Africa:絵文字×Web3のアフリカンDAO

Africa:絵文字×Web3のアフリカンDAO
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アフリカのいまを知ることは、世界のビジネスの未来の可能性を知ること──火曜夜にお届けしている「Africa」ニュースレターでは、毎週ひとつのスタートアップを取り上げ、彼らが社会の何をどう解決しているかをレポートしています。

アフリカは、ブロックチェーン産業の未来を牽引する可能性がある──。

世界最大の暗号通貨取引所Binanceの共同創業者がそう発言したのは、2022年1月のことでした。ブロックチェーンは投資だけでなく、クロスボーダー決済や送金の際、迅速かつ便利で効率的な手段として期待されています。その点においてアフリカの多くの人びとにとって魅力的で、結果として、アフリカはクリプトの導入が世界で最も急速に進んでいる地域のひとつとなっているのです。

金融分野に革命を起こし富を生み出すというクリプトの可能性については、これまでも多く語られてきました。一方であまり注目されてこなかったのが、一般の人びとの社会的・経済的な福祉を向上させるというポテンシャルです。しかし、それも徐々に、とはいえ変わりつつあります。例えば2021年4月、エチオピア政府はエチオピア国民数百万人を対象としたデジタルIDのデータベースを構築すると発表しました。これはブロックチェーンがもつファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)の可能性を象徴する早期事例のひとつと言えるでしょう。

アフリカでつくられ、あるいは収集されているクリプトアートも、希望的な観測を裏付ける現象のひとつです。アフリカのごく一部のアーティストは、すでに自分のコレクションを非代替性トークン(NFT)として数万ドル(数百万円)で販売しています。ほかのアーティストたちも今後、同じようにして創造的自由と作品の自律性を享受できるでしょう。

暗号技術やブロックチェーン、NFTをめぐる熱狂がある一方、アフリカではこれらのテクノロジーを運用したり、あるいはWeb3関連の議論に参加したりするうえで、いまだ多くの壁に直面しています。そんな状況を変えたいと動いているひとりが、マルチプラットフォーム・プロジェクト「Zouzoukwa」の創業者であるオプレロウ・グレベ(O’Plérou Grebet)です。


CHEAT SHEET

業界・虎の巻

  • 💡 どんな可能性が?:アフリカでは暗号通貨の利用が世界のどこよりも速いスピードで進んでいます。その理由のひとつは、若い人びとがデジタル通貨を、インフレ激しい法定通貨や従来の銀行に代わる安全な代替手段として見ていることにあります。また、ブロックチェーンやNFT、分散型自律組織(DAO)といったコンセプトは、アフリカの新進のクリエイターや起業家が資本と注目を得るための手段にもなりえるでしょう。
  • 🌍 ロードマップは?:これまでWeb3をめぐる議論は、米国をはじめとする欧米市場に集中していました。しかし、今後アフリカ市場の機会にも注目がいけば、現地で必要とされている資金や支援が創出されるかもしれません。
  • 🤔 課題は?:スタートアップ各社はアフリカの多くの国で敷かれている暗号通貨禁止令と戦っており、規制のせいで運用が複雑になることもあります。その一方、規制がないゆえにユーザーがP2P取引や不正取引といった手段を使わざるを得なくなり、詐欺が横行するといった事態も起こりえます。
  • 💰 ステークホルダーは?:Seed Clubのようなアクセラレータープログラムは、コミュニティ主導のトークンプロジェクトに投資したり、スタートアップと業界の専門家をつないでDAOを形成したりといった取り組みを行なっています。また、「Africa No Filter Emerging Artists」という助成プログラムは、アフリカのアーティストがアフリカ大陸にまつわるステレオタイプを打破するようなプロジェクトを行なえるよう、製作資金やメンターシップを提供しています。

WHAT’S A DAO?

DAOって何?

