Africa:フィンテック大陸、アフリカ

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Africa Rising

躍動するアフリカ

毎週水曜の夕方は、次なるイノベーションの舞台として世界が注目する「アフリカ」の今、と主要ニュースを伝えていきます。英語版(参考)はこちら

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フィンテックのスタートアップシーンは、アフリカで今、最も勢いのあるムーヴメントだ。

過去3年間、毎年、フィンテック系のスタートアップ企業は、他の分野よりも巨額の投資を集めており、そのための基盤もすでに整っている。

興味深いのは、大陸全体を見ても、アフリカのフィンテックは、そもそもあまり発展していなかった従来の金融サービスをディスラプトするどころか、むしろ助ける役割を担っていることだ。テクノロジーを駆使し、電子マネー、オンライン決済や貸借、投資などの商品やサービスで、これまでの金融サービスでは行き届かなかった部分を補っているのだ。

アフリカの成人人口のおよそ66%が「unbanked(銀行口座を持っていない)」という環境の中で、フィンテック産業の成長は、これまでの金融システムが届かなった人々をすくい上げる役目を果たしている。

例えば、ケニアではモバイル送金・決済の「M-Pesa(エムペサ)」が、銀行口座がなくても、携帯電話を通じて公共料金や個人間の支払いができるサービスを提供し、大きな成功を収めた。

A man stands next to an M-Pesa service outlet in Kibera slum, Nairobi, Kenya, 01 December 2016. M-Pesa is a mobile money transfer platform offered by Kenya's mobile network operator Safaricom.
Found everywhere.
Image: EPA/DAI KUROKAWA

このサービスは、2007年のローンチ後から、地元の人々の金融サービスへのアクセスを底上げし、2006年は27%しかなったケニアの金融包摂(貧困により、伝統的な金融へのアクセスがない人に対し、金融へのアクセスを提供すること)は、今やなんと83%まで伸びている。

ケニアだけではない。今や西アフリカでもモバイルマネーは、地元銀行より13倍の人にリーチするようになった。

ガーナでは去年、通信会社「MTN」がモバイルマネーによる上場で、2億ドル(約220億円)以上の資金を調達した。今年初めには、ナイジェリアのオンライン決済アプリ「Flutterwave(フラッターウェイブ)」が中国のEコマース最大手「Alibaba(アリババ)」と歴史的な提携で、10億人のユーザーを有するAlipayを使って、アフリカの業者へ支払いができるようになった。

積年の課題をショートカットで解決し、インフラをゼロから構築するモバイルテクノロジーにフォーカスしたフィンテックのおかげで、アフリカでは次なる若い世代が続々と地元とグローバルの経済の主役に躍り出ているのだ。

Flutterwave Barter app offering
Flutterwave Barter app offering
Image: Wiza Jalakasi

Paying attention

巨額を集めるFintech

アフリカは、世界で最も若い労働力を誇り、同時に驚異的な携帯電話の使用率の伸びを見せるエリアだ。この市場での金融系サービスの大きな可能性に着目したシリコンバレーのベンチャーキャピタルや金融機関は、こぞってアフリカのフィンテック企業の支援に乗り出している。

特に、決済界の「巨人」たちの動きは目覚ましいものがある。

フィンテック企業への出資一覧

  1. Paystack (ナイジェリア)
    出資者:Visa, Stripe
    金額:800万ドル(約8億8千万円)
    時期:2018年8月
  2. Flutterwave(ナイジェリア)
    出資者:Mastercard
    金額:2,000万ドル(約22億円)
    時期:2018年10月
  3. Tala(ケニア・タンザニア)
    出資者:Paypal
    金額:1億1,000万ドル(約121億円)
    時期:2018年10月
  4. Branch(ケニア)
    出資者:Visa
    金額:1億7,000万ドル(約185億円)
    時期:2019年4月
  5. Interswitch(ナイジェリア)
    出資者:Visa
    金額:2億ドル(約220億円)
    時期:2019年11月

過去18カ月間を見るだけでも、決済界の巨人VisaStripeが、ナイジェリアのオンライン決済サービス「Paystack(ペイスタック)」にシリーズAラウンドで800万ドル(約8億8千万円)を出資したほか、Mastercardは、同じくナイジェリアのFlutterwaveにシリーズAラウンドで2,000万ドル(約22億円)を出資した。

また、同じラウンドでは、Visaの元CEOジョセフ・サンダース氏がFlutterwaveの役員に就任している。また、アフリカのEコマース最大手「Jumia(ジュミア)」による決済サービスJumiaPayのよる、Paypalのようなスピンオフ計画が注目を集める中で、Mastercardは同社への出資を決めた。

Focused on e-commerce…for now.
Focused on e-commerce…for now.
Image: AP Photo/Richard Drew

Paypalは、ケニアとタンザニアに拠点を置くオンライン金融業者「Tala(タラ)」に1億1,000万ドル(約121億円)を出資しており、Visaはケニアのモバイル決済サービス「Branch(ブランチ)」のシリーズCラウンドで他社と合わせて1億7,000万ドル(約185億円)の出資をした。

最も注目すべきは、Visaがナイジェリアの決済処理会社「Interswitch(インタースウィッチ)」へ2億ドル(約220億円)の出資をしたこと。これによりInterswitchはアフリカ初のフィンテック系ユニコーン企業となった。

これらの世界的な決済の巨人たちは、利益の出やすいイグジットでのキャッシュインを目指しているという見方もあるが、アフリカのテック系スタートアップ企業のベテラン投資家であるビクター・アセモタ氏は「出口ではなくマーケットシェア拡大を求めている」と、長期的な見方が強いと指摘している。

