Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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毎週水曜日の「Deep Dive」では、新興市場を中心に、世界の経済を動かすさまざまな力学を明らかにしていきます。アフリカ大陸におけるEC市場のトップを狙うジュミアテクノロジーズ(Jumia Technologies)が、今、新型コロナ禍で方針転換を迫られているようです(英語版はこちら)。
「アフリカ版アマゾン」の異名をもつジュミアテクノロジーズ(Jumia Technologies)は、2012年の創業当初から「アフリカ大陸の電子商取引市場で首位に立つ」という長期目標を掲げていました。ジュミアは他のECプラットフォームと同じように、膨大な量の商品の確保と倉庫の建設を始めます。「便利で簡単」というネットショッピングならではの特徴を追求することで、シェアを拡大しようとしたのです。
ジュミアがまず取り組んだのは、携帯電話から電子機器、ファッション、美容、育児関連まで、さまざまなカテゴリーで在庫ベースの拡大を担当する人材を雇うことでした。顧客が買いたいものは何でも販売できるようにしようとしたのです。アマゾンはその昔、本やCDでこの戦略を取り、やがてはあらゆる分野で何でも買えるようにしましたが、それと似ています。
Necessity driving invention
必要は発明の…
一方、IPO(新規株式公開)を果たし設立10年目を間近に控えた今、ジュミアは少し違った野心を抱いています。大量の在庫を販売するというビジネスモデルではなく、地域内のプレイヤーがネット販売を利用できるようにすることに注力しているのです。
変化の兆しが最初に現れたのは2016年で、在庫を削減し、代わりに第三者販売のマーケットプレイスに置き換えるようになりました。マーケティングとブランド構築を進めたのちに、「デジタル世界での不動産資産」のリースを始めたのです。ジュミアは独立したベンダーにプラットフォームでの商品販売を許可し、販売額の一部を手数料として徴収します。
サプライチェーンを民主化することで、在庫を抱えるという潜在的リスクは大幅に軽減されました。また、ベンダーは販売サイトから倉庫や配送ネットワークまで揃ったプラットフォームを利用できる点に価値を見出すため、ジュミアの提案は魅力的に映ります。
ビジネスモデルの転換は、アフリカのECのフロントランナーとしての苦い経験から生まれたものです。
ジュミアがまず直面した問題は、顧客からの信頼の欠如でした。つまり、ネットを使った物品販売が予想よりも難しかったのです。アフリカの消費者はネットよりオフラインで買い物をするほか、支払いもデジタルより現金を好むため、ジュミアは競合他社とともに消費者の行動の変革を引き起こす必要に迫られました。
ジュミアはこれを、従来型のECモデルに新たな手法を導入することで達成しようとしました。例えば、現金志向に対しては「代引き」を提供し、顧客が代金を支払う前に商品を実際に確認できるようにしています。ただ、これにより配達人が襲われるという問題が生じ、殺人事件という悲劇まで起きてメディアで大きく報じられました。
電子決済にしても、ナイジェリアでは当初はシステムが不安定で、オンラインでの支払いは成功と失敗の確率が五分五分という状況でした。また、購入から支払いまですべてがうまくいったとしても、アフリカでは都市部は人口密度が高く住所の割り振りがきちんとしていないため、効率よく配達を行うのは難しかったのです。
ジュミアはこうした問題に対してゼロから解決策を構築していきました。決済では「JumiaPay」という専用サービスを立ち上げています。アフリカでは(南アフリカを除き)クレジットカードやデビットカードの普及率は低く、EC事業者が成功するためには柔軟なオンライン決済システムが不可欠です。
アフリカのテック業界のエコシステムでフィンテックスタートアップが活況を呈しているのも、このためです。すべての人が金融サービスを利用できるようにする金融包括(financial inclusion)の市場規模は数十億ドルに上ります。
2020年第3四半期、ジュミアでの注文の実に34.1%がJumiaPayで支払われましたが、これは自社決済サービスの成長を示す数字だと言えるでしょう。
一方、配送に関しては商品の受け取りや返品ができるステーションを1,300カ所設置したほか、300以上の配送業者と提携を結びました。同時に、配送ルートや在庫管理の最適化を可能にするテクノロジーも開発しています。
Third party
サードパーティー
10年近くの年月をかけ、アフリカ全土でECの普及を妨げている課題の解決とインフラ構築に取り組んだのち、ジュミアはこれを「アウトソーシング」する方向に転換しようとしています。決済システムのJumiaPayと配送ネットワークのJumiaLogisticsを分社化したのです。
JumiaPayは増え続けるフィンテックの競合とシェアを争うことになるでしょうが、JumiaLogisticsはさまざまな国で市場首位に躍り出る可能性を秘めています。アフリカのEC事業では、物流とラストワンマイルの配送は常に大きな問題だからです。
