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Africa Rising
躍動するアフリカ
Quartz Japan読者の皆さん、こんにちは。2020年がいよいよスタートしました。毎週水曜の夕方は、次なるイノベーションの舞台として世界が注目する「アフリカ」の今と、主要ニュースを伝えていきます。英語版(参考)はこちら。
スタートアップやイノベーションの文化が根づきつつあるアフリカ大陸では、テックハブの成長も勢いづいており、2019年は大陸全体で50%の成長率を見せている。テックハブは地域やビジネスのインキュベーションと新しいアイデアの実現にとって重要な役割を果たし、その成長が大陸全体のイノベーションの燃料となることは間違いない。
各テックハブは専門化が進み、それぞれの生態系から外へと広がりつつあることも分かる。2月には、ナイジェリアのイノベーションハブのパイオニア的存在であるCo-Creation Hub(CcHUB)がルワンダ・キガリにデザインハブをローンチし、9月にはそのCcHUBがケニアの代表的なテックハブiHubを買収した。
■テックハブの数
若いコンピューターエンジニアの才能も急成長しており、世界的に見てもアフリカは最も開発者が成長している大陸だ。これを背景に、マイクロソフトは2023年までに1億ドル(約108億円)を投資してアフリカにエンジニア拠点を設け、500人の現地アフリカ人を採用するとのことだ。
スタートアップやテック系ネットワークが成長すれば、地元の才能ある若者たちが仕事を得る機会も増える。数値を見てみると、スタートアップ企業のCEOや開発者になるために一番適している国は、南アフリカだそうだ。
この状況に水を刺した出来事といえば、開発者やエンジニアの才能を生かせる場としてアフリカ全土で名の知られているAndelaが、ビジネスモデルを大幅に変更したことだろう。9月、同社はナイジェリア、ケニア、ウガンダで400人近い開発者を解雇して開発者教育の事業を縮小し、経験者の採用とアウトソーシングに重きを置く方針を発表した。
この方針転換の背景には、同社の最大顧客であるアメリカ合衆国における若手開発者の飽和状態がある、と同社は説明する。この決定はアフリカ全土に波紋を及ぼすはずだ。
Internet access, data and shutdowns
インターネットアクセス、データ、
そしてシャットダウン
世界のデジタルリテラシーの格差を減らすべく様々な橋渡しが進む中で、主に独裁者主導によるインターネット利用の制限は大きな障壁となっている。2019年の1月〜3月、ガボン、スーダン、ジンバブエ、チャド、そしてコンゴが国民のインターネットへのアクセスを遮断した。
アクセス制限は日常的に行われ、地元のテック技術の発展の足を引っ張っている。しかし、アフリカの人々は大人しく引き下がっているわけではなく、ナイジェリアで2月に実施される選挙の争点となっているように、別の形でオンラインアクセスできる方法を確立しようとしている。
インターネットへのアクセスが制限されると、アクセスのコストも高くなる。大陸平均で見て、モバイルインターネット通信費1ギガバイトあたりが平均収入の8%にもなるのだ(全世界で見て最も高額)。ここまで高額になってしまうのは、インターネットプロバイダーによる競争が起こらないためである。
また、コストと併せて問題となっているのがアクセス速度で、予測ではアフリカが4G通信の恩恵を受けるのには最低5年はかかるとされている。しかし、世界企業であるGoogleとFacebookがアフリカ大陸の周りを海底光ケーブルで囲む計画を進めていることもあり、アクセス改善に期待できる。
■通信データ1GBのコストの平均収入に対する割合
コストとアクセス速度という障壁がありながらもアフリカでインターネットの導入が進む中で、データプライバシーと規制に関する懸念にも注目が集まってきていて、政府も介入を始めている。ケニアはEU一般データ保護規則にならってデータ保護の法律を可決し、ナイジェリアは人気のある通話ブロックアプリについてプライバシー侵害の疑いで調査に乗り出している。
Facebookも大陸における誤報キャンペーンと対峙するべく、アフリカの政治を標的にしたイスラエルとロシアのアカウントを凍結した。ソーシャルメディア最大手である同社は、アフリカ言語のフェイクニュースへの措置も取り始めている。
Big business (ビッグビジネス)
アフリカで現在、最も評価されている南アフリカのNaspersは、2019年大きく進化し2つに分裂した。9月、同社はオランダ・アムステルダムの証券取引所にインターネットビジネスを公開し、その過程でヨーロッパ最大のコンシューマー向けインターネット会社Prosusを立ち上げた。
Prosusの傘下にはNaspersのTencentやインドのe-コマーススタートアップSwiggy、そしてロシアのインターネットプラットフォーム大手Mail.Ruが含まれる。同社の南アフリカ支部は、これまでの104年の歴史で初となる黒人女性を最高経営責任者に任命した。
Naspersの大陸を跨いだこの動きにより、アフリカのスタートアップ企業大手もさらなる成長と収益を求めて大陸外へと動き出している。
