Africa:違法サービスと戦う冴えたやりかた

Wednesday: Africa Rising

躍動するアフリカ

ケニアに移住したデンマーク人が立ち上げた音楽プラットフォーム「Mdundo」。アフリカにフォーカスしたMdundoが他ストリーミングサービスと一線を画す、唯一にして最大の特長とは。英語版はこちら(参考)。

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Image: REUTERS/ANDREEA CAMPEANU

マーティン・ニールセン(Martin Nielsen)がケニアに移り住んだのは、2012年のこと。そこでベンチャーキャピタルとしての仕事に就いた彼ですが、すぐにある明らかな“傾向”に気づきました。

アフリカのほとんどのユーザーにとって、違法な音楽ダウンロードサイトが依然として主要なソースだったのです。世界的に音楽消費はストリーミングに移行しているにもかかわらず。

それは、地元アフリカのアーティストにとって、音楽の販売やロイヤリティから得られるはずの収益を逃し、収入をライヴやエンドースメントに頼るほかないことを意味します。

ニールセンはデンマーク出身で、同じスカンジナビアのスウェーデンで生まれた「Spotify」が世界的な巨大企業へと進化していくのを見てきました。そして、アフリカのユーザーやアーティストのために、違法な音楽ダウンロードのオルタナティブをつくることに着手したのです。

fit the customer behavior

変わらぬユーザー体験

Quartz Africaの取材に対して、ニールセンはこう言います。「解決策を模索する上で、ぼくたちは、アフリカの違法なサービスよりも完全に優れた“代替案”を提供することから始めました」

「ぼくたちが重要視したのは、ユーザーの行動に合ったソリューションを見つけること。この議論は、ユーザーに違法サイトから合法サイトに乗り換えてもらうためにはとても重要です」

ケニアへの移住から1年後、ニールセンは音楽ダウンロードサイト「Mdundo」を立ち上げました。このサイトでは、現地ユーザーが曲を見つけ、自分のデバイスに無料でダウンロードできます。つまり、違法プラットフォームでのユーザー体験がそのまま反映させているといえます。

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Image: REUTERS

違法プラットフォームと違うのは、Mdundoはミュージシャンと契約し、合法的にカタログをプラットフォーム上に掲載していること。さらに、最大10秒の広告スペースを販売して収益を得ています。ユーザーは無料で音楽をダウンロードできますが、曲が再生される前に短い広告が表示されます。そして、そこから得られる広告収入は、プラットフォームに登録しているアーティストと50:50の割合で分配されることになっています。

Mdundoは8万人のアフリカのアーティストと契約しており、楽曲150万曲を網羅しています。ニールセンによると、このプラットフォームは2019年の1年間で30万ドル(約3,200万円)の広告売上を上げたといいます。

アフリカ全域への拡大を倍増させるべく、Mdundoは9月初めにNasdaq First North Growth Market Denmarkに上場し、640万ドル(約6.8億円)を調達しました。デンマークでの上場を選択したのは、ニールセンの母国であったこともありましたが、むしろ、同国にある“破壊的な音楽ビジネスモデル”に対する理解度への配慮があります。

「投資家は、ぼくたちが何をしようとしているのかを理解するだろうと思いました」と、ニールセンは言います「巨大な違法音楽市場を、合法的な市場に変えること。そのインパクトには、大きな可能性があります」

benefits for the right people

つくり手への利益

Mdundoのアクティブユーザーは、まだ500万人に留まっています。アフリカの潜在的な市場を考えれば、そのサービスはほんの一部にしか届いておらず、いずれアフリカ大陸の他プレイヤーとの競争に直面することにもなるでしょう。

そのひとつが、アフリカのトップ携帯電話メーカーであるTranssionが所有する音楽ストリーミングサービス「Boomplay」です。親会社の後押しを受けて急成長を遂げたBoomplayは、2019年、事業規模を拡張するために2,000万ドル(約21億円)を調達しています。

また、Spotifyは現在のところアフリカ5カ国(アルジェリア、エジプト、モロッコ、南アフリカ、チュニジア)でしか利用できませんが、Apple Musicは最近、30カ国にサービス提供を拡大しています。

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そうしたストリーミングサービスがアフリカで提供されるようになれば、アフリカのアーティストにとっては、“世界的なデジタル音楽経済”に参加できるようになるなど、メリットはいくつもあるでしょう。

しかし、一方のユーザーはどうでしょうか。特に高所得者層や中産階級以外のユーザーを考えると、ストリーミングは大きな欠点を抱えています。

アフリカ全土を考えると、いまだインターネットアクセスのコストは高額です。さらに低速であることも相まって、ストリーミングはほとんどの人にとっていまだ“高価”な選択肢です。1回限りのアクセスで済むダウンロードの優位性は明らかといえるでしょう。

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Image: REUTERS

「何が起こっているかを見て、それが適切な人々にとって適切な利益になるようにすること。そこには大きな価値があります」と、ニールセンは言います。

「消費者の行動を変えようとすることが重要だとは限りません。すでに存在しているものの、今はつくり手に利益を生んでいない市場。そこにに参入しようとすることに、ぼくらは価値を見出しているんです」


headlines from Quartz Africa

今週のヘッドライン

  1. Netflixは「モバイルのみ」で勝負する。Netflixがアフリカでサービスを開始したのは2016年。以来、同社はアフリカ大陸のユーザーを対象に、安価なモバイル専用プランのテストを行っています。例えば「モバイル」プランは、スマートフォンとタブレットでの同時ストリームのみ。「モバイル+」プランはノートパソコンでの視聴オプションが含まれていますが、いずれも現在のどのプランよりもはるかに低価格です。2025年までに1億人以上のモバイルインターネット人口を抱えるとされるナイジェリアはじめ、Netflixにとってアフリカは有望な市場です。──October 7
  2. 命を奪う移民収容所。アムネスティ・インターナショナルによる新たな調査は、サウジアラビアの施設に収容されているエチオピア移民が「生命を脅かされるような」待遇を受けていると報告しています。混雑した拘置所で鎖に繋がた状態で四六時中監禁され、医療ケアがほとんどないまま、殴打されてもいると伝えられており、アムネスティの調査員は「さらなる命が失われる前に収容所の環境改善をサウジ政府に求めている」と述べています。──October 3
  3. トランプの「中絶禁止ルール」の影響。トランプ米大統領が2017年の就任直後に導入を決めた「メキシコシティ政策」(通称「グローバル・ギャグ・ルール:Global Gag Rule」)。資金提供と引き換えに「人工妊娠中絶手術を行わない」ことをはじめとするルールが課せられ、そのルールは米国の資金援助を受けているNGOであれば米国国外であっても適用されます。たとえばケニアでは、性に関する保健サービスの提供の大部分を海外からの援助に依存しており、2018年はその95%が米国政府からのものでした。記事では、アフリカ人口・保健研究センターが行った調査を紹介し、そのアフリカ大陸における影響を紹介しています。──October 2

(翻訳・編集:年吉聡太)


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