイムライン

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Image: REUTERS/TYRONE SIU
  • 5月21日~22日:中国の立法機関・全国人民代表大会(全人代)の常務委員会が、香港の立法府を迂回して国家安全維持法を制定する決議案を起草したと、中国国営メディアが報じる。「香港での抗議行動が国家主権を害したため、同法が必要だ」として、同委員会は翌日に決議案を全人代に送付
  • 5月28日:中国共産党は国家安全維持法の草案を承認。香港の法律家クローディア・モーはこれを、香港の「悲しく、トラウマになるような時代」の始まりと呼んでいる。
  • 6月4日:香港政府はコロナウイルスの感染拡大を理由に、ビクトリア公園で行われていた天安門事件の慰霊祭を禁止。1989年以来毎年行われていたが、公式には再び開催されることはないとの声が上がっている。しかし、数千人が集結。
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Image: REUTERS/TYRONE SIU
  • 6月18日:中国共産党政治局常務委員会は3日間の会議で国家安全維持法全66条の草案を検討。香港では、その条項の詳細については何も知らされず、街中では、一部の人のみが影響を受けるだけの善なるものとして大々的に宣伝。
  • 6月30日:習近平国家主席が署名し、法案が可決。法律が「公布」されて初めて、香港市民は法律を読むことができた。午後11時に発効。判明したのは「この法律は地球上のすべての人を対象としている」ということ。
  • 7月1日:香港警察は、特別な紫色の旗を導入。これは、特定の横断幕を振ったり特定のスローガンを叫んだりすると、新法の下で犯罪になる可能性があることをデモ参加者に伝えるためのもの。「香港独立」と書かれた旗を振った1人を含む10人が同法の下で逮捕された。英国は、中国が1997年7月1日の香港返還を定めた1984年の合意に違反しているとし、数百万人の香港人が英国市民権を取得できるようになると発表。
  • 7月2日:政府は「光復香港,時代革命(香港を解放せよ、我々の時代の革命)」という人気の高い抗議スローガンを禁止。活動家ネイサン・ロー(羅冠聡、Nathan Law)は、2016年にジョシュア・ウォン(黄之鋒、Joshua Wong)とともに設立した民主化団体「デモシスト(香港衆志、Demosisto)」を解散した後、ロンドンに逃亡したことをFacebookの投稿で明らかにした。
  • 7月4日:公共図書館が民主活動家による本を書架から削除
  • 7月6日~7日:警察は、通信の傍受やインターネットコンテンツの削除など、広範囲にわたる新しい権限を付与される。
  • 7月8日:北京の香港国家安全保障局が、抗議活動の起点となるビクトリアパーク近くの銅鑼湾(コーズウェイベイ)地区のホテルに設置される。政府は学生に対し、香港の非公式な国歌「香港に栄光あれ(Glory to Hong Kong)」を歌うことを禁止
  • 7月10日: 警察が世論調査機関「香港民意研究所(POLI)」の事務所を襲撃。POLIは政府、警察、抗議者に対する世論調査を定期的に行っている。また、民主派による議会選挙の予備選挙も組織しているとされている。
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Image: AP/VINCENT YU
  • 7月14日:米国が香港の特別な地位を剥奪し、貿易や旅行の優遇措置を終了。
  • 7月21日:元朗区の地下鉄駅構内で凶悪犯が人々を襲った事件から1年。警察は襲撃犯と結託し、デモ参加者を襲うように命令されたともいわれている。
  • 7月28日:香港大学の委員会は、2014年の民主化デモ「雨傘運動」における役割を問われ有罪判決を受けていた同大学法学部副教授のベニー・タイ(戴耀廷、Benny Tai)を解雇処分。その前日にはソーシャルワーク学部の講師が、契約更新しない旨を通達されている。
  • 7月29日:独立派の学生メンバー4人が、香港警察の新国家安全部隊の警官によって逮捕される。ソーシャルメディアに香港の独立を訴える内容の投稿をした容疑。有罪判決を受けた場合、彼らは無期懲役に処される可能性がある。
  • 7月30日:民主活動家のジョシュア・ウォンら十数人の候補者が、9月の立法選挙への出馬資格を剥奪される。香港政府によると、新法制定に対して「原則を批判」するだけでも、その理由になるという。
  • 7月31日:政府は9月6日に予定されていた立法会選挙を、コロナウイルスを理由に1年延期すると発表。香港警察は、外国勢力と結託したとされる6人の海外活動家の逮捕状を発行。その中には、ネイサン・ローや、DCに拠点を置く香港擁護団体の創設者で米国籍のサミュエル・チュー(朱牧民、Samuel Chu)も含まれていた。
  • 8月6日:6月4日に開催された天安門事件の追悼集会の参加者2人以上が、不法集会の罪で起訴される。
  • 8月7日:米国は、香港の自治権を侵害したとして、行政長官のキャリー・ラム(林鄭月娥、Carrie Lam)ら、現職・前職の警察署長を含む 11 人に制裁を科したことを発表。中国はこれに呼応し、米国議員に独自の制裁を科す。
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Image: REUTERS/ANUSHREE FADNAVIS
  • 8 月 10 日: 警察は、香港メディア界の大物ジミー・ライ(黎智英、Jimmy Lai Chee Ying。『蘋果日報』オーナー)とその家族数名を共謀罪で逮捕。同紙は、北京から独立した数少ない報道機関の一つで、共産党を鋭く批判的に報道することで知られていた。香港市民はこの逮捕に抗議し、同紙の親会社であるNext Digitalの株を購入、株価は2日間で1,000%以上も上昇した。同日、警察は23歳の民主活動家アグネス・チョウ(周庭、Agnes Chow)を外国勢力と共謀したとして逮捕。彼女の支持者たちは彼女を「本物のムーラン」と呼んでいる