ジュミアはアフリカの11カ国で事業展開しており、他のどのEC事業者よりも地域全体の事情に精通しています。業界の中小のプレイヤーにとって、同社のネットワークにつながることは魅力的な選択肢になります。
もちろん、ジュミアは利他的な精神で戦略を進めているわけではありません。長期にわたる赤字体質のために、経営陣は主力であるECサイトを「超えた部分」に焦点を合わせるようになったのです。最高財務責任者(CFO)のアントワーヌ・マイエ=メゼレイ(Antoine Maillet-Mezeray)は直近の収支報告で、ジュミアは「未使用」の収益化手段を最大限に活用することで、収益源を「さらに多様化」させていくと発言しました。
マイエ=メゼレイは「決済と配送はこれまでもジュミアの成長を支える中核インフラでした。ただ、これらの資産はそれ自体がECのマーケットプレイスという領域を超えて、非常に大きな成長の可能性を秘めているのです」と述べています。
ジュミアの進化は完全に次の段階に移行しつつあります。これまでは、かつてのアマゾンのように小売りに焦点を絞ったECの巨大企業と位置付けられてきましたが、自社のマーケットプレイス、決済サービス、物流ネットワークを通じて、サードパーティーのECの促進を助けるBtoBビジネスの企業に変身したのです。
“Amazon of Africa” moniker
アマゾンの辿った道
ジュミアのこれまでを考えれば、「アフリカのアマゾン」は多くの意味でふさわしい呼び名でしょう。アマゾンが株式公開から17四半期は赤字続きだったことはよく知られており、黒字化してからもかなりの期間にわたって投資家に大きなリターンを行いませんでした。現在、アマゾンでもっとも収益性の高い事業はBtoBのAmazon Web Serviecs(AWS)で、ネットフリックス(Netflix)やリンクトイン(LinkedIn)、トゥイッチ(Twitch)といった名だたる企業が顧客として名を連ねています。
ジュミアもまた、赤字幅が縮小する一方で同じ道をたどる可能性が高いのではないでしょうか。第3四半期の決算では、EC事業の収入の7割は出品者からの手数料と注文処理費用で、ファーストパーティーの売上高(直接販売による売り上げ)は前年同期比で53%減少しています。
この落ち込みは偶然ではなく、収支報告には以下のように書かれています。「これはファーストパーティーの販売を減らしていくという戦略に沿ったものです。資産縮小とマーケットプレイス重視に焦点を合わせており、このモデルではサードパーティーの売り手が消費者に幅広い製品やサービスを提供していくことになります」
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 「中国のWeWork」は苦境に立たされている。財政難にあえぐ中国のアパートレンタル・マーケットプレイス「Danke Apartments(蛋殻公寓)」に、家主やテナントからの抗議が殺到しています。今年1月にニューヨーク証券取引所に上場した同社は、ビッグデータとアプリを利用してシームレスなユーザー体験を提供するテック企業として投資家にも注目されてきました。騒動の発端は、11月9日週のこと。北京中心部にある同社オフィスの外に集まったテナントや入居者をはじめ、清掃業者などが、同社が契約を守らず、期日までに支払いを行わなかったとして声を上げています。
- 13億人のワクチンのゆくえ。インドの若き億万長者、アダール・プーナワラ(Adar Poonawalla)率いるインド血清研究所(Serum Institute of India、SII)が、新型コロナウイルスワクチンの治験ボランティアから賠償を求められていると『The Economic Times』紙が報じています。ボランティアはSIIに対し、副作用を理由に補償金と治験の即時中止を求めていますが、同社はこれらの疑惑は虚偽であるとして反訴しています。SIIが出資しているワクチンは「コビシールド」と呼ばれ、オックスフォード大学と製薬メーカーのアストラゼネカが共同開発しています。
- 脱ファーウェイの通信ダイバーシティ。自国の通信ネットワークからファーウェイ(華為、Huawei)製機器を排除しようとしている英国。同社以外のベンダーとして挙がっていたのはノキア(Nokia)とエリクソン(Ericssion)の2社でしたが、3つめの選択肢として、日本のNECの名が挙がっています。『Financial Times』紙によると、英国はNECと提携し「Open RAN」技術の試験運用を始めると伝えられています。
- アフリカでスタートアップが立ち上がるために。新型コロナ禍は、アフリカのテックスタートアップのエコシステムに大きな影を落としています。特に懸念されるのが、アーリーステージの資金が枯渇していること。そんななかで米VCのSherpa Venturesは、アフリカのスタートアップのためのファンドを立ち上げ、アーリーステージのスタートアップの資金を保証する役割を果たすことを目指しています。同VCはまずはナイジェリア、ガーナ、ケニア、南アフリカのスタートアップを支援する予定です。
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
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