Quartz Japanでは、テックシーンの最前線をフレッシュに伝えるメディア「Off Topic」を運営する宮武徹郎さんと、Quartz Japanの連載「Next Startup」ナビゲーターの久保田雅也さん(WiLパートナー)を招き、これまで下記3回のウェビナーを実施してきました。
D2Cやクリエイターエコノミー、メタバースといったトピックに、いまなぜ注視すべきか。第3回のセッションで、宮武さんはそれらを取り巻く環境の圧倒的なスピード感を「Web3.0」を例に語っています。
インターネットが浸透するまで20年かかりました。Web3.0がそれと同じものになるのかの疑問はあれど、いま見ている限りでは、個人的には「なりそうだ」と思っています。ここ1〜2年は過渡期ですが、早ければ3〜5年で変わるのではないかと感じさせるほど、追いつけないペースで進化しています。世界のテックリーダーはこれらの領域をちゃんと見ており、ペースはさらに上がる可能性があります。それゆえに、どのタイミングで加わるべきかという判断は慎重にしないといけません。企業や起業家としてのステータス次第ですが、のちのちに入ろうとすると、かなり出遅れてしまう恐れがあります。
アメリカや中国を筆頭に、起業家、事業家、投資家のいずれもが熱い視線を注ぐこれらの領域について、日本に伝わる情報はまだ限られています。しかし、すぐにこの国を飲み込んでいくことも想像に難くありません。その波を乗りこなすためにも、2022年を迎える直前に押さえておきたい6つのトピックを、この記事では過去3回のウェビナーから抜粋しました。
また、ウェビナーは11月25日(木)に開催する「まとめ」の第4回の参加申込みを受付中です。この最終回からでも学び多き時間となるはずですが、その予習/復習としても、この記事が役立てばと願っています。
以下は、今回のウェビナーでカバーするトピックス。参加申込み受付中の最終回では、これらすべてを振り返ります。
#1 D2CIFICATION OF EVERYTHING
#1 なんでもD2C化
日本におけるD2Cは、事例こそ増えているものの、その本質に対する理解はいまだ深まっていないと言わざるをえません。卸商などの中間業者を介さずメーカーが消費者へ直接的に販売するという「販路」にフォーカスされがちですが、D2Cの本分は「コミュニケーション」にこそあり。あくまで「Direct(直接的)」という関係性にこそ主眼が置かれるものだと理解すると、見え方が変わってきます。
宮武:D2Cはユーザーと直接つながり、届けられるという一つのチャネルでしかありません。ユーザーとのコミュニケーション方法がこれまでと変わった、ということが主軸であり、そこから学びを得るのが大事です。
ニューヨーク発の化粧品ブランド「Glossier」は、そうした成功例の一つ。創業前からブログを立ち上げ、そのファン1,000人ほどとSlackでコミュニティを築き、彼らから募った意見をプロダクトや店舗での体験、パッケージなどあらゆる観点で活かしました。
ファンとともにブランドを築き上げる姿勢は、創業から10年以上が過ぎたいまも変わらず。人気のマスカラ「Lash Slick」の開発にかけられた時間は実に18カ月。SNLで人気の黒人女性コメディアンEgo Nwodimらを起用したムービーも個性的です。
久保田:D2Cはユーザーといかにコミュニケーションをして、エンゲージし、最適な体験を提供できるかに掛かっています。Glossierは典型的で、まずはユーザー起点のコミュニティやブランドをつくった。世界観やメッセージを打ち出し、体験が得られるコミュニティありきで、最後にマーチャンタイズを考えたんですね。
以下に、宮武さんが気になるブランドを挙げました。一つひとつのあり方を、コミュニケーション軸でチェックしてみると新たな発見ができるでしょう。
- Allbirds:サステイナブルD2Cブランド
- Lemonade:オンライン保険
- A24:映画会社
- Disney+:動画配信サービス
- Haus:アルコールD2Cブランド
- Bubble:スキンケアD2Cブランド
- Madhappy:D2Cストリートブランド
- Parade:下着D2Cブランド