株主たちが共同で所有する、最高経営責任者(CEO)がいない企業を想像してみてください。そこでは、ルールや統治構造、基本的な機能さえもが不変のコード(ブロックチェーン技術)によって固定化・自動化されています──。

……というのが、テクノロジーエコシステムが成熟を迎えるいま、人気を博している「DAO」の核にある考え方です。

DAOは、上記のような企業体だけを例に説明できるものではありません。DAOの支持者たちは、この技術がコミュニティ全般の運営方法を変え、企業だけでなくインターネットの在り方、そして最終的には社会全体も再構築しうると主張しています。


BY THE DIGITS

数字でみる

  • 23カ国:暗号通貨の使用および取引を暗黙的または全面的に禁止しているアフリカの国の数
  • 2,500%: アフリカにおける暗号通貨のユーザー数の伸び(2021年から2022年にかけて)
  • 4,800:現存するDAOの数(データサービス「DeepDAO」調べ)
  • 170万:全世界におけるDAOのメンバー数(DeepDAO調べ)
  • 28.9%:インターネットを利用できるアフリカ人の割合(2019年時点)
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THE CASE STUDY

ケーススタディ

企業名:Zouzoukwa

創業年:2018年

本社所在地:アビジャン(コートジボワール)

創業者: O’Plérou Grebet

最新の評価額:非公開

ZouzoukwaInstagram上のイラストレーションプロジェクトとして始まりました。当時20歳だったコートジボワール人グラフィックデザイナーのオプレロウ・グレベが毎日ひとつ、1年にわたって公開したのは、アフリカを題材にデザインした絵文字でした。

彼の目的は、アフリカが語られる際につきまとうステレオタイプに異議を唱え、より多様なアフリカを表現することにありました。「人が異文化について知り、自分たちの文化を異なる視点から見る手段として、絵文字をつくるというのは楽しい方法だと思ったんです」と、グレベは語ります。

An emoji by Zouzoukwa

グラフィックデザインの修士号をもつグレベは、YouTubeのチュートリアルを通じてさらなるスキルを身につけ、2018年には371個の絵文字からなるコレクションを「WhatsApp」や「iMessage」のステッカー(スタンプ)として使えるようにするアプリをリリースしました。

アプリは公開後の1週間で1万回以上ダウンロードされ、その後はiPhoneとAndroidで20万回ダウンロードを記録しました。Zouzoukwa(コートジボワールで使われる言語のひとつであるベテ語の単語。大まかに訳すと「画像」のような意味になる)は好評を博し、グレべは2019年の「African Talent Awards」で最優秀アプリ賞を受賞。グローバルメディアからも注目されるようになりました。しかし、若きCEOはこれで満足しませんでした。

プロジェクトの目標はアフリカ全体を表現することだったので、がっかりしたんです」とグレベは言います。「当時の絵文字のほとんどはコートジボワールと西アフリカ由来のものでした。もっと正確にアフリカを表現するためには、ほかの人たちと協業する必要があったのです」

Zouzoukwaの次の方向性を考えるために、グレべはプロジェクトを中断しました。そのさなか、彼は有名なミーム「ニャンキャット(Nyan Cat)」のNFTが60万ドル(約7,787万円)という驚きの高値で売れたという記事を読み、衝撃を受けたといいます。

NFTについて知れば知るほど、Zouzoukwaのビジョンは明確になっていきました。このプロジェクトをDAOとして確立すれば、文化を広め、アフリカに対するネガティブな認識を変えるコミュニティ所有の共同プラットフォームをつくるという使命を達成できると考えたのです。

いまのところ、グレべはひとりでプロジェクトを運営しています。今後は助成金やクラウドファンディングを通じて得た資金でDAO製品に取り組む小さな開発チームを雇い、絵文字をNFTとして販売する計画です。それに加え、初期のコントリビューターや支援者にデジタルコインでリワードを送るために必要となるコミュニティマネジャーや、新規ユーザーに技術の使い方を教える担当者なども採用したいとグレべは考えています。

A zouzoukwa emoji

現在、Zouzoukwaの絵文字のうち「Hamsa」と「Pouring Liquid」のふたつがユニコードコンソーシアムに承認されており、2022年8月にはほとんどのプラットフォームで利用できるようになる予定です。しかし、その他の絵文字に関して、グレべはもっと壮大な計画を描いています。

独自のプラットフォームをもつウェブサイトを構築したいと思っています。Unicodeは世界共通なので、例えばコートジボワールの小さな花を絵文字として登録するわけにはいきませんよね。だから、実はUnicodeを分散化したいと思っているんです」