China in Africa(中国の進出)

アフリカ大陸でも中国の存在感は大きく、最も有望なスタートアップ業界にも影響を与えている。

ナイジェリアでは、中国資本のウェブブラウザOperaが運営するアフリカ向けの決済サービス「OPay(オーペイ)」と、中国を拠点にするアフリカの電話メーカーTranssion Holdingsが提供する決済サービス「PalmPay(パームペイ)」が競合している。

中国のアフリカに対する関心がどのくらいなのかを数字で見てみると、過去5カ月間だけで両社合わせて2億1,000万ドル(約230億円)の支援を、主に中国の投資家から受けている。そして、この2社はアフリカで最も資金を集めたフィンテック企業としてランキングされている。

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この中国の怒涛の進出の背景には、中国の投資家たちが、本国のAlipayやWeChat Payの成功をアフリカでも再現しようとしているという見方もあるが、近い将来のIPOやグローバル企業による買収の可能性も視野に入れた上でアフリカのフィンテックの成長を支援している、という指摘もある。

実際、Interswitchは来年ロンドン証券取引所で株式を公開する予定だ。

PalmPayとOPayは、中国の投資家たちの支援を最大限に活用している。OPayはアフリカ全土で2番目に支持されているウェブブラウザOperaの人気との相乗効果に期待でき、PalmPayにおいては、売れ行きが好調の中国発スマートフォン「Transsion」にアプリがインストールされた状態で販売されている。

OPayはまた、他のプラットフォームに決済システムを広げるアグレッシブな姿勢を見せている。

例えば、バイクの配車サービス「ORide」はローンチ直後から大掛かりな割引キャンペーンを打つことで、ナイジェリアの他の配車サービスの追随を許さない勢いだ。特に、ラゴスにおけるORideのバイクの広がりは、規制面での課題はあるにせよ、戦略が功を奏していることを証明している。

Red flags(立ちはだかる問題)

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大きな可能性を秘めているフィンテックのスタートアップではあるが、規制による困難に直面する可能性もある。

去年ナイジェリアの中央銀行が発表した、スタートアップ企業の運営ライセンスの申請においては最低でも27万5,000ドル(約3000万円)から1,400万ドル(約15億円)の資金調達を条件とする方針は、新規参入にとって深刻な障壁になる可能性がある。

銀行側はこの方針ついて、「新たなスタートアップが従来の金融サービス産業と共存することによる潜在的なリスクを明らかにするため」だとしているが、イノベーションに後ろ向きな政府が官僚主義でもってフィンテックに縛りをかけようとしている表れだ、と業界関係者は指摘している。

一方でフィンテック企業側も検証要素が増えている状況だ。

“Google Voice for Nigeria.”
“Google Voice for Nigeria.”
Image: Reuters/Temilade Adelaja

デジタル融資アプリの人気が爆発的に伸びている背景には、ユーザーが従来の銀行を介さず素早くローンを組めることや、通話ログや連絡先、GPSなどスマホのデータでクレジット審査ができるなどの利点がある。

しかし、簡単に借り入れができることによりユーザー個人の借金も嵩んでいるのが現状だ。各アプリがマーケットシェアの拡大と融資で得られる利子を目的としている現状が、間接的にユーザーの借金を増やし、支払いや借り入れに関する判断を鈍らせている可能性も否めない。

ユーザーデータが商品化されている点も個人情報やプライバシー保護の観点から懸念されており、行政も動き出している。ケニアではEUと同様のデータ保護法が可決され、Googleは今年8月に、融資日から60日以内に全額返済を求める個人ローンを宣伝するアプリを禁止すると発表した。

This week’s top stories

今週のアフリカニュース4選

  1. Jumiaがカメルーンでの事業を閉鎖。2019年4月、ニューヨークの証券取引所に上場したアフリカ最大のEコマース「Jumia(ジュミア)」が、カメルーンでの事業を閉鎖したと報じられた。この動きは、最新の収支報告後に行われ、Jumiaがまだアフリカでeコマース事業で苦戦していることを示唆しているようだ。
  2. ナイジェリア人は米国で5億ドルを学費に。過去1年にわたって、ナイジェリアの学生がアメリカで勉強することによる経済効果は、5億1,400万ドル(約590億円)に達した、と米国国務省のデータによって分かった。これは、アメリカにいるフランス、ドイツ、英国の学生の数値を上回る結果となった。
  3. Burna Boyが2冠。ナイジェリア・ラゴスで11月23日(現地時間)に開催されたアフリカの音楽賞「All Africa Music Awards(AFRIMIMA)」で、ナイジェリア出身のアーティストBurna Boyが、西アフリカでのArtist of the YearとBest Male Artistを受賞した。Burnaは現在28歳で、ロンドンを拠点に活動中。世界中からも注目されているアフリカンアーティストの一人。
  4. ガンビアでのヨーロッパ移住者の帰国が問題。これまでの10年に渡って、若いアフリカ人のヨーロッパへの移住は、ガンビアで繰り返し波紋を呼んでいた。今回、ヨーロッパからの若いガンビア人の国外追放を制裁するという決定は、すでに追い詰められているアダマ・バロー政権に深い政治的影響を与え始めている。

【今週の特集】

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Quartz(英語版)の今週の特集は、「The transformation economy(トランスフォーメーション・エコノミー)」です。モノを消費する時代から、「自己変革」を売りにするビジネスへの大変革の様子をお届けします。Quartz Japanの購読者は、英語のオリジナル特集もお読みいただけます。

(翻訳・編集:福津くるみ、写真:Quartz)