#2 CULT BRAND EMERGENCE
#2 カルトブランド化
D2Cの要点がユーザーとのコミュニケーションにあるとする一方で、現在、ブランドやプロダクトの数は爆発的に増えており、その深度を高めるとなると簡単ではありません。どれほど魅力的な商品をつくっても、人を振り向かせることさえ難しいのです。
それでもなお人を呼び込むために大切な観点が、カルトブランド化するということ。メディア、コンテンツ、コミュニティ、グッズ、イベントといったものを提供し、1万人にウケることよりも100人の熱狂的なファンをつけるような活動を続ける。それにより、自分自身がブランドの一部を成していると感じられるほどユーザーのライフスタイルに深く入り込むのです。
その手法に正攻法はありません。まさに「さまざま」なやり方で、アイデアと創意工夫が随所に見えてくるのが面白いところ。ウェビナーでは“インターネットのバンクシー”との呼び声もある「MSCHF」(ミスチーフ)を始め、ユニークな事例が紹介されました。
宮武:アメリカのZ世代は「ブランドと友達にならなければ購入しない」というスタンスをとるほど。社会的ポジションの取り方も含め、ブランドの世界観やメッセージの発信といった打ち出しも必要です。たとえば、あえて敵をつくることで自らを比較対象に置くのも一つ。
以下は、宮武さんが挙げてくれた“カルトブランド”を知るための先行事例です。容易にコピーできそうなメモアプリやノートアプリが、熱心なユーザーを呼び込めるのはなぜなのか。前述のD2C化と併せて、深堀りするほどヒントに出会えるでしょう。
- Superhuman:メールサービス
- Fast:チェックアウトサービス
- MSCHF:“インターネットのバンクシー”
- Roam Research:メモアプリ
- Figma:デザインツール
- Notion:ノートアプリ
- Cash App:モバイル決済アプリ
- Glossier:スキンケアD2Cブランド
👀 Quartz Japanの関連ニュースレター
- 熱狂を創る「超人的サービス」Superhuman(2019/9/9配信)
- 熱狂的「信者」を生むノートアプリ Roam Research(2020/9/28配信)
#3 LINEAR COMMERCE
#3 コンテンツ・ソーシャル・ブランドの融合
D2Cを推し進め、カルトブランド化するために、今日、ユーザーと最も接点をつくれるのがメディアやSNSです。そこでのあり方は、コンテンツ、ソーシャル、ブランドという観点の「掛け合わせ」が要となっていきます。
たとえば、良質なコンテンツを提供すること。ユーザーのアテンションと共に信頼を得やすくなる施策であり、のちのちのコンバージョンにもつながります。前項「なんでもD2C化」で紹介したGlossierの事例も思い出されます。
宮武さんお気に入りの事例の一つが「Barstool Sports」。2003年にスポーツとカルチャーを扱うブログとして始まり、現在ではアパレル、サブスク、イベント、グッズ販売など、徐々にマネタイズのオプションを増やしてきました。
ゲーム内でキャラクターやアバターに着せる衣装(デジタルファッション、デジタルスキン)は、いずれリアルなファッションの産業規模を超えるのではないかといわれるほど。デジタルであれば産業排水やCO2排出といったアパレル業が抱える負の問題も起こさず、Z世代を始めとして世界的関心となっているサステナブルなあり方にも寄与します。
宮武:(人気ゲームの)『フォートナイト』も自己表現の場として機能しています。キャラクターのデジタルスキンでゲーム内のパフォーマンスが上がるわけではないのに、ユーザーはそれを買う。これまでに約9,000億円の売上があり、いまも年間3,000億円から5,000億円を売っており、アパレルのメジャーブランドを売上でしのぐほど。その点では、『フォートナイト』を提供するEpic Gamesはファッション企業とさえ言えるのです。
以下は、宮武さんが挙げる「掛け合わせ」を上手く活用したブランド。どの観点を、どのように生かしているのかを分析すると参考となるでしょう。
- 100 Thieves:eスポーツ・アパレルブランド
- Barstool Sports:スポールECメディア