IN CONVERSATION WITH

キーパーソンの発言集

Picture of O'Plérou Grebet, Zouzoukwa founder

 Zouzoukwaの創業者であるオプレロウ・グレベは、マルチプラットフォームのデジタルアートプロジェクト「Zouzoukwa」を通じて、アフリカの何百万という暗号技術のユーザーを取り込もうとしています。以下、グレべとのインタビューから、興味深い発言を紹介します。

  • ♾️ 分散化について:「暗号技術にはたくさんのお金がつぎ込まれていますが、そのほとんどが米国に集中しています。理論的には、アフリカの人も米国の人と同じチャンスをもってしかるべきなのですが、現実問題としてそうはいかないのです。でも、わたしたちが絵文字やほかのものをつくれるようになれば、その富を再分配してみんなで利益を得ることができるでしょう」
  • 🤓 アフリカの人たちをWeb3や暗号技術の分野に取り込むことについて:「本当にシンプルでいたいんです。Zouzoukwaに絵文字を投稿できるようにする前に、Web3とは何か、分散化とは何か、トークンとは何か、DAOとは何かを人びとに教えます。学ぶべきことがたくさんあるので、少しずつ教えていきたいです」
  • 😌 メンタルヘルスについて:「もっと話題にあがるべきです。メンタルヘルスの影響は誰もが知っています。わたしたちはみな、テック分野ではメンタルヘルスの問題は存在しないかのように振舞っていますが、実際のところは存在するんです。わたしはオンライン活動を1日5時間までに制限して、外に出て運動をする時間をつくるなど、メンタルヘルスを優先するようにしています。燃え尽きは避けたいんです」

CRYPTO AND DAO DEALS TO 👀

注目すべきディール

  • オープンソース・ブロックチェーンのHarmonyは2021年11月、Africa DAOに対して3年間で200万ドル(約2億5,957万円)の資金提供を行なうと発表しました。Africa DAOは社会的インパクトを達成するWeb3関連の活動に注力しており、今回調達した資金は教育や職業訓練の機会創出、送金やクリエイター向けNFT、土地登記、農家向けのトレーサビリティソリューションといったテック・フォー・グッド(Tech for Good)プロジェクトなどに使われる予定です。
  • ブロックチェーンネットワーク「Cardano」の商業部門であるEMURGO Africaは、アフリカのスタートアップ100社を支援する投資プログラムおよびインキュベーションプログラムに今後3年で1億ドル(約129億7,858万円)を投じることを決定しました。EMURGO AfricaはまずNFTを含むブロックチェーン分野や社会的インパクトを目的としたその他の新興分野のスタートアップのうち、時価総額2,000万ドル(約25億9,571万円)以下のプレシードステージにいる企業を対象とする予定です。
  • アフリカにおけるWeb3のユーザーベースを構築し、暗号技術による収入創出の機会を民主化しようとしているコンゴのスタートアップJamboが、2022年2月にCoinbaseとAlameda Researchから750万ドル(約9億7,339万円)のシード資金を調達しました。Jamboは通信やソーシャルメディアのアプリケーション、Play to Earn(プレイ・トゥー・アーン)のゲームなどを通じて、アフリカの数百万人という人々をWeb3の世界にいざなおうとしています。さらにWeb3を利用した大学のカリキュラムも立ち上げ、すでにアフリカ14カ国から12,000人以上の学生が登録しました。

🎵 今週の「Weekly Africa」は、コンゴ民主共和国/ベルギーのBalojiによる「Peau de Chagrin / Bleu de Nuit」を聴きながら、ロンドン在住のコントリビューター、Maxine Betteridge-Moesがお届けしました。日本語版の翻訳は川鍋明日香、編集は年吉聡太が担当しています。


ONE 😧  THING

ちなみに……

史上初のDAO(その名も「The DAO」)のローンチにあたり実施されたクラウドファンディングは、2016年当時、史上最高の調達額を達成しました。The DAOのローンチ時点での調達額1,270万Ethで、これは当時のレートで1億6,800万ドル(約218億8,354万円)に相当します。

しかし、その後バグが発見されるとハッカーに抜け道をつかれ、6,000万ドルが流出する事態に見舞われました。いまでは技術が向上したと考えている人は多いものの、オープンソース技術や自己組織化システムがもつ性質ゆえの脆弱性も指摘されています。


💎 「Weekly Africa」は、毎週火曜、アフリカの地で新たな産業が生まれる瞬間を定点観測するニュースレターです。

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