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 医師200人が犠牲に。インドの新型コロナウイルスの死者数は累計250万人を超え、アメリカ、ブラジルに続き第3位。最前線で戦う200人もの医師が犠牲になっています。雇用市場も厳しい状態が続いており、国内最大級の求人サイト「Naukri.com」が作成した7月のJobSpeakインデックスによると、採用活動は6月の雇用活動から5ポイント改善したものの、気休めレベルと指摘されています。2019年同月比47%減の厳しい状況です。
  2. FBとTikTokに厳しいバングラ。バングラデッシュ政府は、Facebookに認めていた、ユーザーが自社サービスのみ通信料無料で利用できるサービスを禁止すると発表しました。表向きの理由は、このサービスが犯罪行為に使われているため、ということですが、Facebookに圧倒される国内事業者を守ろうとする思惑があるようです。また、インドの中国産アプリ規制に続き、パキスタンもTikTokを運営するByteDanceに“最終警告”を申し渡しました。
  3. 出歩くならマスクとフェイスシールド必須。フィリピン政府は8月15日、職場での新型コロナウイルス対策に関するガイドラインを発表。衛生基準を厳格化するため、職場でのフェイスシールドの着用や従業員への定期的なPCR検査の実施などを求めました。15日からは、国内全土で電車やバス、航空機などの公共交通機関を利用する際のフェイスシールドの装着が義務付けられています。7月下旬には、マスク未着用の場合に最大1万ペソ(約2万2,000円)の罰金と最大30日間拘束する意向を政府が示しました。
  4. 成都国際鉄道は大忙し。空と海の交易が落ち込むなか、鉄道を使った陸運の取扱量が大幅に増えています。成都〜欧州を結ぶ、成都国際鉄道では1月〜7月の間に約1,200の列車が発車。前年比58.6%の急増加です。中国国鉄によると、ヨーロッパで医療品の需要が増加している一方で、空と海による輸送を制限しているため。5カ月連続で取扱量の記録を更新し続けています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)


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