アフリカのe-コマース最大手Jumiaは、4月にニューヨーク証券取引所において歴史的なIPOを実施。世界的な証券取引所においてIPOを実施した初めてのアフリカ諸国のテック企業となった。しかし、この発表もJumiaの非効率な運営と、数百万ドル単位で続いている損失の解決にはつながらなかった。IPOに際して、Jumiaは内部不正行為や株価の下落、そしてビジネスモデルの変更などの対応に追われた。
中国資本でアフリカの携帯電話メーカー大手のTranssionは10月、上海で10億ドル規模のIPOを実施。大陸で10年間、地元に根ざしたテクノロジーを搭載した電話機の開発(マルチSIMスロットや肌の色に合わせたカメラ機能など)を行い、エチオピアを拠点に生産してきた実績をもとに実施したIPOだった。
Transsionは2017年から継続してアフリカの電話機販売台数ナンバー1のメーカーとして2019年を終えた。
■Transsion社は販売台数で、Samsungは販売価格で市場をリード
アフリカの通信業社最大手MTNは、ナイジェリア政府と争っていたsim関連の16億ドルの争議の解決策として、5月にに地元の証券取引所に株式を公開し、同取引所で2番目に大きい企業となった。しかし新規の株式は発行されず、これはナイジェリアの地元民の手には届かない株式公開だった。
The Year of Fintech
フィンテックの年
今年も金融系のグローバル企業がアフリカのフィンテックビジネスに投資する流れが続いた。クレジット大手のVisaが4月、Branchに対しラウンドCで共同で1.7億ドル(約183億円)を投資。ナイジェリアのInterswitchには20%のステークで2億ドル(約215億円)を出資し、Interswitchはアフリカのフィンテックとしては初のユニコーン企業となった。
一方でMastercardはナイジェリアの決済会社Flutterwaveへ投資したのち、Jumiaの決済会社Jumia Pay にも出資した。またJumiaはPaypal同様にスピンオフする計画も発表した。
■2018年1月以降のアフリカフィンテック系スタートアップ企業への主な投資
フィンテック市場では支払決済テクノロジーと並行し、消費者金融アプリの成長も見られた。これまでのようなクレジット審査を省き、スマートフォンのデータに基づいて簡単にお金が借りられる手軽さから消費者金融アプリが爆発的に人気を呼んだ。一方でこの手軽さにより、個人の借金が嵩んでいるという課題も無視できない。
アフリカのフィンテック成長の鍵は、中国にあると言える。中国企業の資本であるブラウザOperaが運営するOPayとTranssion運営のPalmPayは合わせて2.1億ドル(約226億円)もの資金調達(主に中国の投資家による)を成功させた。設立から18カ月に満たない企業としては前例を見ない勢いだ。
中国の投資家たちのアフリカフィンテック企業への投資の背景には、AliPayやWeChat Payの成功に追随するという思惑や、将来の大規模IPOやグローバル決済会社による買収の可能性があると思われる。
OPayは、自身のプラットフォームを活用して手広く成長を遂げている。Bolt、Uber、inDriver(知名度こそ低いものの急成長しているロシアの配車サービス)など競合が多いナイジェリアにおいてバイク配車サービスのORideをローンチ。大掛かりな割引キャンペーンを打つことで他の配車サービスを押し除ける勢いだ。特にラゴスにおけるORideバイクの広がりは、規制面での課題はあるものの、戦略が功を奏していることを証明している。
This week’s top stories
今週のアフリカニュース4選
- ナイジェリア人はアメリカを訪れなくなる。アメリカのトランプ政権の新移民規制により、ビザの審査が厳しくなったことで、アメリカに訪れるナイジェリア人が減った。これは世界最大の減少を記録。2019年10月の時点で、2018年の同時期に比べて21%減少している。
- 「最も裕福な女性」の口座凍結。前アンゴラ大統領の娘で、22億ドル(約2,400億円)の純資産を持つアフリカNo.1の女性富豪イザベラ・ドス・サントスが、窮地に追い込まれている。一族の汚職疑惑が追求され、裁判所は彼女の口座凍結を命じた。同国の主要産業である石油産業は長らくサントス一族に支配されてきたが、現大統領はこの一族支配体制からの立て直しを急ピッチで進めている。
- 南アフリカの偉大なる実業家の死。南アフリカの実業家、リチャード・マポンヤが99歳で死去。マポンヤはアパルトヘイトが盛んな1950年代から実業界で活躍。ビジネスを志す若い黒人たちの目標であるとともに、惜しみない支援を行ってきた。Twitterのタイムラインには、たくさんの哀悼のことばが並ぶ。
- 2020年訪れるべき、先進都市キガリ。アフリカの観光地と言えば、南アフリカがお約束かもしれないが、この先その対抗馬になるポテンシャルを持つのが、ルワンダの首都キガリだ。アフリカのシンガポールとも言われるこの都市に、もう内戦の影はない。1998年に奨励されてから20年続く、18歳〜65歳未満の健常者全員に参加義務がある、月1回の地域への奉仕活動「ウムガンダ」が発展の秘訣。
【今週の特集】
今週のQuartz(英語版)の特集は「The birth of geriatric cool(クールな高齢化の誕生)」です。日本だけでなく、多くの先進国で高齢化が大きな課題となる中、いかに老年をミレニアルズのような躍動ある産業として捉えるのか、大きな変化の兆しをQuartzがレポートしていきます。
(翻訳・編集:福津くるみ、写真:Quartz, ロイター)