Deep Dive: Next Startups
次のスタートアップ
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日にお届けするのは、「世界の最新スタートアップ」(WiLパートナー久保田雅也さんナビゲート・月2回配信)と、世界の最新ニュースのニュースレター。6月24日に開催するウェビナーへの申込みもスタートしました。
中国のライドシェア最大の滴滴出行(Didi Chuxing、以下Didi)がついに米国での上場を申請。それによって、同社の財務実績の全容を掴めるようになりました。
『Wall Street Journal』によると、Didiが目指すのは約700億ドル(約7兆7,000億円)とされるバリュエーションの8〜10%の調達。2021年は、中国のショートビデオアプリ「快手」(Kuaishou)の香港証券取引所での54億ドル(約5,600億円)のIPO(2月)やデートアプリ「Bumble」の米国での22億ドル(約2,400億円)のIPO(2月)、さらに「Robinhood」の上場も近日予定されていますが、Didiもそうした「テック系の巨大IPO」のひとつなるでしょう。
Didi’s journey in China
Didiの歩み
Didiを設立したのは、アリババ出身の中国人起業家、程維(Cheng Wei)。設立は2012年で、ビジネスモデルはUberやLyftと同様のライドヘイリングサービスです。それ以外にもタクシー予約やバイクシェアリング、ドライバーのための金融サービスなども提供しており、中国では次の「スーパーアプリ」になる方向に向けて邁進しています。2020年の収益の95%近くは中国国内のモビリティサービスから得ており、残りはその他サービスおよび国際市場から得ています。
Didiの中国での歩みは、必ずしも順調ではありませんでした。2018年、同社のカープール(相乗り)サービスを利用したドライバーが女性乗客を殺害した事件が相次いで2件発生し、国内から大きな反発が巻き起こりました(Didiは、ドライバーが乗客の外見についてコメントできるようにしていた「ヒッチハイク機能」を一時的に停止)。
また、国内ではタクシーアプリの熾烈なシェア争いがありましたが、2015年にはライバル企業の快的打車(Kuaidi Dache)を合併。Uberとの競争を乗り越えてきた背景もあります。
現在のところ、中国のライドヘイリングはDidiの独擅場。競合他社は同社と肩を並べるほどの規模には達していません。
今回のニュースレターでは、親会社の「小桔快智」(Xiaoju Kuaizhi)名義で登録されたIPO申請書から、同社の将来を示唆する5つの重要な数字を紹介します。
#1 profits
💰 利益
ライドヘイリング事業は不採算なことでよく知られていますが、2018〜2020年にかけて赤字だったDidiは、2021年3月までの3カ月間で55億元(8億3,700万ドル)の純利益を出すことに成功しています。もっとも、目論見書によるとその利益の一部は投資利益によるもので、さらにその中には食料品配送サービス「橙心優選」(Chengxin Technology)の非連結化も含まれています。
一方、営業損失は、売上原価や販売・マーケティング費用の増加により、前年同期の33億元(5億1,600万ドル)から67億元に拡大。収益性は引き続き厳しい状況にあります。COVID-19の打撃から回復しつつあり、第1四半期に420億元以上、2020年全体では1,417億元(220億ドル)の収益を計上していますが、一方、同年のUberの収益は110億ドルでした。
#2 annual active users
👤 ユーザー数
2021年3月までの12カ月間の年間アクティブユーザー数は4億9,300万です。そのうち約3億7,700万が中国国内のユーザーでした。また、同期間中の1日あたりの取引件数は4,100万件でした。第1四半期のDidiの月間平均アクティブユーザー数は1億5,600万人で、昨年の第4四半期のUberの約9,300万人と比較しても遜色ありません。
#3 Uber’s stake
💸 出資比率
サンフランシスコを拠点とするUberは、Didiの株式の12.8%を所有しています。Didiは2016年にUberの中国部門を引き継ぐかたちで買収しましたが、同時にUberは、この中国のライバルの株を保有することになりました(Didiの経済的利益の17.7%に相当する優先株)。
ちなみに、創業者でCEOの程維は7%、共同創業者で現社長の柳青(Jean Liu Qing)は1.7%の株式を保有しています。一方、ソフトバンクビジョンファンドは21.5%、ソーシャルメディア大手のテンセントは6.8%の株式を保有しています。順当に進めば、これらの投資家はDidiの上場によって多額の利益を得ることになるでしょう。ちなみに『Forbes』によれば、38歳の程維はすでに12億ドルの純資産を持っているとされています。
#4 R&D spending
🔬 研究開発費
Didiの第1四半期の研究開発費は19億元(2億9700万ドル)で、前年同期の15億元から増額しています。研究開発費の増加は、主に研究者を増員したことによるものだとされています。
他の中国テック企業と同様に、Didiはテクノロジーに多額の費用を投じ、本業以外のさまざまな分野でのチャンスを探っています。
同社は、中国の自動車メーカー、比亜迪(BYD)と提携して、ライドヘイリング用にカスタマイズした電動セダンを発売。中国全土での運用を目指しています。目論見書によると、Didiは自律走行にまつわる子会社を設立して100台以上の自律走行車を運用しているほか、自律走行のソフトウェアとハードウェアを「世界の主要な自動車メーカー」と共同でテストしているといいます。
#5 international growth plans
🌎 グローバル戦略
同社は、IPOで得た資金の30%を「厳選された国際市場」で使用する予定です。Didiが海外展開をスタートしたのは2018年。とくにラテンアメリカに焦点を当てており、Uberに後れを取っているものの、メキシコではUberに肉薄しています。また、同市場の競合他社としてはスペインCabifyの名が挙がりますが、Cabifyはブラジルからの撤退が決まっており、Didiの進出余地が広がる可能性があります。2021年、Didiは南アフリカにも進出しています(南アフリカの通勤手段としてメジャーなミニバスは、評判が最悪です)。
同社はさらに30%を自律走行やEVなどの技術開発に、そして20%を新製品の投入や現行製品の拡大に充てる予定です。
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Cloumn: What to watch for
暗号通貨の国
6月8日(現地時間)に、世界で初めてビットコインを法定通貨として採用したエルサルバドル。世界の「暗号通貨信者」たちはTwitter上で、同国首都サンサルバドルがシリコンバレーに次ぐ「世界の一大テックハブ」になると大盛り上がり。例えば暗号通貨「TRON」を開発したジャスティン・サンは、投資家や起業家が一斉にエルサルバドルに移住するだろうとツイートし、元実業家であるブケレ大統領自ら、移住による節税効果やそのために必要な移民要件の緩さ、あるいはサーフィンに最適な美しいビーチを宣伝しています。
2010年代に入って以降「あらたなテックハブ」を求める声は多く聞かれており、例えばマイアミやラスヴェガスなど、経済的に恵まれていない地域にテック産業を呼び込もうとする動きは盛んですが、いずれも頓挫した観もあります。
エルサルバドルでの一連の盛り上がりにおいて、サンサルバドル市民を自称するTwitterユーザーたちは、大統領が発信した「誘致」ツイートに対して冷静な構え。「資本流入によって住宅価格が上昇し、市民がアクセスできなくなる可能性がある。外国人に対する固定資産税の政策を見直す必要がある」などという投稿も見受けられます。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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