- Away:トラベルD2Cブランド
- Glossier:コスメD2Cブランド
- Disney+:動画配信サービス
- Ryan’s World:YouTubeチャンネル
- Dude Perfect:YouTubeチャンネル
- Overtime:スポーツネットワーク
👀 Quartz Japanの関連ニュースレター
- スマホ発、スポーツの「一等地」Overtime(2020/12/21配信)
#4 CREATOR ECONOMY
#4 クリエイターエコノミー
いま、最もユーザーからのアテンションと信頼を得て、それをビジネスへと発展させているといえるのがクリエイターたち。クリエイターはもはや「次世代ブランド」とでもいうべき存在で、D2C企業にとっては競合にも、あるいはコラボレーションのパートナーにもなる存在です。魅力的なコンテンツで人を引きつける彼らは、言わば「オーディエンスづくりのプロ」なのです。
久保田:クリエイターを「起業家」として見る文脈が大事だと思います。「自分の個性で稼ぐ」という観点では、クリエイターも起業家もほぼ同じ。その個性をエンパワメントするのがテクノロジーであり、テクノロジーで武装した個人がクリエイターになる。ファンがついてカルト化がうまく、彼らからの信頼も厚いから、アテンションがエンゲージしやすい。
アメリカのトップYouTuberであるMrBeastは、YouTuberとして初めてのビリオネアになるだろうと確実視される一人。メインチャンネルの登録者数は7,000万人に上り、来年には1億人を超えるといわれます。コンテンツのつくり方だけでなく、企業と組んでゴーストキッチン形態のハンバーガーレストランを1,000店舗も展開するなど、事業家としての活動も注目を集めます。
宮武さんはYouTuberを「企画・アイデア創出型」と「親近感型」に分類しつつ、紹介をしてくれました。下記に挙げたのは、YouTubeやTikTokといったプラットフォームを母体に活躍するクリエイターたち(フォロワー数は11/19現在)。ウェビナーでは彼らと企業がコラボする際のポイントについても語られました。
- Addison Rae:8,570万フォロワー(TikTok)
- Jimmy Donaldson (MrBeast):7,520万フォロワー(YouTube)
- Charli D’Amelio:1.29億フォロワー(TikTok)
- David Dobrik:1,830万フォロワー(YouTube)
- Emma Chamberiain:1,110万フォロワー(YouTube)
- Bella Poarch:8,500万フォロワー(TikTok)
- Josh Richards:2,550万フォロワー(TikTok)
- Dream:2,720万フォロワー(YouTube)
- Ryan Kaji:3,090万フォロワー(YouTube)
- Airrack:263万フォロワー(YouTube)
#5 NEXT-GEN SOCIAL MEDIA
#5 次世代SNS
SNSのメインストリームは時と共に移ろいます。2018年から特に勢いを増してきたのが「TikTok」。特徴はソーシャルグラフに頼らない、アルゴリズムをベースとするSNSであること。フォロワーの多寡によらず、誰の動画でも見られるチャンスがあるため、多くのクリエイターを生み出すきっかけを提供し続けています。
さらにアメリカで重要なカルチャーになっているのが「Roblox」。アメリカの13歳以下の子どもたちにとってはスタンダード化し、実に7割近くが遊んでいると目されています。COVID-19以降、子どもたちのとっての放課後は「Robloxに集って遊ぶこと」と言っても過言ではないのです。
また、大人の“たまり場”として重用されるのが「Discord」。通話音声の質が高いことも売りで、大小さまざまなコミュニティを生んでいます。
以下、宮武さんが挙げる次世代SNS。TwitterやFacebookだけを見ていても、これからの波には乗れません。
- Discord:ボイスチャットアプリ
- Fortnite:ゲーム
- Roblox:ゲーム
- TikTok:ショートビデオアプリ
- Bored Ape Yacht Club:NFTアバター
- Poparazzi:写真SNS
- Shapchat:メッセージングアプリ
- Figma:デザインツール
👀 Quartz Japanの関連ニュースレター
- ティーン熱狂のプラットフォーム、ロブロックス(2020/1/7配信)
#6 THE METAVERSE
#6 メタバース
日本でもバズワードになってきている、メタバース。ただ、そこにあるズレを宮武さんは指摘します。
宮武:メタバースは「次のインターネット」として考えるのが大事。それを間違えると「メタバースをつくる」という言い方になりがち。それは「Facebookがインターネットをつくっています」と言うくらいに違和感あるのです。
さらに現時点では、メタバースがどうなるかは「まだ誰も想像できていない」と宮武さん。それゆえに、メタバースを構成するパーツをつくるコンテンツ、そのためのプラットフォームといった領域に注目が集まっています。
宮武:メタバースにひときわ張っているのがEpic Games。彼らにとって『フォートナイト』はあくまで一つのコンテンツであり、3.5億人のユーザーを抱える「A/Bテストサイト」という捉え方だと思います。そこで得た利益を使って再投資を行い、基盤づくりからコンテンツ制作まで推し進めているのが現状です。
ウェビナーでは「任天堂やソニーはメタバース企業になれるのか?」といった観点からもディスカッションが交わされました。
もう一つ、Epic Gamesと違う“張り方”をしているのがSnap。メタバースといえば完全なバーチャル世界やVRが想起されがちですが、彼らが注力するのは現実世界にデジタルレイヤーを重ねる「ミラーワールド」の構築です。Snapを筆頭に、Apple、Facebook、Nianticといった企業が有力プレイヤーとして研究を推し進めています。
以下は「次のインターネット」であるメタバースを形づくると目される企業たち。多くの投資も集まり、この領域がもつ可能性、そして起きうる課題については、まさに2022年以降も論点となり続けるでしょう。
- Epic Games:ゲーム・ソフトウエア開発会社
- Snapchat:メッセージングアプリ
- Facebook:SNSプラットフォーム
- Microsoft:ソフトウエア開発会社
- RTFTK:デジタルファッション
- Unity:ゲーム開発ツール
- Roblox:ゲーム
- Manticore Games:ゲーム開発会社
宮武:メタバースによって変えないといけないことは、次のような観点です。
終わらないこと
常にライブで同期されている
誰でも参加できる
アクセス人数が無制限
自社経済をもつこと
オフライン/オンライン、オープン/クローズの体験の提供
データ、デジタルアセット、コンテンツの相互運用性があるもの
誰でもコンテンツがつくれる(UGC)
これらを実現するためにWeb3.0やクリプトが活用されるのではないか、といわれています。ただ、インターネットはNPOや研究者が携わってオープンに始まった一方で、メタバースはすべて民間企業が作っているのは大きな違い。我々の想像したいメタバースになるためには、その事実をいかに乗り越えられるかがハードルになるでしょう。
あらためて、次回開催のお知らせ
連続ウェビナー企画の最終回、第4回の開催日は11月25日(木)です(参加申込みはこちらから)。「まとめ」と題し、これまでお話しいただいたD2Cやクリエイターエコノミー、次世代SNSなどを総括し、それらの新たな兆しが指し示す未来図をウェビナー参加者の皆さんとも語り合う回を予定しています。お申込の際には時間の許す限り、これまでの内容も振り返っていただき、アタマに浮かんだ疑問を、ぜひ教えてください。
本ウェビナーは、Quartz Japanの有料会員でなくとも無料でご参加いただけます。が、こうした企画を実施できるのも、有料会員の皆さんのサポートがあればこそ。この機会にぜひ、世界の「今」と「次」の情報が、「探す」必要なく「毎日届く」ニュースレターもお申し込みください。7日間はフリートライアルでご体験いただけます(ご登録はこちらから)。
(構成・執筆:長谷川賢人)